12話 それぞれの夜と不穏な空気(陰)
前回までのあらすじ:
入学式でやらかしてしまったかもしれない。
やっぱり夜の景色は綺麗だなぁ。
―陰はこういう景色が好きなの?
うん、この周りが暗くなっているのと空の星たちが綺麗だからね。
―じゃあ昼は嫌いなの?
嫌いって訳では無いけど好きではないね。
―なんで?
昼は人の行動が活発化するから人混みも出来やすいんだよ。俺は人混みが嫌いだから好きではないって感じ
―なるほどね。
入学式が終わり、夜になったのでカシさんが用意してくれた教師専用の寮の屋根の上で寝っ転っている。屋根は斜めっているので景色を見るのにはちょうどいい。
ちなみに美春と美冬は俺の部屋ではしゃいでいる。
そういえばなんで陽と一緒になんないのかな?
―オーバークロックが解除されると普段の身体の状態が入れ替わるんだって。
というと?
―今まで合わさっているのが普通だったら離れているのが普通になるの。
なるほどね。意外と不便かもしれないな。
―陰にとってはそうかもね。
―明日から大丈夫かな?
どういうこと?
―100人もいるからしっかり教えられるか分からないしどう教えればいいかも分からないから。
うーん、確かに平等に教えられるかは心配だね。
―この学校には成績が存在しないのはいいけど年に数回実技テストがあるって言ってたじゃん。
勉強には影響ないけど同じ学年の人達の順位をつけるやつね。
―それで力の差が明確になってしまうならなおさらしっかりできるか心配になってくるの。
どうしたものかな? 俺は黒板で教えるのは得意じゃないしな。
あ、ちょっと待って、入学式で次元が違うとか言っちゃったから力をみんなに見せるのが一番先になるかな。
―そういえばそんなこと言ってたね。あれ大丈夫だったのかな?
だめだったらカシさんが何とかしているでしょう。
―もう、人任せなんだから。
それが俺流だよ。
そういえば光と闇に会ったら開放される能力がなかったっけ?
―あったね。
それ結局どうなったの?
―無事に解放されて、陰の能力は【スキル共有】が、陽の能力は【詠唱変換】が、それぞれ解放されたよ。
・・・? 詳しく説明してくれます?
―【スキル共有】は陰が持っているスキル・魔法を違う人が使えるってやつ。
それ悪用されない?
―一応許可した人にしか使わせないようになっているから多分大丈夫だと思う。
じゃあ【詠唱変換】は?
―【詠唱変換】は、創造魔法で試行した魔法を詠唱に変換出来る能力。だからそれを使えば【飛行】とかが詠唱に変換出来て例えばそれを生徒に教えれば生徒も【飛行】が使えるようになるってこと。
俺より陽の方が強くない?
―陰の能力も結構大事だよ。創造魔法が光とか闇も使えるようになるってことだから。
わお、超便利。
―だから両方ないよりはあった方が全然いいよ。
使いこなせるようにしておかなきゃね。
眠くなってきてそろそろ戻るかとシスと話していて戻ろうとしたとき、空に陽の姿があった。
どうやら分かれているときは眠くなるらしい。いろいろめんどくさい。
うん? 陽どうしたんだろう?
―多分散歩がてら空を飛んでいるんだと思う。
空を飛ぶのは散歩っていうのか?
―散飛行?
ははは、俺たちにしか伝わらなさそうだね。
―今のところ私たちしか飛べないんだからさ。
それもそうか。
にしてもあいつ大丈夫かな?
―心配することある?
陽は結構何かに巻き込まれやすいんだよ。
―そんな事有り得るの?
それがあいつは有り得るんだよ。
―それなら何か無いか見ておくよ。
ありがとう。
―いいえ、どういたしまして。
明日は多分俺に最初の授業を丸投げさせると思うから何やる考えておきましょうかね。
―教えるのは特進科だから基本は教えなくて大丈夫だよ。
うーん、追いかけっこでもやるかな。
―ただの追いかけっことは言わせないよ?
もちろん言いませんとも。空でやるかずっと強化魔法をかけるかのどっちかだね。
―魔力の消費量としては空の方が多いと思うけど一日で普通に使えるまで上達するとは限らないからね。
それに消費量が多すぎてすぐ無理になるかもしれないし。
―じゃあ強化魔法になる?
そうなるね。
―あ、陰! 陽が何かに巻き込まれそう!
今日は早かったな。
『おーい、美春、美冬。一緒に来てくれる?』
『もちろんなのだ!』
『陰が行くところにはどこへでもついて行くよ』
よーし、それじゃあ行きますかね。
『私も行くよ、お兄ちゃん』
『あれ? 光も来るの?』
『まさか置いていくつもりだった?』
『睡眠の邪魔になるかと思って』
『そんなのどうでもいいよ』
『え? どうでもいいの?』
『そんなこと言ってる暇があったら早く行きなよ、姉さんに危険があるかもしれないんだから』
『闇は行かないの?』
『俺は仕事があるから』
『仕事?』
『後で教えるから今は早く向かってくれる?』
『あ、はい』
「よいしょっと。ここの屋根って結構高いね」
「10階建てだもん」
「イン!」
「うん? どうしたの? 美春」
「手を繋ぐのだ!」
「いいよ。美冬も繋ぐ?」
「陰がいいなら繋ぐ」
「ねえ、お兄ちゃーん。おんぶして」
「手が空いてないから無理」
「ちぇ。じゃあ張り付いちゃお♪」
「!? ちょっ重い重い!」
「飛ぶんだから関係ないでしょ」
「それはそうだけどさ。・・・しょうがないな。それじゃあ全速力で行くよ」
Let's Go!
―【飛行】アクティベート!
「リミッター解除!」
「あわわわわわわわわ」
「速いのだー!」
「っ!」
美冬は手を繋いでいるというか腕に抱きついている状態になっちゃってるけど大丈夫かな?
あれから一分で着いたけど状況はすごいことになっている。
何をどうしたら戦いが出来ない人が数人に戦いをしかけているんですかね?
『まあそれがお姉ちゃんだからしょうがないよ』
『私たちは何をすればいいのだ?』
『指示出すからとりあえず隠れてて』
『了解なのだ!』
『了解』
「っは! 英雄様でもこの数には勝てないだろう!」
「試してみる?」
おいおい、喧嘩売ってるようにしか聞こえないよ。
「その言葉、後悔させてやる!」
「おりゃー!」「ぶっとばせ!」
あーあ、もうこれは見てられないな。
―魔法使う?
使おうか。しょうがないから。
「吹き飛べ」
文字イメージならすぐ出来るでしょう。
「な、なんだ?急に後ろに飛ばされ、うわー!」
―いいね、場所と敵にあった攻撃。素晴らしいよ!
そんなに意識していないけど。
『光、気絶した人を警察に突き出してきて』
『はーい』
さて、俺はこっちの後処理だな。
「この攻撃は?!」
この場合はなんていうのが正解なんだろう。もう本音を言っちゃうか。
「陽はいつまで経ってもトラブルに巻き込まれるよね」
『もう終わりなのだ? つまんないのだ!』
『それだけ陰が強いってことだよ』
いや、敵が弱すぎる気がする。ちょっとした突風で吹き飛ぶのはさすがに弱すぎる。
「やっほー。お待たせ、遅れて申し訳ないね、陽」
「あ、あ、あなたは?!」
「この人が追いかけ回されていた人?」
「え、あ、は、はい。私、グロウ・ファルスと言います」
なんか初めて異世界らしい名前を聞いた気がする。
―ファルスってことは魔法の杖を売っている家庭の子だね
おお、杖があるのか。今度寄ってみようかな。
「え、えぇっと?なんて呼べばいい?」
「あ、グロウでいいです」
「グロウね、よろしく。俺は陰だ」
「あの英雄の一人の?」
一人くらい知らない人が欲しいな。もううんざりだよ。
この街のどこを歩いても「英雄様!」と声をかけられてたちまち人がたくさん集まってくる。
街で買い物もろくにできない。
今度体格いじって出かけるか。
―あまり使いすぎないようにしてね。元の体の感覚を忘れると大変なことになるかもしれないから。
「くっそぅ! おい、よくも俺たちの仲間を!」
「あ、陰様!」
このグループの中で一番強そうな人が起き上がって自分の武器を俺に向かって振りかぶってきた。
だが俺が何も対策をしていないとでも思ったか。
「このやろ!、お、な、なん、だ、からだが、うご、かない?」
動くことはわかっていた。この世界の脳筋の人は後ろからなら余裕でだれでも勝てると思っているらしい。
こいつも明らかに脳筋な体をしている。筋肉すごいし武器がでっかい斧だし、魔法適正ゼロだし。武器の名前なんて言うんだっけ?
「君、魔法防御がカスだね。そんなんでこの人を捕まえようとしていたんだ。でもさっきの攻撃を耐えたから他の人よりはまだマシか」
実はそうでもない。さっきのは魔法で風を起こしたから魔法防御は関係ない。
「さーて、どうやって倒そうかな?」
「おーい、お兄ちゃーん。警察に身柄を届けておいたよ」
へ? あれから5分も経ってないぐらいだよ?
ここから意外と距離があるのに。
「あれ? もう終わったの? 光」
「あれぐらい魔法ですぐ終わるよ。それにお兄ちゃんは私の実力を把握しきれてないんだよ」
あ、はい。すいません。
「英雄様がまた増えた!?」
「お兄ちゃん、この人大丈夫?」
「もう僕は、どうしたらいいか、分かりま、せん」
「あ、倒れた」
「おーい、グロウ君、起きてる?」
「倒れているんだから起きてないでしょ」
―脳の処理が追いつかなくて気絶しちゃっただけだね。命に問題は無いよ。
「なら大丈夫そうだね」
ところで命に問題があったらどうしてた?
―私だったら陰の魔力を使って回復させてたね。
回復までできるとはさすがだね。
―私は万能だからね。
それ自分でいう事かな?
―別に自画自賛してもいいでしょ。
まあそうだけどさ。
「なんだこいつら!?」
「なんだって、知らないの?」
「君たちが言う英雄だよ」
「さーて、長引かせるのもなんだし、倒しちゃおっか」
「ちょ、ちょっと、いや、や、やめてください」
「え、いやですけど?」
―それは完全に悪役のセリフだよ。
気のせい気のせい。
うん? なんか魔力を感じる。
―あれは、殺意!
殺意? あ、殺意!
「っ! ふせて!」
剣はどこだ!
―腰にあるでしょ! 対象者を設定して強制動作!
身体強化!
間に合え!
「ガキン!」
ふ、ふう。間に合った。
「陰、一体どうしたの? って何その状況?」
俺にもわからん。どうしたらこんな接近戦になっているんだろう。
「ほほう、よく防ぎましたね。さすが英雄様です」
スーツ姿の男か。体格は普通って感じ。よくこの体格であんなに重い攻撃できるな。
―あれを防いだ陰もそうでしょ。
それもそうか。
「何者なんだ、お前は」
「私は『ギルド:ほこらの聖地』に所属している、長直属の執事です。以後お見知り置きを」
「ほこらの聖地?なんだそれ?」
「ほこらの聖地はこの街、ファステストで1番勢力が高いと言われている黒系ギルドです! スローガンは、“ほこらは正義”です!」
ギルドにスローガンなんてあるんだ。なんか俺だけかもしれないけどダサい気もするし。
―大丈夫。私もダサいって感じたから。
「黒とは酷い言われ用ですね。私たちはただ銀行を強盗したり万引きしたり誘拐して奴隷にしたりしかしてませんよ」
「「「もろ黒じゃん」」」
「今日は挨拶とこいつを回収しに来ただけなので失礼させていただきます」
「ふん、お前らでも親方には勝てないぞ!」
「あなたは弱すぎです。1ヶ月運動部屋行きです」
「え?」
運動部屋行き。なんか大変そう。
まあ頑張って。
「それではまた会う日まで」
「あ、まて!」
逃がすかよ!
「ミハ! ミフ!」
「はいなのだ!」
「逃がしませんよ」
「な?!」
美春と美冬を隠れさせておいて正解だったね。
もうこのギルド壊していいかな?
「さすがだね、二人とも」
「インに褒められたのだ!」
「そ、そんなに褒められることはしてない、よ?」
嗚呼、この照れてる顔を見ているだけで幸せだ。
「さて、本部を教えてもらおうか?」
「そ、そんなの簡単に話すわけないじゃないですか!」
「ふーん。なら魔法を使っていいね」
―あれはまだ試作段階だよ。
「実験台にするんだよ。さあ、生きていてくれよ?」
あれは開発を始めてからまだ三日しかたっていない。でも自分は実用段階まで開発できている気がする。まだ改善点があると思うから実験台にする。死ぬことはないはずだ。
「や、やめ、ぎゃぁぁぁぁ!」
あれ? そんなに怖い悪夢を見せるようにしたっけ?加減したつもりだったんだけどな。
今あいつに使った魔法は名前は決めていないが悪夢を見せて記憶を抜き取る魔法だ。記憶を抜き取るといっても相手には抜き取られた感覚は一切しない、はず。
「なるほど、そこか。闇、あそこだって」
『了解。着いたら教えるから』
闇が様子を聞いてきたので協力の要請とカシさんに許可申請もしてもらった。
闇さえいれば勢力は全然足りると思うので他の人は巻き込んでいない。
「さぁ、ギルドを滅ぼしに行くよ。グロウも来る?」
「いや、今気絶してるよ、お兄ちゃん」
「そういえばそうだったね。ここにいても怖いだろうし運びますかね」
「これって私も行かなきゃ行けない?」
「「当たり前だよ、陽/お姉ちゃん」」
「そ、そうですか」
戦闘ができなくても補助は全然できると思うからね。
「さあ、戦闘の時間だ!」
まだ気が早いか。
最近付属語を間違えてしまうことが多くなってきてしまいました
ミスがないように頑張ります




