戦地の花々
触らないで、好きになるから。
あなたの指先で撫でられれば私はどんどん好きになる。
ほどほどの距離でいましょう。
私、両想いになんてなりたくありませんし。
片想いで、十分ですし。
もう十分に好きなことは今、認めますから。
これ以上好きになっても辛いだけ。
だってあなた、不死でも完全でもないもの。
でも優しい笑顔がいつも変わらないから。
それに救われる私は恋せずにいられない。
不思議ですよね、世界にはまるで同じ時間が流れてるみたいで。
私達が会っている時間には、まるで空間まで共有してるみたいで。
互いにこんなに違うのに、まるで言葉が通じてるふりして。
とても静かで穏やかな時が、今ここを流れていきます。
当たり前に見える現代の長寿も保証なんてされてなくて。
どの一人がこの瞬間、旅立ってしまうか知れません。
なのに今日またあなたと私はこうして過ごして。
この一秒一秒のなんという奇跡でしょうか。
大きな戦争は起こらなくなりました。
でもみんな個人として戦争を戦ってます。
各々の葛藤や恐怖の中で生きている。
その戦士達が時に再会し。
まるで何かを共有しているかのように祝杯を交わす。
つまり互いが生き抜いたことを喜ぶ。
例えば生まれで絶望的な場合もあって。
例えば外見や名声なんてうらやましくなくなっちゃいます。
つまり外見や名声で戦えない戦争を私だって戦ってきたから。
若さや健康や金銭もまた無力でありえて。
私が何度絶望し何度世界を呪ったことか。
決して動かすことのできないロジックに支配された世界。
どんな事実を示されてもそれを抜け出せない人々。
くだらなすぎる権威主義。
権威主義に逆張りすれば、でも破滅する。
ゆえに愚かさの心理学以上には真実も前進しえませんから。
全ては初めから詰んでいて、戦った分だけ戦いに溺れてしまう。
しかし世界は一枚岩ではありませんよね。
だから絶望の先に希望がありうる。
苦しみしかなかったような人生にも、生きてて良かったと思える時間が訪れる。
満足しうる世俗の平穏はいつだってすぐ近くにある。
でもそれは縮小された欲求においてですよ。
だから私はこれ以上あなたを好きになんてなりたくない。
私と相容れることがないだろうあなたの大半を直視したいとも思わない。
もし老化や死が存在せずあなたの心を誰に奪われる懸念もないなら。
私はきっと永遠の片想いに満足することができます。
身の丈に合ったそこが私の理想郷じゃないかな。
各々の戦争。
祝宴のたびに少し顔ぶれが変わる。
次に会うまでに、また誰か戦地に倒れることでしょう。
その戦いと死の多くは多く知られることがない。
あなたがいなくなってしまってとても残念だと、誰でもない誰かに私は声をかける。
私には私の戦争があります。
いつかきっと死んでしまうから愛される必要とてないのです。
誰もがまた自分自身の戦争を生きていく。
今日まであなたが生き残ったという事実、それを私は確かにことほぐ。
最低最悪の理不尽、珍しいものじゃありませんね。
報われない戦争。
救われることのない、人生という名の戦争。
殺戮の日常、血も凍る各々の戦場。
でも良かった、あなたと会えて。
まるで何かを共有しているかのように、愛の安らぎを味わうことができて。
あなたを心に思い描けば、私もうしばらく恐怖と戦えます。
あなたが好きです。永遠に。
恋に恋する、戦場の一輪。
小さな幸せに満足しようとする、もろくはかない私という野花。
それに触って、壊さないで。
ただたまにそばに立って、そっとほほえんでくださったら満たされます。
幸せな夢さえ前に見えれば、人はきっといくらでも強くなれる。