表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/82

71話目 教皇

少し間が空きました。

また引き続き宜しくお願い致します!


ガラヴァ皇信国の『皇都』の中心にそびえる、白亜の神殿。無数の柱に支えられた、荘厳で美しい円形の神殿だ。

その最奥にある教皇との謁見の間に、レグルスは一人で通された。


この謁見の間はガラヴァ皇信国で最も神聖な場所とされ、教皇と13名の枢機卿のみが入室を許されている。

しかし、ラーヴァでのドラゴンとの戦闘により、聖霊から力を授けられし救世主は、特別に謁見の間へと入場を許されたのだ。


「ラーヴァ騎士団団長、救世主レグルス」


ずらっと座っている13人の枢機卿の中で末席に座っている、一番若そうな枢機卿がレグルスの入場を告げた。若いといっても枢機卿の中で、だが。


ナイル殿下の情報を信じるなら、この13人のうち誰かがルカー王国と繋がる反逆者だ。レグルスはゆっくりと自然な動きで全員の顔を見た。


どの枢機卿もアルタイルと同じくらいに見え、50歳は過ぎているように思う。平均寿命50歳前後のこの国では中々の長生き集団なのでは無いだろうかと、穿った考えを思い浮かべるレグルスだ。


ナイル殿下からの情報が正しければ、この中にルカー王国と内通している者がいるはずだ。誰も一見、穏やかな雰囲気を装っているが、救世主(レグルス)に興味津々なのが伝わってくる。

救世主を個人的な味方に取り込めば、覇権を取れるのでは無いかという欲が見え隠れしていた。


レグルスは、今は取り繕って騎士団団長らしくしているが、元来ガサツな性格だ。お堅い教えの聖信教に、信仰が強いわけでも無い上に、ギラギラした目線を投げられ……早く帰りたいな、という気持ちで意識が遠くなるようだ。


「そなたが……聖霊から力を授かりし救世主か……」


「はっ」


1列に並ぶ枢機卿の上段、中央のひときわ高い席に座る教皇が、レグルスへと声をかけた。

レグルスは、片ひざをついた最敬礼の状態から少し顔をあげ、教皇へと返事をする。

教皇は優しげな声とは裏腹に、まるでレグルスたちと同じ、騎士のような隙の無い表情をしていた。その老体からは想像もつかない覇気が感じられた。


「ドラゴンはもう死んだ。そなた、その力をこれからどのようにするのだ?」


「この国の平和の為に」


「ふむ、では……ひとたひ争いが起きればその力をふるうという事か?」


「私はラーヴァ騎士団団長です。ガラヴァの民を脅かすのであれば当然……」


「より多くの命を殺めても、か?」


「……それは、どういう……」


レグルスは困惑していた。いままでもラーヴァ騎士団団長として剣を、魔法をふるってきた。救世主になったからといって、生き方が変わる訳でも無い。

もし争いが起きれば、自分は躊躇なく迎え撃つだろう。たとえ聖霊から力を授かっても、それは……いままでも、これからも変わらない。


もしや、、強大な力を与えられた(実際は通信機だが)レグルスが、国に謀反を起こすのではと危険視されているのだろうか。たしかに国家としては、制御できる確約のない駒は恐ろしいだろう。大きすぎる力は、疑心暗鬼を招くものだ。

ここは、従順な態度で切り抜けるより他ないと思っているが……教皇の表情は、レグルスに対する『恐れ』というより、『憎悪』に近い眼差しをしていた。教皇が危惧しているのは、どうやら『謀反』だけではないようだ。


「大きな力を得ると言うことは、いままで以上に多くの人を殺めることが出来るという事だ。ドラゴンをも殺せるそなたが戦場に出たらいったい……何万人が死ぬであろうや」


「……っ」


「大きすぎる力は争いを呼ぶ。救世主(そなた)がおれば、周辺諸国は"抑止力"として、より大きな力を求めるだろう。ならばはじめから"大きな力"など要らぬのだ。……私は、その腕輪(ちから)を聖霊に返して欲しいと思っている」


教皇の言っている事は、理想だ。1つの国が過剰な戦力を持てば、その周辺諸国は『攻め込まれたらいけないので対抗戦力を持とう』とするだろう。だったら最初から持たない。という話である。


零史が聞いていたら、核兵器を抑止力として欲する国家の話が頭をよぎるかもしれない。武器や技術力があがるほど、戦争での死傷者の数は膨大なものとなった。

レグルスだって、戦いの無い平和な世界を願っているのだ。たしかに教皇の言う通り、大きな力は、より多くの人を傷つける。


だから放棄すべきなのだろう……ドラゴンが狂暴化していなかったら、な。


ドラゴンの狂暴化は、ルカー王国のさしがねだ。あれは充分に宣戦布告ととれる行為。ということは、この国は既に戦時下にある。気がついていないだけで、既に戦争の真っ只中なのだ。


そんな戦争の最中に、レグルスという戦力を放棄するなど、正気の沙汰ではない。しかし、おかげで教皇は"ルカー王国の思惑"を知らないと分かった。まさか信頼する枢機卿が、自分を裏切っているなど夢にも思っていないのだろう。


「そなたがその腕輪(ちから)を捨てぬと言うなら、教えに(そむ)いた異端者として捕らえるまで。しかし、そなたならば『平和のため』と分かってくれると信じておる」


教皇が片手をあげると、部屋の隅から真っ白な軍服の聖騎士が次々に現れ、レグルスを囲んだ。その様子を見下ろして、教皇は笑顔で告げる。


「さぁ、その腕輪をこちらへ」


「……こんな騙し討ちのような事をして、脅すのが聖信教の"教え"ですか」


レグルスは焦りを見せないように気を付けながら、左腕に通してある腕輪を撫でる。

別にこの腕輪はRENSAメンバーなら誰でも持っている通信機だ。奪われてもまた作ってもらえるだろう。後から、亜空間で繋げている回線を切ってしまえば、通信機としては使えなくなる。

ここは大人しく渡した方が良いだろうか。せめて誰でもいいから今、連絡をとれたらいいのだが、こんな大勢の前で通信機を使う訳にもいかない。


「もし、この腕輪を渡せば。俺をすんなりラーヴァへ帰していただけますか?」


「それは出来ない。そなたはその力を手放したとしても、人々から見れば救世主のままだ。その求心力は計り知れない。他国に狙われるおそれも有るのだぞ、皇都(ここ)で安全に暮らすのが1番であろう」


安全に暮らすとは言っているが、要は監禁されるのは目に見えている。それは、腕輪を渡さずに捕まる事といったい何が違うのだろうか。


レグルスは、努めて取り繕っていた表情を怒りに染め、回りを取り囲む騎士を威圧する。その態度に、教皇はスッと目をすがめた。


「"救世主(じぶん)"より弱い騎士に反撃するのか?……やはり救世主とは名ばかりの"兵器"ということか……」


再び教皇が手をかざそうとした所へ、枢機卿のうちの一人が声をあげた。


「教皇、おまちください。ぜひ、私に彼を説得するチャンスをいただければ……と。突然呼び出され、混乱もしておりましょう。しばし冷静になる時間が必要ではないでしょうか」


割り込んできた声は、中央に座っている枢機卿だった。こんな状況にもかかわらず穏やかな笑みを絶やさず、その目は救世主(レグルス)を真っ直ぐ見つめている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ