20話 カシさんの身体
前回のあらすじ:
今のところ順調に進んでいる。あとカシさんから町によってほしいと頼まれた。
よし、あと10kmくらいで着くぞ。
―まだ途中地点だけどね。
休憩があるってだけでうれしい。
今はカシさんによってもらいと言われた町に向けて車両を走らせている。
その町は丁度王都まであと半分の位置にあるので折り返し地点とも言える。
だがここで車両のアラームが鳴った。
警戒度は警告。
警戒度は注意/警戒/警告/緊急/コードxxまである。
xの中には数字が入りその数字の大きさによって危険度が変化する。
そもそもコードが発令された時点で相当危険なんだけど。
「それでアラームの内容は何なの?」
闇が警告までは走れなくなるくらいだと言っていたのでここは冷静に対処した方がいいと思った。
けど、
―え!? アラーム!? え!? え!? えぇぇぇぇぇぇぇ!?
とまあこんな感じでシスの方がてんやわんやになっている。
「シスさん? 大丈夫?」
―あ、ああ、ごめんね。急に出たからびっくりして。
「それで内容は?」
―ええっと、燃料切れだって。おかしくない?
確かにおかしい。そもそもリミッターを解いた時点で残り一時間もおかしかった。
リミッターを外しても一日は走行できるはずだ。
なのになぜ?
《原因究明が完了しました。バッテリーNO.1しか充電されておらず性能を最大限発揮できなかったと思われます》
この列車は一か所にバッテリーを置くのではなく複数個所に分けておくことで容量を増やしている。
でも一つしか充電されていなかったというのだ。
いったいどういうこと?
『あ、兄さん。とても言いずらいんだけど連動充電機能入れるの忘れてた』
あ、なるほど。
さすがに一つ一つ充電するのは骨が折れるし何時間あっても足りないから一緒に充電する機能がついているのだけどそれをオンにするのを忘れていたってことだね。
あれ? ってことは?
《現時点では走行できません。電気残量はあるので車内設備は通常通り使用ができます》
てことはつまり?
《あなたの魔法で走行するか後ろから何かで押すか充電して走るかのどれかになります》
後ろから押すのは押してくれる物がないからできないとして、今から充電は時間がかかりすぎる。
じゃあ俺が魔法で動かすしかないのか。
《列車は加速装置に電力が送られていないためこれ以上加速することはできません》
ちなみに魔力で加速しているわけではなく魔力を電気に変換して走っているのでこの表現は正しい。
―この車両を町まで走らせる魔力はありそうだね。
確かに俺の魔力が空っぽになるだけで済むね。
―空にはならないよ。
とりあえず走らせますか。
《線路敷設用の魔力が供給されました。敷設再開します》
? 俺はしてないけど。
『俺が今充電している。これは俺の責任だからできることはやるよ』
わかった。
―大仕事だね。
ああ。・・・やってやるさ。
《運転手連動モードに移行します。・・・連携完了。各情報を表示します》
その瞬間、いままで車両の情報が表示されていたディスプレイが俺の情報に切り替わった。
―魔力量に体力、さらには体温まで表示されているよ!
体温はいらなかったんじゃないかな?
―陰の情報はいくらあってもいいからね!
それはシスと光と陽ぐらいでしょ。
・・・結構いるな。
「ビービー」
―敵襲!
はぁ!?
レーダーには敵を現す赤色の点が数十個あった。
人間ではなく肉食で飛行系魔物のフライレッサーファイヤードラゴン。
名前からわかるように火属性で同種の中では弱い方の空を飛ぶドラゴン。
別名“空の守護神”と呼ばれている。
この国の空に多数飛んでいて地上に被害を与える魔物を倒してくれるからそう呼ばれているらしい。
結構強い。
どうするか?
この列車に搭載されている武装はすべて魔力で動くようになっているからこの武装を使うことはできない。
『お兄ちゃんに殺意を向ける者は誰かな?』
気づいたら光が屋根の上に立っていた。
そして光が誰でも怒っていることがわかる声で言った。
これは止められないや。ディスプレイに屋根に立っている光が表示された。
手に魔力をためている。
そして、
『爆ぜろ!』
えぇ?
手にためられた魔力がレーザーとなり敵にヒット。爆発して散っていった。
絶対に怒らせたくないね。
『兄さん、早く加速して! 光がいつまで持つかわからない!』
わ、わかった。
魔法展開!
《展開開始。速度を指定してください》
「時速650km!」
―『『『「「「「「650!?!?!?!?!?」」」」」』』』。
シス、陽、闇、光、アルター、ネロ―、リサ、グロー、カシさんから驚かれた。
なんと勢ぞろい。声も同時。すごい。
《魔法展開完了。魔法陣展開。魔法陣展開に伴い魔力必要数の上昇を確認。負担にならない速度で吸収します。目的地まで線路の敷設完了。減速装置も同時に設置が完了しました。設計速度をオーバーするので魔法によって補助します。準備完了。加速を開始します。現在の速度から目標速度まで約2分と推測。個体名:光を保護対象に設定。保護が完了したためフル加速に移行します》
言うのが早すぎて何を言っているかわからなかったけどまあ大丈夫でしょう。
そして列車はどんどん加速していきドラゴンたちの姿がすぐに消えていた。
『速いよお兄ちゃん! 体は問題ないけど精神が!』
頑張れ!
『お兄ちゃん!?』
「はぁ、はぁ、はぁ」
「お、お疲れだね、はぁ、お兄ちゃん」
「光もね、はぁ」
「二人ともお疲れだね」
あれから数十分後、無事目的地に到着していつの間にかいつものお出かけの服装になっているのは置いておいて列車を降りたところ。
俺は魔力を使ったから疲れた。光はあの時ずっと屋根の上に足が固定された状態でいたので精神的に疲れた。
二人ともへとへとだ。
「ラーサ、少し飛行の制御をしてくれる? 私疲れたからさ」
「ラーサ?」
そんな名前の人はいなかったはずだしこの近くにそんな人はいない。
「新しいシスの名前だよ。さすがに全員同じ名前だとわかりずらいからね」
「あ、なるほど」
光のシスがラーサになったと。
頭がこんがらがるな。
―慣れるまでの辛抱だよ。
そうだね。
―シス姉、私以外にも闇様や陽様も変更するそうですよ。
―あ、そうなの?
―どうやら陽様の希望でシス姉の名前は変えてほしくないそうです。
―ふーん。陰のことを考えてかな?
確かに俺は変えたくないな。
そういえばラーサはシスのことをシス姉って呼んでたっけ?
―自分ではわかりませんがおそらく人格を微調整したのでそうなったかと。
なるほどね。・・・なるほど?
「みんな降りたか? 足りない人はいないか?」
一方その頃生徒のみんなとカシさんは全員が降りたことを確認していた。
「先生、いつもの男子グループがいません」
男子グループとはよく集まっている5人のことを指していてクラス中でいつもの男子グループという認識になってい待った。
悪口ではないし本人たちもいいと言っているから放置しているけど。
「確かトイレに行っていますよ」
「トイレなら先に行っておけってあいつらは何度言ったらわかるんだ?」
そのグループはこのクラスの中では不良なほう。優しいんだけどほかの人がいい人すぎてくらべたら下になってしまっている。
―比べる相手を間違っているね。
と言われても他クラスとあまり関わりがないんだもん。
―この出張が終わたら急に増えるらしいけどね。
あまり仕事が増えないでほしい。
―無理な話じゃない?
え?
「すいません、遅れました」
「トイレに行くんなら先に伝えてくれないかね」
「いちいち伝えるのが大変なんですもん」
「じゃあせめてほかの人に伝言を頼むとかしてくれ」
「その手がありましたか!」
「逆になぜ今まで気づいていなかったんだ?」
まあ学生らしいね。
―確かに青春って感じするね。
あ、そうだ。陽?
『はいはい。どうかした?』
疲れたから合わさっていい?
『大丈夫?』
平気だけどこれからのことを考えてね。
『わかった。いいよ』
ありがとう。
―じゃあ後は私がやっておくね。
うん、よろしく。
―はーい!
やっぱりこの身長になると視界に少し違和感を感じるね。
―マスター、いつもの姿にしましょうか?
いや、そうすると今度は陰に違和感があるかもしれないからこのままでいいよ。
―了解です。
『別に陽の好きにしていいんだけど』
陰もなるべく疲労が少ない方がいいでしょ?
『それに越したことはないけど陽に迷惑がかかるのなら変えていいよ』
別に困っていないから。
『あ、そうですか』
「よっと」
闇が上から跳んできて私の隣に来た。
「何してたの?」
「勝手に充電されるようにしたのとお昼ご飯の準備」
今の時間は10:30ごろ。
出発するのは大体11:30を予定しているから戻って少し走ったらすぐお昼ご飯になってしまう。
だから今のうちに準備したって感じかな。
「先生、あの人だれですか?」
生徒の一人が闇に聞いた。
おそらくこの体に聞いているのでしょう。
「ああ、陰と陽だよ」
さすがに兄さん姉さんだと伝わらないからこういう時だけ闇は私たちのことを名前呼びする。
少し違和感があるけど。
『我慢するしかないよ』
そうだね。いつかなれるよね。
『そこまで言ってないんだけど』
生徒たちは何やらざわついているね。
『英雄としての姿はこっちの方がしっくりくるし初めて見た人もいるだろうから混乱しているんでしょ』
「ほら、落ち着け。11:30まで自由時間とする。町で休憩するもよし。お土産を買うのもよし。散策するのもよしだ。あまり迷惑をかけない程度に楽しんでくれ」
そうカシさんが言うと一斉にみんなが町の方へ走っていった。
町の名は【ラーナ町】。大きさは小さめ。
でもなぜカシさんがここによってほしいといったのかがわからない。
『俺も気になってはいるんだけど何も手掛かりがないから全く分からないんだよね』
ふーん。
「陰、陽、少し付き合ってくれ」
『ついに呼ばれたね』
ついにっていうほど待ってたの?
『いや、まったく』
もう、何なのよ。
カシさんについていくと町から少し離れた丘の上にある大木に着いた。
そこには石碑があり花も置いてあった。
そしてカシさんは気づいたら鸞さんになっていて、石碑に花を置き手を合わせて深く頭を下げた。
『多分お墓だね。誰のかはわからないけれど』
「ありがとね。僕のわがままに付き合ってくれて」
「いえ、それよりこれは何ですか?」
「うん。僕がこの世界に来たのは前の世界で死んだあと。だからこの世界に数百年入ることになるんだよ」
『・・・鸞さんが亡くなったのは約250年前。それだけ鸞さんはこの世界を旅しているってことか』
それだけ同じ世界にいると飽きそうだね。
「この身体でずっといるわけではなくて何度か転生をして身体を変えているんだよ。そして今まで入っていた身体がここに眠っている」
だから結構な年立っているのにこんなに幼いんだね。
「どの身体にもたくさん思い出があったよ。結婚した身体もあった。魔法師じゃない身体もあった。けど僕としての限界がいつか来て僕が離れなくてはいけなかったんだよね。でも離れた後も別の魂が入って元気に暮らしていた。僕と同じような人格が入るからあまり違和感はなかっただろうね。そしてその身体が限界を迎えて亡くなった時、ここに必ず埋められる。でもこの鸞の姿はいつも同じで変わるのは今で言うカシの姿だね。毎回名前も姿も違う」
鸞さんは笑顔だった。でもどこか悲しさも感じられた。
冷たい風が私たちを押してくる。
まるで今のカシさんの身体を頼んだと告げるように。
「・・・さて、悲しい話をしてしまったね」
「いえ、私は別に大丈夫です」
「陰は大丈夫?」
「俺も平気です。少し寒いと感じただけで」
「陰らしいね。さあ、町に入ろうか。あ、忘れてた」
鸞さんがポケットから何かカードみたいなものを取り出して私に渡してきた。
「何ですか、これ?」
「身分証明書兼冒険者カード兼教師証明書兼功績証明書だよ」
「そんなに一つにまとまっているんですか?」
「僕がお金をかけて作ってもらった」
「え、あ、ありがとうございます」
「礼はいいよ。あと陰と陽それぞれのものと合わさっているときのものとあるから」
そのカードには名前・性別・顔写真・所属学校・ギルドランク、裏に行って功績一覧があった。
功績はまだファステストの英雄だけだけどね。
『そんなにポンポン取ったら世界が変わってしまうよ』
創造魔法で十分変わっているんじゃない?
『あ、確かに』
「私は買い物でもしていくよ。ここにはファステストにあるものも売っているからお土産を調達するのにもいいんだ。あいつに何も渡さないとなるとどんだけ怒られるかわからないからな」
いつの間にかカシさんに戻っていた鸞さんが言った。
「私たちも行きますか」
『うん。お昼ご飯の材料も買わなきゃ』
「載ってないの?」
『調達したつもりが今日になって足りない気がするから』
「なるほどね」
―買うものはニンジンとピーマンとじゃがいもとお肉と・・・・・
「いったいどんだけあるの?」
『ご、ごめん』
「まあ別にいいけどさ。さて行くとしますか」
『陽と出かけるのは久しぶりだな』
「確かにね。最近は忙しくてかまってもらえなかったしね」
『なんか言った?』
「ううん、なんでもないよ」
次はやっと町に入ります。




