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「アザミの世界の話を聞いてみたい。」
いきなり牡丹の君に言われてビックリした。
「牡丹、君ねえ。」
菫の君が呆れたように牡丹の君を窘めた。
「だって。気になる。」
牡丹の君の言葉に、薔薇の君も鈴蘭の君も菫の君も同意のようで伺うような顔をしている。
皆、聞きたかったらしい。
「そうですね…。私のいたところは日本というところで民主主義の国でした。」
「ミンシュシュギ?」
菫の君の不思議な発音。
上手く翻訳されなかったみたい。こっちにはないようだ。
「王様がいない、みたいな?すみません。私もあんまりよく分かってなくて。あ、そうだ。魔法とかなくて、その代わり科学が発達してるんです。」
「魔法がないの?どうやって火を起こしたり水を出すの?」
鈴蘭の君が不思議そうな顔をする。こっちでは、火や水は魔法で出すのだ。
「火はガスから?水は雨とか?」
勉強なんてろくにしてこなかったから聞かれても答えられないや。
「アメ?」
鈴蘭の君が首を傾げる。雨ないんだ。こっち。
「空から水が降ってくるんです。」
「へー、空から。それは大変そうだ。」
牡丹の君が感心したように言う。
「すみません。私もよく分かってなくて。」
全然答えられなくて恥ずかしくなってしまった。
「アザミ、そち自身の話を聞かせてくれるか?」
薔薇の君が助け舟を出してくれた。
「私自身のこと…」
考えたけど、自分自身のことを話すなんて、してこなかった。
何を話したらいいのか、わからない。
「すまぬ、困らせてしもうたな。」
薔薇の君がすまなそうな顔をする。
皆じっと私を見守ってくれてるのが分かる。
「違うんです。何を話したらいいか…。」
「なんでもいいのよ。私はアメの話だって十分面白かったわ。」
鈴蘭の君が優しく背中を撫でてくれた。
目の前のお酒をぐいっと飲み干す。
「私はここに来る前、」
話そうと思った。
知って欲しいと思った。
それなのに。
それ以上言葉は続かなくて。
変な空気になったところで菫の君が牡丹の君に無茶振りをした。
「よし、牡丹。何かやってみなさい。」
菫の君はお酒が入るとちょっと意地悪になるらしい。
薔薇の君がクスクスと笑う。
牡丹の君は変な踊りを見せてくれた。
面白くって思わず笑うと、ずっと側にいてくれた鈴蘭の君がホッとしたように笑うのを感じた。
「アザミも踊るか?」
牡丹の君に手をひかれ立ち上がる。
さっき一気飲みしたお酒が回ったみたい。
得意のUFOを呼ぶ踊りをやった。
恍惚とした気持ちになったとき。
カッと空が一瞬光る。
ドン!ガラガッシャーン!
急に雷鳴が聞こえたかと思うと空が暗くなりどしゃ降りの雨が降ってきた。
「あ、雨、これです!雨ってこれ!」
皆に教えると四人とも揃ってポカンとした顔をしていた。あんまりに面白くて声に出して笑うとあっさり雨は上がり、元の晴天になった。
この出来事から私の仕事は雨乞いになった。魔法らしい。適性あった。雨乞いだけだけど。どこかの国の神子に張り合って、王様が私を雨呼びの巫女なんて言ってるらしい。肝心な時に呼べない可能性あるからやめてほしい。小心者の私はそれから雨乞いの練習が日課になった。