6話 2つと決勝と来訪者
前回までのあらすじ:
大会の予選を突破した。寿司がこの世界にはあった。
「さあ皆さん大変長らくお待たせいたしました! いよいよ決勝戦が始まります」
今日も実況は騒がしい。そしてやはりあいつらも
「待ってました!」「やっと決勝だ!」「あの方が見れる!」
あの方? いったい誰だ?
「それでは決勝のカードを見ていきましょう。一人目は検査機で解析不能をたたき出し、こんなに若いのにサック選手を破った期待の少女、魔法師のイン選手!」
「サック様の分も勝ってくれ!」「・・・」
俺の時はやけに声が少ないな。
それで、敵は誰だ?
「対するは13歳だが本気を出せば街を一つ滅ぼせるということで有名な優勝候補の一人、同じく魔法師のカシ選手!」
「いけーカシ様! サック様の仇を取ってくれ!」「頑張れカシ様!」「キャー! カシ様よ!」
大人気だな。俺を応援してくれる人はいないわけではないが全然いないのに。
『当たり前でしょ。でもカシさんは女性だよね。でも結構女性の人もファンだね』
この世界とあっちの世界は格好いい/可愛いの基準が違うのかな。それにそのことはお前でも同じことがいえるでしょ。
『言われてみればそうかも』
「よくわが弟子のサックを倒したな」
え? サックさんってカシさんの弟子だったの?
『これ師匠対弟子を倒したものって感じになってるの? やばくない?』
非常にやばい気がする。あの人を本気にさせたらリミッターを外さなきゃならないかもしれない。
実は魔力隠蔽にはリミッターの機能もあるのだ。そういう風に陽が作ってくれたからだけど。
「だが私は負けない。弟子の仇を取らさせてもらおう」
ほらやっぱり、根に持ってるよ。
『リミッターありの本気を出すしかないかもね』
そうこう言っているとついに試合が始まる。
「それでは試合を始めましょう。皆さん準備はいいですか」
「おおー!」
わお、観客全員から声が上がったぞ。
「試合開始!」
さて、結界を張るかそれとも張らな―
『陰! 前!』
え?
さっきまで遠くにいた敵が目の前まで迫っている。
魔法動作補助! 速度優先!
―実行完了。
急いで刀を構えて相手の剣を防ぐ。
あぶねー。早々に終わるところだったぜ。
「ほう、この攻撃を防げるとはな」
これを防げる人全然いないでしょ。俺は防げたけど。
この速度は魔法で強化したな。じゃなきゃこんな速度でない。
「だがこれはどうだ?」
すると魔力を出してきた。
「火の聖霊よ、我に勝利を与えよ!」
やばい、この状況では魔法を防ぐことは容易ではない。
「【精霊の怒り】」
やばいやばい。
その魔法は空から火の雷を落とす魔法みたいな感じっぽい。
防御しなきゃまずい。
「魔法防御結界、最大強度!」
リミッターありで防げるか?
『くるよ!』
魔力出力最大!
「カシ選手の【精霊の怒り】がイン選手に直撃しました!これはさすがに耐えられないか?」
「いいぞカシ様!」「これで勝っただろう」「やったー!」
「誰が死んだって?」
声を張って観客にも聞こえるように言った。一瞬にして声が止んだ。
「・・・ははは。これはこれは、久しぶりに本気を出せそうだな」
俺は生きている。結界に当たったときは敗れると思った。だが陽も手伝ってくれて結界を強化して何とか防げた。
嗚呼、これだから戦いは楽しい。
「なんと、イン選手はこれを防いでいる!一体どうなっている!?」
「ええー!?」「嘘だろ!?」
観客席は驚きであふれている。確かに驚いてしまうかもな。
『強いねこの人。ほんとに死ぬかと思ったよ』
手伝ってくれてありがとう。
『ダメだったら私も死ぬからね』
―警告、5キロメートル圏内に巨大な敵対反応を確認。警戒を推奨します。
はぁ? 敵の反応? それも巨大?
『私がそいつを解析しておくよ』
ありがとう。やっぱりこういう時に助かるな。
『えへへ』
「そろそろ私が攻撃してもいいかな?」
「いいだろう。かかってこい!」
この人女性のくせに口調は男性なんだよな。
とりあえず魔法を出そう。
魔法発動、全属性魔法。出力、リミッター上の最大。
イメージ作成。すべての属性を束ねてビームのようにする。
これで倒れなかったら結構きついぞ。
―魔法確認。発動準備完了。
「敵を滅ぼせ! 【世界の叫び】!」
魔法は相手に直撃した。どうだ?
「ここでイン選手の攻撃だ! 火、水、風の三種類の属性が合わさった魔法だ! いったいどうなっているんだ!?」
実況さんは「どうなっているんだ」が好きだね。
「なかなかの魔法だ。だが私を倒せるほどではない」
しってる。あたって煙が出てもマップで確認できたから。
「な!? どこいった!?」
わかっていたから魔法で俺の姿は見えなくした。
「当ててごらんよ。私はここにいるから」
この会場にいる証明はしとかなきゃね。
「姿を消しているということか。やりおるの」
女性がその言葉使ったら違和感しかないんだって。
「ここか? いいや、そこだ!」
かれこれ10分たった。おれはさっきから動いていない。
ヒントなしもかわいそうだから魔力を出しているのに気づいてくれない。強くても魔力感知は苦手なのか。
『陰、解析が終わったよ』
お、それでどうだった?
『あれは古代竜だね。しかも火属性と風属性の2匹が一緒に向かっている。レベルは51』
51!? 結構強そう。俺達には負けるけど。
こっちに向かってきてるか?
『うん。目的地はこの街かもしれない』
まじか。ここに来るのか。それじゃあこいつを早くかたずけなきゃ。
―警告。先ほどの巨大な敵対反応と一緒に向かう敵反応が出てきました。その数約15万。
はぁ!? 15万!? いったいどうしろと。
「おい、わがライバルよ」
なぜか相手に呼ばれた。いったいなんだ? あとライバル?
「そなたなら気付いているだろう」
なるほど、さすがにこんなに集まったらあなたでもわかりますか。
「ええ、この街の危機かもしれませんね」
「やはり気づいていたか。なら話は早い。この勝負、私は降参する。そうしたら試合が終わる。そうしてあいつらの処理をしよう」
なんと、降参してくれるとな。これはうれしい。
「わかった。それはいい案だね。さっさとあいつらを倒しに行こう」
「了承もいただいたことだし、さっさと終わらせますか」
そしてカシさんは審判に降参を伝えた。理由は『私には勝てない』だそうだ。
「おっとここでカシ選手が降参しました。試合は終了です」
観客に衝撃が走った。許してね。もうすぐ事情は分かるから。
「カンカンカンカン」
急に鐘の音が街中に響き渡った。このなり方は街に危機が迫っているときに鳴らすらしい。
「み、みなさん! 緊急警報が鳴りました! 急いで避難してください!」
おお、実況さんも役に立つことしてくれるじゃん。
観客たちは慌ててこの会場を出た。そのころ俺とカシさんはというと、
「おお、そなたは空を飛べたのか。やはり私はまだ未熟だな」
俺の魔法、【飛行】で冒険者ギルドへ向かっていた。
コロシアムからは近く、1分ほどで着いた。
「礼を言おう」
「いいや、こんな状況だから助け合わなきゃ」
ギルドに入るとみんなが慌てていた。
「敵勢力の詳細は不明。だがこれは100年前の大規模戦争に匹敵すると思われる。この街の全勢力をもってしても勝てるかどうかはわからない。だが何もしないよりはましだ。全冒険者よ、この街を救うために力を振り絞れ!」
なかなかいいこといってるな。だが100年前にも同じようなことがあったのか。
「おお、カシ殿。駆けつけてくれたのですか。それで後ろの少女は誰ですか?」
「ああ、我よりも強い魔法師だ。コロシアムで行われた大会で私に勝ったんだ」
「なんと!そんな人がこの街にいたのですか!」
この街に住んでいるわけではないのだが。まあいいだろう。
「状況は?」
「現在全冒険者を招集して迎撃体制を整えています。ですが敵の数がわからないので勝てるかどうかは不明です」
「そなたは―」
「私のことはインでいいですよ」
「そうか、ではイン、敵の数はわかるか?」
「ええ、敵勢力約15万オーバー。それに加えて古代竜が火属性、風属性がそれぞれ一体ずつです」
「15万だと!?」x37
おお、二人以外にもまわりで準備していた冒険者たちが口をそろえて言った。
「それに古代竜もいるのか。これは我々では倒せる気がしないぞ」
まあそうだろうな。冒険者を集めたとしてもとても勢力が足りない。
「そのことなら大丈夫でしょう」
「どういうことだ?」
ギルドマスターの目の前には男性と女性が立っていた。
「って誰だお前たちは!」
「味方ですよ。心配しないでください」
「俺たちはあいつらを倒せるでしょう」
「先行ってますね」
「あ、ああ」
「いくよ、光、闇」
「お兄ちゃんと一緒に戦える♪」
「姉さんは元気?」
『元気だよ』
「いったい何者なんだ。あの3人は・・・」
そう、あの人たちが言った人とは俺の妹の光、陽の弟の闇だった。




