Part 15-5 Thorough Misfortune Women なんて不幸な女
123 William St. Manhattan, NY. 13:14
13:14 ニューヨーク州マンハッタン ウィリアムストリート123
ニューヨーク市警ESU・Aチーム──ケビン・アービー警部の周囲でM4A1カービンから弾き出されるブランクカートリッジが毎秒150個あまりアスファルトに当たりスリー7のスロットから流れだす多量のコインの様な甲高く短い音を立てていたが、彼の近くで発砲する12の銃口の射撃音が重なりそれがビルに挟まれた通りに反響し轟音に聞こえなくさせていた。
M4A1カービンのショートバレルから射出されるM855A1FMJBT弾の62グレイン(:約4g)弾頭は初速こそ高いが比較的短距離で効果を失う。
だがウィリアムストリート134のバーガーショップ前にいる見たこともないその生き物まで南の108番地のジョンストリート交差点の彼らから77ヤード(:約82m)しかなく、北側にいるESS13人からはさらにもっと近く、合わせて毎秒300発以上の5.56ミリ軍用銃弾を受けながらその奇っ怪な生き物が平然としている事が警部だけでなく警察特殊部隊のもの達にとっては信じられなかった。
二秒半で30発のスタンナグマガジンが空になるものが次々に出ると、弾倉交換で射撃効果は半減した。
アービー警部は蜘蛛の胴体を持ち蠍の尾を3つ持つ蛇と百足の頭を持った乗用車サイズの化け物の周囲に現れては消える銃弾のものと思われる無数の青い波紋が何なのか困惑した。
銃弾が届いてない!
エイムポイントCOMPM3の反射コリメーターダットサイトの赤いLED光点で正確にその化け物の百足頭を狙い撃っているのに手応えがまったくなかった。
まるで怪物の傍に透明度が高く厚手の防弾シールドが立っているかの様な状況に、部隊の弾薬が尽きるのは時間の問題だと思われた。市警の緊急出動部隊には弾薬の他、スタングレネードぐらいしか隔離距離の攻撃手段がなく、攻撃開始1分あまりでアービー警部は市警本部に連絡を入れ州陸軍の投入要請すべきだと判断した。
その直後、状況が一変した。
まるで猛牛の様な勢いで路駐車を横へ弾きながらいきなりクリーチャーがアービー警部ら12人のいる108番地十字路へ突っ走ってきた。
とりあえずの肉塊は不満なく修復と増強ができた。
この都市がニューヨークというこの国有数の大都市であることも取り込んだ多くの知識が裏付けしていた。
先に煩わしいNYPDの警官というものらを倒し、そこら中の建物から人を引き摺りだし喰っていると、新たな警官らが通りの南北に出てきた。
今度の警官らは用心深く、コンクリートの建物の陰や、車の後ろにしっかり姿を隠し、多くの銃弾を撃ち込んでくる。
やはり人は人だ。
こいつらはエルフほどに学ばないのか?
そんな小金属の塊を何百、何千撃ってきても意味がないと気がつかない。
それは一瞬、雷撃魔法でまた狙い倒そうかと考え、それを変えた。
人の恐れる姿をわざわざ選択しているのだから、活かさない手はない。
それはバーガーショップの奥に逃げてしまった人を諦め、店から躰を引き抜くと、遠い方の警官らを選び向きを変え触足の爪をアスファルトに食い込ませ派手に猛進した。
途中にある車をわざと横へ派手に弾き飛ばし、その先に隠れカービンを撃ち続けるものらに恐怖心を植えつける。
お前らの車なみの速さで十字路の直前に止まっている白と青の警察車輌のボンネットから屋根に駆け上がり、そのトランクに隠れていた2人の警官らを見下ろした。
こいつらは先に殺した警官らと装備が違うと気がついた!
警察特殊部隊!
左右のESUがカービンを振り向けきるよりも速く、そのヘルメットを被った頭で見上げる2人の首を前の触足の爪で左右の警官らの足下に斬り飛ばした。
狂ったみたく撃ちまくる右にするか、左にするかと考え、瞬時に女の隊員がいる方を選び跳躍した。5人いる内の女1人を護るために、男らがどれだけ抵抗するか、と楽しみながらそれは手前の警官からアーマー・ベスト越しに爪で貫いた。
あと3人の男らの1人が撃つのを止めいきなり肩から体当たりをしてきた。その警官をすぐに殺さず、足払いをかけ倒すと片触足を強めに載せ身動きを封じ、残る男ら2人に前の触足を振り上げて止めてみせた。それでも後ろにいる女の隊員を護るために逃げだだない人どもにゆっくりと爪を下ろしてゆく。
1人が逃げだそうと足を横に繰りだした刹那、その男の首を跳ね、もう1人のヘルメットに爪先を当てた。
まだ撃ちまくるその男に感心し、殺さない程度に殴り倒した。
最後尾にいた女の警官がたまらず撃つのを止め傍にある装甲車のドアを開け中へ逃げ込み力強くドアを閉じると、踏み敷いていた警官のアーマー・ベストに爪を引っ掛け、装甲車のフロント窓に押しつけた。
そうしてその警官の胸を爪の腹で押してゆく。
装甲車が揺れ、少しずつ押され下がり始めるが力を増やし続けた。その警官は両手で爪をつかみ押し返そうと足掻くが、やがて息ができなくなり、爪を掴んでいた手を放し横に垂らすと気を失いがっくりとうなだれた。
それでも胸を強く押さえ込んでゆく。
人の躰を熟知していた。
どこまで堪えるかを承知で徐々に押さえつけ────いきなり破綻した。
肋骨が背中のアーマー・ベストを貫き、強化ガラスのフロントウインドを突き破った。同時に車内に籠もった女警官が悲鳴を上げ、後部ドアから逃げだそうとした。それは装甲車に駆け上がり後部ゲートから女警官が飛び出すのに先んじると上から前に爪を振り下ろし肩から肺と心臓へ貫くとその触足を振り上げその女警官を後ろに投げ飛ばした。
十字路の東側から撃っていた警官らにその女警官の死体が飛んでくると、それの背後がやっと静かになった。
それは振り返り装甲車のフロントへゆっくりと下りてゆくと、背中へ撃ち続けていた5人のもとへじわじわと迫りながら思った。
喜んでいる────そうだ────あのショッピングモールに降臨してからというもの、人を狩り殺す事に喜びを感じている。エルフを大量に殺した時に感じなかったが、どういう変化だ!?
この世界の人から知識だけでなく感情すらも取り込んだのだ!
それは蛇と百足の顔を歪ませ口角を持ち上げて5人の警官らに近づいた。
合同庁舎から近かったのと交通規制のため思いのほか通報のあった現場にたどり着いた。NSAのFWD(:4駆乗用車の米での一般的呼称)はジョンストリートを西から走らせてきたハンドルを握る即応課新人のメレディス・アップルトンは前方にNYPDの装甲車数台が見えだして助手席の先輩ヘレナ・フォーチュンにどうするか尋ねた。
「先輩、ESUのトラックがいます。バックの邪魔になるといけないので離れた場所に駐車しましょうか?」
「いいのよ、真後ろに停めなさい。NYPDになんて気にする必要ないんだから。邪魔になったら呼びに来させるといいわ」
運転してるメレディスは苦笑いして消防車なみの特殊部隊トラックの真後ろにSUVを停めた。
「さぁ! あんた達、アサルトライフル用意!」
陽気にヘレナが命じて、後席にいるヴェロニカ・ダーシーが2人にSG751SAPRーLBと予備弾倉を5つずつ渡した。新人2人は即座に銃のチェンバーと弾倉を確認しアサルトライフルに装填する。運転席のメレディスが準備するのをヘレナはじっと見つめて、自分も同じ様にやり始め思った。
危ないあぶない。
アサルトライフルなんて訓練をいい加減にスルーしたんで使い方わからないのをさらけだすとこだったわ!
「ヴェロニカ、予備の弾はもっとあるんでしょうね?」
ヘレナに尋ねられ、後席の彼女は微笑むと黒のコンバットバッグを持ち上げた。
「先輩、大丈夫です! 事務所にある弾倉全部持ってきましたから」
全部? 16人分の予備を!? まあ、いいわ。多いに越したことないから、とヘレナはアサルトライフルのスリングを被って銃を胸の前に襷掛けにすると勢いよくドアを開いて外に下りた。そうして前にいるNYPDの特殊車輌の横へ視線を振り向けてウィリアムストリートの交差点を見て眼が点になった。
何か────いる!?
乗用車ほどの大きい蜘蛛で蠍の様な尾が3つも────ある!?
そういえばNYPDからの電話で野獣がどうのとこうのと言ってたのをヘレナは思いだした。
新人2人も車外に出ると、ヘレナは助手席に飛び込む様に腰掛け、ドアを勢いよく閉じたので新人らは顔を見合わせた。
ヴェロニカが助手席の窓をノックするとヘレナはガラスを1インチだけ下ろした。
「先輩、行きましょう!」
ヴェロニカが言うと青ざめたヘレナがボソリと言い返した。
「あんた達、車に戻りなさい!」
「えぇ!? どうしてですか!? 状況を視察に来たんじゃないですか」
ヘレナは助手席で一生懸命にフロントガラスを指さし怒鳴った。
「交差点を見なさい!! あんなものにライフル3挺で敵うわけないでしょ!!」
ヘレナに言われ、ヴェロニカは特殊車輌の先へ顔を振り向けた。
交差点の一部が見えて、その先にも人影すら見当たらない。何にもいませんよと、助手席の先輩に言い返そうとしてヴェロニカは振った顔を自分達の車のルーフの方で止めてしまった。
運転席の外で特殊車輌の先を見つめるメレディスの顔が強張り彼は運転席に戻ろうとしだした。
「ちょっと、2人とも!」
文句を言おうとした彼女は特殊車輌の先で何か大きなものが動き視線を向け肩に下げたコンバットバッグを落としそうになり慌てて後席のドアを開くとSUVに乗り込んだ。
「せ、せっ、せんぱ────くも、くも、くも、く・も!!」
「わかってるわよ! 私も見たから! 蜘蛛は一匹よ! 一匹だけ! ちょっと────デカいけど。メレディス、さっさとエンジンかけて車をバックさせなさい! 静かにやるのよ!!」
運転席のメレディスは思いっきりハンドルポストのイグニッションキーを捻ると素っ頓狂な声を上げた。
「あぁあああぁぁ!」
「何やらかぢたの!?」
尋ねるヘレナの声が裏返っていた。その彼女へメレディスは手に握ったものを見せると、ヘレナは天井に両手を振り上げぶつけてしまった。
「せんぱい────折れちゃい────ました」
見ればわかるわ! 車のキーをねじ切るなんて、とんでもない馬鹿力ね!! いやいや、そんな事はどうでもいい! この後、どうするかよ!! ヘレナは3回深呼吸すると2人へ告げた。
「いいこと、車から下りて交差点とは逆側へ逃げるから。逆側よ! 音を立てない様に!」
ヘレナがそう言うと2人は力強く頷いた。そうして真っ先にヘレナがそっとドアを開いて車から下りると2人も続いたのでヘレナは小声で命じた。
「ドアは閉めなくていいから──」
車から歩き始めた刹那、ヴェロニカの方から派手なダースベーダーのテーマ──メタルバージョンが大きな音で流れ始めた。




