Part 16-3 Batl Madness 戦闘グルイ
SWCS(/U.S. Army John F. Kennedy Special Warfare Center and School) Fort Bragg, N.C. 13:17
13:17 ノースカロライナ州フォートブラッグ スウィク(ジョン・F・ケネディ特殊戦センター・アンド・スクール)
「────よって原住民の中から兵士を選びだす最も重要な意味合いはすべからず原住民にゲリラ活動を行い政府と対峙する意識を植え付ける事にある」
教室のドアがノックされダッドリー・マンスフィールド少佐はグリンベレーの生徒らへの講義を中断すると声をかけた。
「どうぞ!」
教室前角のドアが開き出入り口に立った兵士──クレメント・ブラドル大尉が雑に敬礼すると報告した。
「少佐殿、招集であります」
ダッドは眼を細め、生徒等に振り向くと皆に告げた。
「次の講義は明日の同時刻に行う。教本を熟読して来たまえ」
言い終わると、グリンベレーの曹長が声を張り上げた。
「全員起立! 気をつけ! 敬礼!」
揃って敬礼するとダッドは答礼し、出入り口へ向かうと報告に来た兵士が廊下にぎこちなく退いた。
ダッドが廊下に顔を出すと、報告に来たクレム大尉の後ろにも同じ迷彩服を着た2人の兵士がいてニヤニヤしていた。ジェフリー・ドゥルイット中尉とルイス・ヘインズ少尉だった。
その前に立った──クレムがダッドへ告げた。
「少佐殿が、授業を退屈されているでしょうからお迎えに」
少佐が苦笑いし皮肉を返した。
「お前ら、もういっぺん規定課程の座学をやり直すか?」
「勘弁してくださいダッド。丸裸でタリバンに放り出される方がまだマシです。あ! 大砲を晒してタリバンを自殺に追い込みたくないんでパンツはください」
クレムが即答すると、少佐は笑いながら尋ねた。
「で、招集とは何だ、ダッド?」
「武装訓練です」
「武装訓練? フラッグ以外でか?」
「ええ、ご名答────NYCで対装甲戦の実弾訓練です」
「ニューヨークの街中で、か!? 対装甲戦だと!?」
「はい、しかも主力戦車を撃破できる武装で、だそうです」
ダッドリー・マンスフィールド少佐は三人の部下から担がれているのかと顔をよく見つめた。
巨大で翼幅のある38フィート(約11.58m)のブレードが生みだす爆風と低い唸りの混ざったビートがランプゲートの開き下りたカーゴルーム後ろの開口部から否応なしに入り込む。
結局、2分隊8名が行かされる軍事教練という名目の派兵が国家安全保障局のトップでなく1支局長の依頼だと知らされ、その詳細もわからずNYCで一体なにが待っているのだとダッドリーは陰鬱になりそうな気持ちを引き締めた。
これは絶対に民警団法をかいくぐる違法行為だ。戒厳令下でもない限り国内に州兵を含め陸軍と海兵隊を差し向ける事はできない。だがそれをNSAのしかも1支局長が犯してまで対テロを匂わせ戦わせようという相手が何者なのか。
用意した多量の武器弾薬、爆薬と依頼された対戦車兵器としてFGMー148Cを8基も持って行く。街中で対戦車ミサイルを使うなど明らかな戦時下なのだ。いつからNYは中東になった!?
統合特殊作戦コマンド司令官のミラー中将から直に命じられたのはNSAに貸しを作ってこいとだけで、中将はこれが非合法な国内戦であると明らかに認識していた。
フォートブラッグに隣接するポープ陸軍エアーフィールドへ別な指令で来ていた第8特殊作戦飛行隊のCVー22オスプレイがニューヨークへの輸送を担う事となり、装備をすべて積み終わり7名の部下が乗り込むと開口部近くで隊員の動きを確認していたクルーがランプ閉鎖の操作を行いコクピットに戻り、しばらくして機体が取り付け誘導路を滑走し始め、ダッドは機内壁両側に出された向かい合った座席の1つに腰を下ろしベルトを絞めた。
長距離飛行の燃料を含め搭載重量の都合から、垂直離陸でなく滑走して空に上がるのだとダッドは意識の隅で判断していた。
「少佐、対テロ戦ですかね」
隣の席に座るジェフリー・ドゥルイット中尉が気軽に問いかけた。
「知らんよ。中将も洩らさなかった。まるでパンドラを開く気分だ」
「でもマンハッタンに戦車はないですから──」
オスプレイの傾けたブレードが高速で爆音を放ち始めると、ポープ陸軍基地の1本の滑走路を加速し始めた。
デッドにはジェフが気楽になりたいのは理解できたが、対戦車兵器を装備指定し出動依頼をかけた阿呆に会ったら自分こそが嫌みでも言いそうだと思った。
「ああ、塹壕戦や要塞戦でもないからな────そうだジェフ、街中でそれらを見つけたら真っ先にお前を差し向けるからな。まぁジョークだがな」
少佐の言いぐさにジェフリーは身を乗りだして抵抗した。
「そんな、ダッド。この間もそう言って本気で敵を取りに行かせたじゃないですか! マンハッタンで殉死なんて────」
そんな彼の言い分をスルーしマンスフィールド少佐は皆に告げた。
「いいか、俺らはあくまでも軍事教練の指導員だ。敵の戦力規模、その他の状況が判明するまで手だしするな! NSAは俺らを噛ませ犬にするつもりかもしらん! 恐らくはテロリスト掃討だと思われるが、存在しない機関(:NSAの俗称。頭文字でNSAとなる)の事だ状況を掴んでない事も視野に入れ、敵規模が明確になるならばいつものように速攻で始末する! いいか、恥を晒すな! 置いて帰るぞ!」
7名の男らがそれぞれのスタイルで了承したと士官に返答した。
8人の第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊の手練れの
特殊戦兵士達は1時間半後に待つ災厄をコンバットナイフのエッジポイントほどにも理解していなかった。
瞬く間に、3発のジャベリンを撃ちつくした。
あの化け物にジャベリンが効果あるのはここまでだわとマリア・ガーランドはウィリアム・ストリートを猛然と迫るクリーチャーを睨みながら、シルフィー・リッツアの最後の6発目が命中しあの怪物の魔法障壁を砕けなかったと、苛ついた。
リバティ・スクウェアの南東角に位置するビル──リバティ・プラザ屋上北角で、アリスパックを背負い後ろの外壁にアンカーを打ち込みラペリング降下ユニットのスリング端に付属するカラビナを自分の腰ベルトのリングにかけロックすると、足下に置いたFNーSCARーHを右手につかみ背を屋上外側に向け縁に両足をかけハイエルフに精神リンクで命じた。
シルフィー! 先に下りる! 地上戦で奴を誘い込むから罠を用意! 任せたわよ!
『ほんとにお前1人で誘い込めるのか!?』
打ち合わせ通りに! テイク2!
『加護のあらんことを』
精神リンクを切った直後、マリーは左手にラペリング降下ユニットをつかみ一気に両脚で縁を蹴って空中に飛びだした。
風の呻りを引き連れ恐ろしい速さで屋上の一辺が遠ざかる。
一瞬、リバティ・プラザ・マンションの一室にいる中年男性とガラス越しに視線が絡み、男の瞳が丸くなったのが残像になった。
マリーは20ヤード降下するとNDC傘下の化学素材会社商品の糸の様なアラミド強化繊維に僅かに制動をかけ迫った外壁を両足で蹴り、壁から離れるなり再び降下に入った。
ウィリアム・ストリート2ブロック北の騒乱に、降下する辺りの人々は警戒してるはずだった。バトルライフルを手に黒ずくめの女が空から下りて来たら、眼にした歩行者へは避難を叫び促さなくてもこぞって逃げだすだろう。
そう考えながらマリーは外壁を3度蹴り、地上が目前に迫る4度目に蹴った両脚を捻り、腰ベルトを回転させラペリング降下ユニットを背後に追いやり身体正面を地上へ向けると、回した左手で背後のユニットを解放し残り7ヤード(:約6m)を一気に飛び下りた。
いきなり路駐していたセダンの屋根を彼女が曲げた両脚でつぶすと、舞い降りたプラチナブロンドのショートヘアが落ち着く前に辺りを歩いていた8人ほどの男女が驚いて振り向いた。
黒ずくめのバトルスーツと手にするファイアーアームズにまるで蹴散らした様に歩行者が叫び逃げ始めた。
"I'm sorry to scare you."
(:驚かしてごめんなさいね)
呟き苦笑いした彼女はアスファルトに跳び下りるとバトルライフルを肩付けしながら10ヤードも離れてないリバティ・スクウェアへ軽快に走りだし考えた。
問題は、自分が倒せるかではない。
いかに美味しそうなエサと見せかけ、あの怪物が堪えられないトラップに誘い込むか、だ。
ウィリアム・ストリート交差点に駆け出ながら、抱え込む様に構えたFNーSCARーHを捻り直上に据えたトリジコンACOGを避け右斜め上に取り付けた近距離用サイト──トリジコンRMRタイプ光学ダットサイトFOV中央の三角のマークに化け物をサイティングした時にはすでに30ヤードに迫っていた。
その蛇の顔にフルオートのトリガーコントロールで5発の徹甲弾を撃ち込み、バーチカルグリップから放した左手をアリスパック横に回しぶら下げ揺れるドイツ製手榴弾DM51の1つをつかみ引き抜くとアリスパックにセーフティーピンが残った。
その破砕爆弾を化け物へ放り出し、目くらましにさらに徹甲弾を8発フルオートで送り込む。
踵を返し交差点を西へ駆けると背後で爆轟が響いた。
"Now, You're my One of the overwhelming fan !!"
(:さあ! これであんたは私に夢中でしょ!)
全力で駆けるマリア・ガーランドが白銀の髪の残像を曳きながら陽気に吐き捨てた直後、8本の爪を滑らせ巨体を大きく揺らしそれが角を曲がってきた。
わたしを殺れるものならやってごらんなさい!
通りの右はビルの壁ばかりで出入口は殆どなく、左は工事中の建物を覆ったトタン壁がずっと連なり、時折ある切れ目は地下パーキングの入口だけでシャッターが下りている。逃げ込む場所のない142ヤード(:約130m)をマリーは走っていた。
眼の前に転がった怪物が躰を起こしながら、ヘレナ・フォーチュンは自分が上げた悲鳴でそいつが振り向くものだと顔を引き攣らせていた。
だがその怪物が見向きもせずにウィリアム・ストリートを南へ走りだし、彼女が呆気にとられ恐るおそるATMコーナーから顔を出すとすでにそれは交差点を通り越し猛然とウォール街を目指していた。
落ち着いてくるとヘレナはSG751SAPRーLBのマガジンを交換しながら外に出ると、ATMコーナーからメレディス・アップルトンとヴェロニカ・ダーシーの新人2人も不安げに道へ出てきてヴェロニカがヘレナに尋ねた。
「せんぱい、どうしましょ──う?」
「追うに決まってるわ!」
離れ行く怪物の後ろ姿を睨みながらヘレナは言い切った。
「えぇえ!? ほんとに追うんですか!?」
驚いて問い返したのはメレディスの方だった。
「何のために弾薬をたくさん用意したの!?」
そう言ってヘレナは2人に振り返るとヴェロニカに右手を差し出した。
「?」
呆然としてるヴェロニカをヘレナは手を揺すりせかした。
「早く弾倉を! もっと弾倉をちょうだい!」
5個のマガジンを次々にコンバットバッグから引き抜きそれをヘレナに渡したヴェロニカは助けを求める様にメレディスへ顔を向けると彼が頭振り唖然となった。
ウォール街へ向かい歩きだしたヘレナにメレディスがついて行くと、泣き顔でヴェロニカは2人を駆けて追い始めた。
歩きながらヘレナは起きた事を振り返っていた。
それにしても、どかどかと誰があんなに爆弾を使ったのだろう? 州兵が来てるのだろうか? マーサ・サブリングスが手回ししたのだろうか?
そんな事はないわ────。
いくら支局長でも州兵を動かせるとは思えない。
偶然に何かが────ボンベとか車のガソリンタンクが破裂したんだろう。
やっぱりあの怪物を倒すのはNSAの私達しかいない!
交差点に2人の首なし警官の遺体を見つけてヘレナはビクついて「ひぃい」と悲鳴をだしそうになり慌てて口を閉じ堪えた。
下手をすると自分もあのように頭を失うかもしれない。
ついさっきだってもう少しでそうなりそうだった。
それでももう少し頑張って、市民を護れば、いずれ軍隊が来る。きっと沢山やって来るさ。
来なかったどうしよう?
そうだわ! サブウェイに誘い込んで電車にぶつけたらあれは死ぬかもしれない。
サブウェイならあっちこっちに駅がある。
イケる! イケるわ!
自分がニューヨーク一番不幸な女だと忘れている1人がメラメラ燃えながら歩く後を不安げなまま新人2人は怪物を見失えばと思っていた。
ニューヨークへ戻るヘリの中でマーサ・サブリングスは苛々していた。
かけた電話の先でヘレナの怒鳴り声の様な報告の背景に確かに炸裂音が聞こえていた。
デルタフォースが到着するには早すぎるし、ニューヨークで行う掃討戦の指示すら出していない。NYPDがたとえ警察特殊部隊でも爆発物は使わない。州知事が州兵を動員したとも連絡を受けていなかった。
あのプラチナブロンドの女指揮官────。
雪の乱れ流れる中で満身創痍の身で海軍特殊部隊シールズにも一歩も退かなかった去年の核テロの時のように、無謀な戦いを繰り広げているのだろうか。
あなたの何がそこまでの事をさせるの?
マーサ・サブリングスは、彼女が人を護るためだけでない様な気がした。
いきなりポケットのセリーがバイブレーションとメロディーを立て始めマーサはポケットから取り出すと知らない番号からだった。
「はい、マーサ・サブリングスです」
『マーサ、私だ、サンドラ・クレンシーだ』
マーサは驚いた。長官が知ってる番号以外からかけてくるのは初めてだった。
「長官!? どうされたんですか? どちらから?」
『ホワイトハウスの地下からかけている。ワシントンに核弾頭が撃ち込まれたのは知ってるか?』
撃ち込まれた!?
核弾頭を!?
ワシントンが壊滅したの!?
「核弾頭!? 核爆発が起きて地下に逃げたんですか!? ミサイルですか? どこの国が!?」
『いや、不発弾だ。色々と事情が混み合っている。撃ち込んだのは我々の海軍戦略原潜メリーランドだ』
なぜ海軍の弾道ミサイル原潜がとマーサが混乱していると、逆にクレンシーから問いただされた。
『マーサ、国防長官から聞いたのだが、なぜデルタ分遣隊を出させた。武装訓練とは何だ?』
速い! 伝わってしまうのがこんなにも速いなんて!
咎める口調は微塵にも感じられず、むしろ事実を知りたがっているだけだとマーサは判断した。
「ニュージャージーで百人あまりが殺されました。その件に関わるクリーチャーがニューヨークに────止めなければと思っての判断でした」
あの焦土の様なショッピングセンター駐車場の有り様をとても口では伝えられないとマーサは思った。
『クリーチャー? 君も厄介な事に直面してるんだな。君自身がそいつを確認したのか?』
「はい、録画記録ですが、私の知るどんな生物でもない6ドア冷蔵庫ほどの蜘蛛と百足の合わさった化け物です」
『でかいな。わかった。この時点で正式な報告として私が大統領と国防長官に説明する。ニューヨークで市民の犠牲を少しでも回避しろ。いいな。無理をするなよマーサ。立て込んでるので一度切る。時間をおいてこちらからかける』
マーサが返事をすると通話が切れそのモバイルフォンを彼女はじっと見つめた。
クレンシー長官はたったあれだけで信じてくれた。
彼も今、とんでもない事態で大統領に呼ばれている。
こちらはこちらでこの事案を片付けないといけない!
だがデルタフォースの派兵を公認されマーサは自信をつかんだ。それでも統合特殊作戦コマンドが何人回してくれたかが気になった。あくまでも軍事訓練なのだと言い張り、それでいて実弾どころか、模擬訓練ユニットしか用意できないという特殊部隊統合指揮組織の司令官を説き伏せた。
警官が寄ってたかって銃弾で倒せない相手でも、戦車を破壊するミサイルなら可能だと要求した。
ただ、どれだけの兵がどれだけの強力な武器を用意してきてくれるかそれが心配だった。
それにもし────あの怪物が爆炎から生き延びる能力を持つのなら────。
彼女は車の金属パーツが溶けていたあの駐車場をまざまざと思い出してしまった。
人が手で持ち運べる武器では倒せない相手かもしれない。
なら何を用意したら!?
再びバイブレーションとメロディーが立ちマーサ・サブリングスが手に握ったままのセルラーを眼にすると、今度も知らない番号からだった。
「はい、マーサ・サブリングスです」
『あんたか、我々を呼んだのは────私は第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊第1中隊ダッドリー・マンスフィールド少佐だ。国防総省が全面的に協力しろと言ってきた。君は何者なんだサブリングス?』
またもや速攻の反応だった。まだクレンシー長官に話して5分ほどしか──それにどうして私の番号を知ってるのだと彼女は驚いてしまった。
「ただの公務員です。よろしくお願いします少佐。ところで1つお聞きしたいのですが」
『なんだね』
「戦場で携帯の対戦車ミサイルが利かなかった時には、次の手に何があるんですか?」
『手には無線機が握られているさ』




