26-2話 Tonight(女)
前回(25話)のあらすじ:
宿に来たけれど大きすぎてビビっている。ここは確か王都の中で一番高い場所だったから。
「わわわわわわ」「ちょっと、ソラ? パニックになってない?」「なってもしょうがないでしょ」
「あ~~~~、気持ちい~」
「だね~、こんなお風呂貸し切りでいいのかな~」
「んっん~嗚呼~、疲れが吹き飛ぶよ~」
「だね~」
「『だね~』しか言ってないじゃん、リサ」
「だね~」
「「「あははははは」」」
「あそこの三人組は何を言っているの?」
「さあ?」
今、私たちは体を洗い終えてのんびりお風呂を満喫しています。
気持ちい~。やっぱりこういう旅館のお風呂は良いですね~。
特に外にあるお風呂は最高ですね~。
リサも今日の酔いがなかったかのようにしているし、ネロ―は最初大きな王都に腰を抜かしていたけど今はなれたのか平気だし、でも私はなんだかんだこれで十数回目の王都訪問だから慣れすぎているのかもね。
ファン・ダン・マスタの名に恥じないような行いにしては多い気がするけどね。
そもそも家名が言いづらい。おっと、禁句を行っちゃったね。まあ気にしない気にしない。
このクラスにいるほとんどの女子が私の知り合いなので気軽に話せるのもいいですね。
私の周りには魔法が優秀な人ばかりだということでしょうね。
でなければこのクラスに入れませんから。
このクラスに入るのには通常テストの男女それぞれの上位300名が選抜され、さらに特別検査を行いその男女それぞれの上位50名、計100名が入ることができます。なので倍率は驚くほど高いです。
でもこのクラスに入ると学費は国が免除にしてくれるし、いきなり色んな魔法を覚えていくので楽しいです。先生もいいしね。
でも普通のクラスの人が私たちのことを根に持っている人もいるらしいし、私を恨んでいる人や先生のことが滅茶苦茶嫌いな人もいるらしいです。
いい先生なのになー。
喧嘩売ってきたら全力で叩きのめします。
もちろん売ってこないのが一番ですがね。
「ん?」
急にネローが左右をキョロキョロ見てそう言いました。
何かあったのでしょうか?
「どうしたの、ネロー?」
「・・・何か視線を感じる」
「視線?」
「私たちをエッチな目で見る視線が」
「ゑ?」
そう言った瞬間、周りにいるみんながネローを見ました。
ネローはこういう視線に敏感なので恐らくは勘違いではありません。
ということはストーカーか年頃の男子の定番な行動のどちらかですね。
ストーカーだったら私も空気で感じますがそれはない。
凄腕のストーカーという可能性も無くはないですがおそらく無いでしょう。
ということは・・・右の男湯と女湯どちらにも隣接している木の板が怪しいですね。
怪しいというか100%でしょうけど。
もっとも、何やら魔力を感じます。
絶対いますね。
「私が対処するよ」
他の人が手を出すこともありません。
私だけで何とかなりそうです。
みんなは手に持っていたタオルを胸に当てて防御していますが心情は悪化するでしょう。
さて、どうやりましょうかね。
うーん、熱するか冷やすか。
凍らせますか。
魔力を見る限り二人しかいませんしね。
とりあえずまずは動けないよに拘束魔法で縛ってと。
すると何やらあちらの方から声がしてきました。
はしゃいでいるだけなのか分かりませんがよく聞こえません。
そして私は実験も兼ねて口からある言葉を出します。
「凍てつけ」
とね。
すると魔力が消費された感覚がありました。
おそらく成功ですね。
実は先生にある本を貰っていました。
“言葉具現化魔法”の本を。
これを使えるようになると創造魔法への道のりが何歩も前進すると言われたので移動中にこっそり読んでいました。
ぶっつけ本番でしっかり使えるか心配でしたけどしっかり使えましたね。
良かったよかった。
そして数秒の沈黙の後、仕切りの奥から大きな笑い声が聞こえてきました。
その中に、
「バチが当たったなぁ! ざまあみろ!」
という声もありました。やっぱりしっかり覗かれていたんですね。
キャーと悲鳴をあげようかとも思ったのですがまあいいでしょう。
ふぅ。流石にもう大丈夫ですよね。
のんびり過ごしましょう。
・・・見てた人がグロウでは無いといいけど。
『ねえねえ、リサ』
『どうしたの? 急にコショコショ話して』
『なんかアルター顔赤くない?』
『うーん? 言われてみれば確かに? のぼせてきたんじゃない?』
『いや、そんなはずは無いよ、まだ全然長く入ってないし。多分なにか考え事してたら体が火照ってきたんだよ』
『ほて!? ・・・でも、なにかって?』
『体見られたかもしれないから、か、見てた人が好意を寄せている人だったらどうしようか、とかじゃない?』
「うん? 何か言った?」
「「ナンデモナイデスヨ」」
? ほんとかなあ?
「・・・」
そして、その時は全く気が付かなかったけど、端っこの方に私を睨みつけるような目で見る人がいたみたい。
このクラスで数人しかいない私が知らない人の一人。
私は名前を覚えるのが大の苦手だからまだこのクラス全員の名前を覚えきれていない。
でも全く私を睨みつける理由は思い浮かばなかった。
そもそも私は視線を全く感じていなかった。
それから約二十分後、みんなお風呂から出て自分の部屋に帰り寝る支度をしていた。
洗面台は歯磨きをしている人で大混雑。といっても三人しかいないけどね。
私の部屋は私とネローとリサと前から仲が良かったソラとサキの五人部屋。
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“サミーレス・ソラ”水魔法を得意としている家系で、ファステストの水魔法の第一責任者と呼ばれている“サミーレス・ガラ[男]”の娘。次女。
“ファラスト・サーキラス”本人はサーキラスを自分の名前としては好んでいるが自分の呼び名としては嫌いなため呼びやすい先と呼ぶようにみんなに言っている。火属性魔法を得意としている家系で、たくさん街の人とふれあっているのでオープンな家系という共通認識がファステストの住人にある。「火属性の魔法を教えてほしかったらいつでも来てほしい」と、家主である“ファラスト・ミサイレス[女]”が言っているため、訓練所が静かになることはないらしい。サキは長女。
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「ねえねえ、明日の自由行動どうする?」
「サキは何か予定あるの?」
明日から二日間は自由行動で、特にやることは決められていない。
お小遣いが学校から支給されるから比較的お金には余裕があり、変なことに使わない限りなくなることはないらしいけど、実際どのくらいもらえるんだろう?
「よくぞ聞いてくれました! 実はさ、私こんなに魔法を使っているのに魔法補助器具を買ったことないんだよ」
「あの威力をすべて補助なしで撃ってたの?」
歯磨きからみんな戻ってきた。これはうるさくなりそうだね。
「うん。なんか私は火属性を得意としているのだけれど身体は炎魔法を火属性として撃っているらしくてね、必然的に威力が上がっちゃうんだよ」
「こ、こんなに恐ろしい話がありえていいのだろうか...」
なんかこういうときってソラの声の震え方がすごいおびえて聞こえるのだけれど本当におびえているのかな? だったらかわいそう。
「まー、あり得てもいいんじゃない? 知らんけど」
「知らないんかい」
「知っててくれ。怖い」
あら? さっきまでおびえていた声が嘘のように声の雰囲気が変わった。
なんか改めて感じるけどよくわからない子だね、ソラって。
「それでさ、明日つくりに行こうと思うんだよ。今なら学校の特例が効くし」
7月~10月を除き、学校指定店に限り、魔法補助器具を買うと全額学校が負担してくれるという特例がこの学校にはあってみんな一番欲しくなる7月~10月を全力でさけ、適用できるところでみんな買っている...みたいだけど私はまだ使ったことないからわからないや。
私は魔法補助器具ろ通して発動すると逆に使用魔力量が上がり、さらに威力が落ちてしまうからむしろ使わないほうが強い。
でも頑張って練習をしてレベルを上げるのにもいつかは限界が来るだろうからそうなってきたら誰かに相談しようと思っている。
ちなみに学校長はもう知っている。私の両親と仲が良く、暇な時間があったら一緒に会食をしたりするほど仲がよろしいようで父が酒を飲んでぽろっと言ってしまったらしい。
・・・そういえば困ったらシーラさんに頼めばいいとか言っていたっけ。
今ちょうどシーラさんもいるみたいだし相談してみようかな。
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“シーラ・ファルス”お察しの良い方は気が付いたかもしれないがグロウのお母さんでファステストで一番大きい魔法補助器具専門店の店長をしている。実は王都にもお店を持っていて二か月に一回、一回につき二週間ほどこっちのお店に出向き、新人研修や特注の注文を受けたりしている。『器具の質がとても良いのにリーズナブルな価格でとても買いやすいし、アフターサービスが充実している』ということでとても人気なお店。王都は王都価格なので少しファステスト本店と比べて値は張るけどそれでも安く、王都でも大人気のお店だ。
お店ではいろいろなタイプの補助器具を売っており、用途によって最適なタイプを買える。しかもメガネのように一個一個チューニングを購入者に合わせてしてくれるから、自分と合わないということはめったにない。杖はもちろん、ブレスレット,指輪,腕に通すリング,時計,メガネ,さらには靴紐と種類がびっくりするほど多く、扱えるかは別としてその人に合わせたものが買える。
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「じゃあみんなで明日行ってみようか。せっかくだし私も作ろっかな」
「お、アルターは乗り気だねえ。ほかのみんなは?」
「「「異議なし!」」」
「よし、じゃあ明日行っちゃおうか!」
「「「「オー!」」」」
実は前、体育祭があったんですよ。
そしたら帰ってきて昼寝をしたら熱を出してですね。
二週間くらい学校行けてませんでした。
つらかったです。
はやりの病気ではなかったので安心しましたけどそのせいで感覚を忘れてしまっている可能性があるので少し違和感があるかもしれませんが許して。




