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第十話 記憶

 レードガログに師事し、地獄のような鍛錬を積んだ日々、それが鮮明に思い出される。

 あの頃は辛かった。死にたいほど苦しかった。でもやめなかった。

 やめてしまったら……なんだ、この記憶は。

 邪剣聖レードガログ?現実では会ったこともないはずだろう!


 記憶が混乱する。


「はあああああっっっ!!!」


 激情のままに槍を振るう。しかし、その技のキレはさっきまでより増していた。


「そ、そんなに怒ることないでしょう!さっきまでの立ち振る舞いを見たらわかるわ、事実でしょう事実!」

 

 ……しばらく槍を振るっていたら気持ちが落ち着いてきた。


 おそらく、アレはメルロンとしての記憶だ。

 ゲーム中でのメルロンディアは、邪剣聖に槍を学んでいた。

 しかし、その鍛錬の過程なんて選択肢を選ぶだけで省略されるし、内容なんて知らないはずだ。

 

 そのはずの記憶があるということは……俺の魂は遊佐明ってだけじゃなく、キルヒフィード・メルロンディアでもあるのだ。


 あくまで遊佐明が記憶と人格を構成する部分の大半を占めているというだけで、そういうことなんだろう。

 むしろ、脳は多分メルロンのそれだろうから遊佐明の要素のほうが少ないのかもしれない。


 と、なると……俺は自分に萌えまくっているナルシストってことになるのか!?

 

「死にたい!」


 思わず物騒な一言を叫んでしまった。


「ご、ごめんね?不快だったなら謝るから……」


「ミメレル様は全く悪くないです、自分の問題でございます。ただ、黒歴史に気づいただけですから……」


 自分で言ってて、『メルロンはそんなこと言わねぇ……!』と20年くらい前の漫画に登場した横綱のようにブチギレそうになるが、同時にその思考が恥ずかしいものであることに気付いて感情が乱高下している。

 悲しい。


「そ、そう。まあいいわ」


 奇行のせいでなんだか可哀想なものをみるような目で見られているが、気にしない。気にしたくない。気にしまくって苦しい。





 攻防を続けているうちに、ミメレルが神妙な顔をしてなにやら語りかけてきた。


「……あなた、自分では気がついていないかもしれないけど、だんだん槍裁きのキレが冴えてきてるわ。元からそれなりではあったけど、どんどん強くなっていってる。面白い、面白いわ!」


「ありがとうございます。面白いと言っていただけるのは、素直に嬉しいです。しかし、戦闘中にそんなことを言う暇があるのですか?」


「そりゃあなたもね。私達って同類なのかしら!仲良くなれるかもしれないわね。でも、もうこの戦いは終わりにしましょう。お腹空いてきちゃったわ」


 ミメレルはそんなことを言うと、一瞬で後退して手を前に突き出す。


『私は今、この平穏を味わいつくそう。■■(エル)・■■■(メベラ)・■■■(べジン)・■■■(ヴェウ)・■■■■■(ウェリシン)––魔祓聖討剣トートウェル・クランゾ!』


 圧縮された神聖言語を用いて一瞬で詠唱するミメレル。

 不味い!防御体制に入るが、間に合わないだろう。

 勇者系と神聖系の両方を、全体の64%程度まで極めた者のみが使える必殺剣を繰り出される。

 白と黒に分かたれた閃光が一閃!


 ––––––ズァン!


「くっ……!」


 体がボロボロだ。まだ立てているので負け判定はされないだろうが、勝負は決まったようなものだろう。

 それまでに蓄積されたダメージも大きいから、本当にギリギリだ、

 このスキルは魔族と魔物、ならびに聖職者や勇者、そして天使に造物主なんかの、聖や邪にある程度振り切れている相手に対して700%ダメージの効果があり、なおかつ絶対にクリティカルになるスキルなので、最悪死んでいた可能性もある。


 その場合、死んですぐなのでミメレルが神聖系のスキルで生き返してくれると思うけど、それでも怖い。


「へぇ……あんた、それに耐えるんだ」


「丈夫さには、自信が、ゲホッ、ありますから」


 ミメレルの不思議そうな、そして楽しそうな表情が印象的だった。


「う〜ん、せっかく耐えたんだから、ご褒美あげちゃおっかな?」


 ご褒美と聞いて、少し興奮する。なんかイイコトしてくれるのかな?


「よし、いいよ。今から私に最強のスキルを打ち込んできなさい。どんなもんか見てみたいってのもあるけど、まだ全力出せてないから後味悪いでしょ」


 期待しちゃってごめんなさい、そんな展開あるわけ無いですよね。悲しい。


 

 ……たしかに今の俺は徐々に強くなっていっている。

 10分後には、技の冴えや槍の腕前だけならば全盛期と変わらない実力を発揮できるだろう。


 だが、そうなったとしてもミメレルに勝てるとは思わない。

 心と記憶以外最初からの状態で300やったとして、1回拾えれば良いほうだろう。


 この世界の人物たちはCPUが動かしているわけではない。現実に生きる本人が動かしているのだ。

 ミメレルという特級の才能を持つ人間に戦闘勘では敵わないし、持っている力の差でも勝てない。

 勇者系スキルが最大まで上がっていて、勇剣を持っている以上当たり前だ。

 さっきは使ってこなかったが、俺相手に使うのならばもっと『強い』技なんていくらでもある。

 ステータスだって『魅』以外のすべての能力において2以上は劣っているだろう。


 普通にやっててマックス50。限界突破して70な世界では、2の差は相当なものだ。

 全能ではないが、それに近い存在である造物主ですらオール55なんだ。

 ゲーム時代ならプレイヤーの腕次第で簡単に埋まる差なんだろうが、今となっては不可能だ。


 今の俺ではどうやったって勝てない。だからこそ、一矢報いてやりたい。


 調子乗ってんじゃねぇぞバカ。俺はかつての神魔王だぞ。

 その頃の記憶も感情も、今となっては別人としての、遊佐明としての想像でしかわからない。

 でも、たしかに俺はお前の上位存在となったんだ。負けるわけには行かない!ナメプされたままで終われるか……!



「ならば、遠慮なくぶつけさせていただきます。……『山時鳥ヤマホトトギス』!!!」

 

 俺の持つ全魔力が槍に奪われていく。

 赤色の瘴気があたりを震撼させる。

 地面が揺れ始め、見物している兵士たちが動揺するが、それは錯覚だ。実際に揺れているわけではない。


 しかし、その内包するオーラは地震のそれよりも大きく……分厚かった。


「レレンメガルド、力を貸せ。……おおおおおおおおおお!!!!」


 しばらくの溜めの後、レレンメガルドを投擲する。

 

 赤黒い破壊が目前を塗りつぶし……そして、その後のことは覚えていなかった。

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