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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #17
86/206

Part 17-4 Stun Burst スタンバースト

28 Maiden La. Federal Reserve Bank NY Branch East Street Lower Manhattan NYC, NY. 13:27


13:27 ニューヨーク州ニューヨーク市ローワーマンハッ 連邦準備銀行NY支局東通りメイデン・レーン33番地



 連邦準備銀行NY支局の角を駆け曲がり、シルフィー・リッツアと打ち合わせしていた場所へ走り込んだマリア・ガーランドは40ヤード(:約37m)先にアサルトライフルを手にしたスーツ姿の若い男女3人を眼にした瞬間落雷を受けた様に愕然となった。アサルトライフルを手にしてながらそのもの達から臆面おくめんもなく不安げな顔で見つめ返された。





 こいつら──闘いの素人だわ!





 迷っている余裕などないとおのれの混乱に怒鳴りつけその場に弾薬と爆薬の詰まったアリスパックを投げ出すように脱ぎ落とすとその上にスリングを首から抜いたFNーSCARーHバトルライフルを乗せ置いて、マリア・ガーランドは自分が曲がってきた交差点へワンステップで振り向くなり、右太腿(ふともも)のシースからファイティングナイフを引き抜いた。



 数十発のライフルアモをエレメントに手を加え加速させ撃ち込んだところでひるむような敵ではない。



 アスファルトを掻きむしり制動をかけながら路駐車を弾き飛ばし追いついてきたキメラに短い刃物1つで挑む狂気に苦笑いしてしまった。



 お前はあの焦土の駐車場にいた4本腕の怪物なのだろう。



 姿、形を変え、私のホームベースにまで挑みに来た。(アックス)で斬り落としたお前の手足のお礼参りに来たのならお門違いだ。







 人間を舐めてかかった事を後悔させてやる!






 振り上げたラピスラズリの双眼をギラつかせその双頭の悪魔をにらみつけた。











 怒りとは何なのか。



 ちょこまかと逃げ回り、そのくせ爆裂魔法攻撃を何度も打ち込んできたこの銀髪頭の(えさ)を喰い殺すだけではおさまらぬ衝動に身を焼きこががされた。



 その(えさ)から喰らった幾つもの攻撃の痛手を修復させ終わる直前に『ビル』という(えさ)の頑丈な『住処(すみか)』を曲がると、あれほど逃げ回った女が道の真ん中に仁王立ちで待ち構えていた。



 右手に握る『ナイフ』という武器1つでどうするというのだ!?



 これは(えさ)足掻あがきという状態なのかと、それ(・・)は一瞬考えたが、銀の髪を振り上げにらみつけたあおい眼を見た瞬間に違うと感じた。



 それ(・・)は目の前にいる(えさ)が決して力で負けないと信じていることを直に感じた。



 そうだ。怒りだ。



 俺様は、あの海原の様なあおい眼が気にくわないのだ。



 この姿を見てもエルフの様にすら動じない大海のごとく揺らがない眼が大っ嫌だ。





 こいつは弱肉強食の頂点から見下ろしている。





 それを認めるほどに甘くはないぞ!





 それ(・・)が銀髪の(えさ)に襲いかかろうとした刹那、横の『ビル』の『柱』陰からあのエルフの戦士が叫びながら階段を駆け下りてきた。











"Berserker ! það er ég sem þú berst !!!"

(:ベス! お前の相手は私だ!!)



 シルフィー・リッツアは自分が引き抜いたファイティングナイフよりもさらに短い剣1つでベスと戦おうとしているあの銀髪女が無謀以外のなにものでもなく、それは戦いでなく自害に等しい意味なき事なのだと階段を数段跳びに駆け下りた。



 白兵戦へと到達する直前に眼にした光景にハイエルフは驚愕しながら両の脚を繰り出していた。



 銀髪女の上下左右から同時に振り出されたあれ(・・)の人の腕ほどもある手足の爪が突き立ち切り裂く寸前に銀髪が左右に残像を引きり、その身体が怖ろしい速さであれ(・・)の蛇の首元に迫ったのと同時に4本の爪が外へ弾き上げられた。



 どうやったのだ!?



 人の動きではない!?



 人の速さではない!?



 直後、銀髪女の頭先からひざまで一度に喰らいつく事ができるほど上下に開いていたベスの下(あご)から緑のあいつの血飛沫(しぶき)が広がり、あごが斬り落ちた。



 銀髪女が振り切った短剣を引き戻し次手に出る直前にシルフィーがベスのかたわらに達すると胴の上に突き出た百足むかでの頭が振り向き、その身体が伸び下りながら左右から細い腕が4本急激に伸び先端に鋭い爪が突きだし出迎え、寸秒蛇の頭部と格闘する銀髪女がそれ(・・)の腕3本を斬り落とした。だがそれ以上見ている余裕がなくなった。



 ハイエルフは顔と胸に迫った4本の爪の内、一番間近い右側からの1本を弾き流しその剣をそのまま鋭く下ろすと右胸を狙い突き出てくる爪を付け根からたたき斬り、そちらへ身体を逃がしながら顔へ左から迫ったうなりを頭をそららしかわし左手のひらで左胸に迫った爪を後方へたたき流した。



 あの野原での銀髪女との白兵戦で斬り落とされた己の短剣の代わりに銀髪女が輸送機内でくれたファイティングナイフは怖ろしいぐらいにバランスが良く手になじんだ。しかも薄刃でありながら折れずによく食い込む。その切れ味にシルフィーはベスとの近接戦を生きいきと楽しんでいた。



 ベスの近距離戦での同時攻撃は経験済みだった。次の攻め手は! 意識の片隅でそう認識すると同時に彼女が頭を下げるとその残した空を百足むかで両顎あごが凄まじい音と共に噛んだ。



 シルフィーは横へ移動した勢いでベスの蜘蛛くもの胴体から下りる足の1つを斬り裂き、その付け根胴体へファイティングナイフの切っ先を打ち込むとひねえぐり引き抜き跳び退いた。その彼女が立っていた場所を蜘蛛くもの後足が理解できない様な角度で曲がり先端の爪が空を突き刺した。



 そのままシルフィー・リッツアは銀髪女とは真逆のベスの後ろに回り込むと、3つのさそりの尾が毒針を上げ待ち構えていた。











 多くの警察官が仕留める事の出来なかった怪物を2人の女が切りきざんでゆく。



 ヘレナ・フォーチュンは新米のメレディス・アップルトンとヴェロニカ・ダーシーを引き連れ、連邦準備銀行NY支局の東通りを爆轟が聞こえた方へ駆けていた。



 そうして西の交差点が間近に見えてきた直後、まるでウエットスーツの様な身体に密着した服を着たプラチナブロンドの短髪の女が角を駆け曲がってきた。



 そのプラチナブロンドの女が一瞬唖然とした面もちを見せ、戦闘用バックパックを投げ落とすように脱ぎおろし、その上にアサルトライフルを載せると、右の太腿ふとももから中型のナイフを引き抜きながら駆けて来た方へ振り向いた。



 寸秒、交差点にあの悪魔の様な生き物が駆け込んで爪を滑らせながら路駐車にぶつかり横倒しにした。



 そうして一瞬プラチナブロンドの女とにらみ合うと凄まじい攻防が始まり、横の大きな石柱が並ぶ建物から金髪の女がヘレナの知らない言葉で怒鳴りながら階段を駆け下りてきた。その横顔を見て彼女は眼を丸くした。



 耳の先が頭頂部の高さほども長く伸びきっている!



 まるでファンタジー映画から出てきた様な女も怪物へ駆けよると斬り合いを始めてしまった。



 立ち止まり呆然ぼうぜんと見つめるヘレナ・フォーチュンの右横からメレディスが彼女に尋ねた。



「先輩、あの人達────ナイフであれ(・・)とやり合っていますよ! 特殊部隊兵士────ですよね!?」


 問われエレナは黒いウエットスーツの女はともかく、耳の異様に長い女が兵士だとは思えなかった。何かの民族衣装の様な都会人離れした服装をしている。それなのにその女もプラチナブロンドの女がバックパックに置いたアサルトライフルと同じものを背中に────『!』────背中にスリングで3挺も下げでいながらどうしてあんなに激しく動けるの!?


 その耳長女が怪物の後方へ回り込んでゆくと、ヘレナは視線がプラチナブロンドの女に釘付けにされた。



 周囲から襲いかかる怪物の手足が速すぎて影の様な残像しか見えていないのに、その中央にいるあの黒のバトルスーツの女は一歩も逃げず、ステップを踏み換え身体を左右に揺らす都度に白銀の髪のミラージュを残し、そのたびに怪物の手足の赤紫の斑紋模様の鋭い爪が空を突き刺し、残像を斬り、外へと跳ね上げられる。



 遠いから怪物の足の動きがわずかに見えているが、至近距離にいるあの女に怪物の攻める足の動きが見えるわけがないのに一度もその攻撃に身を傷つけられずに怪物を斬り刻んでゆく。



 ライオンの頭部よりも大きな蛇の開いていた口の中に緑色の蛍光色の体液があふれ、プラチナブロンドの女が斬ったのだと状態でわかったけれど、振るった腕は見えず上顎うわあごの下から眉間の下に虹色のやいばが突き出て一瞬女の動きが止まったと思った刹那、女の左から襲いかかった怪物の爪を女が左手でつかんで受け止めていた。



 なんなのあの人!?



 なんであんな化け物と互角以上に渡り合えるの!?











 ナイフファイティングに余裕はない。



 たとえ相手が1人でこちらがリーチと破壊力に勝る獲物を持っていても、油断1つ、見逃し1つ、先読み1つ誤っただけで総(くず)れとなると意識の片隅でマリア・ガーランドは思った。



 ベテランの兵とナイフで闘い合うクロースコンバットでは怖ろしい駆け引きが繰り広げられる。



 互いにバイタルゾーンに一撃をとやいばを走らせるとは限らない。



 続けざまに浅く切り刻み、相手を消耗させる。



 その損耗に相手がわずかに崩したリズムにつけ込む。



 ナイフを手にするけんを切れば、相手は残された手にナイフをスイッチし広範囲を守り攻撃する事になる。



 そこまで追い込まれると勝敗は決する。



 腕が1つになれば守備範囲が倍になるのではない。



 困難が2乗になる。





 同じ事が目の前のクリーチャーにもいえた。





 手足が多かろうと、鋭い牙を持つあごを持っていようとも、その1つひとつを損耗させ追い込んでゆけば、無理にバイタルゾーンを狙わずとも勝機を手繰たぐり寄せられる。



 連続し襲いかかる鋭いスピアの様な複数の爪先を流し、弾き、かわす。その合間を無傷で明け渡さない。白銀の残像を踊らせナイフを上下左右に走らせ切って斬って切り刻んでゆく。



 その間にも剣を握らぬ左手、両足を遊ばせない。



 ひざ外を、ひじ外を、手首を、手刀を打撃に使いわけ相手のスピアの付け根を弾き流す。



 マリーは、一瞬の隙にできたチャンスにパールの輝きを持つやいばを相手の上顎うわあごから眉間にかけ突き刺した。それでもその一撃が怪物の息の根を止められるとは思わない。



 攻撃に加担したシルフィー・リッツアの狙いも同じだとマリーは思った。斬り刻んで相手の最大の弱点を探してゆく。



 狙い命中した一撃は相手にとってもチャンスだとわかっていた。動き止まった一瞬を狙われ左から襲いかかった爪先を弾きかわし様がなく中間をがっしりとつかみ受け止めた。



 お前にとってこれがチャンスだったのだろう。



 だがチャンスを生かしきれなかった今、それが貴様の最大のピンチに変貌する。



 火焔や爆裂を意識して生み出せるなら、こんな芸当もスキルの内だとマリア・ガーランドは思いついた携帯防御武器をイメージし叫び爪をつかんだ左手と上顎うわあご差し抜いた右手に意識を集中した。





「スタンバースト!!!」






 直後、両手を極にした膨大な電流のスパークがキメラの体内を駆け巡り怪物は痙攣し胴体を地に落とした。












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