Part 14-5 Military Logistics Instructions 兵站指示
TAT(/Tactical ground Attack and Transport aircraft)-2 Humming-bird, Flying over NY. 13:11
13:11 ニューヨーク州上空 戦術対地攻撃輸送機ハミングバード機内
兵士達の間から右腕が伸ばされ、床でまだ笑っているハイエルフを指さしマリーへ質問したものがいた。
「マリー! その人の頭の中、バリバリのファンタジーしてるんですけど! 精霊魔法とか、攻撃系魔法とか、爆炎術式っていったい何なんですか!?」
動揺する表情の隊員達が左右に分かれ後ろに立つミュウ・エンメ・サロームがまだシルフィーを指さしていた。
マリーは自分の額を左手のひらで押さえるとぼそりと呟いた。
「ミュウ──あなたの勘違いよ──」
だがはぐらかそうとしたマリア・ガーランドに珍しく特殊情報上級職員が反目しこだわった。
「チーフ! 私が今、勘違いしてると!?」
ミュウは頭振るとハイエルフを指さしていた腕を下ろし腰に当てた。
「納得できません。だってその人、ベルセキアを追い詰め”爆殺”するか”隔絶の証”で再生できないほどにえぐり殺すと執着してるんです!」
ミュウが早口で言い切るとベルセキアという単語を理解しシルフィ・リッツアが喧嘩腰で立ち上がりエルフ語で怒鳴りながらミュウに詰め寄ろうとし彼女が後退ろうとした。
"Hvar eru Berserker !?"
(:狂戦士がどこにいるだと!?)
その女戦士がマリーの横をすり抜けミュウに詰め寄ろうとした瞬間、女指揮官は右手を横に振り上げて顔面に拳を打ち込み直後ハイエルフはデッキに両膝を落とし前のめりに卒倒するとマリーは皆に怒鳴った。
"Listen, Soldier !! Give instructions on military logistics !!"
(:聞きなさい! 兵站上の指示を出す!)
その命令に皆の動揺が一瞬で収まった。
"Ammunition refilled for full combat level at HQ."
(:本社にて弾薬を完全戦闘対応補充)
"Heavy Weapons soldiers prepare FGM-148."
(:重火器兵士は歩兵携行対戦車兵器を用意)
その武装指示に元英国陸軍特殊空挺部隊の2人が揃って反論しようとしたのをマリーは睨みつけ黙らせた。
"It becomes a heavy battle in the residence area."
(:居住区での重戦闘になる)
"Individuals minimize Fratricide and Collateral Damage to civilians."
(:民間人への付随的被害や味方への誤射を最小限に)
"That's all !. Do you have any questions ?"
(:以上! 質問は!?)
「マリア、ご自分が出されてる指示を本当に理解してるのか?」
案の定、真っ向から問い質したのはマーケットで2小隊を率いて怪物と対峙したロバート・バン・ローレンツだった。
「百も承知! 文句のある奴はクリーチャー狩りから外す!」
有無を言わさぬ命令にそれ以上の質問はなく立っていたものの殆どは内壁の折りたたみ椅子に腰を下ろした。
マリーは後部ランプのあった方へ振り向くと仰向けに伸びてるアン・プリストリの傍らに行き片膝を床について腰を下ろし、彼女の胸ぐらをつかんで頬を一発平手打ちした。
「起きなさいアン!」
「○X∞♀#@────」
朦朧としてわけのわからない返事をするのでマリーは彼女の耳元に口を寄せ囁いた。
「あなたの好きな火器で敵を叩きのめしなさい──」
途端にアンは双眼をカッと見開くと床に座り込んで巻き舌で聞き返した。
「ホンとかァ!? 好き勝手ェしていいのかァ!?」
「ええ、至急用意できるものでジャベリン以上のものはあるの?」
問われアンは一瞬の躊躇いもなく首を縦に振り出しマリーは不安になったが承諾した。
「任せるわ」
口を半開きにしてニヤニヤし始めたアンに背を向けマリーはシルフィー・リッツアを抱き起こした。
マリーは彼女がベルセキアと言う怪物の事が気になった。名前で呼ぶほどあんなクリーチャーとどうしてエルフが関わる様になったのか知る必要があった。無防備の相手にダイヴするという抵抗はあったが意識をなくしている女戦士の額に手のひらを押し当て記憶に入り込んだ。
煙と火の粉が風に流される。
マリア・ガーランドは顔を強ばらせた。
辺りは焼け落ちた幾つもの巨大な樹木の株や燻る折れた幹に残り火が立ち上っている。そのいたるところに無惨にも首のない遺体が倒れている。
なんなのこの惨状は!?
押し殺した忍び泣きが耳に入り、動揺するマリーが顔を振り向けると同族の女を地面に両膝を落としたシルフィー・リッツアが抱きしめむせび泣いていた。
"Af hverju... Af hverju líkar þú það..."
(:どうして──どうしてあんなものを──)
記憶共有しているマリーにハイエルフのものが流れ込み抱きしめている躯の名がスオメタル・リッツアでありシルフィー唯一の肉親──姉である事が瞬時に理解できた。
シルフィー・リッツアの同族は逃げ延びたものもおらず焼け落ちた森の残骸に散らばっていた。
数百しかいなかった彼女の種族がシルフィーを最後の1人とした。だがなぜ彼女の姉には頭部が残されているのだとマリーの疑問が膨れ上がった。
いきなりマリーは記憶から締め出され、戦術攻撃輸送機の貨物室で眼の前に抱きしめているハイエルフが瞼を開きかかって瞳を游がせた。
"Hvar er Berserker...Hvar er þessi strákur...?"
(:ベルセキアは──あいつはどこだ──?)
座り込んだハイエルフ戦士が自分らの言語でマリーに問いかけた。
"Ég er að leita að því núna. Því miður fyrirgefðu Silfy."
(:今、捜させてるわ。殴ってごめんなさいシルフィー)
「ふん、こいつのどこが特殊メイクだと? そのまんま異人じゃな」
マリーが横を振り向くとワーレン・マジンギ博士が彼女の横に腰を下ろしハイエルフの顔を覗き込んでいた。
「アイルランド人じゃと? おまえさんらの話してる言葉はアイルランド語じゃないのう。わしの従兄弟の嫁さんが生粋のアイリッシュでな」
「教授、それ以上詮索しないの」
マリーが小声で窘めたが、博士は食い下がった。
「コントロールの難しい電磁力場制御が必要なエネルギーシールドとはなんじゃい? 確かにラボで融合炉の研究はしとるが、リアクタの仕組みとは別もんじゃないか。おまえさんらを護るあの青いシールドの仕掛けがさっぱりわからん」
マリーはカリフォルニアのNDC研究所がトカマク型核融合炉の研究をしていたとルナの知識から思いだし、その磁場封じ込め手段の仕組みに混乱し苛々しながら小声で博士に言い訳をした。
「黒魔術だと言ったでしょう!」
「ほーう? ブードゥ教はいつから力場壁を操れる様になったのかのー? ありゃ呪術で──」
マリーに本気で睨まれ博士が口ごもり身を引いた。そのマリーの視界にコクピットへ降りる通路出入り口にアリスが立って手招きしているので立ち上がるとシルフィーの耳に手を伸ばした博士が彼女から手のひらを叩かれ見下ろしたマリーは教授を蹴ろうと足を上げるとワーレン・マジンギはシルフィーから離れた。
「どうしたのアリス?」
マリーが歩いてゆき少女に声をかけると、アリスはハイエルフの方を気にしながらマリーに本部の情報2課エレナ・ケイツから無線連絡だと告げた。マリーが少女の横を通り過ぎようとするとアリスは小声で尋ねた。
「マリー、あの人お耳がバニーガールしてる」
「アリス──あなたの幻覚よ──」
マリーは少女の表現に呆れて適当に言い残してコクピットへ降りた。操縦席へ行くとヴィクトリア・ウエンズデェイがまだ怒っており、マリーへ無言でヘッドセットを手渡しそれを受け取りながら彼女はキャノピーの遠方にマンハッタン島が見えた。
"This is 'M・G' , Report !"
(:M・Gよ、報告を)
"─Commander, We found a monster !"
(:『チーフ、怪物を見つけました!』)
指示を与えてまだ10分も経っていなかった。もう捜し出したのかとマリーは驚いた。その早さが逆に嫌な予感を引き寄せている。
"Where is it ?"
(:どこに見つけたの!?)
言わないで欲しい。私がもっとも身近とする場所を言わないで────。
"─The Creature is at war with police on the north side of Wall Street ! William St. !!"
(:『ウォール街の北側、ウィリアムストリートで警官達と交戦中です!』)
"Holy !! Fuck !!!"
(:くそったれがぁ!!)
聞いた瞬間にマリア・ガーランドは怒鳴り無線機を殴りつけた。
直後、彼女はヴィッキーに睨みつけられていることすら意識になかった。ハドソン・リヴァーの先の半島。900万人が暮らす有数の大都市。
あの怪物が望む最高の餌場!
シルフィー・リッツアの魔剣どころか、自分の下手な攻撃系魔法すらも使えない。
あいつは銃弾だけでなく爆発や爆炎、レーザーさえも防ぎきる。自分やハイエルフが行使する精霊魔法障壁と同じものを使えるのだ! ジャベリンですら魔法障壁を穿つ事が不可能に思えた。
「チーフ、悪いがコクピット内のものを殴りつけないでもらえるか? それほど頑丈じゃないんだ──」
ヴィッキーにたしなめられ彼女は謝るとカーゴルームへ引き返そうとしてヴィッキーに呼び止められ振り向いた。
「それと、ハミングバード後部が破損したせいで電子擬態が使えない。NDCビル・ヘリポートに着陸させるのを市民に見られるぞ。事後処理を覚悟した方がいい」
「構わない。どのみちあなたにウォール街の通り1本を機銃掃射してもらう事になるわ」
「はぁ!? 20ミリだぞ! 6発に3発が劣化ウランの徹甲弾で2発が榴弾、 1発が高発火性曳光弾で毎秒690発飛んで行くんだ! 本気なの!?」
「足らない──それでも足らないわ」
陰鬱な眼差しでマリーがぼそりと言い残して階段へ消えると、ヴィクトリアは顔を強ばらせ向き直り近づくNDCビルへ向け機体を旋回させ始め、自分達が対処しようとしているものを考えた。精神共有情報でニュージャージーのショッピングモールを襲った怪物の事は理解しているものの、現実との乖離が大きすぎると感じた。
マリア・ガーランドの事を信じているが、相手はテロリスト以上の厄介な正体不明の獣なのだ。数千発のライフル弾に堪え、短時間にニューヨークまで移動してくる様な奴からか、20ミリ機関砲でしとめられないと彼女は思っている。
それでもその困難をあなたが受け止めないと、部隊が総崩れになる。
入れ違いにアリスが入ってきたのをヴィクは足音で気づいた。少女がコパイ・シートに腰掛けるなり、ヴィッキーに話しかけた。
「ヴィク、聞いて聞いて! カーゴルームにバニーガールがいるの」
「はぁ!?」
緊張が切れたスターズトップパイロットは降下速度が速すぎるのを気づくのが遅れた。
マリーがカーゴルームの出入口に立つと皆が顔を向けてきた。彼女は7分で装備補充させ、チェルシーからだとウォール街まで2分で到達すると考え命じた。
"Equipment ammo replenishment within 7 minutes, including boarding ! The Combat Zone is William Street north of Wall Street ! "
(:搭乗も含め7分以内に機材弾薬補充! 戦闘領域はウォール街北のウィリアムストリート!)
言った瞬間にどよめきと皆が驚愕の面もちになった。
何人かが質問しかかったがマリーは声を張り上げた。
"As everyone knows, If we don't slay it, regular troops will come..."
"...Then the big apple will be completely over !"
(:皆承知の通り、我々があれを屠らなければ正規軍がやってくる──それでビッグアップルは完全にお終いになる!)
"Come on ! All units, Gear up !! I'll show Ur
hell of the hell !!!"
(:いいか! 気合いを入れろ!! 地獄の底まで私がついていく!!!)




