Part 12-2 Mortal Kombat 死闘
Shopping Centre along the Marshall Hill Rd. West Milford North-Jersey, NJ. 12:54
12:54 ニュージャージー州 ノース・ジャージー ウエスト・ミルフォード マーシャル・ヒル道路沿いのショッピングセンター
"Let's Do it !!"
(:始めようじゃないか)
その言葉を理解したとでもいうように突き進んでくる怪物の足さばきに彼女は一瞬見とれていた。
正面にぶつかる数多の徹甲弾の青い波紋を跳ね分け直線的でなく大きな弧を描き弾道ミサイルのように瀑侵してくる。
いい度胸だと、マリア・ガーランドは思いながら、クリーチャーが靆するように後ろへ跳ね上げた4本の腕の先に伸びる合わせて16枚の爪というファイティングナイフをマリーは意識した。
1つでも止めようとすれば残りの12枚に串刺しにされるのはわかりきっていた。
だが────その支持母体は1つ。
そこを叩かれたらどうする!?
そう考えた瞬間、片手で支え右肩に載せていたフェアリングアックス──伐採斧の柄をその尻に左手を添え掴み浮かせ前へ振り下ろすと重い刃が落下する加速度に両腕の力を加え下りきる寸前に繰り出す脚を素早くステップ交差させ身体を時計回り急激に回しながら最大限にスピードを上げ続ける金属の凶器に意識を集めた。
先行し振り戻した視線で見たのは、至近距離まで詰め寄り両腕の16本の剣を一点に集めるように左右後方から猛然と振り出す怪物の腕4つ。
そこへ横から追いつき振り回したフェアリングアックスの刃が激突した。まるで数千枚のガラスを同時に割ったような凄まじい破砕音が響き、爆炎で緩いアスファルトが圧に喘ぎ波打つように2体の周囲へ逃げた。
散弾のように粉砕した化け物の爪9枚とエネルギー負けして左右に弾き返した腕すべてを一瞬眼にしても、マリーは攻撃の手を緩めなかった。
回転エネルギーこそすべて!
その角運動にさらに両腕とステップし続ける交差させた脚と身体全体の捻る動きを加え合わせ、一撃目に劣らぬ速さで後方まで振り回した伐採斧を雷撃のように前へ導き、次の一手に出ようとするクリーチャーの胸元へ打ち込んだ。
だが攻めに出てくると踏んだ怪物の次が保身であり、胸を横に引き裂いた刃が飛び散らせたのは僅かばかりの蛍光色の緑色の体液と鱗十数枚だった。
マリーは駒のように回らず、相手を掠り戻ってくる斧を右手だけで保持し身体の右側で上下に回転させ1回転すると左手に柄を短く持ち替え左で小さく回転させながら、後退る化け物を追いかけた。
所詮は人間。
動きの俊敏性についてこれるはずがないとそれは猛然と加速しながら両脚を繰り出し、カーブを描きながら瞬く間にその銀色の髪の女に迫った。
一瞬でケリがつく。
我が鉾先の餌食になれ!
目の前で身体を回転させた女が手にしたオノと呼ばれる木を切り倒し、マキを割る道具を振り戻すよりも速く4本の両腕のすべての爪を先にして身体を回す女へと打ち込んだ。
だがそのどれもが届く前に集まった瞬間、女が予想したよりも速く身体を回しきりオノを激突させた。
半分以上のセラミックの爪が爆轟の寸秒バラバラに砕け、それはその衝撃に振り出した腕すべてを外へ弾かれた。
まずい!
なんでこの人間の女はこれほども速く動くのだと、危機感につかまれたそれは2歩後退り、振り広げた腕すべての折れた爪を再生させ始め、さらに2歩後退った。
その逃げに合わせるように、さらに身体を回転させる女がまたオノを振り出してくるのが、複眼に見えそれは後ろに上半身を仰け反らせながら胸を引き裂かれた。
簡単に殺せるはずだった女が今度は左右の手で交互に横でオノを振り回しながら駆け込んで来るのが目にとまった瞬間、それはさらに後退りしながら反撃の機会をうかがった。
忌々しいのは女の振り回すあのオノという道具だった。
身体の横で上下に回転するそれを見る分にはそんなに腕よりも長くは見えていないのに、もっと深く迫ってきた。それが足速に後退るの合わせそれ以上の速さで女はオノを振り回しながら迫ってきた。
振り下ろされ、後ろにまわり振り上げられ、それが上からまた振り下ろされる。
動き自体はそれほど速くないのだが、斬るというよりも、力任せの粉砕に近い刃。
振り下ろされ、後ろにまわり振り上げられ、それが上からまた振り下ろされる。
後退りながらそれはふと気づいた。
振り回されるオノは実質、回る4分の1しか脅威でない。頂点から正面へとくる以外は畏るるにたらない。
砕けた爪が急激に再生しかかり、白銀の髪の女がオノ《・・》の刃を正面に振り向けた瞬間、それは反撃にでた。
間合いを自分から詰めた刹那、足を止めた怪物がいきなり迫ってきてマリーは右手で振り上げた伐採斧の柄をいきなりスライドさせ相手の顔面へとリーチを伸ばした。そのグラスファイバーの柄に敵の腕が掠った瞬間、握りしめた柄に衝撃が走り途中から切れ飛んでいきなり軽くなった。寸秒、彼女は柄を投げ捨て化け物の振り回した2本の腕を身体を捻り躱し後ろに下がりながら、追まる残り1本の腕の4つの爪を目前に太腿のシースからファイティングナイフを引き抜き一瞬でその鋼をも切り裂くパールの光沢を振り上げクリーチャーの刃を叩き切った。
そうして振り上げたナイフを持つ手を身体の正面で構え脚を肩幅に広げ腰を僅かに落とし、怪物の出方に備えた。
化け物は己の左下の腕の爪が付け根から切れ落ちているのを見つめその腕を振り下ろすと、マリーを前に襲いかかろうと身構えたが、踏み出さずに睨み合いになり、互いに相手の左へと回り込み始めた。
この昆虫の怪物は自分の凶器を切り落とされたことを理解し、ナイフから遠ざかる左へと回り込んでくるとマリーは思った。認識と戦略を理解できる知能があるのなら、相応の攻撃手段があった。だが目の前の化け物はナイフファイティングを知らぬはずだった。最初に突進してきてからというもの敵は大振りのナイフファイティングの経験がないもの特有のやり方だった。それなのに刃物から遠ざかる方へと回り込んでくる。
マリーはファイティングナイフを持つ右手をゆっくりと身体の後ろに回し相手から刃先までのリーチを隠すと怪物の残され3本の腕の爪の動かし方を一瞬だけ確認した。爪を叩き切られた腕は戦闘の邪魔になるとばかり、後ろへ引き残りの腕を前に構え上げていた。
マリーは表情の読めない昆虫の顔を持つ相手との消耗戦を避け自ら仕掛けることに決め、いきなりプラチナブロンドを振り上げ相手が回り込む左へ深く踏み入れ、まずクリーチャーの左腕へ切り込み、逃げた左半身に取り残された右手首に稲妻が折れ走るようにその刃を振り戻し斬りつけ両腕に相手の意識が集中した瞬時に手首を返しその切っ先を相手の顎へと突き上げた。
その意表をついた攻めに点として襲ってくる切っ先を化け物は明らかに見誤った。
矢のように鋭く突き上げた刃が、躱すのが遅れた横開きの顎の片側を引き裂いて突き抜けた。その瞬間、怪物はアスファルトを踏みしめ逃がしていた3つの腕を振り戻し彼女の顔面へと襲いかかってきた。
なまじ表情がないだけにその迫る顔が不気味にも憎しみの塊に見え、ラピスラズリの双眼を強ばらせ突き上げた腕を後ろに振り戻しマリーは相手の胸ぐらを蹴り込んだ。そこへクリーチャーは突き進んでしまい衝撃に空に両足を浮かせ大きく仰け反ると空転し低い姿勢で着地した直後、2本の片腕を後ろに引きつけ脚を下ろした彼女へと猛然と突き進んだ。
咄嗟にマリーは左脚の太腿に付けたホルスターから左手でファイヴセブンを引き抜き勘1つで化け物の胸目掛け振り上げながらセーフティを切ると秒9発で斜めに速射し、連なったマズルブラストが駆け上ると直後化け物が腹から胸に開いた銃創から緑色の血筋を曳きながら後ろへと跳びす去った。
その時だった。
怪物が蹴ったアスファルトの向こう脛の高さに漆黒の二重リングが10フィート(:約3m)径に急激に広がると地下鉄の階段から地上に上がるように金髪ロングヘアーの大柄な女がマリーに背を向け姿を現した。
そのブロンドの左右から先細りの長すぎる耳が見え、マリア・ガーランドは瞳を丸くし相手に警告した。
「逃げろ! シルフィー!!」
状況を呑み込む前に振り向いたハイエルフの横へとそれが襲いかかった。




