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「お前が異世界人か~。なんか地味。」
私の夫になる王様は開口一番そうおっしゃいました。
「すみません。」
とりあえず謝っておいた。
異世界生活を初めて数日。なんやかんや順応しつつある今日この頃。王様に呼び出しを食らった。もとい、夫と顔合わせをすることになった。確かに最初に5番目の妻とかなんとか言われてたけど、それ以来さっぱりそういう話を聞かなかったので忘れてた。
「王様と顔合わせですからね、多少おめかしでもしていきますか?」
厚顔の美少年侍従ギレが言うことには、5番目の妻という立場の私だけれど、別に王様と私は夫婦生活をしなくていいらしい。おめかしってそういうの?って聞いたら、そんなん虐待じゃんって呆れられた。
「あんまりみすぼらしいのはやだなぁ。王様に会うんでしょ?ちゃんとしていきたい。」
ギレは私の願いを叶えてくれた。
美容院とかでやってもらうときみたいに髪を結い上げてくれて化粧もしてくれた。鏡の前でムフフってしている私をギレは生暖かい笑みで見守りつつ鼻で笑った。
そういう訳で、開口一番地味呼ばわりしてきた王様に早くも私は心を閉ざすことにした。せっかくギレが綺麗にしてくれたのにひどいっ。
心を閉ざすと楽だ。何を言われても何をされてもどうでもよくなる。
「えー。聞いてたのとなんか違う~。カベルネ国の異世界人は神子とか呼ばれてんじゃん。そういうのが良かった~。」
いじけている王様。ハリウッド俳優みたいな大の大人の美中年が子供みたいな話し方しているのは結構キツイ。キモい。
「ばかたれっ!よそはよそ!うちはうち!」
魔法使いの爺さんが王様の頭を後ろからはたいた。
「だいたい神子なんか召喚してどうするんです?マッチポンプ魔王退治なんか付き合いきれませんよ。」
冷めた口調でぶつぶつ言っているのは七三。マッチポンプ魔王退治ってなんなんだ。あ、自作自演ってこと?なるほど。
「娯楽ですよ、娯楽。カベルネ国は享楽的ですからね。うちはそういう国じゃないんで安心してくださいね。」
「え、じゃあどういう?」
「まあまあその辺はおいといて。なんか流行ってるんですよ今。異世界人を召喚するのが。この前馬鹿にされたんですって。おまえんちまだ呼んでねえの?って。で、王様が駄々をこねまして。」
「はぁ、」
「好きなだけ好きなことしてのんびり暮らしてくれればそれでいいんで。」
なんだろうな、そうは言っても違和感。何が引っかかるのだろう。そうそう上手い話なんてあるの?タダより高いものってないでしょ。
顔に出ていたのか、七三は更に言葉を付け足した。
「まあそうは言ってもって思うかもしれないですけど、少なくとも貴方の幸せっていうのは信じてくだされば。世界っていう代償を貴方は払ってる。その埋め合わせをしないと危ないのはこっちなんで。」
なんだかとても大事なことを言われている気がする。
七三にどういうことか問いかけようとしたとき王様に声をかけられた。
「あー、おまえ、名前は?」
「薊野です。」
「あー、アザミ。お前を5番目の妻として迎え入れる。不便があれば申し付けよ。下がってよし。」
異世界人にワクワクしていた王様は、私に対してガッカリした挙げ句興味が失せたらしい。
本当はこのあと夫とお茶する予定だったんだけど、夫が興味失くしちゃったので無くなった。
爺さんも七三もいなくなって、とり残された私。
「どうすればいいですか?」
その場にいた騎士っぽい人に聞いた。
「自由時間でいいですよ。せっかくですから探険とかします?」
っていうことで、その人にお城を案内してもらうことになった。