78話目 目と耳で繋がる世界
俺は、視覚と聴覚を閉ざされ砂漠に膝をつく3人を見つめる。
急な感覚の変化にふらふらとその場に崩れるように黒ずくめは倒れこんだ。
無理もない。突然に暗闇に放り込まれたうえ、内耳にある三半規管は頭の運動機能を補助しているのだ。乗り物酔いも三半規管が関係しているって聞くよね。それが狂い、目眩を引き起こしたのだろう。どっちが上で、どっちが下か、自分が前を向いていたのか後ろを向いていたのか分からなくなってしまったのである。
外の音が聞こえなくなった耳は、体内の振動……自分の鼓動、血液の流れるドクンドクンというがいつもより大きく聞こえるんじゃないだろうか。
人間は、全くの無音の部屋に入ると耳なりを発症しする人も居るらしい。しかも、長く閉じ込められると……気が狂ってしまうとか。
「あ"ぁ"ぁ"あ"ぁーーーー!」
「……っ!……っ!?」
「うわぁ!そこに居るのは誰だ!?」
3人は触覚で伝わる人の気配に怯え、腕を振り回している。何かに手が当たると、それが仲間なのか分からず突き飛ばしてしまった。隊長格らしき男も、冷静を失っているようだ。
「宇宙飛行士に1番大事なのは、コミュニケーション能力とチームワークだよ。宇宙空間は想像以上に過酷な世界だ。助け合わなきゃ希望は無い」
特にチームワークは最も大事だ。3人の失敗は、俺が「……まずは、視覚」と言った時点で次を考えてフォローしあえるようにお互いを認識しあえる状況を作らなかった事だ。そして、聴覚がなくなったとしても、手探りで集まる事も不可能じゃない。それができていれば、砂漠の真ん中で『一人ぼっち』になることは無かったのだ。今さら言ってもしかたがないことだけど。そう仕向けたのは俺だしね。
あちゃーと肩をすくめていると、ルナが満面の笑みで駆け寄って来た。見た目10才程の少年姿で、小首をかしげて俺を見上げる顔は、命を狙われた直後とは思えないほど愛らしい。
「お見事です零史。それで、この3人はどうしましょう?この『結晶』とやらは貰ったので、砂漠に埋めておきますか?」
「あーそうだね……って、えっ!?まてまて!埋めちゃダメでしょ」
「そう、ですか……?」
まさか、こんな砂漠のど真ん中に埋めようとするなんて。そんな鬼畜ドSウサギに育てた覚えはありませんよ!と慌てて止めるが、俺に良い考えがあるかと言うと、そういう訳では無い。
わたわたと暴れながら、精神を削り続ける黒ずくめたちを眺めて考えるが、答えは出なさそうである。
「も~ど~すればい~の~……」
「うちで飼いますか?」
「かいませーーん!お世話なんて出来ないんだから、今すぐ元の場所に戻してらっしゃい!!」
「あ、それが良いのではないでしょうか」
「……え?いや、え、どこに戻すの?」
「本人に聞けばいいでしょう。刑事ドラマで言う『取り調べ』?をするんです。それでダメなら、スパイ映画の拷もn……」
「取り調べ!取り調べしよ!カツ丼たべたいなぁー!?」
「とにもかくにも1度持ち帰って、情報をさぐりましょう」
「俺の記憶を共有してるってことは……っ!関係無い記憶は今すぐ忘れるんだルナ。子供にはまだ早いんだからな!!」
ルナはキョトンとした後、これまた可愛い、それはそれは可愛い笑顔で笑った。ルナの事を弟のように思っているからこそ恥ずかし過ぎる!俺が砂漠でのたうち回ったのは言うまでもない。
その後は、ルディを呼んで、手足を縛った黒ずくめの3人を馬車まで運ぶ。3人はいつの間にか気絶していたようで、暴れられることなく運ぶことが出来たが……意識の無い人間って重たいとは聞いた事があるが、あらためて実感した。
だが、このまま放置しても、のたれ死んでいただろうし……夜の砂漠は以外と冷えるのだ、夜が越せても昼間は灼熱で、結果は同じ。それに、万が一 無事に帰れちゃったりなんかしたら、こちらの情報を敵にみすみす渡す事になる。そのせいで、仲間が危険なめに会ってしまうなら……やっぱり、俺にとっては仲間の安全の方が、黒ずくめの命より大事なのだ。先に命を狙ったのは向こうだしね。いざという時は自分の手で殺す事も視野に入れておこうと思う。
ルディは絶対にビビるだろうなと思っていたが、さすが人間のお医者さんである。もちろん死体を運んだ事だってあるらしく、ひょいっと持ち上げていた。
黒ずくめたちは、2つあった馬車の1つ、ポッハヴィアでディールが改造した簡易ソリ型馬車に押し込んだ。
俺たち5人は、少し窮屈だがキャタピラ馬車にいっしょに乗ることになった。ルナがうさぎバージョンになれば、そこまで息苦しくは無かった。サラとディールが、うさぎに変身したルナに度肝を抜かれたのは、言うまでもない。
空はいつの間にかとっぷりと暮れて、星が輝いている。
短めでしたが、校正できた分からあげちゃいました。
次はやっと他のRENSAメンバーも絡むぞー!





