第一話 のくたーん
趣味全開かつ小説を書くための技量がつたないですが、楽しんでいただければありがたいです。
俺は死んだはずじゃ?
徐々にブラックアウトしていったはずの意識が急に鮮明になった。
目を開ける。映るのは石造りの街だった。
おまけに街を行く人々の格好は、やたらとファンタジックで……。
「……はぁ?」
間抜けな声が俺の口から漏れた。
そう思っていたはずだったのに、耳に聞こえる声は甘ったるくて、しかし高貴で美しい音色をしていた。
思わず自分の体を見てしまう。
最初に目が行ったのは服装だった。
俺から見ても良質で肌触りの良いゴシックロリータなドレス。
似合っているのならともかく、現実でこういう服を着ている人間に出会ったらまずドン引きしてしまうはずだ。
それなのに、何故か違和感がない。
それを身に包んでいるのは誰?
……俺だ。
次に目が行ったのは特別大きくないものの、慎ましやかでもないごく普通の膨らみ。胸。
さり気なく、掻くようにして、バレないように胸を触った。
「……んっ」
痺れるような感覚がした。うん、これ性的快楽だな。
つまり、俺に着いているものだと。
……はぁ!?
おいおいおい、つまり……もしかして……ない!
自分の股間をさり気なく弄ったが、男の象徴がなくなっている。
どういうことだよ……!
俺はネトゲが苦手だ。
だがプレイしたい気持ちは正直強い。
しかし、ゲームでまでコミュニケーションを取るなんてことはしたくはなかったし、なによりNPC相手に無双してるほうが楽しい。
ネトゲは他のプレイヤーも存在する都合上、気軽に俺TUEEEなんてのは不可能だ。
俺はゲームは上手い方ではあるが、プロゲーマーや廃人と肩を並べられるほどの腕はない。
そこまでゲームに人生を捧げる気にもなれなかったし、リアルの都合も当然あった。
だが、普通のRPGをやってもあんまり楽しめなくなって行っていた。
いくら無双をしても返される言葉は、往々にして普通に敵を倒したときと同じセリフ。
木偶を相手に粋がったって虚しいだけだった。
ではアクションゲーは?
これは正直言って微妙だった。自分は無双するのも好きだが、ロールプレイングするのが一番好きなんだ。
なら戦略シミュレーションやストラテジー。
これは結構楽しかった。プレイしていて気づいたら朝になっていたりと、かなりの時間を費やした。
しかし、どこか物足りなさも感じていた。
ロールプレイングもできるが、あくまでも個人ではなく国家が主役。
それに、高難易度でプレイしたらロールプレイングしてる暇なんてなくなる。
ある実況者が史実の〇〇国ならこうするだろうな、こうしてもおかしくない、なんて縛りやロールプレイングを入れて楽しんでいたのを動画で見たが、俺にはあそこまで上手くプレイはできない。
そもそも、歴史や国家に関する知識は義務教育+α程度しかない無学マンなので題材として向いていなかったのも大きい。
架空世界で架空国家を操るゲームでも、軍事や政策の良し悪しなんて全然わからないんだからロールプレイングのしようがない。知識不足だ。
しかし、そんなわがまま放題な俺でも心の底から楽しめるゲームに出会えた。
名前は『真・異世界転生IV〜Gate of heaven〜』。
このゲームは異世界転生シリーズ、通称イセテンの4作目に要素を大幅に追加したリメイク作品だ。
ぶっちゃけ別ゲー。
シミュレーションゲームとRPG、そしてネトゲ要素をチャンポンしたようなゲームと言う表現が近いか。
原作はプレイしたことはなかったのだが、このリメイクは発売直後からやたらと評判が良かったので試しにプレイをしてみた。
正直、シナリオの質は良くなかったと思う。
シナリオライターが公式イラストレーターのうちの一人で、趣味で小説サイトに投稿している程度の人だったから仕方ないと思う。
それでも彼の書いた作品は書籍化一歩手前に迫ったというのだから素直に凄いとは思うが、自分としてはあんまり面白くないと感じる。
しかし、世間の評判は相当良かった。
この手の異世界転生・転移モノを嫌うネット掲示板の住民すら褒めていたんだから相当だ。
ではなぜ微妙なシナリオなのに評価が高かったのかというと、それは単純にゲーム自体の出来がものすごく良かったからだ。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いならぬ、ゲーム愛しけりゃシナリオまで愛しい、だな。
……基本的にこのゲームの難易度はヌルヌルで、公式が推奨している遊び方もユーザーが主に楽しむ遊び方も、難易度限界突破無料DLCを入れずに通常の難易度で楽しむものだった。
その上、プレイヤーは主人公の見た目、出自、種族、ジョブなんて要素をかなりの範囲でカスタマイズでき、最初から最強キャラで遊ぶなんてこともできる。
そんなことをしなくても初期能力オール1、出自は農奴、種族は徘徊ゾンビ、最弱ジョブの村人なんて主人公でも慣れた人なら楽々でクリアできた。
一見、ヌルヌル過ぎてつまらなそうなゲームではあるが、抜きん出て素晴らしい点が3つあった。
一つはつい先程述べた、カスタマイズ機能だ。
特に容姿のカスタマイズは最高だった。
そこらのゲームなんて比較にならない。
完璧に自分の理想な美少女の姿を作ることができたのだ。
キャラメイクが上手い人はもちろん嬉しいが、下手な人でも救済機能を使うことによってイメージにほど近いキャラを作成できた。
俺も自キャラを当然数百体作成したが、中でもキルヒフィード・メルロンディアは最高の美少女だった。
いや、もう、本当尊い。存在自体が尊い。ありえないよね、こんな女神がこの世界に存在するなんて。
二つ目は奔放なまでの自由度だ。異世界転生なんて言葉がタイトルになるくらいだから、もちろん転生者や転移者が主人公なわけだが、それはファーストプレイだけで二周目からは本当に自由な設定を付与できる。
農民が才能を見せることによって貴族家に仕官し、覇者へと仕立て上げることもできるし、速攻でやめて悠々自適の商人ライフを送ることも可能で、冒険者になるなんてのも乙な遊び方だった。
なんなら魔王軍の下っ端魔族の人生を送ることも可能だし、どんどん出世して魔王の座を奪い取ったりもできる。
これらは王道の範疇にとどまるが、驚くべきはそこじゃない。
なんと奴隷商人や、違法組織の首領、宗教家、一介の農民として人生を送ることもできるんだからぶっとんでるよ。
これが一番売れた理由だと思う。
各職業・種族なんかにおけるイベントテキストの質は微妙な方ではあるが、それでも量が凄まじいし世界観ぶち壊しなんてことはしない。
安定はしていた。
そして最後に、俺的にかなり嬉しかった要素は……このゲームが一人用ネトゲというべき代物ということだ。
通常、ネトゲだと他のキャラクターは人間が操作するわけだ。
つまり頭は最低限良いし、攻略情報も知っている。
当然、アドバンテージを取るのは難しい。
だから、腕や課金額、費やした時間がものを言うようになってくる。
コミュニケーションも最初は楽しいのかもしれないが、徐々に疲れていくようになる。
だから楽しめなかった。
しかし、このゲームだと他のキャラクターはCPUが操作するわけで、思考ルーチンも人間に比べると良くないし、彼らは攻略情報やスタートダッシュかけるための定石なんてのは知らない。
だから、らくらく無双できてしまう。
しかし、ネトゲはネトゲ。
他のキャラクターと簡易的なコミュニケーションを取ることによって仲良くなったり、一緒に冒険したり、結婚したりもできるし、世間からの評判なんて要素も味わうことができる。
これがたまらなく面白かった。
そして、今俺は178周目をクリアしようとしている。
ちょうど今、魔勇剣を三種族の民衆たちの前で掲げたので操作終了だ。
『歴代で唯一魔界を統一した魔王キルヒフィード・メルロンディア。彼女の覇道は留まることを知らず、人間界をも飲み込んだ』
『しかし、魔・人・妖の三種族はその支配を歓迎した。それは服従の安息に溺れただからだろうか?否、彼女のその気高さを知っているからだ』
『その後、キルヒフィードは民衆の支持を得、天界へと戦いを挑む』
『哀れな塵よ。貴様は創造主たる我を殺さんとするか。その先にあるのは破滅でしかないぞ。我の支配に従っていれば幸福であれるというのに……』
『ならば、どうして飢えなどというものがあるのだ。心がくじける者がいるのだ。貴様が作り出しからであろう。ならば貴様は裁かれるべき悪に過ぎぬ。私の望む世に、貴様のような愚かしい支配者などいらない』
『この日より、神を廃してキルヒフィードがその王座に座った。神魔王と名乗る彼女には、宇宙を創造する力などはない。法則を塗り替える力などはない。その知性と圧倒的な暴力にてこの世を変革することになるだろう』
『民は歓喜に震え、この時代は永遠に続くかのように思われた……』
『更に月日は流れ……。キルヒフィードの治世は徐々に安定し、まさに三種族にとっての黄金時代とも言うべきものとなった』
『かつてこの世界に存在した転生者たち……。彼らが生きた地球世界を超える、魔術と科学の間の子を持って誕生した、誰一人飢えず、心のくじけることのない素晴らしい時代』
『その治世には闘争心というものが存在しない。誰もが平等に手を繋ぎ、無限に広がる輪……』
『しかし、新たなる敵が現れたときにはどうするのだろう?例えるならば、転生者のような存在が敵意を持って現れたときには?』
『既にキルヒフィードは58万歳を超えた。神なる王座を奪い取った際に増えた寿命にも限界がある。正当な後継者ではない、そのことが晩年のキルヒフィードには重く突き刺さった』
『そして笑顔と平穏に満ちた世界は今日も続く……』
『END 魔王・神魔王√ プレイ評価B……』
「あっちゃー、プレイ評価Bかぁ……そういえば途中で選択肢間違えちゃったしエルデナ粛清しちゃったっけな」
やらかしたせいでさっぱりしない結果に終わってしまったエンディングを眺めながら、そうつぶやいた。
しかし、ぶっ通しで4日くらいプレイしていたから疲れたな。
「う〜〜〜ん」
背伸びをしていると、プツンと頭の中で何かが切れた音がした。
急速に血の気が引いていく。
あ、これ、やばいやつだ。
徐々に視界が暗くなっていく……長期休暇中だからってこんなことしなけりゃよかった……。
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