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77話目 あと1メートル

本来の宇宙飛行士適正テストとは、全く異なります!!!


※黒ずくめ視点



「パチン」と男が指を鳴らした瞬間、視界が闇に染まった。


「……っ、何も見えない」

「目がぁ、目がっ」

「落ち着け!!」


部下の二人が、もがくように手を振り回しているのが、音と風で伝わってくる。一喝して冷静さを取り戻すよう言い、自らも思考する。

顔に布を被せるなど、物理的に視界が塞がれているわけでは無い。まるで、何の痛みも無く目が潰されたかのような、真っ暗な闇に落ちたような感じだ。原因が分からない事象に、不安から心拍数があがる。


目を潰された方が、理解出来るだけマシだな。


人間は、理解不能な事が起きるとどうしても不安から冷静な思考が難しくなってしまう。しかし、我らは常人とは違い、特殊な訓練を受けた者だ。手のナイフを握り直し、どうにか冷静な思考を手放さないようにと深呼吸する。

いざと言う時の為に、目隠しをしたまま戦う訓練もうけている。この程度で慌てるわけにはいかない。


三人は、ルカー王国が誇る精鋭部隊(アルコル)だった。表舞台には姿を表すことこそ無いが、暗躍や秘密工作、戦時中なら遊撃軍として、国のため……ルカー王国の最高司令官カペラのために存在しているのだ。


前方、今回のターゲット「レイジ」という名の男。どうやったのか、ポッハヴィアでの毒殺を退け、砂壁(ハブーブ)までも吹き飛ばしたのだ。舐めてかかれる相手ではないと、認識した。

耳をそばだて、話し声だけでなく、相手の一挙手一投足を音で拾い取ろうと細心の注意を払う。おもむろに、(レイジ)が話しかけてきた……その距離10メートルほどか。


「人間の目は、物体から跳ね返った光を捕らえているんですよ。だから、あなたたちの目に届くはずの光を全部屈折させちゃいました」

「くそっ、科学者ごときが。では、これは科学っ……」

「残念ながら、これは魔法(・・)ですよ。科学者なのは否定しませんけど」


光を曲げる魔法など、聞いた事がないぞ。

どうすればいい。この(レイジ)は危険すぎる。最大の攻撃手段である結晶(クリスタ)も奪われてしまった。

結晶(クリスタ)に蓄積された魔力により、少人数でも大魔法を使う事ができる新兵器だ。従来の結晶(クリスタ)から威力、効率をともに改良されている。あれが他国に渡ってしまうのは何としても避けなくてはならない。何より、このまま撤退するのは精鋭部隊(アルコル)の隊長としてのプライドが許さん。


「視覚を奪ったのに冷静ですね、それとも強がりかな?」


どうやら(レイジ)は、我らの視覚を奪った事で精神的な余裕が生まれたのか、会話をしながらゆっくりと距離を詰めてきた。……まだ、まだだ。一番接近した時がチャンス。もっとこっちへ来い。あと8メートル。


「まさか科学者に負けるとはな……」

「ポッハヴィアで襲ってきたのも貴方たちですよね。一体何が目的ですか?」

「科学者の粛清に決まっているだろう」

「なるほどー」


この男が科学者だと知ったのはつい今しがただが、本当の理由を話す訳にはいかない。素直に信じているようには思えないが、どちらにせよ命は奪うのだから、大きな違いはないだろう。……5メートル、あと少し。


「降参だ。我らとて命は惜しい……どうだ、取引しないか?」


どうもこの(レイジ)からは、こちらへの殺意が感じられない。これは……この男、殺人に慣れていないのか。魔法の実力はかなりのものたが、本人から命のやり取りをしたことのある者が必ず纏う空気をまったく感じることが出来ない。今まで、よほど平和な暮らしをしていたんだろうな。ならば、チャンスはある。平和ボケした科学者なら、目が見えずとも……あと3メートル。


「取引っていうのは、対等な関係でこそ成り立つものですよ」


(レイジ)の声が、真正面から聞こえる。すぐ目の前まで来たようだ。どんなに優位に立っていようとも、気を抜いて近づいてきたのが貴様の失敗だ。……あと1メートル。


今だ!


(レイジ)の体格、声との距離から計算した心臓の位置を目掛け、一瞬のためらいもなく力の限りナイフを前方へ突き出した。

常人ならば、絶対に反応出来ないであろうスピード。目は見えなくとも、(レイジ)の死は避けられない、そう思える程の素晴らしい不意討ちだった。しかしその一撃は、一滴の血もしたたらせることなく空を切ることとなる。


「なっ……んだと!完璧な不意討ちを避けた!?」

「避けてませんよ、ただ届かなかっただけです」


ついさっきまで、すぐ目の前に居た(レイジ)の声が、遠くに聞こえる。そうまるで、最初から1歩も近づいていないかのように。


「どういうことだっ……」

「音って空気の振動なんですよ。それをちょっとイジってあげれば、あら不思議。前から聞こえてきたり……後ろから聞こえてきたり」

「……っ!!!」


突然、後ろから(レイジ)の声が聞こえ、慌てて振り向きナイフを構える。次は右、左と……暗闇で四方から響く(レイジ)の声。緊張は増し、だんだん息が荒くなる。額には汗がにじんだ。


「ぐぅ、化け物め……」

「次の段階に進む前に、言っておきます。1つ、いったい誰の命令で来たのか。2つ、なぜ俺を狙うのか。答えたくなったら教えてください。それでは……聴覚」


パチンと鳴った音を最後に、世界から音が消えた。




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