68話目 ハブーブ。
ポッハヴィアから出発して半日。沈み行く夕日を見ながら、そろそろ晩御飯でもとキシュカ河のほとりに馬車を停めた。
真っ先に馬車から降りて、座りっぱなしで固まった体を伸ばした。
「んん~~っ!あぁ~……」
「んん~?」
俺が脱力している横で、ルナも並んで伸びをする。
「あははっ、そっくりね!私とお兄ちゃんは全然似てないのに」
「僕とサラが似てるのは名前だけだよな~」
「サディルと、サディラ……たしかに」
ディールがサラの車イスを馬車から後ろ向きに下ろした。何とも慣れた手つきだ。
するとそこへ、3匹のトドをキシュカ河へ休憩に放したルディが来る。
「名前以外にも、ディールとサラの似てるところあるよ?」
「例えばどんな?」
「んー……科学者だって僕に打ち明けた時『殺すなら自分を』って、お互いがお互いを庇ってる、男前なところとか……」
「僕が……お、男前」
「ディールはサラの為に貴族を捨てたし、サラはディールの為に科学者になったでしょ」
「お鍋は爆発させちゃったけど……」
「兄妹だからって中々出来ることじゃない。二人は本当に、お互いを大切に思っているんだなーって。そーゆー所が似てるよ」
ルディが滔々(とうとう)と兄妹の似てるところをあげてくれたが、もはやただの褒め殺しになっている。案の定、ディールとサラは顔を赤らめて目線を泳がせていた。俺は、それを見て肩をすくめる。ルナも肩をすくめた。
「そうだね、ディールとサラは、ソックリだ」
「零史と私とは違って性格が似ているんですね」
「それにルディが二人の事を、大大大好きだってことも分かったね」
「そーですね、それはもう熱烈に」
「え!?別にそんなつもりじゃ!」
俺とルナが、神妙な顔でうなずき合う。俺は大袈裟なくらい感動している風をよそおって、ルディの肩を叩いた。
「青春だねぇ~」
「零史!……オッサンくさいよ」
「なにぃ!?ルディよ、俺に生意気言うとどうなるか……思い知らせてやるぅ!忍法くすぐりの術!こーちょこちょこちょ……」
「アッハ!ヒィィイイイ、アハハハ、ハァッ!やめっ、グフッアハハハ……やめて~!」
「本日はいつもより多くくすぐっております。あそーれっ!」
「ヒーッ!アハハハ……」
ルディの脇腹をくすぐる俺と、俺のくすぐりを払いのけようと暴れるルディを、ルナとサラとディールの3人は微笑ましそうに、または呆れた顔で見ていた。
「ごはん作りますか」
「そうね」
「そうっすね」
ルディの笑い声という名の絶叫は、ご飯の合図まで続いたという。
息も絶え絶えになったルディが皆のところへ四つん這いで辿り着き、ジヴォートで買ったケバブのようなサンドイッチを食べながらディールとサラに慰められていた。
「ルディ、腹筋鍛えるとくすぐり平気になるぞ?」
「えっ、本当に!?」
「ルディ、お兄ちゃんは元からくすぐったくない人よ」
サラの忠告を聞いたルディは憮然とした顔でディールを見上げていた。無言でモグモグと食べ続けている。
するとそこへ、突然強い風が吹いた。
「うわっぷ。何だ?」
「サンドイッチは飛ばされていません。大丈夫です」
「あ、お兄ちゃん、あっち!」
「……ハブーブだ!」
「うわぁぁあ!零史っ、砂嵐です、砂の壁がこっちに来ます!」
「ハブーブって……これが」
見上げた南の空は、1面『砂壁』で覆われていた。俺の想像する砂嵐の何千倍もの規模だ。
しかも、砂壁からは雷鳴まで聞こえてくる。ついさっきまで晴れ渡っていたと言うのに、突然視界に現れた天災に俺たちは呆然とただ見上げていた。
最初に意識を取り戻したのは砂漠の民、ディールとサラだ。
「とにかく土魔法で穴を掘って、シェルターを作るっす!」
「馬車はどうするの!?」
「命の方が大事だろ!」
「え、シェルター作ればいいの?」
「あの馬車が無くちゃ、砂壁から助かっても砂漠で野垂れ死にするわ!」
「シェルターって、これでもいい?」
「その前に砂壁に……て、は?」
「……え?」
あした台風の影響で、仕事が休みになりましたのでお家で震えながら書きたいと思います。
こんなところに雨が降るなら、砂漠に降ってあげなよ!……無理か。





