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リリーは悲しいときより嬉しい時に涙をながすタイプだった。目から鱗でしたね。
あの後、リリーは涙が止まらなくなった。今までせき止められてた分ぶわーっと。なかなか止まらなくて、最初焦ったんだけど、本人曰く余程嬉しかったらしい。よかった。
ただ、流す涙流す涙、皆宝石になるものだからちょっとありがたみが薄れた。
嬉しいと涙を流すなら笑ったらどうなるんだろう、というのはふと思った疑問だ。
リリーも首を傾げた。
微笑むくらいじゃさすがに涙は出ない。生まれてこのかた爆笑したことないというから私の方が泣いちゃう。
しばらくぶりに帰って来た牡丹の君にその話をすると、さすが牡丹の君。不敵に笑った。
「カベルネの神子からな、教わった鉄板ネタがある。」
神子とも知り合いなのか。そっちのが気になる。
せっかくだからということで薔薇の君と菫の君もお茶会に誘った。そこで披露してもらおう。
牡丹の君がやってくれたのは、革新的で高度にニュートラルな衝撃的問題作だった。
一迅の風が吹いた。
薔薇の君はともかく菫の君のにっこり笑顔が恐ろしかった。
肝心のリリーだけども、なんとまあ馬鹿ウケ。笑いすぎて呼吸困難になっていた。爆笑するリリーに薔薇の君が少し引いてたのが面白かった。
お腹を抱えて笑うリリーは、特大の宝石を溢した。
薔薇の君も菫の君も見たことがないほど立派だと感心していた。
王様に献上したところ、王様はリリーを気に入ったようで、百合と名付けた。
良かったね、リリー。
嬉しそうなリリーがあんまりに可愛くて、ついつい言いたくなった。
「私のね、本当の名前は小百合っていうんだ。小さい百合って意味なんだよ。リリーと一緒だね。」
リリーはとっても嬉しそうに笑ってくれた。
笑うようになったリリーはすくすくと成長した。
この国に来た頃、まだまだ小さかったリリーが1人の女性へと成長していくのを間近で見ていた。内面の美しさが造形を凌駕することってあるんだな。絶世の美女である薔薇の君と並んでもリリーは光輝いてる。
5年ほどの間の一番の出来事は雨乞い行脚したことだ。他にも薔薇の君と牡丹の君が喧嘩したり、菫の君が子供を生んだりと色々あった。
薔薇の君と牡丹の君の喧嘩は始まりこそ、姉弟喧嘩のような微笑ましいものだったけど、牡丹の君が薔薇の君を若作りババアと言ってから様相が変わった。
薔薇の君は魔法が得意なことを牡丹の君は知らなかったらしい。最後は泣いて謝っていた。一緒に謝りに行ってあげた。薔薇の君は怒らせちゃいけないとお城中でよく分かった。
ただ、牡丹の君もなかなか強かで薔薇の君から着想を受けたとして鬼婆伝説っていう演劇を城下町でやろうとしてた。謎の圧力により陽の目を見なかったらしいけど。
菫の君の子供が次の王様になるらしい。王様と菫の君との間には特別な何かがあるらしいけど興味ないので知らない。王様も勿体ぶって教えてくれないし。腹立つから興味ないふりしてたら本当に興味なくなっちゃったのだ。
後継問題は大丈夫ってことで良し。
雨乞い行脚は雨乞い修行の結果を見せよ、との王様の命令だ。リリーと国内旅行してきていいよってことでした。薔薇の君と牡丹の君も来て楽しかった。菫の君は里帰り出産中だった。
王様が一人留守番になっちゃったのが可哀想だったので、旅行先からお城に雨を降らせてあげた。そう、遠隔コントロールも出来るようになったのだ。嫌がらせしたいがためにレベルアップしたことを王様に見抜かれたけど笑って誤魔化した。