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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #16
81/206

Part 16-4 það er ég sem þú berst お前の相手は私だ

28 Liberty St. Lower Manhattan NYC, NY. 13:21


13:21 ニューヨーク州ニューヨーク市ローワーマンハッタン リバティ・ストリート28番地



 あごを引いて真っ直ぐなアスファルトを蹴って、蹴って、脚を繰りだし続ける。



 なびくプラチナブロンドの髪がほとんど後ろへ流れていた。



 左手の手刀を前後に素早く振り風を切ったが右手に握るバトルライフルはほぼ揺らさない。銃口を斜め上に向けたまま維持していた。



 40ポンド(:約18kg)以上ある背負うアリスパックのショルダー・ベルトが肩に食い込み重かったが、この先必要だと手放さない。



 マリア・ガーランドは背後にとって迫る怪物の立てるアスファルトを削り走る音が少しずつ近づいているのを知っていた。



 戦いには幾つものセオリーがある。



 逃げる敵が全力かを知る必要があった。



 それをクリーチャーは承知してるのか!?



 間合いを詰める追撃は、追うものを上位だと──優位だと思わせる。



 この距離で攻撃系魔法を使わないのは、いたぶる気合いが満々だからだ。



 戦いは終始、頭脳戦だ。力だけに頼り攻め込むとほぞむ。敵が何を望み、次に何を行うか。その先読みの連鎖に勝った方が最後に立つ。





──Beast that cannot use their heads will not win against human.

 本能だけの獣は人に勝てはしない。



──That bulging emotion vanish you.

 そのおごりが貴様を滅ぼす




 左右に路駐する乗用車の列。



 一台に隠れ行動阻止射撃を加えても意味がない。



 ショッピングセンターでロバートら2小隊が散々撃って殺すどころか足止めもできなかった。あれ(・・)はM933徹甲弾(AP)を撃ち込んでも魔法障壁(マジック・ウォール)に護られる。







 だがその防壁が下にまであるとは思わなかった。







 そんなものが足下にあると地面と干渉しとんでもないことになる。怪物の駆ける地面が崩壊してないのは、足下に魔法障壁(マジック・ウォール)がない事を意味していた。問題はその作用限界。





 マリーは駆けながら左手をアリスパックに回し下げた手榴弾(DM51)を引き抜いた。そうしてセーフティレバーを弾かせ1秒おいてそれをニューヨーク連邦準備銀行とは反対の左真横の車の下に放り込んだ。



 3台目横に走り込んだ寸秒、背後の爆轟がクリーチャーの片側数本の爪を穿うがった。



 その直後、化け物は走る勢いでバランスをくずし、左手の工事用足場の幾つもの支柱をなぎ倒しながら連なるトタン塀に突っ込んだ。



 彼女はそれを見もせず音だけで判断し、距離が稼げたと交差点へ急いだ。





 怪物はきっと私の背を見てる。





 目の前だった獲物が逃げ延びようとリードしたのを苦々しく感じ、諦めなければ以前にも増し猛然と追い始めると彼女は確信した。



 マリーが距離を20ヤードに引き離したその時、背後で自動車事故の時の様な薄鉄の箱が潰れる大きな音を耳にした。



 振り向き確かめはしないが恐らく路駐車を弾き返したのだろうと彼女は思った。怒りだ! 奴は怒り狂ってる! 直後、再びクリーチャーが爆走を始め猛烈なタップダンスの様な爪の叩きつける音が湧き上がった。



"Follow me, I'll give you directions to hell."

(:来るがいい! 地獄へ案内をしてあげるわ)


 つぶやいた直後、迫る交差点にまだのんびりと行き交う歩行者数人を眼にし、マリーはその頭上にバーストで威嚇射撃を浴びせ蹴散らすと、交差したナッソー・ストリートを北へ駆け込んで上空に向けフルオートで弾倉を撃ちきり通りにいる人達へ最大限の警告をした。











 警官らを殺し、パトロールカーを雷撃魔法で裂いた通りを、二角走り込むと、爆裂魔法攻撃(エグスプロージョン)が止み、それ(・・)は先の交差点に黒ずくめの人が飛び出し銃器を振り向けるのを目にしおどろいた。



 その黒ずくめの女の右へ跳ねた白銀の髪が左へ落ち戻るよりも速く銃器で銃弾を放つと、それ(・・)の正面に数個の赤紫の波紋が生まれ消えた。



 あの女という種の(えさ)は────見覚えがあった。







 ショッピングモール駐車場で暴れまわった時に現れた爆炎の利かない(えさ)だ!







 しかも迫ってきたあの女が幾つもの爆炎魔法攻撃を仕掛けた!



 ここまで追って来たのだ。



 この最高の餌場えさばを邪魔しに来たのだ。



 ならさっきの幾つもの爆裂魔法攻撃(エグスプロージョン)はこの女が!?





 この女! 喰い殺してくれるわ!!





 駆けだそうとした刹那、それ(・・)の目の前でまた爆轟が広がり、魔法障壁(マジック・ウォール)に護られながらそれ(・・)は確信した。



 やはりあの女が爆裂魔法攻撃(エグスプロージョン)を!



 それ(・・)が女の消えた交差点右へ爪を滑らせ曲がると、そう遠くない道の真ん中を駆ける後ろ姿が見え追いかけ始めた。



 あの(えさ)は押さえ込んでその手足を喰い千切り、最後にじわじわと頭を喰らってやるのだ!



 その爆発する様な思いに取りかれ、女を追い込んでゆくといきなり横で爆轟が起き片側の爪3本の先が弾け飛び、それ(・・)は訳も分からぬまま横の壁に立つ鉄の細い柱をなぎ倒しながら壁に突っ込んだ。



 またしても爆裂魔法(エグスプロージョン)を!



 怒りにかられ薄い波打った鉄板を弾き、それ(・・)は目の前にあった車を肩で打ち飛ばした。



 そうして一気に破損した3つのセラミックの爪を蘇生させすべての爪を補強しながら、離れたあの(えさ)を今一度追い始めた。



 前をゆく白銀の髪の女は正反対の交差点のはるか上を射撃し始める。



 勝利の叫聲おらびごえのつもりか。



 (えさ)のやることは、エルフ(えさ)同様、真には理解不能だとそれ(・・)は感じた。



 あの白銀の女を殺す寸前、問いかけてやろう。



 お前のあの行為は何のためだったのか、と。



 追いつこうとそれ(・・)は全力で交差点に突っ込み、角の鉄柱に触足の爪を引っ掛け一気に曲がった。











 目の前に銃器を胸の前に斜めに下げ右手を腰にあてたその女が仁王立ちで待っており大声で言い放たれた。





"Don't make a woman wait !"

(:女を待たせるなんて!)




 その(えさ)の言葉をそれ(・・)は理解でき一気に怒りがこみ上げた。



 その寸秒、白銀の髪をした女の横の車のトランクが開いている事にそれ(・・)は気づいた。



 須臾しゅゆ、その開口部からいきなり爆轟と共に2100個もの鉄球が襲いかかった。











 時間はぎりぎりだった。



 交差点角からわずか離れた路駐車のトランク・キーの部分をマグチェンジしたバトルライフルで撃ち抜き、開いた中へアリスパックからプラグと点火ワイヤー(M4)点火器(M57)アッセンブリをデイジーチェインで繋いだクレイモア(Mー18A1)対人地雷3セットを入れワイヤーを引き伸ばした。



 そうしてマリーは左手にM4点火器を握りワイヤークリップのセーフティを弾き倒し、FNーSCARを胸の前に銃口を斜め下に吊り下げたまま、右手を腰にあて曲がり角をにらみ据えた。





 刹那、凄い勢いで蜘蛛くもの躰をした蛇と百足むかでの頭を持つキメラが、角の鉄柱に腕を絡ませ曲がってきた。





"Don't make a woman wait !"

(:女を待たせるなんて!)




 言い放った瞬間、彼女は点火器(M57)のレバーを握りしめプラグへ着火電気を発電伝送した。



 すぐそばで同時に3つのクレイモアを起爆させたのは初めてだった。ほぼ同時に3つの信管が弾けるとC4合成爆薬が起爆し爆轟と共にパーキングを掛けてる車が2ヤードも前に押し出され後ろへ向け8分の1インチサイズ(:約3mm)の鋼球が2100個──秒速4000フィート(:約1.2km/s)で一斉に飛び出しクリーチャーの前面に襲い掛かった。



 その瞬間マリア・ガーランドは視線を振り、すべての鉄球のエネルギーを意識し、エレメントを操る要領でそれを一気に3倍へ嵩上かさあげした。



 まるでレールガンから撃ち出された砲弾(シェル)ごとく一気に音速の10倍に達した鋼球は反動で銃弾の様な形へ変形し至近距離からのほとんど開いてないパターンで一斉に魔法障壁(マジック・ウォール)の一カ所に集中し群がった。



 攻め来るものを前にし青い隔壁が実体化し、1つの大きな波紋を中心にそれが瞬時に赤紫から真っ赤に染まるとその色合いのまま薄れて消え去った。



 直後、化け物の前にすべての鉄球が慣性力を失いバラバラと落ちると、その後ろで前4本の足を振り上げ、怪物が脅すようにえた。



 そいつにマリア・ガーランドは点火器(M57)を投げ捨てた左手を振り上げると蛇の頭を指さし怒鳴った。





"Pretty good!But, don't think you, you'll make me scared !"

(:イカすじゃないか! だがその姿で私が怯えると思うな!)


"Come Now !! I'll tell you the real scariness !!!"

(:来い! 本物の怖ろしさを教えてやる!)




 言い終わるなりマリーは即座にきびすを返しアリスパックをかついだまま駆けだした。



 彼女はすでに精霊シルフの魔法障壁(マジック・ウォール)が一定時間受けたエネルギーを蓄積する事を学んでいた。防壁は抱え込んだエネルギーを徐々に解放しているので、一定時間が過ぎると元の基底状態に戻ってしまう。



 だが打ち破れない攻撃でも連続で加われば、たては破綻する。



 マリーは走りながら、次はお前は護るものを失うと自信を持ってシルフィーへ指定した場所へ向けて駆け続けた。その後ろで怒り狂ったキメラが車を片っ端に弾きなら追い上げた。









「いませんね──先輩!?」



 いきなり掛けられた新人の声におどろいてヘレナ・フォーチュンはアサルトライフルの引き金を絞りそうになった。



「い、いないわね──地下鉄に下りたのかしら? へ、蛇や蜘蛛くもだから────」



 ヘレナは怖さをまぎらわすために、辺りを見回しながら、こんなとこにネイルサロンがとか、あの角のアパートは賃貸料が高いとか、関係ない事ばかり考えていた。



 時折、どこかから爆発音が聞こえてくる。兵隊も来てないのに何がぼんぼん破裂してるんだろう!?



 マニュキュアが16ドル99セントは安い。今度、来て────違う、違う。そんな事はどうでもいい。



 あの悪魔みたいな生き物を見つけたら、出来るだけ遠くから撃とう。今度、近づいたら絶対に殺される。まだこの新人らと同じくピチピチのギャルだから死ぬのがもったいない。



 いや、いや。そうじゃない。『ピチピチ』じゃあ肉感的だわ。『すべすべの』で言い回そう。



 突然、彼女は立ち止まり腰を折り地面を見つめながらつぶやいた。



「違う、ちがう──逃げてどうするの? マーサも帰ってないここで警官達も殺され、唯一の武器を持つ私らが逃げ腰でどうするの────」



「大丈夫ですか、先輩?」



 ヴェロニカに気遣われ、ヘレナは身体を起こすとSG751SAPRーLBのストックを肩付けし気持ちを引き締めた。



「大丈夫よ。ちょっと疲れただけよ」



 その直後、ニューヨーク連邦準備銀行の反対で大きな爆発音が響いた。





「行くわよ!」







 そう新人らに命じ、ヘレナ・フォーチュンは銀行の北側道路──メイデン・レーンを射撃姿勢のまま駆け始めた。











 打ち合わせ通りにセットアップを済ませた。



 シルフィー・リッツアは予定より早く初めてのそれら機材を使い仕掛けたものにえつって銀髪女が駆けて来るのを待った。



 もうあの銀髪女のもたらした知識を自由に使い切っている。所詮しょせんは人の考えたもの。ハイエルフ種族に使いこなせないわけがない。



 あの女がベスを引き連れ駆けて来る交差点の曲がり角(そば)の大きな石柱が3本立った建物の柱の一本に隠れる。



 辺りは近くでたびたび起こっている爆発に身の危険を感じて人は見られなかった。道に止まる『車』という乗り物に仕掛け引き回した点火コードは誰にも見咎みとがめられない。まぁ見つかっても脅し切ればすむとハイエルフは簡単に考えた。



『車』────そう馬という動物がいていた荷馬車の進化したもの。『乗り物』の1つのカテゴリー。



『車』────上に赤や青の警告ライトが点滅する多くを『警察車輌』という。いや、一部だ。



 シルフィー・リッツアはふと眉根を寄せた。



 この世界に現界した場所に現れた4台のあれは甲冑かっちゅうまとった魔物ではない。あれは『警察車輌』!?



 その『車』を焼き払うどころか、『警官』らも殺してしまった。



 シルフィーは青くなり額やほおに冷や汗が浮きで始める。



 いいや、最初に現れたサンドワーム使いが悪い。



 あの黒煙を頭の後ろから吐き出しながらサンドワームをけしかけたのは人であれは────『ビッグリグ』。



『トレーラー』という荷運びに使う『車』!



 焼き払ったのは全部、『車』!



 空飛ぶ魔物と思って『ヘリコプター』を2機落とし、『対地攻撃機』を2機落とした。



 人間の使役する魔物なんかじゃない!





 全部、人が乗っていた乗り物だ!





 シルフィーは形のよい唇をゆがめ、あの銀髪女が知ったら激怒すると焦りだした。



 いや、しらを切るんだ。





「無理だぁ! あの女は自由に頭に入り込んでくる!」





 そうハイエルフがつぶやいた瞬間、すぐ近くで大きな爆発音が響き聞こえた。



────シルフィー! 準備はできてるの!?



 眉間みけんの奥に声が入り込んできて彼女は飛び上がりそうなほどおどろいてまわりを見まわした。



「でぇ、できてる! ────できてるとも!」



────行くわよ!



「来い! いつでも来い! 相手になってやる!」



 その時、眼の前の通りに数人の足音が響き、銀髪女が来る方向と逆だとのぞき見ると知らぬ男女3人が火器(アームズ)を構え走ってきたのを眼にし思わず彼女はエルフ語でつぶやいた。



"Fjandinn..."

(:まずいぞ──)



 同時に交差点を曲がって走り込んできた銀髪女が目の前の3人に気づき繰りだす脚を緩めると建物角を轟音をあげあれ(・・)が幾つもの爪を滑らせ飛びだしてきた。





"Stærsta martröðin !"

(:非常にまずい!)





 銀髪女は一度(うつむ)くと、きびすを返しアリスパックを脱ぎ捨てFNーSCARをその上に下ろし迷わず太腿ふともものシースからファイティングナイフを引き抜いて構えた。







 幾つもの射撃音が弾けだした中、赤い波紋を浮かび上がらせる敵へシルフィー・リッツアもM57点火器の束を足下に放り出し短剣ショート・ソードを引き抜くと柱の陰から階段へと駆けだし怒鳴った。







"Berserker !! það er ég sem þú berst !!!"

(:ベス!! お前の相手は私だ!!!)










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