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宇宙じゃなくて異世界だったけど、よくよく考えたらUFOに浚われた人が幸せだった話はあんまり聞かないから自分はラッキーだと思う。
「あ、アザミ様」
振り替えるとさっきの騎士がいた。
「いたいた。この辺、」
騎士は何か言いかけた後、私の目の前にいる王様と男の人に気付いて絶句した。
それでも騎士はすぐに持ち直して、私をその場から連れ出した。
「すみません。あの辺り王様と三妃の会瀬が多くって。鉢合わせないようにと思ったんですが。」
「いいえ。待っててと言われたのにうろうろしていたの私が悪いですから。」
「…大丈夫ですか?」
「なにがですか?大丈夫ですよ。ただ、ちょっと疲れてしまったので今日はもう探険はおしまいにしたいです。」
「…そうしましょう。」
何か言いたげにしている騎士には悪いが、お城を歩き回って疲れた、ということにして欲しい。
部屋に帰ってソファに寝転ぶ。昔のことを思い出した。
初めてUFOを呼んだのは中三の時だ。理由はあんまり覚えていない。色々あった気がする。
1番はあれだ。お父さんとお母さんが私を置いてどこかへ行っちゃったんだ。元々仲の悪い家族だったけど、不自由なく生活させてもらってたからタカをくくっていた。あっさり捨てられて、色々とガックリきた。そうだ、あんまり覚えていないというよりは思い出したくないのだ。今だに私の中には、あの頃の私が泣きもせず途方に暮れている。
私は慰めることも嘲笑うことできないで、眺めているばかりだ。
「ぼんやりしてどうしたんです?お腹でも空いたんですか?」
ギレの言葉に思考が戻る。
「いや、あ、確かにお腹空いたかも。」
「どうしましょう、夕餉には少し早いですけど」
「ん、夕食にする。今日は早く寝る。」
「それがいいですね。疲れてるようですし。」
「疲れてる顔をしてる?」
「ええ、まあ。へらへらした笑顔がないですから。」
そんなこと言われたのは初めてだ。
ギレと一緒に夕食を食べ始めようとしたとき来客があった。
つい先ほど会った人で、そういえば挨拶できてなかった。
「御食事中だったのですね、すみません。」
人の良さそうな顔を申し訳なさそうにする三妃である菫の君。
「いいえ。良ければ菫の君も一緒にいかがですか?ギレ、用意できる?」
できる侍従ギレは席を立ち部屋を出ていった。
「挨拶が遅れましてすみません。五妃の薊野です。皆さん、アザミと呼ぶのでアザミって呼んでください。」
少しばかり呆気にとられた様子だった菫の君だけど、ふんわりと微笑んだ。
ああ、やっぱりこの人似ている。
人の良さそうなところがそっくりだ。
「こちらこそ。菫です。先ほどは申し訳ありませんでした。」
頭を下げる菫の君に慌てた。
「いやいや、私が悪いのです。申し訳ありませんでした。」
頭を下げると今度は菫の君が慌てた様子になった。
二人してペコペコし合っているいるのは、端から見たら可笑しいだろうな。そう思い至ると思わず笑みが溢れた。菫の君も笑っていた。
菫の君は、穏やかな男の人だった。控えめに笑うところが色っぽい。王様は菫の君にベタぼれだと言うから、この人には嫌われないようにしよう。
「私、誰かに似ていますか?」
帰り際、菫の君が微笑んだ。
答える前に部屋を出ていってしまったけれど。
似ているか似ていないかで言えば似ている。
直前まで付き合っていた彼氏に。
人の良さそうなところや控えめに笑うところが特に。
あんまりに人が良いものだから、だから私なんかにつけこまれたんだ。
私のことなんかどうでも良かったくせに。