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「…実は私たち姉妹は涙が宝石になる体質なのです。姉は大国に、妹は大商人に売られていきました。…私は出来損ないなのです。」
涙ぐむリリー姫。…宝石になる気配はなさそう。
「…私は痛みでも悲しみでも恐怖でもあまり涙が流れない出来損ないなのです。」
リリー姫の言葉に、リリー姫が寝るときも肌を見せない服を来ている理由が分かった。
リリー姫は三姉妹の真ん中で、姉姫は莫大な結納金と引き換えに大国に嫁いだ。
残されたリリー姫は末姫を庇っているつもりだったけれど、それに気付いた末姫が涙を流すのでむしろ悪循環。
やがて末姫を気に入った商人が王様の言い値で拐うように連れ去っていったらしい。
「…母が亡くなって、私達姉妹の体質のせいで、父はおかしくなってしまったのです…。それでも…。」
俯くリリー姫の背中をそっと撫でた。
「王のお怒りはごもっともなのです。」
「父は、戦が始まった頃、捕虜を見せしめに処刑いたしました。口にするのもおぞましく…。この国の王は大層お怒りになり、一切の捕虜を取らなくなりました。…兵士を皆殺しになさいました。それでも王は民に罪はないと私と引き換えに許してくださいました。」
リリー姫は言葉を続けた。
「…父の、父のせいで、多くの兵士が、罪なき民が、みんな、みんな死んでしまった。憎まれて当然で。私達姉妹だって…。…それなのに、それなのに私はこの世にもう、父が、いないことが悲しくて悲しくて…。優しかった時が忘れられないのです。」
声を上げず涙も流さず泣くリリー姫の頭を撫でる。
「リリー、頑張ったね」
顔をあげ、ポカンとした表情のリリー姫。
こんな小さいのに、色々なものを背負ってる。
そのうえ、憎めないことで自分を責めるなんて、リリー姫はどれだけ綺麗なんだろう。
私には理解できない。
「リリー、頑張ったんだね。偉いね。」
「…あのね、無理に憎まなくていいと思うよ。誰だってね、自分を生んだ人を憎むのは難しいよ。」
背中を撫で続けていると、リリー姫がそっと縋り付く。
「アザミ、アザミ。私は貴方を信じてもよいのでしょうか。」
ごめんね、リリー姫。
大した人間じゃないんだ。
「わからない。それはリリーが決めることだよ。」
瞳を揺らすリリー姫。
信じていいよって言ってあげられない大人でごめんね。
「でもね、約束するよ。私はリリーをうらぎらないよ。」
「信じるのって怖いよね。裏切られたらって。だからね、私はね裏切られても後悔しないように人を信じることにしてるんだ。」
仕方ないって諦められるように。
そのときに後悔しないように。
顔を上げるリリー姫。
大きな瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
リリー姫が瞬きをすると、それらは落ちていく側から固体になった。