66話目 作戦開始!
66話目になりました。
読んでくださる皆様のおかげで、今日も続きを書く元気になります。ありがとうございます!
【んじゃー、通信機からちょっと離れてて~】
ここはキシュカ河の近くにある倉庫。
ディールとサラとルディが、黒い鉱石で出来たブローチを囲んでいる。このブローチは、零史がルディに作った通信機だ。
ディールとサラの兄妹が落ち着き、少ない荷物をまとめていると、ちょうど良く零史から通信が入ったのである。
零史はルディから、兄妹が科学者で、二人ともRENSAに勧誘できたとの報告を受ける。
すると【なら、俺の正体も伝えておいた方がいいよね】と通信機を媒介に、亜空間を通ってルディたちの元へ来るらしい。
手っ取り早く聖霊だと理解してもらうには、人並み外れた能力を見せるのが簡単である。亜空間を通れるのは零史とルナが聖霊というエネルギー体だからこそである。普通の人間には不可能だ。移動も出来て一石二鳥。
それに、なぜか零史は毒で死んだ事になっているらしく、あまり表を歩くのも危険なのだと言う。まさに一石三鳥。
毒という言葉を聞いた時のルディと兄妹の反応は正反対だった。兄妹は青ざめていたが、ルディはナイフごとサンプルが欲しいようで、ルナが回収していた毒ナイフをあげると約束した。
「零史、ルナ、いつでもどうぞ」
【オッケー!零史、行っきまーす!】
【ルナ、イッキマース?】
その時、通信機から光が滲むようにあふれてくる。やがて光は人型を形作り、その光がおさまるとそこには零史とルナが居た。零史はルディたちを認めると、その顔に安堵をにじませる。
「3人とも、何ともない?大丈夫だった?」
「こっちは無事だよ。零史こそ、毒は大丈夫ですか?」
ルディが零史たちに駆け寄り、ブローチを拾いながら心配顔をしている。
ルナは毒と聞き、すかさずポケットからハンカチで包んだナイフをルディに渡していた。
ナイフを受けとるルディに、ルナが説明する。
「零史も私もエネルギー体です。たとえ頭が吹き飛んでも死ぬことはありません」
「つくづく聖霊はデタラメだね」
「え、頭飛んでも死なないの、俺。こわ……」
そうかもしれないとは思っていたが、実際に聞いてしまうと、自分の頭がふっとぶ想像をしてしまってブルッと震える。
死なないからってケガは嫌だよね。注射が怖いのと同じなのだ。命の危険の問題ではない。
「ナシュさんは?」
「ならず者に襲われたって事にして、今はホテルで匿ってもらってる。家族に連絡をとって迎えに来て貰うって……俺たちと居た方が危ないしね」
「そうだね」
ルディが寂しそうに笑っている。俺はいったいどんな顔をしているのだろうか。
そこへ、兄妹が居たあたりから、ガシャンという音がした。
零史たちが音に驚き目を向けるとそこには、地面に膝をついたディールと、車イスから崩れるように地面へ座り頭を垂れるサラが居た。
どうやらさっきの音は、車イスから勢いよく降りた時の音のようだ。
「聖霊様……知らぬとは申せ、数々の無礼をお許しください。私の名はサディル・アル・スハイム・アル・ムーリフ。今は家を捨てサディルと名乗っております」
「私は妹のサディラ・アル・スハイム・アル・ムーリフ。私も、サディラと……」
「改めて、黒野零史です。闇の聖霊で、俺も科学者です。こっちはルナ。ルナと俺は、二人で一人みたいなもんかな?」
「私と零史は一心同体です」
「聖霊様にも兄弟がいらっしゃるのですね」
「ディールもサラも、RENSAの仲間になるんだし、気軽に接してくれると嬉しいな。俺、人に膝まづかれるの慣れてないんだ」
俺は畏まった兄妹の態度に、苦笑いを浮かべる。ルディがスッと進み出て、サラに手をさしのべた。
「大丈夫だよ、零史は変わってるんだ!」
「ルディ……フォローになってないからね」
「あれ?褒めてるんだけどな?」
「ぶふぅっ!あはははは!」
「ふふっ、ふふふふ……仲が良いのね」
俺とルディの会話に、突然ディールとサラが笑い出す。サラがルディの手を取りながら、俺たちを交互に見た。
ルディはサラをゆっくりと起こし、車イスへとその体を持ち上げようと、四苦八苦している。日頃鍛えていないインドアなルディが、かっこよくサラをお姫様抱っことはいかなかったようだ。
(どんまい、ルディ。明日から筋トレだな)
ディールがすかさずサラを介助して、車イスに座らせる。慣れた手つきで優しくサラを座らせた。
ルディが恥ずかしそうにしながらも、このくらいは出来ると、サラのスカートをパタパタとはらっている。
兄妹が二人ともいずまいを整えたところで、ディールが俺に向き直りその表情を硬くした。
「僕たちは直ぐにでも出発できます。馬車もある……だけど、無事に砂漠を越えられるでしょうか……」
ディールがチラリとサラを伺い見る。足が不自由なうえ、魔力の弱いサラ。
砂漠越えは健康な大人でも厳しい行程だ。砂で馬車が故障しやすく、足止めをくらったり、何かと魔法を使う事も多い。
水が無くなれば魔法を使い、昼に暑ければ魔法で冷やし、夜に寒ければ魔法で暖める。
しかも野生のトドや大サソリ、砂ヘビなど、猛毒を持った魔物も出る。撃退にも魔法を使うのだ。
行商人などは、隊を組んで移動するのが常識である。役割分担して個々の負担を減らすのだ。
もちろん俺達はキャタピラ馬車があるので、故障の危険性は少ないし、魔力も潤沢だ。
だけどセダン程の大きさしかないキャタピラ馬車に、この人数で兄妹の荷物まで積むのは難しいだろう。
何より女の子が居るのだ。同じ馬車で寝ろというのは酷である。最低でも馬車は2台で行きたい。
「俺に考えがあるんだけど……」
俺は右手を軽くあげて、ディールとサラに笑顔を向けた。
兄妹に、RENSAに入って最初のお仕事を頼むのである。
題して『馬車を改造しよう大作戦』の決行だ!
ルディの服は白衣モチーフです。
普通の、シャツとネクタイとトラウザーズを想像して、それにちょいお洒落にして貰えると嬉しいです(笑)





