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8.我が家への招待

「ようこそ、いらっしゃい」


「お招きくださりありがとうございます。とても素敵なお屋敷ですね」


 出迎えに答えたのはエステラだ。

 あの日、パーティーが終わり別れる時に、我が家に招待した。


「ありがとう! あ、お義父様とお義母様が挨拶したいんですって」


 私の横にはお義父様とお義母様がニコニコ笑顔で立っている。


「初めまして。ルイーゼの友達になってくれてありがとう」


「私こそ、とても優しくしていただいて感謝しています。それで……その、私が作ったパイをお持ちしたのでもしよろしければ……」


 その言葉に嬉しくなってエステラの手を握る。


「ありがとう! 本当に作ってきてくれたのね! お義父様、お義母様、エステラはお菓子作りが得意なんですって。この前話を聞いたら食べてみたくなって頼んでいたの!」


「おお、そうかそうか。ルイーゼの我が儘ですまなかったね。私達も後でいただくよ」


「いえ、お菓子作りは好きなんですが、あまり周りの人に言えないので……喜んでいただけたなら嬉しいです。屋敷の使用人の方達の分も入っていますので、もしよろしければ皆様でお召し上がりください」


「ありがとう」


 エステラの侍女がイダにパイを渡した。イダの口から涎が垂れそうになっていて慌てる。


 ちょっ! イダ、押さえて押さえて。後でちゃんと食べられるから。


 気持ちが通じたのか、イダが頭を振って微笑んでケーキを奥に持っていく。


「私の部屋はこっちよ。えっと、侍女さんは他の部屋に案内するわね」


 二人で自室に向かう。エステラは興味深そうに廊下の絵画や窓からの景色を見ている。


「エステラってとても貴族っぽいわ!」


 部屋に入って用意してもらった紅茶を一口飲んでからの最初の一言にエステラはポカンとしている。


「やっぱり根っからの貴族は優雅なのね! お義父様やお義母様と話してても落ち着いていたし」


「本当ですか? 私とても緊張していたんですよ」


「うそー! そんな風に見えなかったわ。……えっと、私こういう感じだけど大丈夫?」


 少し面食らったような顔をするエステラに、もしかしてこんなざっくばらんに話すような人だと知っていたら友達にならなかったのに、とか思われてるんじゃないかと心配して尋ねるが微笑みが返ってきてホッとする。


「素で話してくださる方が嬉しいですわ。私は明るい感じのルイーゼ様の話し方は好きですよ」


「ありがとう!」


 その時ちょうどノックの音がして、イダがパイを運んできた。


「イダありがとう」


 目の前にはリンゴパイが置かれた。


 フォークを入れるとサクッと音がして、食欲をそそる。シナモンの香りに心が浮き立ち、口に入れると酸味と甘さがバランス良く、美味しい。


「すごい! 美味しいわ! こんなのが作れるなんて、エステラはお菓子作りの職人になれるんじゃない?」


 エステラは頬を染めて一口食べる。


「喜んでいただけて良かったです。今日は気合いを入れて作ってきたんです」


「え、私エステラにプレッシャーをかけちゃった? そんなつもりなかったんだけど……ごめんね」


 エステラは頭も手も左右に振る。


「違います! その……ルイーゼ様は大切な方なので、美味しいものを食べていただきたくて」


「うん、私達友達だものね! じゃあ、また何か作ってきてくれたり……する?」


「もちろんです」


 快く頷いてくれたのでエステラの手を握り上下に振ってお礼を言う。


「ありがとう!」


 それから暫くは他愛のない話をしていたが、気になっていたこの前のパーティーでの出来事について聞いてみた。


「この前は驚いていて言えなかったんですが、私カロリーナ様とは幼馴染なんです」


「え、大丈夫だったの? 昔から……その、虐められてたりしたの?」


 何となく聞いていいのか分からず躊躇い勝ちに聞くと、エステラが慌てた顔をする。


「いいえ、そんなこと無かったです! 昔はルイーゼ様のように身分を気にされなくて、私もカロンと呼んでいたのですが、いつからか距離が出来てしまって……。でもこの前みたいなことは初めてだったので……。あ、でもちゃんとカロリーナ様のご両親から謝罪とお詫びのドレスもいただいたんですよ」


「そうなんだ、ご両親はちゃんとしてるのね。でも、どうして距離が出来たのかは分からないの?」


 カロリーナは考え込むように頬に手を当てる。


「そうですね……時期は確か七年前くらいでしたね。王太子様がお戻りになって明るい雰囲気の中ショックを受けていた覚えがあります。……もしかしたら王太子殿下の婚約者候補に上がり始めたからかも!」


 エステラは大声を出してしまったことを恥じたのか赤くなって俯く。


「王太子殿下の婚約者候補?」


「はい。だからその頃からカロリーナ様もお忙しくなっていて……。暫く会えなくて、次に会ったときにはもう今のように……」


「え、その時ってカロリーナは何歳なの?」


「九歳です」


「ええっ! 九歳で婚約者候補? 早くない?」


「早くないですよ。王太子殿下も九歳でしたし」


「すごい世界ね……。もしかしてエステラも婚約者がいたりするの?」


 エステラは大きく首を横に振る。


「い、いませんよ! 私みたいな器量も顔も良くない男爵家の娘と婚約してくれる方なんて居りませんもの」


「えー、エステラは可愛いと思うけどな。えい!」


 エステラの長い前髪を上げてみる。エステラは慌てていたが気にしない。そこには白い肌に透き通るように綺麗な青い瞳があった。


「やっぱり! 何で髪の毛で顔隠してるの? 見せたら絶対に人気者になるのに!」


「えっ、えっ……」


 エステラの白い肌が真っ赤に染まる。


「そんなこと……カロリーナ様にも顔は隠した方が良いと。兄にもそう言われて……」


「それ、可愛すぎて誰かに取られると思ったからじゃないの?」


「えっ、えっ……」


 私は引き出しから髪止めを取り出すとカロリーナの前髪をアップにして留めた。


「うんうん、こっちの方がいいよ」


「は、恥ずかしいです……」


「イダ、どう思う?」


 隅に控えていたイダに尋ねると大きく頷く。


「私も今の方が良いと思います!」


「本当に?」


 エステラがおずおずと尋ねてくるのでカレルも廊下から呼ぶ。


「か、可愛い……です」


 それだけ言って部屋から慌てて出ていく。しかし、私はカレルの耳が赤くなっていたのに気付いた。後でからかってやろう。


「う、恥ずかしい……」


「良いじゃない! これでモテモテよ」


「ありがとうございます……」


 その姿を見て、エステラと知り合えたことに感謝した。

 今までも友達になれそうな子はいた。だけど、私がイダやカレルを話に混ぜると嫌がったり怒ったりしてしまう。結局は彼女たちにとって、元平民でも今貴族なら良いが、今平民の身分の人と話すのは嫌なのだ。でもエステラには全く非難や拒絶の色は見えなかった。私の大切な家族のような友達を受け入れてくれた。

 ああ、本当にエステラと友達になれて良かった!

ルイーゼにとっては、孤児の時の仲間であるイダとカレルが一番大切です。もちろん、お義父様やお義母様、屋敷の使用人達、友達になったエステラも大切ですが、苦楽を共にした絆は何よりも強いです。

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