15話 100人と4つと2匹?
前回のあらすじ:
全→ファン・ダン・マスタ家に生まれたアルターと昨夜に英雄たちに助けてもらったグロウ・ファルスが自己紹介をして学校に向かった。相変わらずカシさんが何か怪しい。
陰→また噛まれた。起きたらシスが実体になっていた。食パン美味しい。遅刻寸前で学校に着いた。
陽→起きたらシスが実体になっていた。朝ご飯は食パン。シスに聞いた話がマニアックすぎてついていけない。
光→起きたらシスが実体になっていた。お兄ちゃんのシスが食パンを作っていたから分けてもらって朝ご飯にした。闇がパソコンを持ってきた。早起きしすぎた気がする。
闇→起きたらシスが実体になっていた。兄さんのシスはすごい。光にパソコンを紹介した。甘いものが食べたい。
私、陽と陰と光と闇と美春と美冬は今、担当する教室の前に立っていて、入るか入らないか迷っている。
「これ入りたくないのは俺だけ?」
「奇遇だね、私もだよ」
「俺も」
「私も」
「なんか強そうな気配を感じるのだ」
「陰、本当にここ?」
「おそらくここのはず」
―あってるよ。なぜか殺気しか感じない気がするけど。
ドアは自動ドアになっているのはいいとして、ドアの隙間から出てくる魔力の量がおかしい気がする。
「これたぶん自分て魔力を流出させてるね」
「何で?」
「魔力が出てた方が戦いやすいからかな」
え? 戦うの?
「これは完全防御結界を張っていった方がいいかもね」
「まさか学校で張ることになるとは」
もうやだこの学校。
「嫌なのはそうだけど入るしかないからね」
「もう勇気を振り絞っていきますか」
「じゃあ俺が結界を張っとくよ」
「ありがとう、闇」
「6人にかけるとなると魔力消費量激しいから早めに抑えてね」
「「「了解!」」」
この会話が聞かれてないか心配になってきた。
押しボタン式の自動ドア。押したくない。
もう押しちゃえ!
「ニュイーン」
ドアが開くのは一瞬なのに音は結構長引いてるね。後付けかな?
「【エアーカッター】!」x25
「【アップグレード・エアー】!」x25
「【ファイヤーボルト】!」x24
「【エレクトリカル・パンチ】!」x25
「【スタンディング・プレミアム】!」
教室にいた100人が一斉に攻撃を仕掛けてきた。その中には本当はやりたくなさそうな子もいる。
この数の魔法が一気に来るっておかしいでしょ!
「ああもう面倒くさいな。【滅】!」
滅? 何それ?
陰の声とほぼ同時に魔法がすべて消滅した。
「魔法が、消えた?」
―これは魔法をキャンセルする魔法の名称省略形ですね。
もうそんな魔法使えるようになってたの?
『気を付けて。剣で物理攻撃をしようとしている奴もいるから』
物理?
―マスター、前です。
前?
「これでもくらえ!」
ウソでしょ!なんでそんなに剣を振りかぶってくるの!?
「ガキン!」
あれ? 防いでる?
「だから気を付けてって言ったじゃん」
闇!
「陽はサポートに回る?」
「じゃあそうしようかな」
ええっと、どうしようかな?
―この場合は相手の速度を落とすのがいいと思います。
それどうやるの?
―それでは私がやりましょうか?
あ、できるの? じゃあお願い。
―了解です。
さてどんな魔法かな?
―魔法名:スピード操作。全個体にマイナス55。
マイナス55って結構やばくない?
最近の調査でスピードが1下がると50m走が0.25秒下がる感じというのがわかった。
だからこの場合は大体13.75秒遅くなることになる。
「な、なんだ?!足が動かない!」
「さーて、席に座ってもらおうか」
陰は言葉と同時に魔力を開放し、殺意を向けるような魔力周波に変更した。
っ!? その言葉と同時にそんな殺意を向けられたらみんな大変なことになるよ!
魔力周波とはその魔力の波の幅を現していてパターンによって人が感じる空気が変わる。
そのパターンは人によって違うわけではなく人種によって違う。
そんなことを思っていたら全員が白い煙に包まれて晴れたと思ったら全員自分の席に着席していた。
「アルター、これはどういう事だ?」
か、カシさん!? いつからここに?
「私はただ先生たちの実力を確認したかっただけです。あとこのクラスがどのくらい連携できるかも確かめたかったですから」
「だからって全力で魔法をぶっ放していい理由になるか?」
「そ、それはですねぇ」
「はー。全く、初日からいったい何をしているんだ。先が思いやられるぞ」
「それはありえません。連携がしっかりとれることは確認できたのでどんどん強くなっていきますよ」
「それで、インたちの実力はどうだったんだ?」
「今回は防がれてしまいましたけど、行事の時には勝って見せます」
「お前は本気を見ていないからそう言えるんだろうけど本気を出すともしかしたら世界が滅ぶかもしれないぞ」
「それはあなたが実力を見誤っているだけです。魔力量が多いだけで使えなければ弾数が多いだけです。分担させてしまえば勝機は全然あります。それに世界が滅ぶことなんてありえません」
「こいつらの魔法にはあり得ないというのが通用しないんだ」
「じゃあどんな魔法なんですか?」
「創造魔法だけど何か?」
「そ、創造魔法、ですか?」
「まさか! あの伝説にもなっていた陰と陽しか使えないも...の...?」
「ここにいるじゃないか」
「「「「あー!」」」」
「お前たちが同じことを言ったらこの学校中に響くくらいうるさいんだからやめてくれよ」
さっきの“あー!”って言葉はおそらく廊下を伝ってこの教室がある棟のすべての教室に響くような音量だった。さすがにうるさい。
「それで今日は何の用で? カシさん」
「お前たちのことが心配で来たんだが案の定アルターがやらかしていたな」
「やらかしてなどいません! 貴族としての当然の行いです!」
「・・・こんな風に面倒な奴だが頼んだぞ」
「面倒とは何ですか! こんな弱そうな四人に負けるわけがないです!」
『あ?』はい?『はぁ?』『あぁん?』
『さすがにむかついた』
闇なんは言葉をオブラートに全く包んでいない。みんなには聞こえてないからまだましかもしれないけれど。
さてと、ここにいる人たちまとめて潰そうかな?
『合体は?』
『昨日使ったばっか』
『オーバークロックは?』
―使えはしますがここで使うのは危険です。
じゃあリミッター解除は?
―それならほかのものより問題ありません。威力はなるべく抑えることを推奨しますが。
『じゃあ全員気絶程度になる攻撃を仕掛けてやろうか』
『『了解!』』
「カシさん、ここにいる人を広いところに連れていってくれる?」
「わかった。程々にな?」
「もちろん」
「@%*(+:!-!=:-_>_<$_>¥$+'>'_">,:;。「」:;(+[[@=。@;。」@@」
カシさん? 何て言っているんですか?
―特殊詠唱です。実行難易度がほかの魔法より高いものはこういった詠唱をしなければ発動できないものもあるんです。
へー。魔法って難しいね。
―マスターはあまり関係ないですけど。
「魔法発動!」
「ついたぞ」
「ここは?」
目の前には草原が広がっていて、その周りは城壁のようなものでおおわれている。
「この学校の演習場だ。ここなら何してもいいし外に危害が加わらないから思う存分暴れていい場所だ」
なるほど。ここならいくら暴れてもいいんですね。
なら思う存分出来ますね。
『俺は魔法発動』
私は発動補助。
『私は魔法選択』
『俺は魔法制御』
――――私達/自分達はすべての補助。
「さあお前たち、覚悟はできたな?」
「本当はアルターだけにしたいけどアルター1人だとかわいそうだからね」
「大丈夫。医務室送りで済むから」
「防げるものなら防いでみて」
全員震えているようにも見える。けれどアルターだけが冷静だった。
「だ、大丈夫よ。全員で結界を張れば全然防げるはず」
アルターはみんなに指示を出して結界をみんなで張るための準備をしている。
でも声が震えている。
防げるかな?
『実際はそんなことないんだけど』
え?
「さあ、・・・来なさい!」
「魔力凝縮」
「魔法展開開始」
「制御完了」
「リミッター解除」
「「「「【炎の雨】発動!」」」」
「みんな頑張るのだ!」
「久しぶりに陰の本気を見れたね。わぁ。魔力がきれい」
この魔法は名前の通り空から炎の雨が降ってくる魔法。その温度は1000℃を軽く超えている。
「そ、総員、結界発動!」
結界は薄ければ薄いほど中の様子が見える。魔力が多ければ多いほど色が虹色に近くなる。
でもこれは1人だけの話。
複数人で張った場合、虹色ではなくそのの力を合わせるときにグループが得意としている属性の色が出るって本に書いていた。
古代龍を倒してから今までほんでこの世界のことを勉強していたから大体のことがわかるようになった。
それにシスもいるからね。
―それが私の仕事ですから。
一方、生徒の方はそれぞれの人がそれぞれの詠唱をしていて何言っているか分からない。
そろそろ雨が降ってくる頃だけど間に合うかな?
「やりすぎじゃないか?」
この声はカシさんだね。
「これでも加減はしていますよ」
それに答えたのは闇。
「さっきリミッターを解除していただろう」
ごもっとも。
「制御はしているので」
「だがあいつらが結界展開が終わるまで1分はかかるぞ」
「え?」
「イン達が速すぎるんだ。普通なら結界を張るのに五分はかかるんだぞ。あいつらは特進科に入ったやつらだから一分で終わるんだ。それなのにイン達は一秒もかからない。それがおかしいんだ」
これやばくない?
『大丈夫、当てようとしていないから。姉さんは心配しすぎなんだよ』
闇が心配しすぎなんだよ。
『そうかな?』
「学校長!」
「なんだ、どうした?」
「それが.........」
カシさんに話しかけてきたのはこの学校で事務兼研究をやっている人で、普段は職員室から出ないはず。いったい何があったのだろう?
「なに? 本当か?」
「はい、何度も確認しましたが本当でした」
「まったく、あいつはいったい何を企んでいるんだ。今からだと間に合わないのは目に見えているだろう」
最近カシさんが本当に女性の13歳なのか心配になってくるよ。
「私たちもそう思い一度問い合わせてみましたが応答はありませんでした」
「応答なし、か。・・・いったいどうしたらいいのか。大人数が一斉に移動させられる手段なんて作らない限りないぞ」
「作成することは可能かもしれませんが今の技術力では速度不足なのと燃料効率が悪すぎます。それに作ろうとしても今からだと10日はかかります」
「それでは間に合わんな。どうするか。・・・・いや、なんとかできるかもしれん」
「本当ですか!?」
「とりあえずお前は私がいなくてもこの学校が動くように打ち合わせをしておいてくれ。こっちは私が何とかする」
「わかりました。くれぐれも無理はしないようにお願いします」
どうやら終わったみたいだね。それにしても何を話していたのかな?
「あっつーい!」
おっと、こっちは魔法が着弾していたのね。当てないようにしたのはいいものの生徒を囲むように着弾させるのはどうかと思うな~。
当たってないに越したことはないんだけどさ。
「イン! アン! 終わったら私の部屋に来てくれ。話がある」
『え、校長からの呼び出しですか』
『これ叱るためじゃないよ、ね?』
二人とも明らかに嫌がってるじゃない。
『当たり前でしょ! どこにも叱られたい人なんかいないでしょ!』
それはそうだけ・・・ど?
『どうしたの? 姉さん』
なんで陰は私の思ってることが伝わるの?
―それはね、実は理由はわからないの。
はい? どういうこと?
―ずっと陰と一緒にいるからスキル構成とかはわかっているはずなんだけどそんなスキル持ってないんだよね。だから何で読めてるかはわからないの。
陰のシスでもわからないってどういうこと? 一番この世界の陰のことがわかる存在のはずなのに。
―マスター。それ以上は言わない方がいいかと。陰様のシスは陰様のことがわからないのを言及されるのはものすごく弱いですから。今も泣きそうですよ。
え、お、あ、えっええっと。ご、ごめんね。
―大丈夫。この力をもってしてもすべて分かるとは思っていないから。
ずいぶん立ち直りが早いこと。
『シスはそれぞれの主に合わせて成長しているから。お兄ちゃんの立ち直り早いでしょ』
確かに。いわれてみればそうかも。
『それに合わせてシスも育っていったんだよ』
なるほどね。
「先生、魔力を制御して加減しましたね?」
「うん、確かにした」
「私たちはその手加減した攻撃に負けた、と」
「そういう事になるの、かな?」
みんなの魔力は枯渇している。空っぽになってるわけではないので気絶するほどではないから立って入るけどみんなクラクラしている。今にも倒れそう。
けれどアルターは他のみんなより魔力は残っていて少し楽そう。
でも空っぽに近いのは変わらないから他の人より多少マシって言った方がいいのかも。
「本当に英雄様なんですね」
「本当じゃないと街全体から喜ばれることはないよ」
体が震えている。まだ現実を受け入れられていない感じがする。
他のみんなは疲れて寝転んでしまった。起きてはいる。
寝ている人もいるけど。あとでたたき起こしてあげなきゃ。
「何か悩んでいることでもあるの?」
今までは光が話していたけれどさすがに私が何も話さないのもあれだからとりあえず悩みがあるか聞いてみた。
「私の両親があなた方が古代竜を倒した英雄だということを信じていなかったのです。私もうわさでしか聞いたことがなかったので信じていませんでしたが今やっとわかった気がします。でもお父様には『貴族の力を見せつけてきなさい!』と言われ、どうしたらいいかわからないのです。今のままではかなわないことはわかりました。ですがなんとお父様に言えばいいのかが........」
なるほど、この世界の貴族は強いってことなのかな?
―財力以外にもこの世界の貴族は有利です。魔法を使おうとしてもなぜか貴族の方が素質が高かったり魔力量が普通より多いなど理由は不明ですが貴族の方が基本的には強くなっています。貴族の当主の中にはアルターさんのお父様のような『貴族が負けることはありえん!』と言っている人が少なくありません。
何故かはわからないけれど才能などが貴族は強いと。その貴族の中には調子乗っているものもいると。
―はい、そういう事です。
でも何でだろう?
―陽様。
うん? 光のシス、どうかした?
―最近の私の調査で少しわかったことが。貴族には貴族しか与えられないギフトがあるそうなんです。
ギフト?
―神からもらえる能力みたいなものです。陽様も一つ持っていますよ。
え、そんなのもらった覚えがないんだけど?
『実は古代竜から街を守ったときにもらってたんだよね。お姉ちゃんは気絶していて気づかなかったかもしれないけど』
そんなのがあったんだ。それでその貴族にしか与えられないギフトってのは?
―詳細は不明ですが、おそらくそれによって魔法適正や魔力量などが向上していると思われます。
この世界は結構差別がひどいね。けれど亜人は差別していない。
人種はしなくて血族で差別する世界みたいだね。
これがいいのか悪いのか。
『少なくともよくはないだろうね』
あれ? なんで陰が?
周りを見渡しても陰の姿はない。じゃあ一体?
『通信しているだけでそこにはいないよ。それで話したいことがあってさ』
なに?
『さっきカシさんが俺を呼んだ理由がかくかくしかじかで』
そんなこと言われたの? それって大丈夫なの?
『技術力は足りてるから設計図を頑張って作ってる。だから今日はおそらく授業には参加できないからそっちはよろしく。数日出席出来ないかもしれないけど。とりあえず俺が考えておいた授業内容は陽と光のシスに送っておくから』
わ、わかった。
『イン! 私たちは何をすればいいのだ?』
『じゃあとりあえず俺がいるところに来てくれる?』
『わかったのだ!』
『私も行けばいい?』
『美冬も一緒に来て』
『了解』
まさかカシさんの正体があれだったとは。
『てっきりお姉ちゃんなら知ってるかと思ったけど』
光は知っていたの?
『うん。カシさんを見た瞬間気づいた』
よく気づけるね。
『神から居ることは教えてもらっていたから』
へ、へー。
意外と日本人もいるんだね。
今度あいさつしに行こうっと。
闇が本気で怒ると姉の陽出会っても止めることはできません
少し夏休みということで小説から数日間離れてみました。
ほとんど家でごろごろしていました。




