10
その日は朝から妙にお城がざわついていた。
ギレも忙しいようで朝食を食べるとどこかへ行ってしまった。
いつも通り雨乞いの練習をしたあと部屋でのんびりゴロゴロしていると、ギレが血相を変えて飛び込んできた。
「うわ!いた!まだそんな格好して!」
ギレに捲し立てられて着替えてお化粧をしてもらった。ギレの早業すごい。
何が何だか分からないけど鬼気迫るギレに何事か聞くタイミングが見つからない。
あれよあれよというまに、前に王様と会った部屋に連れていかれた。部屋というか広間というか。
大勢人がいってびっくり。普段お城で人見かけないからなぁ。
見回すと妻たち皆揃ってる。珍しく四妃もいた。久しぶりに見た。目があった四妃が手招きしてくれたので四妃の元に向かう。
「遅かったな。」
あ、やっぱり?なんとなくそんな感じはしてました。笑って誤魔化した。
「何かあったの?何があるの?」
「戦争に勝ったんだ。」
この国は戦争中だったらしい。
そして、四妃の言うことには今から褒賞を与えるっていう会が開かれるらしい。
王様の王様っぽい威厳ある長い口上が終わった。
「ナウリツ将軍、貴殿には、」
「恐れながら陛下。」
王様の言葉を遮るナウリツ将軍とやら。
ざわざわしている。
やっぱり王様の言葉を遮るとか失礼だもんね。
王様の顔は変わらない。怒ってるようにも面白がっているようにも見える。
「恐れながら、陛下。私が望むものはただひとつ。」
「申してみよ。」
「二妃であるクリスタ・デュ・ナウリツ様お一人でございます。」
ナウリツ将軍が言った瞬間、私は心底びっくりした。へ、そういうのあるんか。
周りもざわざわしている。
だよね、と思っていたんだけど、どうも様子がおかしい。
なんというか生暖かい空気だ。なになに。
「鈴蘭、どうする?」
王様が鈴蘭の君に話しかける。
「…有り難く承ります。…王様、ありがとうございます。」
鈴蘭の君は泣いていた。
それでも見たことないほど嬉しそうだった。
一通り済んだところで、王様が1人の女の子を呼び寄せた。
この国では珍しい首まできっちりと肌を隠したドレスを着ている。外国の人かな。
「最後に。シャルドネ国と友好の証にリリー姫を6番目の妃に迎える。何か異議のあるものは?」
皆周知のことのようで誰もなにも言わず、そのまま会はお開きになった。
リリー姫は顔色を真っ青にしてずっと震えていた。
広間を出ていこうとしたとき王様に呼ばれて、リリー姫と引き合わされた。
「おまえ、暇だろ?」と王様。
「雨乞いの修行が大変です。」
暇だったけど、暇とか言ったらただ飯食らいと思われる気がしたのでちょっと誤魔化した。
「…六妃の面倒を見てやれ。年も近いし。」
王様まで私の年を勘違いしてるらしい。多分ダブル以上いってますよ。
リリー姫は相変わらず顔を真っ青にしていた。ガリガリの貧相な体つきに不釣り合いに大きな瞳が印象的だ。
私はこの可哀想な子供に同情した。
戦とか終わって武功によって褒賞を与える会のことなんていったかさっぱり思い出せない…