5話 2つの初めての対人戦本番
前回までのあらすじ:
大会に挑んだ。相手は強そうな人だ。
「ファイト!」
試合が始まった。
「こちらから行くぞ!」
おお、先に相手から来るのか。
相手の武器は両手剣。ずいぶん重そうだがまるで重量がないのかと思わせるように使っている。
「物理防御結界」
よし。これで解除するまで物理攻撃は当たらない。あ、そうだ。陽!
『呼んだ?』
武器作っといてくれる?
『どんな武器?』
格好よくて強い刀。インベントリに入れといて。
『りょーかい』
頼んだよ。
『おまかせあれ』
「おりゃ!」
そんな会話をしていたら攻撃可能圏内に入っていたみたいだ。だが
「な、なぜおまえに当たらない!」
結界に苦戦してるな。いや、そもそも結界ときづいてないのか。
「あれ? こんなに弱いの?」
煽ってみたらムカついて本気出してくれるかな。
「これはどうなっているのでしょうか? サック選手の攻撃がイン選手に届きません!」
おい運営、実況俺のところに聞こえないようにするでしょ、普通。
「これは楽しめそうだな」
「楽しめない勝負はしたくないよ、私は」
意外と女子の話し方にできるな、俺。陽を真似をしているだけだけど。
だがなぜ普通にしゃべると女子の声で発声するのか?
『まだ完全に女子とは言えないけどね!』
なりたいわけではないんだよ。けど練習はしておこう。
あれから約五分が経過した。
「さきほどからあまり変化はありません。イン選手はどうしているのでしょうか」
また実況が来たな。
「攻撃はしてこないのか? 防御だけでは負けてしまうぞ?」
あいつは恐らく結界のことは気づいただろう。修復を魔力でしているってことも。そしていつか魔力が底をつくと。
だが甘い。魔力回復量がめちゃくちゃ早いので余裕で回復が間に合ってる。
「じゃあ攻撃しようか」
「かかってこい!」
何を打とうかな。ファイヤーボールと竜巻でも起こすか。竜巻は持続系で。
まずは障害物代わりの竜巻だ。格好いい名前でも付けるか。
「【ハリケーン】」
これはイメージモードで。文字イメージだとやばい威力になる気がする。
「な、なんだこれは。なぜ無詠唱でこんな威力のものが出るのだ!」
創造魔法だから詠唱はあまり関係ないんだ。
詠唱すると格好いいけど。
「おっと、イン選手の攻撃でしょうか。フィールド上に複数個の竜巻が発生しました!」
「なんだと?」「いやこれはたまたまここにできただけだ」「でも攻撃だったあいつやばくね?」
観客の空気も変わってきた。だがまだ信じ切れていない者もいるようだ。
「次の攻撃してもいい?」
これは軽い揺さぶりだ。これでビビっていればありがたいのだが。
「ああ、いいだろう。だがどうせまた風属性だろう?」
え? この世界では一人一属性が基本なの?まあいいや。
「【ファイヤーボール】」
こっちもイメージでいいだろう。あちらの攻撃はこちらに届かないんだ。空から降ってくる感じでいいだろ。
防がれても問題ない。俺のところには来ないようにするし。
「なんだと! 属性を複数種類も操れるのか! 魔法の才能がすごいな!」
「ここで本格的な攻撃がきました! これは中級魔法の威力だ! いったいどうなっている!」
こんなに弱いのにか?燃えている石程度なのだが。
「あいつ小さいくせに中級まで使えるのか!?」「あいつやばいぞ!」「負けるな! サック様!」
これでもサックさんに頑張ってもらいたいのか。決めたことは変えない主義なんだな、ここの人は。
「ふん! おりゃ!」
うまいこと剣ではじいているな。結構できるな。
『陰、できたよ』
お、丁度いい。インベントリから取り出してっと。
おお、すごいなこれ。
『でしょでしょ。自信作だよ!』
うん。よく切れそうだ。
そうだ、これに魔力を纏わせておこう。もちろんただ纏わせるだけではない。
肉体に傷が出ないようにすることと、その代わりに痛みだけを浴びさせる。
よし、できた。あとは追加で。魔法、エフェクトモード。移動速度アップ。
―魔法確認。実行完了。
これで相手の後ろに回り込む。いい感じでファイヤーボールがおとりになってくれるだろう。
簡単に回りこめた。しかも気づいてない。
チャンスだな。魔法動作補助。物理攻撃。
―魔法確認。実行完了。
これは魔法が俺の動きを補助してもらう魔法だ。
これなら倒せるだろ。
「よいしょっと!」
「がは!」
変な掛け声になってしまったな。だがこれくらいがいいだろう。さて相手はどうかな?
「く、くそう。俺様がこんな少女に負けるなど、あり、え、ない、」
おお、それらしい言葉を言って倒れたね。
審判が駆け寄ってきた。
「サック選手。行動不能!」
「しょ、衝撃の結果です! サック選手がイン選手に敗れました!いったいどうやって後ろに回ったんだ!?」
観客席から歓声かどうかは知らないけど言葉が聞こえてきた。
「うおー!あいつすごいぞ!」「サック様が負けた、だと?」「サック様ー!」「すごい魔法師もいるんだな!」
いろんな声があるな。俺の知っている人はいない・・・あれ? このマップの反応は。
そんなことを考えていると審判に話しかけられた
「イン選手、サック選手を運ぶのを手伝ってくれませんか?」
なるほど、そんなことか。だがな―
「その必要はありませんよ」
「え?」
陽、頼んだ。
『なんで回復は私に任せるかな?まあいいけど。【ヒール】』
「う、うん? なぜ俺様は倒れているのか?」
やっぱり戦いで敗れたらこうなるのか。
「は! 私はお前に負けたのか」
「そうだよ」
思い出すのが早いな!これが普通なのか?
「お前は強いな」
「そうかな?」
「ああ、私に勝ったんだ。強いさ」
「なんとイン選手、サック選手を回復して見せました! いったいどのくらい魔法が使えるんだ?」
「おお!?」「サック様を助けてくれてありがとー!」「俺とも勝負させてくれ!」
なぜ実況がしゃべった後にみんなしゃべるのかな?まあ知ったこっちゃないけど。
『おつかれ、陰。とりあえず予選は通過したね』
あれから数試合連戦させられた。めちゃくちゃ疲れた。
ちなみに予選の後は決勝しかないそうだ。決勝は明日行われる。
それにしても予選の相手が弱すぎる。なぜ片手剣を両手で持って上に挙げながら突撃してくるのかな?
『冒険者でもないからじゃない?この大会に金目的で来てる人もいるみたいだから』
なるほど。戦いの術すら知らないやつがいるってことか。でもなあ、
『確かにね。だからといってこんなに隙があることはしないと思う。やっぱり少女ととらえられてるのかな?』
あ、なるほど。いつか姿を変えなければ。
決勝は明日なのでとりあえずここを出よう。
あれ?もう夜?
『早い気がするけど・・・』
それだけ試合に熱中してたっけな?あそこの対決場所、屋根ないけどな。
『とりあえず何か食べましょう』
マップで探して見るか。
『私も調べようかな』
お、これは!
『いいね!ここに行きましょ』
そのお店の前についた。そこはお寿司屋さんだった
まさかこの世界に寿司があるとはね。
『いったい誰が持ってきたのでしょうか?』
やっぱり俺ら以外にもいるのかな。
「いらっしゃいませ!」
ほら、掛け声も同じだ。
『でも回転寿司ではないね』
高級って感じだな。この国のお金ってどんなのなのかな?
『この世界も円らしいよ』
円か。ならわかりやすい。
魔法発動。魔力出力最小限。この世界のお金を一万作成。
―魔法確認。生成完了。
これで一万円までなら食べられるな。
『あ、作ったわね』
今回だけだよ。あれが終わったらよほどのことがない限り作らないよ。
『ほんとかね?』
ほんとだよ!
『まあ、そういうことにしてあげましょう』
「あ、すいませーん」
注文をしなきゃね。
「お待たせしました。三色盛り合わせです」
うひょー。うまそう。
お皿は長皿だった。その上にマグロ、サーモン、イカがのっている。この世界にもいるのか、お前たち。
『私は準備万端よ!』
要するに早く食べたいんだな。
「いただきます」
まずはマグロから食べるか。それぞれ三貫あるから悲しくはならないはずだ。
この世界にも醤油はあるみたいなのでつけていただく。
「んぐ!?」
う、う、う、美味い!めちゃくちゃ美味い!
『んふー!美味しすぎる!』
これ日本の魚よりおいしいかもしれない。
『早く次の食べてよ!』
はいはい、じゃあイカを。
『うーん! 美味しい!』
最高だな。これ何個でも食えるぞ。
結局食べ過ぎてしまった。でもお金の調整はした。五千円ぐらいで済んだからよかった。
今日は早く宿を探そう。寝れなくてものんびりはできるだろう。
『それがいいわね』
右メインストリートにあるおひとり様専用のところに行くか。安そうだし。
そんなことをしていたらあっという間に時間が過ぎ、ついに決勝の日になっていた。




