希望と絶望
それから俺はできる限りアレクと一緒にいた。
ジルはそれが気に入らないらしくアレクにきつく言ったりして喧嘩もした。
きっとアレクがなつかないから拗ねてるんだねと話したらイダとカレルに呆れられた。どうしてだろう。
ある日、夜寝れなくて星空を見ていたらアレクが、横に座った。
無言で二人並んで座っていたらアレクがポツリと話し出した。
「僕のせいで母さんは死んだのかな」
それはあの日以来初めてのあの女の人の話だった。
「……俺には分からない。でも、アレクのお母さんが最後に言っていたことを覚えてる?」
アレクは首を横に振る。
それはそうだろう、首を絞められたばかりの時だ。そこまで意識は戻っていなかったのだろう。
「あの時、愛してたって言ってた。ごめんなさいとも言ってた。……だからアレクはきっと産まれて良かったんだよ。アレクのせいじゃない。……世の中どうにもならないことはあるんだ。俺はアレクに会えて良かったよ」
アレクを見つめると彼の瞳から涙が溢れていた。彼はあの日以来初めて静かに泣いていた。
その日から少しずつアレクは笑ったり怒ったりするようになった。
イダもカレルも驚いていたが何も聞かずに笑っていた。ジルはその日はアレクにきつく言わなかった。
しかし、その時間も崩れるときは一瞬だった。
感情が出始めたアレクとご飯を探しているとき少しだけ別行動を取った。そして集合場所に向かうとき、どこからか大きな声が聞こえた。その声がアレクの声のように感じて隠れながら声の方に近付く。
そこには騎士たちがアレクを取り囲んでいる姿があった。
しかしここからでは騎士が何を言っているかはっきり聞こえない。逡巡していると、騎士がアレクの腕を掴んだ。アレクは必死に手を振りほどこうとしている。
その瞬間体が勝手に動いていた。
「アレクから手を離せ!」
騎士に殴りかかろうとしたが、横から殴られて気が遠くなる。
「アレク……逃げ……」
アレクがこちらを向いて泣きながら叫んでいる。
ああ、ごめん。俺のせいで泣かせてしまった。アレクには笑っていて欲しいのに……。
そこで意識は途切れた。
「……イ! 起き……ルイ!」
誰かの泣き声に意識を引き戻される。
目を開けると三人が青い顔で俺を覗き混んでいた。
「みんな? ……俺……アレクは!?」
慌てて起き上がろうとするが背中が痛んで起き上がれなかった。
「ルイ、大丈夫か?」
久しぶりの必死な顔のジルに驚きつつもう一度アレクについて尋ねる。
「分かんないよ。僕達、二人が中々帰ってこないから探しに行ったらルイだけ倒れてて……」
カレルが震える声で教えてくれる。
「そんな……」
俺はアレクを救えなかったのか。
「ルイが生きてて良かった!」
泣きながらイダが抱きついてくる。
その姿が可哀想で頭を撫でるとやっと震えがおさまってくる。
「だから言っただろ。仲間なんて増えた分だけ苦しむ可能性が増えるんだ」
それから四人は無言で集めたご飯を食べた。
この町では子どもを拐う事件なんて日常茶飯事だ。だから誰も気にしない。アレクを見つけることはできないだろう。
泣きそうになるが、俺にはまだ守るべき三人がいる。いつまでも泣いてなんていられない。
俺はどこかでアレクが生きていることだけを祈った。