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58話目 オゥ!オゥ!オゥ!

新しいキャタピラ馬車の乗り心地をお伝えします。すごい快適!

やはり飛行機をなんちゃって改造した馬車よりもクッション性に優れている。

しかも御者台が車の操縦席のように屋根の中にあるので、砂漠の日差しも雨もしのげるのだ。

職人が作っただけあってデザインにも気を使っているのが分かる。

中でも一番驚いたのが窓ガラスだろう。

この世界にもガラスは存在するが、これほどまでに不純物が少なく、透明度が高いガラスは無い。

きっとアルタイルの努力の賜物だと思う。


アルタイルは炭素の操作を覚えてから、鉱石や金属の研究をしていた。合金の試作品もできていたはずだ。

もしかしたらそのうちオリハルコンとかも作ってしまいそうである、ワクワクして待っている。

でもさすがに、販売用の馬車のガラスを防弾にはしていないようで安心した。

どう考えてもオーバーテクノロジーな代物だしね。

そんな事を思いつつ、俺はルディに疑問をぶつけてみる。


「この馬車っていくらくらいするのかな。」

「販売価格で800金貨ですよ。」

「はっぴゃっっっ!?!?」


覚えているだろうか、金貨1枚が1諭吉(まんえん)……という事は。

頭の中でツィーの高笑いが聞こえる気がした。

比較として、騎士団団長のレグルスの年収がそのくらいだ。

まさかキャタピラがこれ程までの富を産み出してしまうとは。


「農作業用の馬車はもう少し安くなる予定ですが、それでも400金貨はしますよ。」

「ほ、ほぉ~。」


売り上げの分け前でかなり資金が出来るのではないだろうか。

これは、ちょっとくらい贅沢しても大丈夫なのでは?


(いや、ダメだろ!RENSAの為に使わないとな!)


科学の研究はお金がかかるものだ、貯金するべきだろう。

何しろ、これからジヴォート帝国に行って更に一人仲間が増えるかもしれないのだから。

俺は、口をポカーンと開けたまま、座り心地の良いシートをひと撫でした。


しばらく走ると、国境が見えてくる。

見えると言っても、砂漠だ。ガラヴァ皇信国の南は、山脈が天然の要塞になっているため、国境に門などは設けていない。

……あったとしてもドラゴンとの戦いで壊れていただろうけど。

その山と砂漠の狭間で数台の馬車が止まっていた。ツィーの言っていたシリウスたちだろう。

俺は馬車から身を乗り出して、大きく手を振る。


「おーーい!シリウス~!」


向こうもこっちに気がついたようで、手を振り返してくれた。


「零史!助けてくれっ!!」

「オゥ!オゥ!オゥ!」「オゥ!オゥ!」

「オゥ!オゥ!オゥ!」「オゥ!オゥ!」

「…………え?」


シリウスの回りには水族館でしか見たことの無いトドが群がっていた。

体長2メートルは越えているだろう4匹のトドが、シリウスを囲むようにして、一心不乱に頬擦りしている。

ルナとルディが、シリウスを見て笑った。


「あれは4匹ともオスですね、キバがありますから。」

「トドは火属性魔物ですから、火魔法の得意なシリウスさんに懐いたのかな。」


褐色イケメンは、トドすらも魅了するらしい。

トドにおしくら饅頭されているシリウスは、まるで新宿2丁目で捕まっているサラリーマンのようだ。

俺たちは馬車を適当な所で停めて降り、ナイル殿下もご機嫌な様子で降りてきた。


「ワォ!入れ食いです。」

「あの方は、素晴らしいトドラーでいらっしゃいますね。」

「……いや、マヨラーみたいな言い方されてる。」

「助けなくて良いんですか?」


シリウスと共にナザットに行っていた騎士たちは、もう慣れた光景なのか黙々と馬車から馬を外し、自分達の馬車へと付け替えていた。

トドラーこと、シリウスはトドに揉みくちゃにされながらもどうにか俺たちのもとまでやってくる。服が乱れ、ボロボロの体だ。

ぜぇはぁと息が荒いのは、息切れのせいだけじゃないように思う。(だって、すごい睨んでくる!)


「オレを助けろよ!!」

「いや~あはははははは。ごめんごめん。」


俺はヒレを使い跳ねるように移動するトドを横目で見て冷や汗を流した。(あのトドたちからシリウスを助ける?無理無理!)

どうやらトドたちも気がすんだのか、おとなしく俺たちが乗ってきた馬車へと繋がれて行く。


「とりあえず、一旦ここで食事にしましょう。」

「シリウス!スピカの作った『プリーズドライ』持ってきてるんだ!一緒に食べよう!な!?」

「オレは、誤魔化されないぞ……。」


休憩を兼ねた食事を提案してくれたルディに便乗して、俺は無駄なハイテンションでシリウスの背中を押す。

シリウスはじっとりした目で俺を睨みつつも、おとなしくついてきてくれた。


停めてある所の脇に、執事さんがすかさずピクニックマット代わりの絨毯を砂漠の荒野に敷いている。

そこに人数分のカップとフリーズドライの袋を抱えたルナがやってきた。

俺たちはカップを受け取り、1食分の塊を入れてもらいながら説明を聞く。


「これはディアのシチューみたいです。」

「乾燥したヘチマに似ていますが、このまま食べるのですか?」

「お湯を入れるとシチューに戻ります。そのままカップ持っててくださいね。」


ルディが一人一人のカップにお湯を注いでいく。もちろん魔法で、だ。

フリーズドライの塊がふやふやと溶けてシチューになっていく様子をじっと見ているナイル殿下が、感嘆の声をあげる。


「ふぉーー!シチューです!シチューなります!」

「溶けてしまえば、冷ましても大丈夫なので、熱ければ氷魔法で冷製シチューにしてください。」


ルディの注意を聞かずさっさと飲み始めたシリウスが小さく「アヅゥッ!」と悲鳴をあげていたのを俺は目撃した。

ラーヴァから持ってきたパンもちぎりながら、砂漠の入り口で平和なピクニック。最高だ。

フリーズドライの宣伝も兼ねているので、種類もたくさん積んであった。これは次の食事の時間が待ちきれないな!

俺は始まったばかりの砂漠の旅に期待を膨らませたのである。


食事休憩が終わると、俺たちはシリウスと別れた。

ナザット国への遠征は大変だっただろうし、ゆっくり休養して欲しい。まぁ、調査官の仕事とかはするんだろうけど。


俺たちはというと、ここからジヴォート帝国の首都へ向けての砂漠横断である。

このキャタピラ馬車なら、砂漠の砂にも足をとられる事なくスムーズに横断できるだろう。

目的の首都は砂漠のど真ん中にあるオアシス、キシュカ河という大河のほとりにある街「ポッハヴィア」だ。

俺たちが探している科学者も、ここから設計図を送ってきたという事がツィーの調べで分かっている。


今回、わざわざナイル殿下を送る事にしたのは、馬車の宣伝もあるが……このポッハヴィアが、出るのは簡単で、入るのがとても困難な街だからだ。


ポッハヴィアはキシュカ河のほとりに四角く街があり、街の外側を囲むように旅人や商人が集まって出来た外街がある。そちらは身分証のみで入れる。

しかし本来のポッハヴィアにあたる街の部分は、身分証に加えてポッハヴィアの市民証か、王族からの通行手形が必要になる極めて閉鎖的な街なのである。

選ばれた商人や賓客しか通ることの許されない街なのだ。

ふらっとラーヴァに来ちゃう、行動的なナイル殿下からは想像も出来ないだろう。


「お腹と背中がくっつきました!」

「それ意味が逆ですよ。」


ラーヴァへと遠ざかる馬車に手を振りなら、俺は気合いを入れ直す。

(こっからは、俺とルナとルディの3人で科学者探し頑張ります!)

まずは砂漠横断しないとだけどね。

シリウスが段々……不憫担当になっていってる気がしてます(笑)

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