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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #20
99/206

Part 20-2 Sacred Ritual 聖なる儀式

St.Peseta Monastery New River Northern Phoenix, AZ. Dec 5th 2008/

78 High St, Leominster, MA. 13:52 Oct 28 2018


2008年12月5日 アリゾナ州フェニックス北部ニューリバー(セント)ペセタ修道院/

2018年10月28日13:52 マサチューセッツ州レミンスター ハイストリート78番地



 底冷えのする野原をパジャマの上に羽織った三枚の上着が意味もなく体を震わせる。両手をポケットに入れたゾーイ・ジンデルは月明かりの下歩き続けていた。



 震えているのは寒さのせいだと何度も自分に言い含めた。



 一年半あまり前に孤児院に入ってカトリーナ・ガーションと取り巻きから執拗しつよういじめを受けたのは、自分の負けず嫌いの性格がわざわいしたのだと承知していた。



 だが先に孤児院に入っていたというだけで、カトリーナがえらそうにしている事の方が許せなかった。



 夜中に寝ている時に毛布の上からバケツの水をかけられゾーイは覚悟を決めた。



 それから1週間、カトリーナの使う寝室を夜更けにのぞきに行き、シスターの巡回と重ならない時刻を見定めた。



 そしてついにみなが寝静まっているときゾーイはカトリーナの寝室にベルト1本を持って忍び込んだ。



 窓際のベッドにカトリーナは背を向け寝息をたてていた。



 枕と肩の隙間から首の前にベルトを通し回し交差させた両手で端をつかむ。絞め始めたら引き返せない。それは覚悟していた。





 ゾーイ・ジンデルはベッドの縁に両膝をつき一気にベルトを交差させ引き上げた。





 いきなり首を後ろに引き上げられカトリーナはすぐに目を覚まし首に食い込むベルトをつかもうと両手の指でかきむしった。ゾーイはひざにカトリーナの背を乗せ両腕を腰の後ろに引いて首を絞め続けた。



 それは永遠の様に思えた。



 もがき苦しみ重く低いうめき声とも定かでない叫びを漏らし爪ががれるのではないかというほどカトリーナは必死に首に巻きついたベルトに指を差し入れようと足掻あがき続けた。だがそれもつかの間、唐突に痙攣けいれんしながらベルトを引きがそうとしていた両の腕を力なく落とした。



 それでもゾーイは絞め続けた。



 人は蘇生そせいするときもある。念には念を入れベルトを引く指が痛みでそうし続けられない様になるまで絞めていた。



 動かなくなったカトリーナをひざからベッドへ落とし鼻の下に指を当て息をしてないか確かめる。それでも安心できずにゾーイはカトリーナの腕をつかみ手首に指を押しつけ脈を探った。



 生きている兆候がないとわかるとゾーイはカトリーナをベッドから引きり落とし、ベッドの上に部屋に置いてある適当なものを見繕みつくろい手早く並べ毛布とシーツをかけた。



 差し込んだ窓からのほのかな明かりにカトリーナが背を向け寝ている様に見えた。



 そうして絞め殺した相手をシーツでくるみゾーイはその両端をつかみ静かに引っ張り始めた。ベッドの足元の間を左右に視振り線を振り誰も目を覚ましていない事を確かめながら引きり、出入り口から先に顔だけを出すと廊下に誰もいないのを確かめゾーイはカトリーナを引きりだした。



 この生意気な奴をどこにめるかは決めてあった。



 日中に目的の場所のいちいの木にスコップを立てかけてあった。



 雨の降る中、野原の先にある林に向かい遺体を息を切らしながら引きる。雨の夜を選んだのはそんな夜に野原に人が出歩く事がないのと、孤児院から野原がより見えにくくなるからだった。



 ゾーイは自分よりも背の高い人を引きるのがこれほど困難だとは予想していなかったが、興奮と至福感に包まれ肉体労働の様に足を繰り出し続けた。



 かかった時間はわからなかったが、濡れそぼった体の冷え具合からかなり経っているはずだった。



 スコップのある木の元へたどり着き、ゾーイは休憩もとらずに地面を掘り始めた。土砂降りになれば穴掘りが難しくなる。穴は足首までの深さになり、ひざまでになるとスコップのを握っている手のひらと指が痛くて仕方なかったが、ゾーイは掘るのを止めなかった。



 濡れそぼり空気が冷え込んでいるのに汗だくだった。



 そうしてあたまで掘り下げると穴の外にい出てカトリーナを包んだシーツの両端をつかみ中から遺体だけを穴底へ転がし落とした。



 シーツは孤児院のものと誰かが気づく恐れがあったので一緒にめる事は出来ない。持ち帰り明日焼却炉で燃やしてしまう事に決めていた。





 雨水の溜まり始めた穴の底に転がった生意気なカトリーナ・ガーションが閉じたまぶたで見えてもいないのに睨みつけているようだった。





「くそ女!」





 ののしるとゾーイ・ジンデルは唾を吐きかけスコップを手にして土を掛け始めた。



 めるのは掘るよりもずいぶんと楽だった。



 自分の意に染まぬものを排除する事がこんなにも爽快だとは思いもしなかった。ゾーイは手の痛みも忘れ綺麗にめ終わるとシーツとスコップを小脇に抱えきびすを返した。







 あの時は万全だと思った。



 一年半近く誰も気づかなかった。



 それが今頃になって誰が遺体を見つけ、どうやって私に結びつけたのだとゾーイは眉間にしわを刻み目を細め野原の先の林を目指した。カトリーナ・ガーションが自分から穴から這い出て復讐に来たのだとは絶対に思わない。



 誰かが遺体を見つけ、脅そうとしていた。



 遺体と結びつける事ができるのは当時の事を知るやつに限られた。



 カトリーナを殺してから後に孤児院に入って来た10人あまりは関係ない。それより以前からいるものだ。



 弱みをつかまれいいようにされてなるか!


 人を殺したことが露見するよりもその方が屈辱だった。見つけ出し、そいつが油断している時にカトリーナと同じ様に絞め殺してやる。





 いちいの木をにらみ据え黙々と歩くゾーイ・ジンデルは70ヤード(:約64m)ほど離れた後ろを新入りの少女がついて来ている事を知らなかった。









 あの骸骨を見つけたいちいの木の方へ真っ直ぐに歩くゾーイ・ジンデルの背を遠くに見つめながら息を殺し歩く少女は確信した。



 やっぱりあいつが殺したんだ。



 少女はその事を確かめた後の事を考えていなかった。穴を見つめ遺体がなくなっていることを知ったゾーイがそれを素直に認め反省しみずからシスターや警察に名乗り出るとは思えなかった。



 やられた分、何倍にも返してやると勢い込んで頭蓋骨をゾーイのベッドに仕込んだものの、少女はそれではゾーイをどうするのだと困惑していた。



 ゾーイを脅し言いなりにさせてみなの前で何度も恥ずかしい思いをさせる。



 それじゃだめだと少女は思った。ゾーイがやってきた事と同じになる。



 やっぱり脅してでも警察に行かせるべきだ。



 ゾーイの意識を乗っ取り警察官の前でカトリーナ・ガーションを殺したのだと言わせるのは簡単だと少女は思った。だがあれは自分を取り戻せてもただ困惑するだけで、悪意を持ったものの心を変えさせる事などできないだろう。それにそもそも自分たちの年齢だと罪に問われるかも怪しかった。精神的な障害としてどこかの施設に入れられて終わりになるのかもしれない。



 そもそもゾーイ・ジンデルの心根を正そうと本気で思ってるのかも怪しかった。



 数日前に、家に押し入ったギャングらを死ぬように仕向けた自分がゾーイの様なものを正せると思う方こそが誤りなのかもしれないと少女は胸がつかえた。



 それでも──あいつが自分にしたことが許せないと少女は感じた。





 少なくとも当分の間、心穏やかに過ごせない様にしてやる。





 いちいの木に迫り、少女はゾーイ・ジンデルと間合いを詰め始めて急ぎ足になった刹那ふと背中が痛いと感じた。



 なぜ痛みがと少女はうめき両手を背中へまわそうとしたが、その痛みが背骨にそって下り始め両足に力を入れられなくなり悲痛な面もちで地面にひざを落とした。





 顔を歪めた少女が眼にした先でいちいの木へ向かい歩いていたゾーイ・ジンデルが振り返った。











 縫いつけられた口のまわりの痛みなどに構っているわけにはいかなかった。



 パトリシアはカエデスに何かの薬物を盛られ朦朧もうろうとした視線を向けて動こうとはしない。



 殺人鬼が戻る前に何とかしないとこの家の住人を含め連続殺人鬼(シリアルキラー)みな殺しにされるのは間違いなかった。



 ローラ・ステージ警部は声を出せない代わりに足元でうつ伏せに倒れているアリシア・キア保安官補の頭を縛られた足のままで蹴った。あまり動かせない足のためかうめきもしない保安官補を起こそうとローラは懸命に続けてパンプスの爪先で蹴りつけた。



 8回目に蹴った直後、アリシアが微かにうめきあと少しで意識を取り戻させそうだともう一度蹴ろうとした瞬間だった。





 いきなりローラ・ステージは右耳の上を細く硬いものでしたたかに殴られ椅子に縛られたまま床へ横倒しになった。





 その殴られた衝撃に気が一瞬飛んでしまい視界が戻った寸秒、パトリシアが座るソファが頭上からあごの方に見えローラは自分が床に倒れている事に気づいた。



 その視野の中に包丁をぶら下げたカエデス・コーニングが入ってきて目の前でしゃがみこんでローラの顔を覗き込んだ。



「油断も隙もない女だな」



 そうか──包丁の背で殴ったんだわ。



 だが激しく殴られた痛みや倒された苦痛どころか、あれほど熱いうずきだった縫いつけられた唇の鈍痛も不思議と感じていないことにローラは惑乱した。



「ステージ警部──お前さんを起こす手間をかけたくない。横倒しのまま見てるんだ」



 カエデスはそう言うとソファのパティへ近づき少女へ命じた。



「パティ、座り直して背中を俺様に向けな」



 言われたままにパトリシアはひざをずらしソファに片脚を載せ横向になると、カエデスはまず少女の着ているジャケットの襟首に包丁を縦に入れ上着を下に向け切り裂いた。そうして次にブラウスの襟に包丁の切っ先を差し込みゆっくりと腰へ向け切り広げてゆく。



 それを見ていてローラはもう連続殺人鬼(シリアルキラー)が何をしようとしているのか気づき縛られた椅子ごと暴れだした。



「悔しがるがいい、警部さんよ。接見室であんたに言っただろう────お前さんの目の前でこいつをどうするかを。これは俺様の大切な儀式────聖なる儀式だ」



 カエデスはブラウスの背を切り広げ、少女のブラジャーの背中側を刃で軽く引っ掛け弾くように切り離した。



「さっき台所でいだ。今、切り離した下着の様に張りのあるコイツの肌がぱっくりと切り広がる」







 カエデス・コーニングが何の抑揚もなくそう告げ包丁の切っ先をパトリシア・クレウーザの背へ押しつけてゆく須臾しゅゆ連続殺人鬼(シリアルキラー)は見落としていた。









 床に倒れたローラ・ステージの虹彩がリング状に白い光を鋭く放った。












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