57話目 一蓮托生。
「俺は……ラーヴァに残ります。皇都にもジヴォートにも行きません。」
レグルスは静かな目でナイル殿下を見つめ返した。『亡命』と聞いて張りつめていたリゲルが、小さく息を吐いて安堵しているのが見える。
ナイル殿下はレグルスの返答を聞き溜め息をつくと、肩の力を抜いてソファへともたれた。
「残念無念。貴方の健闘を祈ります。」
「とても残念ですが、貴方の意思を尊重致しましょう。むしろ、我々にNOと言える事に安心しました。」
「殿下からの直々のお話を断ってしまい申し訳ありません。」
「しかし、これからが大変ですよ。貴方を引き込もうとしている敵は、聖信教なのですから。」
『聖信教』と聞いたレグルスの顔に驚きは無い、俺たちも大体の予想は出来ていたしね。
レグルスは肩をすくめて、笑顔を作ってみせた。
「俺に守れるものなんてたかが知れてます。ラーヴァだけで手いっぱいですよ。『救世主』なんて、買い被りすぎだ。」
「ハハハハッ!分かったです。でも覚えておいてください。我々は、貴方がたの味方です。」
ナイル殿下はレグルスの言葉に豪快な笑い声をあげて立ち上がった。そしてレグルスやリゲル、俺たちを見回してそう告げる。
「本当にヤバくなったらその時はぜひ宜しくお願い致します。」
「ハハハハッ!はい。」
こんな感じで、救世主とジヴォート帝国ナイル殿下との秘密の対談は、笑顔で終わったのである。
俺はもしかしたら歴史の重要な瞬間に立ち会ったのかもしれない。
今後の事を考えれば、レグルスは亡命したほうが安全だったかもしれないが。自分だけジヴォート帝国に行って聖信教から逃げるより、ラーヴァに残りたいという気持ちも分かる。
あの言葉はレグルスの覚悟なのだろう。
俺は、レグルスを救世主に担ぎ上げた者として、最後までこの争いに関わる決意をしなければならないのだ。
社会人たるもの、自分の行動には責任が伴うのである。
「では振られた男は、とっとこ立ち去りましょう。」
「「……。」」
その何とも言えないナイル語に、無言で俺を見るレグルスとリゲル。二人とも、よくツッコまずに耐えきったと思う。
そして、ナイル殿下とレグルスは別れの挨拶を交わし、俺たちは部屋から出た。
先にナイル殿下たちが退室したが、俺は出口の前で立ち止まり、レグルスをもう一度振り返る。
「困った時はいつでも呼んで、助けにいくよ。」
これから聖信教へと乗り込むレグルスたちには、どんな危険があるか分からない。俺が出来る精一杯で助けたいと思う。
「ありがとう、遠慮なくそうする。」
「ありがとうございます。零史。」
レグルスとリゲルは、気負い無く自然に笑った。その信頼感が俺の胸を打つ。
するとルナが俺の手を握って、レグルスたちにふてぶてしい笑みを送った。
「零史が行くなら私も行きますから、大丈夫ですよ。」
そうだ、俺だけじゃないルナも居る。ルナには俺もたくさん助けられている。
レグルスも折れる事無く、意思を貫いて来て欲しい。そう思いを込めて、手を振り団長室を出た。そして、先に行ったナイル殿下たちの元へと急ぐ。
これからジヴォート帝国に向かう俺と、皇都へ向かうレグルスはこれで暫しの別れだが、男の別れ際なんてこんなもんだろう。
どうせ帰ってきたらまたすぐ会える。
この時俺は、レグルスたちは無事に皇都から帰ってくると、そう信じていた。
そして、俺たちはRENSA(店)にやって来た。昨日のうちにみんなには準備をお願いしていたので、店の前にキャタピラ馬車が2台停まっていた。
俺たちがいつも乗っているやつではなく、ツィーの店の新商品だ。宣伝も兼ねているからね。
1台はそのまま大口契約者のナイル殿下へのプレゼントである。
「ジヴォート帝国に帰るの巻き!キャタピラ♪キャタピラ~♪」
「え、もう行けるんですか?準備とか大丈夫で……。」
「私どもは、迅速な行動に重きを置いています。ナザット国の支援しかり、今回の訪問しかり、砂漠越えも野生の魔物をその場で捕まえて乗って参りましたので、重たい荷物などは御座いません。」
「へ、へぇーーーー……。」
王族なのに、そんなアクティブで良いのだろうか?それともナイル殿下だけかな?そうだと思いたい。
じゃないと安心してジヴォート帝国を観光もできないだろう。
王族がフラついているかもしれない国ジヴォート帝国……社長が会社の中をフラフラしてるみたいなものだ。精神衛生上よくない。
すると俺たちの声を聞き付けて店からツィーとスピカとアルタイル、そしてルディが出てきた。
「「お待ちしておりました、ナイル様。」」
「零史お兄ちゃん、出来たよ!宇宙食!」
「すごい!スピカは天才だー!」
スピカが俺に駆け寄りならがら、キラッキラの笑顔でそんな報告をする。
すかさずツィーがナイル殿下に向き直って案内をした。
「キャタピラ馬車には、RENSAの新商品『フリーズドライ』も積み込んでおりますので、道中ぜひご賞味ください。」
「ふりぃずどらい?食べ物腐っちゃうですよ?」
「製法は明かせませんが、腐らない食べ物とお考えください。使用方法は零史が存じております。」
「ほっほっほっ、それは素晴らしい食べ物でございます。まさに時代をいくつも飛び越えた用な夢の食料ですな。」
執事さんが、柔和な顔で称賛の言葉をくれる。きっとラーヴァに来る時には魔物をその場で狩って調理していたのだろう。
何せ野生の魔物に乗ってくるぐらいだ、そのくらいサバイバルに違いない。
そこへ、ルディが荷物を積み込みながら馬車の屋根を指差す。
「キャタピラ馬車には、砂漠専用で屋根に芝を敷きました。これはアルタイルさんのアイデアなんですけど、植物の下は涼しいからって。」
「さすがアルタイル!!」
「のほほほほ!わしもスピカに負けておれんからの。」
アルタイルは胸を張りながら、俺にウインクを投げる。
森での暮らしの知恵だろうか、日本でも屋根に庭を作って家の中の温度を快適にするって聞いたことがあるぞ。アルタイルに感謝だ。
そういえば、アルタイルもツィーに専用の服を貰ったのだろう。濃紺が鮮やかな夜空のように重なった『大魔法使い』みたいな威厳のある格好になっていた。
渋かっこよさ3割り増しであった事をここに報告致します。(当社比)
ナイル殿下はちゃっかり既に馬車へ乗り込んでいたので、俺とルナ、そしてルディも馬車へと乗り込んだ。
執事さんもナイル殿下の馬車へと乗り、馬車は連結させている。
「いい?零史、国境の所でシリウスが待ってるわ。そこで馬をトドに交換して。砂漠はトドに馬車を引いてもらうの。」
「……トド??わかった。」
ツィーが俺に近寄って教えてくれる。トド……って俺が知る限りでは海の動物なのだが、もしやこっちの世界では砂漠の魔物なのか?
行けば分かるか、と俺はとりあえず笑顔で頷いておいた。
「よぉし!ジヴォート帝国へかっ……ナイルでぇぇ~……ナイル様送って行こう!」
「「えいえいおー!」」
「エイエイオー!」
皆の真似してナイル殿下も右腕をかかげえいた。その掛け声ちょっと使い方が違うのだが、俺はこれはこれで良いかと思うのだ。
ナイル殿下にまた1つトンチンカンな言葉の使い方を教えてしまったのである。
次回からは2度目の外国ですね!
ナザット国は緊急時だったので、全然国の事がかけませんでしたがジヴォート帝国はこんどこそ砂漠したいです。
作者は海外旅行したことありませんが。鳥取砂丘すら行ったこと無い。
世界ふしぎ発見の知識で頑張ります!!!





