76話目 宇宙飛行士適正テストを始めます
ソレは、突然現れた。
漆黒の髪と瞳のソレは、我らを冷たく睥睨していた。
砂壁が吹き飛ばされ、我らがなすすべもなく宙を舞う。
それは、一瞬の出来事だった……。
……なーんちゃって、零史です。
ポッハヴィアからの帰り道に、砂壁に遭遇してしまう。しかし、砂壁の向こうに6つの魔力反応があった。どうやら人為的に産み出されたもので、俺たちを狙ったのではないか?と結論付け、俺とルナは二人で敵さんに突撃しているところだ。いまここ。
ちょっと相手目線でナレーションつけてみたんだけど、これ何のラスボスだよ。いや、自分を客観的に見るのはやめよう、悲しくなるから。
「大丈夫です。零史は文句なしにカッコイイですよ」
「フォローになってないです……」
赤色巨星……言ってしまえば軽い爆発 (厳密には爆発ではなく燃料を留めていた引力が耐えきれなくなり、回りに爆発の様に霧散した) により、砂壁は吹き飛ばされた。6つの魔力の正体現れたりである。
「ぅ、ぐぁぁ……」
「っ……何が起こった!」
「はぁ、はっ……」
俺とルナは、モーセの如く割れた砂壁の向こう。爆風に吹き飛ばされた敵から、目をそらさずに軽口を叩いていた。敵は苦しげな声をあげながら、よろよろと立ち上がっている。死んではいないようだ。
「ん?……6人じゃなかったっけ?3人しか居ないみたいだけど?」
「まさか、この短時間で逃げられるとも思えませんし……いや待ってください、赤い魔力反応はあの3人からではなかったようですね」
「は?」
ルナにそう言われ、俺もとっさに魔力の色を確認する。たしかに、吹き飛ばされた3人はあの禍々しい赤色ではなかった。
だが、その3人が持っている機械から赤い光が漏れているのが見える。ということは、あの砂壁を作り出した魔力は人間ではなく機械から……。
「どうやら、サラの説が大当たりみたいだね」
「魔力を貯めておける装置、ですか」
ゆっくりと警戒しながら3人へと歩いて近づいていく。
3人は装置を両手で掴み、盾のように掲げだした。どうやら敵意はまだあるらしい。
「貴様の仕業か!」
「止まれ!止まるんだ!!」
砂漠だからか、くすんだ白い羽織を被っているが、ちらちら除く中には、全身黒ずくめの服を着ているようだ。顔にも黒いフルフェイスのマスクをしていて、いかにも隠密ですという印象である。
ルナがつまらなそうにヒラリと手を動かした。
「とりあえず武器を取り上げておきましょうか」
「ぁあっ、やめろ!」
「は?何を……」
ルナはまるで吸い寄せるように、相手の装置を奪った。武器を奪われた3人は追いすがろうと手を伸ばしていたが、対した抵抗にはなっていなかった。
俺はルナの腕の中にある機械を近くでみる。それは、ボールくらいの大きさで、中には赤い拳程の結晶が2つずつ入っていた。メガホンの様に円錐形に飛び出ている部分が照準になっているようだ。合計で6つの結晶。
「これが砂壁を引き起こした魔力源ってとこか」
「ええ。聖霊の遺物か、私たち以外の聖霊の関与か」
その結晶は色は違えど、俺の造り出す結晶に良く似て、エネルギーを蓄えておけるようだ。空間を繋げる程の機能があるかは、後で調べてみることにして。
聖霊並みの魔力の人間が居ると考えるより、他の聖霊の関与を疑う方が自然だ。だとすると、その聖霊が遺した結晶をこの暗殺者たちが使っているのか……それとも聖霊が仲間に居るのか、ってことか。
「悩んでも分からない事は直接聞きましょうってね」
俺とルナはアイコンタクトをとると、ツーっと3人に目線をうつした。
敵は、爆風に吹き飛ばされた衝撃による打撲や擦過傷で、見た目以上に消耗しているようだ。もしかしたら、骨も数本折れているかもしれない。武器を奪われたためか、ある程度の距離を保ったままこちらを睨み付けてくる。
俺たちの出会いは最悪という他ないが、現代社会を生き抜く為にしみついた対人スキルはそうそう消えるものではない。俺は営業スマイルを顔面に貼り付けて黒ずくめさんに話しかけた。
「つかぬことをお伺いしますが、誰の差し金で俺たちを殺しに来たんですか?」
「「「……」」」
「いやまぁ、素直に答えるとは思ってないけど……」
「零史が優しく聞いているうちに答えた方が身のためっ……もがもがっ」
「こらルナ!そんないかにも悪役みたいな事言うなよ。悪役みたいだろー」
俺は慌ててルナの口を手で塞ぐ。前から思ってたんだが、本当にRENSAの人たちは悪役の台詞をどこで勉強してるの!?
俺とルナがじゃれていると、1人の黒ずくめさんが1歩前に出た。リーダー格の人なのだろうか、他の二人が付き従うような立ち位置に自然となっていく。
「貴様がどうやって砂壁を退けたか知らん。だがなんとしても結晶は返して貰うぞ」
そう言いながら、黒ずくめ3人は腰から数本のナイフを引き抜いた。そのナイフの形状はポッハヴィアで襲われた時のものと酷似している。
「やっぱり、ポッハヴィアの時と同じ奴等か……」
「追いかけて来なければ生き永らえたものを。零史を傷つけた罪、償ってもらいます!」
「ルナたん……」
どうやらルナは、ポッハヴィアの町で襲われ、肩に傷をつけられた事がかなり頭に来ていたらしい。
ここはルナに任せると、相手の命が危ないな。俺はルナから相手を遮るように前に出て、3人に穏やかに話しかけた。
「黒ずくめさん、五感って分かります?」
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚……人間は五感を使って世界と繋がっている。では、ソレが突然奪われたとしたら、どうなるだろうか?
「何をする気だ?」
「宇宙飛行士適正テストを始めます!……まず、視覚」
パチン、と俺が指を鳴らす。





