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8話目 遅くなってごめん。


「聖霊の力がこれほどまでとは……さすがでございます。私の出番はついぞありませなんだ。」


そこへアルタイルが歩いてきた。

作戦通りに行かなかったのは、十中八九俺のせいなので、申し訳ない。


(結果オーライってことで、許して欲しい。)

俺は少女へと向き直った。


「ひぅっ!」


目が合うと、少女はビクッと怯える。

俺は、ちょっぴり傷ついた心を、笑顔に隠して話しかけた。


「恐くないよ~、俺は優しいお兄さんだよ~?」


怪しさ満点である。ここが日本なら通報されていたに違いない。

俺が1歩踏み出すと、少女が1歩下がる。1歩進んで、1歩下がる。1歩進んで、1歩下がる。……距離が縮まらない……。


すると、俺の肩に居たルナがピョーンと少女の目の前まで跳んだ。

少女をその可愛らしいつぶらな瞳で見つめ、首をかしげている。


「なぜ逃げるのですか?零史はあなたを助けたのです。」

「まっ魔物!?」


一足飛びに距離を詰められた少女は驚いて尻餅をついてしまった。

そして、ルナが喋った事に目を剥いている。


(そっかー、ウサギが喋るのは、やっぱりこっちの世界でもおかしいのか。)

「大丈夫、ルナは君を食べたりしないよ。」


俺も少女のかたわらにしゃがみこんだ。

手入れがされていないのか、長く延びた髪に隠れて見えなかったけど。

近くで見るとなかなか可愛いらしい顔立ちをしていた。

金に光っていた目は、澄んだ水色になっていた。


「零史、この者はかなり魔力を失っているようです。」

ルナが鼻をヒクヒクと動かしながら、少女を伺う。

「それってヤバイの?」


その質問には、アルタイルが答えてくれた。


「そーですなぁ、魔力を使うと少し疲れます。使いすぎると気絶して倒れてしまうこともあります。」

「へぇ~」

「しかし、寝たり休んだりすると少しずつ回復します。」

「体力みたいな感じだね。」


それを聞いてほっと胸を撫で下ろす。

しかし、ルナはその言葉を否定するように首をふった。


「残念ながら、この者の魔力量は底を尽きかけています。もうどんなに休息を取っても回復することは無いでしょう。」

「それは……」(どういうこと?)


アルタイルを見上げても、首をかしげている。

どうやらアルタイルも知らないらしい。

そこへ、少女の声が響く。


「一生に使える魔力量は、人によって決まってるの。」


少女が、暗い瞳で俺を見る。


「……私たち悪魔の子は、魔力量が普通の人よりたくさんある。

だから、家畜のように魔力を使われる。」

「は……?」

「そんな話はきいたことが……。」


俺の後ろで、アルタイルもビックリしているのが分かった。


「悪魔の子は、国の為にその魔力をささげなくちゃいけない……。戦争があれば兵器に、災害があれば治癒魔法に、その魔力が使われる。他にもたくさん……。」


この子のボロボロの服や、髪、痩せ細った体を見るに……大切に扱われていたようでは無さそうだ。


(国の為に……無理矢理そんな事をさせてたってわけか?)


アルタイルが少女の言葉をさえぎるように問う。


「だったら、国に管理されているはずの悪魔の子が……なぜ、ファウダー領の私兵に追いかけられていたのだ?」


少女が……その表情を歪めて空中を睨み付ける。


「私は、ファウダー領に売られたの。だから運ばれている時に逃げてきた。」

(人身売買……家畜扱いだけじゃなく。それじゃまるで奴隷じゃないか!?)

「ふざけるな……。」


とんだ世界に生まれてしまったもんだ。

こんな子供が家畜のように、奴隷のように扱われて良い訳がない!

俺はこのどうしようもない事実に、悲しいやら悔しいやらで、怒りをぶつける事もできず、涙が出そうになった。


地球でだってきっと俺の知らない所で、小さな子が大変なめに合っていたのだろう。俺は、街頭募金に小銭を入れながら「大変だな。」なんて他人事にしか考えたことなどなかった。


だが、いざ目の前でそんな現実を見せられて……俺はどうすれば良いのか途方にくれた。

そして俺は、混乱した頭と震える両手で、少女をつよく抱き締めたんだ。


「遅くなってごめん。

……助けるのが遅くなって、ごめんよ。」


遅いも早いも無い、俺はついさっきこの世に生まれたばかりで、ほんの数時間前にアルタイルと出会って、やっとこの世界に出て100メートル程だ。

なのに……俺はこの言葉を言わなくてはいけないような気がしてたまらなかった。


少女もいきなり抱きつかれて混乱しているだろうに、俺の言葉を聞いて……一雫の涙を流してくれた。

ルナが優しい目で俺と、俺の腕に抱き締められている少女を見て、笑っている気がした。

……ウサギだから表情分かんないけど。




これは、マスターの感情なのかそれとも俺の感情なのか。

いや、そもそも俺の感情ってなんだろう。



主人公が「殺すしかない」と言っていましたが。

殺すのに抵抗が無いというより、殺したことがないので実感が無い感じです。

実際に殺すとなったら、また違った反応になるのかなと。

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