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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #13
63/206

Part 13-2 USNAVY-CSG アメリカ海軍空母打撃群

USS George H.W. Bush (CVN-77) USNAVY-CSG(/Carrier Strike Group)2 USFLTFORCOM 70 nautical miles to battle area with Maryland, Central Atlantic Ocean Local Time 17:12 GT-18:12


グリニッジ標準時18:12 現地時刻17:12 大西洋中央海域 メリーランドとの戦闘海域まで70海里 アメリカ海軍総軍隷下第2戦闘打撃群 空母ジョージ・H.W.ブッシュ



 アイドル回転する回転翼は飛行甲板(デッキ)上でもっとも危険であり空母で発生する死亡や負傷事故の多くはそれがもたらす。射出直前や発艦待ちの点検で駐機するF18系ジェットエンジンの騒音に警戒飛行隊(V A W)のEー2Dアドバンスドホークアイ早期警戒機の2基のアリソン製ターボプロップエンジンや8枚翼の回転音など掻き消され不用意に近づきヒットされるデッキクルーが出ないように駐機区画(コーラル)でエンジンスタートする直前に緑や茶色のジャージを穿いたメカニックやチェーンギャング十数名がセーフティー・サークルを作り他のクルーを寄せ付けない。



 だが夕刻の黄昏の中、タイダウン・チェーンとタイヤ止め(C h o k e)が外され取り囲んでいた緑や茶色のジャージを穿いたクルーが前方を開きプレーンマネージャー(P M)のハンドサイン合図により飛行甲板(デッキ)を左舷に伸びるアングルドデッキ中央に掛かる第3カタパルトへ駐機区画(コーラル)からアングルドデッキのファールラインを越え閉じた鳥の翼のような状態の両翼のまま同機が移動を始めた。ヘルメット、ベスト、パンツすべてが黄色のプレーンディレクター(P D)の誘導指示によりタキシングを開始すると前方が危険になりセーフティー・ラインは解除され発艦担当のクルー達12種のデッキクルーが先んじ飛行甲板(デッキ)上の定位置で引き継ぐ。



 タキシングしていたEー2Dはカタパルトの前につくと機体後部にジェットブラストディフレクターが上げられ機体を加速させるシャトルと機の前脚のランチバーを、それに不用意な機の前進をはばむホールドバックバーの接続が手早く進められる。その間、プレーンディレクター(P D)のハンドサインによりパイロットが閉じていた両翼を展帳するとウエイト・ボード・オペレーターがパイロットに掲げた6桁の数字が表示されたボードで離陸重量を確認する間、緑のヘルメット、白色のベストとパンツ姿のスコードロン・オペレーターがすべての動翼の確認をし、一団の最前方に立つシューターにサムズアップのハンドサインを行う。



 T56ターボプロップが1万5千回転の最高出力を張り上げ離陸準備が整い、シューターはバウ・セーフティー・オブザーバーとカタパルト・オブザーバーが離陸可能のサインを出しているのを確認し機の右手前方で甲板に片(ひざ)をつき艦首へ向かい人差し指と中指を向け右手を勢いよく差し出した。



 53000ポンド(:約23000kg)の機体がCー13ー2カタパルトの水蒸気の高圧と機の推力により2秒で160ノット(:約296km/h)にまで増速されてEー2Dグローバルホークアイは軽々と離甲し朱く染まる雲へ旋回上昇に入った。



 その光景を艦橋(アイランド)航海艦橋(パイロットハウス)左舷の艦長席で見ていたスティーブン・C・エヴァンス艦長はかけられた声に振り向いた。



艦長(スキッパー)、本部より入電です」



 通信担当士官が1枚の書類を差しだしスティーブンはそれを受け取った。彼が眼を通すと戦術リンクを通し送られてきた発令は海軍総軍(FLTFORCO)からだった。



──襲撃を受けたメリーランドから2発のトライデントⅡD5がワシントンへ向け撃たれ、投射体(R V)の1発がワシントンに着弾。着弾は不発弾。目下同艦はロシア海軍軍人を名乗る襲撃者の占領下にあり。現場海域にロシア海軍北方艦隊と数隻の攻撃型原潜が急行中。国防総省(D o D)は大統領命令により次の米本土に向けての核弾頭弾攻撃の阻止と複数の占領目的からオハイオ・クラスの拿捕だほ危虞きぐしこれを阻止すべく北方艦隊の行動阻止並びにメリーランドの撃沈もやもうなし。同作戦を『ポセイドン・ストライク』と呼称。



 全軍合同作戦とし、これに第1、2、5空母打撃群(C S G)、及びシーウルフ、ヴァージニア級攻撃型原潜3艦を派遣。



 ただし同艦奪回作戦のサブプラン準備中につき今作戦の動向を逐次リンク16にて確認せよ。



                    以上



         海軍総軍(FLTFORCO)──。



 現場海域へ最も近かったのは第2艦隊の合同訓練を行っていた我が第2空母打撃群だった。真っ先に現場海域へ到達し、直ちに同じ海軍兵である米国民に死の宣告を下さなければならないのも我が打撃群になる。他の随伴艦13艦の艦長も難渋たる思いに違いないと彼は思った。彼は第2空母打撃群(C S G 2)の指揮権を持つ提督であり1つ星の少将(R A D M)であるので本来は艦隊指揮は行うが艦長職務は務めないのが原則だった。だがメリーランド撃沈作戦が重要であることをかんがみ海軍総軍から空母艦長としての指揮も任され、本来の艦長は副長(X.O.)に就いている。



「艦長、フィリピン・シー艦長より入電」



 方位320、1海里(:約1.8km)を先行するタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦からとデッキ当直士官に知らされ艦長(スキッパー)はすぐに艦長席のヘッドセットを取るとスピーカーを左耳にあて操作卓の通話ボタン押し込み答えた。フィリピン・シーのモーゼス・ハンフリーズ艦長は航空戦闘指揮官(A W C C)でもあり接敵するロシア海軍北方艦隊との制空権を争うことになる戦術変更意見の可能性を提督は意識した。



「スティーブンだ。どうした?」



『提督、指定戦闘海域方面に複数の爆轟をソナーが確認。方位は正確ですが、距離は遠距離反射波の導波帯サウンドチャンネルが不安定で10海里ほど前後に誤差があるのでメリーランド襲撃海域とは断定できません。ペンタゴンからの解析衛星画像を見ましたが現場海域に水上艦艇なし。北方艦隊の方はまだイージスの検知外(O O S)。ソナーマンはある程度の深度での魚雷の爆轟だと言っています』



「わかった。念のため洋上監視の偵察機を向かわせるが60海里(:約111km)となると対潜ヘリの方は搭載できる空母以外の駆逐艦2艦の都合上4機しか出せない。それでは網を張る意味がない。打撃群全艦がさらに前進するまで引き続きモニターを続けさせろ」



 艦長(スキッパー)は通信を切るとそばに本来の艦長(スキッパー)である副長(X.O.)──ブランドン・コールズ大佐(CAPT)が立っていた。



「エヴァンス提督、対潜水艦戦闘の準備が整いました。第2艦隊との対潜水艦訓練でスパルタンズ(HSMー70)の機材と人員が多く手間取りましたが、いつでも同時に10機のMHー60Rを投入できます」



「ブランドン、海軍総軍(FLTFORCO)は依然としてメリーランドを撃沈せよと言っている。メリーランドからワシントンにD5が撃ち込まれたのでいきり立っている。ペンタゴンも同じ状況下で動いている」



 声のトーンを下げ話す提督に、他の乗組員にはまだ報せるべきでないとコールズ大佐(CAPT)は思った。だが航海艦橋パイロットハウスは狭くこの会話はすでに十数人の部下達に聞かれていた。



「トライデント()D5を撃ち込んだのでありますか!? ですがデフコン2よりも警戒レベルが上がっておりませんので、起爆しなかったのですね」



「幸いにも不発だったみたいだ。だが大統領命令で二撃目を実力阻止するようにと報せてきた」



「では先行するピッツバーグとニューポート・ニューズへ連絡を入れましょう。あと20分ほどで定時連絡のため潜望鏡マストを上げるはずです」



 第2空母打撃群(C S G 2)の随伴攻撃型原潜として今はロサンゼルス級SSNー720ピッツバーグと750ニューポート・ニューズが他の敵対攻撃型原潜から空母打撃群を守る任務に就いていた。当然、彼女らに真っ先にメリーランドへ攻撃を仕掛ける重い役割がのし掛かるし、現場海域で戦闘行為が考えられる以上、メリーランド以外に敵勢の他の潜水艦がいる可能性が大きかった。



 両艦とも退役を目前に控えた旧型なので2艦では荷が勝ちすぎる。対潜水艦戦ということで臨時編成で組み込まれた第22駆逐中隊(DESRON22)のアーレイバーグ級駆逐艦3艇と空母打撃群(C S G)アーレイバーグ(DDGー51)はいずれもフライト()以前のグレード艦でヘリの搭載ができず回転翼海上打撃飛行隊を出すとなると空母打撃群(C S G)トラクスタン(DDGー103)ルーズベルト(DDGー80)を送り出さなくてはならない。だがそれでは空母が潜水艦の脅威にさらされる以上、非常にリスクが高く踏み切れなかった。



「本格的な戦闘に入る前に、奪回作戦が立案実行されれば良いのだが」



 そうエヴァンス提督が告げるとコールズ副長(X.O.)が驚いた。



「海中にあるメリーランドをどうやってですか!?」



「それを考えるのが国防総省(D o D)の仕事だ。だがシールズ(SEALs)ならやれるかもしれん」











 MGKー540Skat3統合ソナーシステムの上段モニターに表示されるブロードバンド広帯域(B B)ソナー()・カラーグラフに突如とつじょ反転表示された2つのピークが出現し、その音源をナローバンド狭帯域(N B S)が受け取り音紋から識別不明と表示されたが問題はその速度だった。



 瞬間、アクラ級Kー461ヴォルクのソナーマン──ミロスラーフ少尉補はデータが読み間違いなのではとモニタをにらみ据えながら発令所(C R)で怒鳴った。



「雷撃2! 方位10、雷速556(㎞/h)!! なおも加速!! 4秒で着弾!!」



 耳にした艦長──スタルシノフ・S・エレメンコ大佐(KPR)は顔を強ばらせた。雷速556でさらに増速だと!? 我が軍のシクヴァル(VAー111)より遥かに速い魚雷が西側にあるのか!?



 4秒、操船を含めあらゆる対抗処置がもはや時間切れだった。いくら超高速魚雷であってもそのような近距離に敵艦がいたのをどうして優秀な古参ソナーマンが見落としたのか!? そこまで彼が意識した直後船体外殻(がいかく)AKー32高張力鋼付近で1発目が爆発し、右舷を2発目が通過し僚艦アクラ型Kー335ゲパードへと突進した。



 その通過音を内壁越しに耳にした刹那、艦乗組員の半数以上が視野に飛び散る閃光の眩惑げんわくを目にし、同時にすべての電源が落ちた。



 非常電源にすら切り替わらない暗闇の状況下、後部機関室でクブリヤン機関士長は咄嗟とっさに機転を利かせた。彼は煙草を吸うためのマッチをり照らされた揺れる明かりの中で機関士達を見回し、ディーゼルエンジン整備用のウエスにB重油を浸しそれを部品トレーに載せ火を着けた。



 クブリヤンは制御パネルどころか整備に使うハンドライトすら使い物にならない状況で、独立している電気システムが全般的に使い物にならないことから絶対に故障のたぐいではないと確信し何らかの攻撃を受けた結果だと断定した。



 次に彼は不安を抱いたまま2つのハッチを抜けOK652B加圧水型原子炉区画へ急いだ。そこでも制御卓や電気系すべてが沈黙しており、のぞく鉛を含み黄ばんだ対放射線観測窓ガラス越しにポンプすべてが停止しているのを目にし顔を引きらせた。唯一1次と2次冷却水の機械式水温と圧力ゲージは機能しており2次冷却水圧力は急激に下がり、反比例して1次冷却水の水温と圧力はぐんぐんと上昇し温度は400度に届いていた。



 このまま何らかの手段で冷却系を確保し動力タービンや発電機を回しても肝心の発電機や動力タービンの電気系制御ができず原子炉を活動させることに意味がない。



 もはや発令所(C R)に許可を求める余裕はなかった。



 クブリヤン機関士長は強制停止後の炉の再起動にかなり時間がかかると知りながら機械式の緊急炉停止システムのレバーの安全装置を解除しレバーを押し下げた。



 リンクした制御棒が一瞬で炉心に入り込むと彼はきびすを返し、部下達にマッチ箱を渡し黒煙の上がる重油ランプを手に発令所(C R)を目指した。



 次の難関は停止した空調機だった。それには二酸化炭素還元機が連結しており、艦内の空気が急速に悪化しているのは明白だった。











 ディプスオルカの艦首(バウ)後方側面から射出された27インチ(:約69cm)径の非殺傷弾頭(N L W H)ミサイル2発はノーズコーン先端とその外周から多量の高圧ガスを噴出しながらスーパーキャビテーションと外殻表面のディンプル加工、テフロンコートにより海水との摩擦抵抗から守られ50ヤードで1段目を切り離し(ディスコネクト)するとさらに固体燃料を燃やし加速し続け380ノット(:約704km/h)を目指した。



 2発は入力された諸元からレーザージャイロ慣性誘導と制御基板がミサイル中間部にベントラルフィンを突出させ一部の側面キャビテーションを切ることで進路誘導し、ノーズコーン中間部から前方へレーザーコーンを広げることで索敵さくてきスイープしながら目標を捜した。



 数秒で1発目のミサイルがアクラ級ヴォルクを捉え激突600ミリ秒前に標的艦周囲へ8本のワイヤーを打ち出しアンカーをタイルに打ち込み、レーザー近接信管が起爆した。



 多重螺旋発電機(/Multiple Helical generators)のラウンド中心948ポンド(:約430kg)コンポジションH6合成爆薬が前方から起爆するとインバーターから通電されていた外周の多重コイルを前方から秒速1.5kmで破壊圧縮することで磁場を集束させ高電圧と電流を生み出し、それを後部の新型大容量キャパシタで蓄え一瞬で解放し非常に高圧のバースト・パルス電流を生み出した。



 その超高電磁波はミサイル本体だけでなく張り伸ばしたワイヤーを足場にアクラ級の1.9インチ厚の外殻がいかくを易々と乗り越え艦内のあらゆる配線やコイル、基板の配線パターンに強力なサージ電流を生みその過剰電流が配線類の脆弱ぜいじゃくな部分を焼き切った。同時に強力な電磁波の生む傾斜磁場の変動は乗組員たちの視神経に刺激を与え多くのものに飛び散る流星群のような眩惑げんわくを見せた。



 同じことがヴォルク後方219ヤード(:約200m)の上──深度500(:約152m)にいるゲパードにも1秒半後に起きた。



 2艦のロシア海軍攻撃型原潜はあらゆる強電、弱電能力を失い惰性で沈降してゆく先でSー123カトソニスを繰艦するもの達は何が起きたか理解できず、それでも中央海嶺(かいれい)の山脈を越え追撃してきたロシア艦のキャビテーションが急に消えたことにより、圧壊限度ぎりぎりまでの潜行を止め速度を微速に落とし上昇に転じた。だがその先に彼らのうかがい知らぬ巨大な原潜が一(そう)待ち構えていた。











 オハイオ級メリーランドの発令所(C R)からソスラン・ミーシャ・バクリン大佐(KPR)がソナールームへ駆け込んできた。



「Mk48が命中しなかったのは間違いないのか!?」



 ウォーターフォールと呼ばれるパッシブ音源の帯域変移が上から下へ流れる上段液晶モニターを見つめたままマルコワ・カバエワ・ジャニベコフ少尉(LT)は顔を向けずに上官に答えた。



「同志大佐(KPR)、Mk48の爆轟とは違いますしこちらは4本放ち聞こえてきた爆轟は2つでした。それら爆轟の後に確かに2種のキャビテーションをロストしました。アメリカ人のシステムはその2艦がアクラだと識別しています。2艦とも対抗処置としてFTC(:疑似気泡発生器.カウンターメジャー)を放出する間もなく爆轟が起きています」



「それでは2発の魚雷が不発で残りの2発が命中したのではないのか!? 圧壊音は!?」



「わかりません。圧壊音は耳にしておりません。ですが直前にシクヴァル(VAー111)のロケット噴流のような音をはっきりと耳にしましたが、その起点には何の音源もなく均一な水中ノイズの背景輻射にも乱れはありませんでした。ロケット魚雷射出後、その謎の艦は推力を切ったホバリングもしくは惰性航行にあるか、恐ろしく静かな艦なのかのどちらかですが、それ以前に多数の──何と言ったらいいのか──カチューシャ・ロケットシステムのような射出音を耳にし、いまだにそれが何であったのか理解しておりません」



 ここにきてロシア製ロケット魚雷の名や陸軍の古いカチューシャ・ロケットシステムの名が出てきて、ロシア海軍はアクラ以外にも最新艦を派遣してきている可能性をバクリン大佐(KPR)は想定していた1つの状況として認識した。



 この中央海嶺(かいれい)近辺の海域には、乗艦しているメリーランドと僚艦Uー214Aとアクラ2艦、それに謎の艦が不確かではあるが潜伏している可能性があった。



 マルコワはロシア海軍きってのソナーマンだ彼の耳が聞いたというのなら、確かにシクヴァルまがいの魚雷を放てる存在と、カチューシャ・ロケットシステムのような射出音を出す存在がいる可能性がいると思った方が良かった。



 問題は僚艦Uー214Aを指揮するアレクサンドル・イリイチ・ギダスポフ中佐(KVR)がそのことに気づいているかだ。もしかしたら、その謎の艦にギダスポフ中佐(KVR)はつけられている可能性が大きい。



 この艦は魚雷射出後、微速で移動したので謎の艦に追尾されている可能性は極めて低いが、相手がヤーセン(級)だとどうだろうか。SPMBMマラヒート首席設計技師 が手を染めた優秀な艦種だ。静音、探知能力ともにアメリカ原潜を上回る能力だと知りおどろいたのだが、同じロシア海軍潜水艦乗りにすら諸元は隠されている。



 アクラ2艦のキャビテーションが爆轟と同時に途切れているとしたら沈められた可能性があり、ヤーセンが襲う理由が理解できない。なら、アクラを襲ったのがアメリカ原潜であり、シーウルフかヴァージニアの可能性はないか? いいや、アメリカがロケット魚雷を配備したとは一度も耳にしていない。だがアメリカだ。シーウルフを進水させたときに完全な箝口令かんこうれいを徹底させた国だ。謎の艦はアメリカ原潜である可能性が大きい。



「マルコワ少尉(LT)



「何でありますか同志大佐(KPR)?」



「直感的にお前が変だと思うものを見つけたら何でも報せろ。間違いでも構わない。海域に隠れた艦が少なくとも1艦いる」



了解(アイサー)であります。あのう、同志大佐(KPR)──」



 ソナールームのハッチから身を引きかけたバクリン大佐(KPR)は顔を戻した。



「どうした?」



「そのシクヴァルまがいのロケット魚雷ですが、雷速が400ノット近くまで加速したのですが、確証はありません」



 740(km/h)だと!? ありえん! 水中ではそんな高速は出せない。バクリン大佐(KPR)はそう思いながら発令所(C R)を目指した。











「各非殺傷弾頭(N L W H)ミサイル、弾頭作動! 高周波電磁波発生! 急激に収束!」



 兵装担当(Weapon)カッサンドラ・アダーニ──キャスがそう告げ、ルナはソナーマン・チーフ──エドガー・フェルトンへ問いかけた。



「アクラ・クラス2艦の音は? 誘爆等は?」



「2艦とも沈黙しています。非殺傷弾頭(N L W H)ミサイルの爆音以外に聞こえていません。現在、ペラを回しているのはUー214とメリーランドだけです。Uー214、方位240から上昇しつつ接近中、メリーランド方位30へ2度目の転進後に微速航行中。深度変わらず」



 ルナはどうやら電磁波弾頭(E M P W H)が想定値の能力を達成したと内心胸をなで下ろした。ラボと洋上実験には何度も立ち会ったが、実戦で、しかも他の艦船で所定の結果を出せなかったら、次は完全破壊目的の実弾魚雷を撃ち込まなくてはならなくなるところだった。



 ルナが次の指示を出そうとした矢先にソナーマンのエドガーが遠慮がちに彼女に告げた。



「あのう──2艦が1海里まで接近、音紋から885Mヤーセン型Kー561カザンと885ヤーセン型Kー560セヴェロドヴィンスクと思われます」



 1海里!? 1.2マイル(:約1.9km)の近さじゃないの! とおどろきながら彼女は三次元作戦電子海図台(3 D C C T)へと振り向いた。



 レーザーホログラムのマップに表示されている2艦はまだかなりの距離があるはずだった。実際に2つの小さな赤い流線型のアイコンは目測でも15海里は離れている。



「エド、距離は正確なの?」



「ええ、間違いないです。3帯域のパッシブで捉えていますから」



 ルナは困惑の中から1つの理由を導きだした。2艦のスクリュウ音のSN比がデータよりもかなり低いのだ。だから三次元作戦電子海図台(3 D C C T)のAIは2艦を実際より遠方と判断している。一方、エドの方はパッシブデータの解析を頭脳と眼で行って補正している。その差が一桁の海里違いとなっていた。



 人の判断が正しい。



 ルナはUー214の対処を先にするつもりでいたが、2艦のヤーセン級を食い止める方を優先することにした。だがこの時、彼女は失念していた。







 2艦の最新型マルチ原潜にはアクティヴ音響タイルでも隠れきれない探知能力があった。












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