第十一話 味
「あっ、起きた?」
目が覚めると、目の前にミメレルがいた。
心臓が止まりそうになったが、なんとか落ち着いて挨拶を返す。
「……おはようございます。できれば、顔を離していただけると助かるのですが」
鉄面皮なので態度には出ていないと思うが、ここまでかわいい女の子に顔を近づけられるとすごくドキドキする。
「つれないわね。そんなこと言っていいの?回復して、私のベッドに寝かせてあげたのにな〜」
そうだったのか。めんどくさがりのミメレルにしては珍しい。
気に入られたっぽいとはいえ、ミメレルならば回復だけして放置すると思っていた。
「……そうなのですか、ありがとうございます。そしてすみません。メイドでありながら、主に介抱されるなど失格ですね」
「あはは、いいよいいよ。あの戦いは結構楽しかったし。それに、私は主従関係に関してはズボラだし、敬語なんてあんまり気にしなくていいのよ。平等なのが素晴らしいとか思っているわけじゃないけど、礼を払うのとか面倒くさいじゃん?」
なんて言っているが、ミメレルは礼法スキルを極めている。
かしこまった場では敬語どころか完璧な礼法を体現できるのだ。
まあ、礼法を気にしなくていいと判断したらすぐやめるけど。
そしてその判断は怖気が走るほどに的確だ。
「……ならば、そうさせてもらおう」
ミメレルは相手から敬語を使われるのが死ぬほど嫌いだ。
自分で敬語を使うぶんにはめんどくさいと思う程度だが、自分に対して使った人間の評価を一段下げてしまう。
つまりこの対応は好感度稼ぎも兼ねているのだ。
「あら、素直ね。そういう子は嫌いじゃないわ。……しかし、最後の一撃はなんだったのあれ。この私ですら一回死んじゃうとかありえないでしょう。スキルのおかげで生き返れたからいいんだけどね」
「アレは武器の固有スキルです。実戦では使える代物ではないので、気にする必要はないでしょう」
あんな溜めの長い技、実戦で使えるはずがない。
しかも使ったあとにMPを全部消費してしまう。
威力だけは激高だが、実際気にする必要はない。ネタ技というかロマン技なのだ。
「それもそうね。でも、絶勇者としてのプライドが結構傷ついたわよ。よりにもよって入りたての子と良い勝負を繰り広げて、挙げ句の果てには一度死んじゃったし。誇っていいと思う」
嬉しい、が同時に悔しい。
真っ当な対手として見られていなかったんだなぁと。
実力差の関係上当たり前だが、悔しい。
「まあ、それは良いとしてご飯食べましょうよご飯」
「……そうだな。それがいい」
お腹もだいぶ減っていた。もう夜だし、昼飯も食べてないもんな。
渡りに船だった。
「じゃあ、作ってちょうだいね。材料は国から必ず送られてくるから毎日お願いね」
まあ、そんなところだとは思っていた。
それが俺の仕事になるわけだし。
「……料理人などは雇わないのか?」
「あー、うちはそういう従者は一人までって決めているの。万能なメイドを育成する喜びというか……。そういうの大好きだからね。『わしが育てた』ってやつ?」
どこで聞いたそんな言葉。転生者が広めたのか?
しかし、ミメレルの家は小さいけど豪奢だ。
そんなところをすべて一人で手入れするのは精神的にキツイ。
だって、調度品とか壊したりしたら嫌だし。
……ああでも、生活魔法があるから時間も安全さも前世よりマシかな?
ともかく、自分で決めたことだ。やり抜くしかないだろう。
「ならば仕方ない。作ってくる」
「本当にあなたが作ったのこれ!?すごく美味しいわ!やみつきになりそう!」
この世界にはメジャーな調味料はだいたい揃っているし、素材に関しても品種改良された前世のものとほぼ味は変わらない。
唯一不安だった点は異世界なのでいくらか未知の食材があることだったが、問題なかった。
……あれ?言ってなかったっけ?俺、普通に料理できるんだよね。
店の味には及ばないが、家庭料理としてはそこそこ上手だと思う。
メルロンとしての俺は覚えていなかったのに、なんと『料理II:2』が発現していた。
これは料理スキルの二段階目に突入していて、その習熟度が20%ということだ。
しかし喜び過ぎじゃないか?俺の料理なんて所詮その程度だぞ。
旨いには旨いが、飛び抜けてうまいというほどではない。
「参考までに聞くが、前のメイドはどのくらい料理ができた?スキルの段階で教えてくれ」
「え?あの子、料理スキルなんて持っていなかったわよ。でも普通に美味しかったよ?なんかシチューが紫色になったりはしていたけど、なんの問題もなく食べれたわ」
これは多分、ミメレルの舌がなんでも許容するような舌なだけで、他の人が食ったら気絶するような……いわゆるメシマズってやつなんだろう。
でも、その味覚にも段階付けはあるから俺の料理にこれだけ感動していると。
……そのメイドさんと結婚した旦那さん、強く生きてくれよ。




