69話目 染まる視界。
俺とルナ、ルディ、そしてディールとサラは、ジヴォート帝国の首都ポッハヴィアから、ガラヴァ皇信国の首都ラーヴァへと帰る途中に天災にであう。
砂漠の旅で1番恐れられているもの、砂壁だ。
巨大な砂嵐が、雷を纏ってものすごい早さで襲い来る。走って逃げる事は不可能だ。
唯一、土魔法でシェルターを堀り、地下に逃げる手が有効だが、魔力にも限界がある。シェルターは掘れても、ここは砂漠だ。砂のシェルターはいつ崩れるか分からない。しかも、外の様子はわからず、いったい何時まで耐えれば良いのか……その恐怖は尋常ではないだろう。
助かったとしても、馬車は飛ばされ破損あるいは紛失し、野垂れ死ぬ事もあるという。シェルターで生存した者は、ただひたすら近くにオアシスがあることを祈るのみなのだ。
そんな砂漠の民の恐怖の象徴、砂嵐がいま、俺たちの目の前にせまっていた。
慌てる兄妹の横で、俺とルナとルディはまるでいつも通りである。
「あ、これってアルタイルさんがドラゴン戦の時に使ってたっていう防御魔法ですか?」
「あぁ防弾ガラス?あれとはちょっと違うかな。それに、俺って安定持続させる系の能力行使が苦手だからさ……」
「このバリアは私が展開しています。」
そんな俺たちを兄妹が真っ青な顔で見つめていた。
「いいいいい、いま、ドラゴンって……救世主が倒したっていうあれっすか?」
「あ、救世主さんの話ってやっぱりジヴォート帝国にも知れ渡ってるんですね。あれ、実は零史が倒したんですよ。これはRENSAだけの秘密ですけど」
「……え!?レイジガタオシタ?」
「ドラゴン、おっきかったよな~」
「ふふんっ!聖霊(零史)にかかれば一撃でした」
「……は!?イチゲキ?」
「そう。魔法に科学を応用すると、威力や効率がハネ上がるんだよ」
「お兄ちゃん、私たちとんでもない人たちと一緒にいるのかも……」
「あぁ、路地裏の刺客なんて可愛いもんだな」
「科学って……」
その言葉を最後に、俺たちは砂壁に飲み込まれた。
ルナの張ったバリアは、アルタイルの魔法(防弾ガラス)と同じドーム型で、俺たちの回り半径10メートルほど、馬車もまとめて守っている。仕組みは防御ガラスとは全く違って、ルナがただひたすら半径10メートルの位置を指定して、砂や雷や風の運動エネルギーを吸収しまくっているだけだ。
俺たちの馬車が砂壁に飲み込まれたので、心配して来てくれたのか、足元からトドがひょっこりと顔を出した。
「おっ、帰ってきてくれたのかー!おかえり」
「オゥ!オオゥ!」
川で遊ばせていたから、逃げてしまったと思っていた。でも、どうやら砂の中を水中のように泳げるトドは、砂壁をものともせず泳いでここまで来てくれたようだ。さすが砂漠の環境に適応している魔物である。
「でも、これからどーしよっか?」
「この砂壁とやら、全部吸い込みますか?」
「「「え!?」」」
ルナの一言に3人3様で驚いている。ルディはちょっとワクワクしてるの気づいてるからな?
たしかに、能力を使えば砂壁を飲み込む事は容易いだろうが、自然現象を人間 (?)の都合で消してしまうのは気が引けてしまう。
「ん~……他に被害を被ってる旅人とかが居なければ、このままここで野宿でもいーかな?もともとそのつもりだし」
「でも、この砂嵐と雷の中、他の人間が居るかどうかなんて……」
「魔力を見れば良いんですよ」
「魔力を……見る?」
魔力を見れば、砂壁の中でも他の人間が居るかどうかは探れるという事だ。人間は生きていれば必ず魔力を持っているし、ハブーブの中ならシェルターを作るために必ず使っているのだから。
そういえば、兄妹に『聖霊は魔力が見える』という話はまだしてなかったか。百聞は一見に如かずだし、とりあえずやって見せる事にしよう。
俺とルナは魔力を集中して見るよう意識する。(……見えた!……見えたけど、コレは)俺は自分の見えたものが信じられず瞬きを繰り返す。
「零史」
「ああ、見えてる……」
ルナも俺と同じように見えているみたいで、戸惑いが伝わってくる。ということは『コレ』は見間違いでは無い。というより、見間違えるような景色では無かった。
さっきまで砂色一色だった砂壁が……真っ赤に染め上がっているのだ。
俺たちの回りドームの外360°全てが真っ赤な魔力で包まれていた。
俺とルナの普通じゃない様子を、ルディたちも察したのか問いかけてくる。
「いったいどうした?……零史、何が見えたんですか?」
「いやえーと俺もよく分かんなくて。ルナ、コレってどういう事なんだ?」
ルナが顔をひきつらせながら教えてくれる。
「……この砂壁が、自然現象ではなく、魔法によって生み出されたという事でしょう」
「自然現象じゃない?」
「いったい誰が、何のためにそんなこと!」
ルナの言葉に、兄妹が驚愕の声をあげて砂壁を見つめる。いったいどうやって砂壁を発生させたのか。しかも、この規模の魔法を一人で発動できる筈がない。ということは、敵は複数人だろう。それか……俺のような、聖霊なら出来るのかもしれない。
(この赤……)俺は真っ赤に染まる砂壁の色にありえない既視感を覚え、その赤から目を離せないでいた。
今日の更新したぞー!
これから、18年振りに出た十二国記の新刊をこれから読みます!





