燃える令嬢、消す消防。同じ阿呆なら恋せにゃ損損っ!
ここは財閥とか悪役令嬢が存在するタイプの現代。
119番を受けて、消防士である僕は億ションの最上階へと急行したのだけど……
「炎上しましたわ!! わたくしのSNSがぁっ!!」
「ゼイ……、ハア……、あ、ああ、炎上って、バーチャルな、かたち、でしたか……ハアハア……」
どうやら六十階まで駆け上がる必要はなかったみたいだ。
ふざけるな畜生が、と叫びたかったが、相手は財閥の令嬢であり、楯突けばムラハチられるのは、火を見るより明らかだった。
「あなた、消防士なんでしょ? わたくしの炎上を鎮火させなさいよ!!」
「ハア、ゼイ……、ハア……そんなぁ……」
いきなり火の粉が降り掛かってきた。
しかも普段浴びないタイプの。
もちろん断りたかったが、火に油を注ぐような真似はしたくなかった。
「ゼイ……、ハア……火元、つまり炎上した原因に、ゼイ……心当たりはありますか?」
「ありませんわ。なぜならわたくしは完全無欠の財閥令嬢でしてよ。お〜ホホホっ!!」
「ゼイ……、たぶん、非があったので、炎上したと……、火の無い所に煙は立たぬと、いいますし……」
それでもわたくしに非はないという悪役令嬢を説得していると、彼女はふと何かを思い出した顔をした。
「そういえば、昨夜、わたくしのフィアンセにすり寄る羽虫をSNSで晒しましてよ。わたくしに喧嘩を売ったのだから当然でしてよ。飛んで火に入る夏の虫ですわぁ、お〜ホホホ!!」
「マッチ一本、火事のもとっ!」
逆になぜそんなことをして燃えないと思ったんだっ!
「え、そうなんでして? だから炎上したうえにフィアンセに婚約破棄されたのでして?」
冷水を浴びせられたような顔をする悪役令嬢。どうやら彼女の頭は嫉妬の炎で燃え上がっていたらしい。
「で、でしたらどうしたらよろしいのでして……?」
「とりあえずSNSのアカウントを削除します。それで延焼を防げるはずです」
打ちこわし式鎮火法。
江戸時代から続く伝統的な火消しの技だ。
「あ、ありがとう、と言っておきますわ。消防士」
「はあ、お役にたてたのならなによりです」
二度と関わりたくはないけどな。
内心でそう思っていると、悪役令嬢は頬を真っ赤に染め上げて、こう続けた。
「その、わたくしの恋心が燃え上がってしまいましたの……、鎮火してくださる?」
火の用心っ!
どうやら、消防士である僕は恋心の火付け役となってしまったようだ。
どうやって鎮火しようか……