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ヘタレ魔王の2度目の恋  作者: 凜縁
一般人と魔王の出会い
2/6

魔王の近況

魔王の国、第三者視点です

「もうすぐ聖女祭か…」


執務室内の最も奥、長時間座っても疲れない、優れものの大きな椅子に座る人物は、机の上の書類に目を落とす。

そこには人間の国、シュヒランテから届いた、聖女祭についての案内文が握られている。


「そんな時期ですねえ」


執務室内、別の机を前に、青年が座っている。

その青年の机も、書類で山積みだ。


「今年も行かなきゃですねえ」


明るい口調の青年は、髪の色も明るい。オレンジ色のくせ毛はボリュームも多く、あちこち跳ねている。瞳は前髪が長く見えない。青年の名前はアドルファスという。

話しながらも、青年は書類に判子を押し続けていく。


「それは、もちろん」


返事をした人物は、案内文を見て手が止まっている。アドルファスよりも彼はやや(・・)年上である。アドルファスが少年と青年の狭間なのに対し、彼は若々しい青年である。


目を伏せている様子は物憂げだが、顔だちは端正である。やや緑がかった黒髪は長く、後ろで縛っている。瞳の色は深緑で、今は長いまつ毛でやや影になっている。肌の色は白く、窓から入る光が反射して光っているようにも見える。


「だけど行きたくない」

「子どもみたいなこと言わないでくださいよー」


アドルファスは笑いながらたしなめる。


「天下の魔王が行かなきゃ、シュヒランテ(向こう)は何があったかって、その後もっと面倒クサイことになりますよ」

「だって疲れるんだよ」


魔王は溜息をついて、アドルファスに視線を向ける。


「聖女祭、式典だけでも半日はかかる。その後会議。それが終わり次第、パーティーだぞ?…嫌だ、出たくない」

「ははっ、もてなされてますねー」

「どのあたりが!?」


魔王の溜息は深くなる。


「そんなに長く居たら、化けの皮がはがれちゃいますもんねー。荘厳な魔王の仮面が」

「俺は好きでそのイメージでいるわけじゃない…」

「期待されてますよ、民衆には。特に人間国(シュヒランテ)には歴史書がありますからね」

「歴史書と言いながら、ほぼ妄想文だろあれ。誰が信じるんだよ。俺も知らない、俺の魔獣討伐エピソードがごまんとあったぞ」

「ちゃんと読んでるじゃないですか」


魔王は苦虫を噛み潰したような顔になる。その様子を見ても、部下であるアドルファスは何の動揺もない。


「でも、聖女がまた増えたって言ってましたからね。式典ももっと長くなるんじゃないですか」

「余計に憂鬱になること言うなよ。励ませよ」


アドルファスは、魔王の様子を見て楽しげに笑う。


「だって、4人でも聖なる力が足りてないみたいですよ?また国中で聖なる力のある者を探したって、テルツァが言ってましたよ。もう誰でも聖女になれるんじゃないのかって」


かかかっ、と声を立てて部下は笑っている。笑うたびに毛先があちこちに揺れる。

魔王は睨むようにアドルファスを見る。


「おい、なんだその聖女の投げ売りは。聖女っていうのはもっと、神聖なものなんじゃないのか?誰でもなれて、誰も力が足りないなんて、そんなこと許されるのかよ。聖なる力があればそれでいいのか?聖女の選出は誰がしてるんだ。だいたいなあ、」

「はいはい。元祖聖女信仰者の持論はまた後で聞きますって。とりあえず出席で出しときますよー」

「おい、信仰者って、」

「はい~おあずかり~」


アドルファスは立ち上がって、魔王の机の上にある書類を手に取った。

魔王の署名をしようと、自分の机の上のペンをとる。


「待て!!」


厳しい声を出し、魔王が立ち上がる。アドルファスが手を止めて魔王を見た。


「代筆はまずい。俺が署名する」


真面目な魔王である。


「さすが天下の魔王ですねえ」


アドルファスは笑顔で、出欠の用紙を返した。


「お前の方が、よっぽど魔王じみてるよ…」


忌憚なく意見を言う部下、アドルファスはにんまりと笑い返した。

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