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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
 Chapter #19
97/206

Part 19-5 Version Up バージョンアップ

Underground 133 Fulton St. Express Track IND8(/IND Eighth Avenue Line) Subway Lower Manhattan, NYC 13:46


13:46 ニューヨーク市ローワーマンハッタン 地下鉄IND8番線急行路線 フルトンストリート133番地地下



 前の車輌のフロアに転がったものが4個もの手榴弾だと気づいた瞬間、連結通路から覗き込んでいたNSA職員のヘレナ・フォーチュンは手に握るSG751SAPRーLBアサルトライフルをぶつけ2人の新人メレディス・アップルトンとヴェロニカ・ダーシーを座席の背もたれの陰へ押し倒した。



 直後、10ヤード(:約9m)先で凄まじい爆轟が起きトーネードの様な爆風吹き抜けてきた。



 民間軍事企業(P M C)の兵士だと名乗った戦闘プロのプラチナブロンドの女兵士と大柄の耳長のコスプレイヤーが先に乗り込んでいったサブウェイ車輌でセミロングの金髪の女と徒手空拳の争いになだれ込んだ。



 連結通路越しに見えるとても人と思えない争いにヘレナらNSA職員は怪物との争いがどうしてその金髪女と繋がるのだと唖然として見つめているしかなかった。



 プラチナブロンドの女兵士は背に大きなアリスパックを背負いアサルトライフルまで身体に下げながらスポーツ格闘技の選手よりも素早く動き、窓枠を駆け上り天井に逆さまになるとそのつかんでいたステンレス・パイプを金髪女が殴っただけで大きく曲がり天井から外れ、飛び降りたプラチナブロンドの女兵士がその金髪女の突き出した腕を抱き込み後ろから振り上げたコンバットブーツのかかとを金髪女の顔面に食い込ませた。



 直後、民間軍事企業(P M C)の兵士が駒のように回転しひじを金髪女の顔の側面に打ち込みその女はガラス窓を突き破り頭を外へ突き出してしまった。



 もうその女が気を失うか死んでしまったと、隣の車輌のヘレナ・フォーチュンが思った寸秒、傷だらけになった顔をガラス窓から引き抜いた女が後退あとずさりしたのをプラチナブロンドの兵士がさらに追い込んでフィギュアスケート選手の回転ジャンプの様に身体を振り回しかかとを金髪女の顔に食い込ませた。



 これはもはや人どうしの闘いなどでなくまったく別物なのだと連結通路の狭い光景にヘレナらは思った。



 その直後、見えたものにヘレナはまばたきも忘れ悲鳴をこぼしそうになった。





 傷だらけの金髪女の顔がDVDの映画を逆転させているように修復し始めた。





 その顔が完全に治りきらずに、プラチナブロンドの女兵士に何か言われ顔をゆがませると突進し飛び上がりひざ蹴りを女兵士の顔へ打ち込んできた。



 だがそれを女兵士と耳長女が下を滑り込みすり抜けると着床した金髪女の足元に2個の手榴弾が転がりヘレナとベェロニカはメレディスに引っ張られ連結通路出入り口の袖壁に隠れると隣の車輌から爆風と鉄球が吹き荒れた。



 直後、爆死した金髪女だけでなく至近距離にいたプラチナブロンドの兵士と耳長の女も大怪我をしたのではとヘレナらは恐るおそる顔をのぞかせ確かめ驚いた。2個の手榴弾が足下で破裂したのに当の女は生きており、昆虫の様にはいいつくばり腕を伸ばして隣車輌の遺体を引き寄せ喰らい始めた。



 その金髪女へプラチナブロンドの女兵士が大声で告げた。





「聞くがよい、名もなきものよ! もっと広い場所で私の力の真髄を見たいだろう────お前が目にしたものなぞ、私の髪の毛1本ほどもない」





 金髪女が遺体から腸を引きりだし喰らいながら立ち上がると言い返した。





「俺様はまず、お前のその細首をねじ切ってやる」





「やってごらん! クソやろう!!」





 女兵士がののしった直後、売り言葉に買い言葉だとヘレナが眉根を寄せて見つめたのは金髪女の足下前後に合わせて4個もの転がった手榴弾だった。



 咄嗟とっさに彼女は手にした銃器で新人2人を座席の背もたれの陰に押し込んだ。



 最初の爆発よりも各段に大きい爆轟が吹き荒れ狭い場所に3人は縮こまってえた。





 街中で、しかもサブウェイの狭い場所で多量の爆発物を使いまくる民間軍事企業(P M C)の兵士がまともな神経じゃないと、さすがに今度は金髪女と同じ車輌にいた全員が無事じゃないとヘレナは耳鳴りがしながら背もたれの陰から顔をのぞかせた。











 銀髪女がベルセキアの方へ4個ものドイツ製手榴弾(D M 5 1)を放るのが見えてシルフィー・リッツアは慌てて高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)で精霊シルフの魔法防壁(マジックウォール)を展開し、眼の前に青いスクリーンが広がりきる前により大きく厚い防御壁を銀髪女が広げきっているのにまたおどろかされた。



 寸部の隙もなく車内にきっちりと広がった防壁が超高速で飛来する数百個の鉄球を難なく退しりぞけ、その生まれた幾つもの波紋がほとんど瞬時に消え去る。



 飽和する事を知らないどころか色すら変わらない──なんて強力な魔法障壁(マジックウォール)なんだ!



 それだけではない。自分が駐車場に現界し不意を突かれベルセキアから左腕を肩から食いちぎられた時も、切れ落ちた腕を高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)もせずに瞬時につなぎ戻した。



 この知り合った銀髪女が魔法を使うときに一度も詠唱(チャンティング)を耳にしていない。それなのにこの人の女は奥義に精通しているように属性も関係なく自在に奇跡を行う。



 そのシルフィーの思いが一瞬にして断ち切られた。





 女の張り巡らせた青い障壁の先でベルセキアが腕で顔をかばいその躯を襲ったはずの2万個余りの鋼鉄球が防壁もない体表面に制止していた。ベスが腕を広げ目を開き一瞬理解しがたいと目をおよがせた瞬間、バラバラと鉄球が落ちて音を立てた。そうしてベスが銀髪女とこちらをにらみ据えニヤついて口にした言葉にハイエルフは凍りついた。





"The basic mechanism of The Magic is simple !"

(:魔法奥義をつかんだぞ!)





"Your grave is not here !"

(:貴様らの死に場所はここではない!)





 そう告げ殺戮獣さつりくじゅうひざを大きく曲げ弾かれたバネの様に跳び上がると爆音と共に車輌の天井に大穴が開き姿を消した。



 天井に開いた穴を銀髪女と共にシルフィーはのぞきにゆくとその先の数十ヤードの暗闇の先にギザギザの穴があり空が見えていた。



「グレードアップしたな」



 銀髪女が告げた冗談を受け入れられずにシルフィー・リッツアは抗議した。



「冗談事じゃないぞ! 今、あれは高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)もせずに鋼鉄球を食い止めたんだ。魔法障壁(マジックウォール)も使わずにだ!」



 どうやったらあれだけの襲いかかった至近距離からの飛礫(つぶて)を食い止められるのかと理解出来ない受け入れ難い事実がいらつきとなりハイエルフは銀髪女に当たり続けた。



「どうやってあれ(・・)を倒すんだ!? 防御系であんな事を平気でやられたら、攻撃力がどれほど上がってるか予想も出来ない! 見ろこの地上までの穴を! 易々とこんな穴を切り開ける! もう私に倒せない領域にあれ(・・)は入り込んで────」



 いきなり振り向いた銀髪女がシルフィーの右足の向こうずねを蹴り飛ばし彼女は足を押さえてうずくまり見上げた先で銀髪女が口角の片方を吊り上げ冷ややかに見下ろしていた。





"Don't bark Silfy !"

(:落ち着けシルフィー!)





"Let's go cool...If we don't, We're the ones who stand until the end."

(:冷静で行こうじゃないの──私達が勝つんだから)





 何なんだ!? この女の意味もない自信は!?



 シルフィー・リッツアは唖然として口を開き微笑む女を見つめ思った。ベルセキアが今、行った法術はもう魔法の領域を逸脱してるんだ。奴が魔族の王になってしまったのかも知れない事をこの女は理解してない! もう手榴弾や対人地雷──対戦車ミサイルですら奴に傷を負わせる事は出来ないんだ。



 唖然となったままのハイエルフの横をすり抜け銀髪女はアリスパックを拾い上げるときびすを返しもう一度シルフィーの横を抜け先頭車輌へ向けすたすたと歩き始め背を向けたまま座り込んでいる高戦闘戦士へ告げた。



"Let's go, Silfy ! Continued gaming !"

(:行くわよシルフィー! 続けましょう!)



 力なく立ち上がったシルフィー・リッツアの先で銀髪女はアサルトライフルを手にした若者達を奮い立たせていた。











 地上に出るサブウェイからの梯子はしごを上がると点検坑出入り口だと思って見える範囲で人のいない事を確かめグレーチング製扉についた南京錠を内側からバトルライフルで撃ち抜いた。



 マリア・ガーランドがグレーチング製扉を押し開け梯子はしごを上がるとフルトンストリート141番地にある女性専用フィットネス・クラブの出入り口前の歩道だった。



 ぞろぞろと物騒な火器を手にした彼女らが歩道に姿を現すと、付近を行き交っていた通行人らが眼を丸くさせ遠巻きに立ち止まったり、足早に歩き去った。歩行者が悠々と歩いているということは、近くであの怪物が暴れまわってはいないという事だとマリーは眉根を寄せNSA職員のリーダーに命じた。



「ヘレナ、警察の第1分署に問い合わせて付近で騒ぎの起きてる場所がないか聞きだして」



 すぐにそのヘレナという職員が部下のモバイルフォンで管轄区の1分署に連絡を入れ国家安全保障局の職員である旨を名乗り、管轄区のセクターの事件を探ってもらうと数秒で彼女に返事があった。



「あのう──市庁公園で騒ぎが起きてるそうです」



 マリーはいち早く場所を理解し今いる所から350ヤード(:約322m)ほどだと思い皆に命じた。



「市庁公園まで全力で走る! ついて来なさい!」



 FNーSCARーHを胸の前で両手に抱き猛然と駆けだしたマリア・ガーランドを追い間髪入れずシルフィー・リッツアが走りだし、直後にNSA職員の新人2人が駆け、遅れてヘレナ・フォーチュンがSG751SAPRーLBアサルトライフルを無様に振り回しみなを追い始めた。



 ヘレナがブロードウェイに出ると新人のメレディス・アップルトンとヴェロニカ・ダーシーはすでに50ヤード(:約46m)も先行しており、長耳女と民間軍事企業( P M C)の女兵士らは指の中関節よりも小さくなって歩行者を掻き分けて先にあった。



 なんであの2人は重そうなアリスパックを背負いあんなに速く走れるのだとヘレナは目眩めまいを感じながら懸命に脚を繰り出していた。



 考えると去年の核テロの時も犯人の男を追って雪の中を走っていた。この事件が終わったら絶対にフィットネスクラブに通い、毎日走り込むんだと彼女はゼエゼエ言いながらブロードウェイを北へ駆け右手先に市庁公園の木立が見えてきた。



 その公園(かたわ)らの歩道際にすでに数台の警察車輌(P C)が到着しており赤と白のフラッシュを派手に明滅させている。嫌がらせのように微かに銃声が聞こえ始めヘレナはやめてほしいと泣き顔になった。だがまだポケットにはヴェロニカにもらったアサルトライフルの予備弾倉がガチャガチャと音を立てて早く使えと彼女にせき立てていた。



「フィットネスクラブに通う前に私殺されるわ」



 ぼやきながら彼女は231番地の交差点を赤信号であるにも関わらず走ってくる車らに銃口を振り向け威嚇し強引に走り渡り公園の石門の間へ駆け込んだ。



 ヘレナが公園内に入ると正面の噴水の前で3人の制服警官(ブルースチール)とプラチナブロンドの女兵士とメレディスとヴェロニカが言い争っていた。警官らが仕切りに許可できないと大声で言っているのが聞こえヘレナは覚悟を決めた。



 みなへたどり着くなりヘレナ・フォーチュンは身分証をスーツから引き抜き警官らを怒鳴りつけた。



わたくし国家安全保障局(N S A)の責任者ヘレナ・フォーチュンです! この件に関し市警本部長から出動要請を────」



 言っているそばでプラチナブロンドの女兵士がいきなり2人の警官を投げ倒し、耳長女が1人を殴り倒し彼女らのバトルライフルを肩付けし公園奥へ警戒しながら小幅の歩調で早足で進みだした。直後、メレディスとヴェロニカも同じ様にアサルトライフルを構えつき従い、ヘレナは無茶苦茶だと眼をおよがせてアサルトライフルのバーチカルグリップを左手でつかみ右手にでメイングリップを握りしめトリガー・ガードに人さし指を乗せストック・バットプレートを右肩に押し付け銃口を振り上げた。



 公園奥の市庁舎の方から明らかにハンドガンのものでない連射する銃声が派手に重なり聞こえ始めヘレナ・フォーチュンはチークピースの際でつぶやいた。





「やめてよ────お願いだから────」











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