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8

「やあやあ、皆の衆。」

 突然垣根から美丈夫が飛び出してきた。

 呆気にとられていると、鈴蘭の君が「牡丹!どこから出てきてるの!」と驚いたような叱ってるような声を出した。

 牡丹の君はがっしりとした体格の見目麗しい男性だった。鈴蘭に叱られて心なしかしょんぼりしているのを見るに、まだまだ子供のようで、成人前の青年って感じだ。


「アザミ!遅れて申し訳ない。これをほら。」

 鈴蘭の君から解放された牡丹の君は、黄色い可愛い花を差し出してくれた。

「くれるの?ありがとう。」

 牡丹の君は満足げに頷く。

「貴方にきっとふさわしい。『悲しみは続かない』から。」

 続けられた言葉に思わず牡丹の君を見返すと、思いの外優しい笑顔をしていた。

 なんだって、こっちの世界の人は私に優しいんだろうか。


「ほう。牡丹、やるのお。我には石ころを寄越したというのに。」

「私には虫の脱け殻だったわ。本当に成長したのね。」

 薔薇の君も鈴蘭の君もからかうような口振りだったけれど、とても優しい顔をしていた。

「うむ。男子3日会わざれば刮目せよ、ということだ。刮目せよ!」

 バっと手をひろげポーズを決める牡丹の君。

 確かに面白い子だ。


 それからしばらくして菫の君もやって来た。菫の君も揃ったところで、仕切り直しになった。

「アザミ、酒は飲めるかえ?」

 一通り食事を楽しんだところで、薔薇の君がお酒を勧めてくれた。

「アザミにはまだ早いのでは?」

 菫の君の言葉に薔薇の君も鈴蘭の君も曖昧に笑った。

「大丈夫です。前も飲んでましたから。」

「そうなんですか。無理はしないでくださいね。」

 菫の君も私の年齢がわからないようだ。

 いつか言った方が良い気がするけど、私が若く見えるお陰で皆優しいならそのまま甘やかされたい。しばらく黙っとこ。


 薔薇の君が渡してくれたのは、ほんのり甘くて飲みやすいお酒だった。鈴蘭の君がお水も飲むようにと用意してくれる。うう、なんて優しいんだろう。


「そういえば、菫。仕事は片付いたのかえ?」

 薔薇の君が、菫の君にお酒を注ぐ。二人が飲んでるのはワインみたい。

「ええ、なんとか。でも薔薇にも力を貸して欲しいです。」


 二人の会話をぼーっと聞いてると鈴蘭が教えてくれた。

 薔薇の君は花街出身で国一番の遊女だったらしい。今でもその頃の人脈を生かして王様を助けてるんだって。遊女と言われて納得した。あれだ。よく知らないけど、並外れた教養と美貌を以てお殿様を手玉にとってた系遊女だ。経験値も器の大きさも半端なさそうだもの。

 菫の君も元々えらく切れ者の官吏で有名だったらしい。王様が惚れ込んで土下座して奥さんになってもらったんだって。王様の右腕として他国でも有名な人らしい。


「鈴蘭の君は?何かなさってるんですか?」

「私は何にもないわ~。没落貴族ってだけなの。ふふふ。」

 鈴蘭の君は何でもないことのように笑う。

 没落貴族、て。

「何を言うてるか。鈴蘭は尊き血をひいとる。世が世なら御簾の向こうのお方じゃ。」

 薔薇の君が教えてくれた。

「ふふふ。…そんなことちっとも役に立ったりしないのよ。」

 鈴蘭の君が落とした言葉は、小さな声で独り言のはずだったけれど、私はしっかりと聞き取ってしまった。


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