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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #11
56/206

Part 11-5 Trap 罠

UMass Memorial Health Alliance Hospital Worcester County, Mass. 12:35


12:35 マサチューセッツ州ウースター郡 ユーマス記念保険病院



 パティの指示通りに道を選び続けると目的の大きく複雑な形の病院が見えてきた。ローラ・ステージはいくらFBI捜査官であってもマサチューセッツ州すべてを知っているわけではなかったが、以前に扱ったファイルで被害者の1人がこの病院に入院して事情聴取に来たことを思いだした。



 たしかマサチューセッツ大学の付属病院だった。



「パティ、カエデス・コーニングの場所は分からないの?」



 ダッジ・ディランゴSUVのハンドルを切り通りから広い病院の敷地に入りローラは助手席に座る少女に尋ねた。



「ダメ、相変わらずあいつの意識がつかめない。でもヒルダが室内に──病院の一室にいるのがわかる。身動きできないでいるの」



 パティの説明にローラは医療刑務所から連れ去れた看護士の身を案じたが、FBIのHRT(:FBI人質奪回部隊)を投入できるか一瞬思案し破棄した。特定の場所にアタックするHRTだが、広い病院内をすべて掌握できるわけがなかった。



 まず先にレミンスターの警察に捜査協力を要請し、しかるべき人員で病院からの逃亡できない規制線を張り、包囲網を狭め、その時点で初めてHRTを投入すべきだった。



 ローラは車を病院正面玄関前のロータリーに近い駐車場を選び停めるとまずレミンスター警察へ電話を入れた。



「──ええ、そうです。先に回した手配書の脱獄犯がユーマス記念保険病院にいる可能性が極めて高く、よそへ逃がす前に病院敷地全体に規制線と警官を配置して頂きたいんです──そうです。まだ医療刑務所から誘拐した看護士を連れまわしています────」



 聞き耳を立てると警察署長が朗報を1つもたらしてくれた。巡回中のSQ(:追跡専用の警察車輌)の一台がそれらしき2人連れを発見し病院内に追跡監視中だと無線連絡を受けていた。



「ええ、できるだけ多くの警官を──はい、現地での指揮者にわたくしに連絡を──お願いします」



 電話を切り彼女が車から下りるとパティもドアを開いた。そうして下りかけの少女にFBI警部は尋ねた。



「パティ、ヒルダは医療関係者でしょ。病院内での詳しい場所を知ってるの?」



 車のドアを閉めながらパティはかぶり振った。



「分からないの。ここの病院、ドアに表示されていない部屋が多くて。でも、1階のどこかは知ってるわ」



 ローラはうなづき、車の後部にまわりテールゲートを引き開け備え付けのガンラックからコルトM979のカスタムを引き抜きセーフティーを見てチャージングハンドルをわずかに引いてエジェクションポートの後退したボルトフェイスの先からチャンバーに装填されていないことを確認し、ラックから弾倉を1つ抜き弾底を一度車のバンパーに叩きつけマガジンウェルに差し込んで底を軽く叩き上げた。



 そうして彼女はスーツの3つのポケットにそれぞれ1つずつ予備の弾倉を入れて、ガンラックの外にあったソフトキャリングケースにカービン銃を入れてファスナーは半開きでベルトを左肩に下げパティに声をかけた。



「行きましょう」



 2人が病院正面玄関へ車道を渡り始めた時少女が警部に教えた。



「ローラ、病院内に警官が2人カエデスと思われる女連れの男を捜してる」



「ええ、レミンスター警察から報せは受けてるわ。モニターし続けて」



 カエデス・コーニングが1階にいるということなら通常の病院なら病室以外の部屋だとローラは思った。しかも人があまり出入りしない場所だ。



 エントランスDの看板がかかった半円形の正面玄関に向かいながら、ローラはこの病院には最低でもあと3つ玄関があるのだと思った。幹線道路から見えた病院は奥にもっと階数のある大きな建物なのだ。



 D玄関左には横に伸びた2階建ての正面に青いテントが連なり右手にはL字に突き出したレンガ張りの建造物が伸びていた。



 2人はそう広くないエントランスに入りローラは受付カウンターで女性職員にFBIの身分証を提示して責任者を呼ぶように頼んだ。数分で通路奥から淡いブルーのシャツにネクタイ姿の長身の男性が来てローラは説明した。



「──で、ご協力お願いしたい。その脱獄囚はショットガンを所持してる危険性があり、患者や職員に見かけても不用意に近づかないようにと通達して頂きます。それと病院保安員はますか?」



「ええ、警備員が数名います。すぐに呼びましょう」



 病院責任者は警部にそう告げてカウンターの電話でどこかに連絡を入れ始めた。その間にローラはパティに連れさらわれているヒルダが眼にしてるもので特徴的なものを尋ねた。少女はしばらくエントランスの壁を見つめ集中し警部に答えた。



「ベッドが1つ、綺麗なそれでいて広すぎない部屋。絵が1つ──浜辺の風景画がベッドサイドの壁に飾ってあるわ」



 ベッドが1つならそれは入院病室で個室なのだろうとローラは思った。だがヒルダは1階にいるはずなのだ。入院病棟は通常2階より上にある。



「個室でベッドサイドに浜辺の絵が飾ってある部屋はありますか?」



 ローラは受話器に話し中の責任者に尋ねると、しばらく思い出すのに時間がかかり、それが職員の仮眠室の1つではないかと彼女に告げた。ローラはすぐに案内してほしいと依頼し、責任者は受話器にも職員仮眠室の方へ警備員に告げて受話器を下ろし2人にこちらですと通路を歩き始めた。



「パティ、警官2人は?」



 ローラが問うと少女が眉根をしかめた。



「変だよ。2人とも気を失ってる。意識が混濁こんだくしてるし」



 何かあったのだ。警戒しなければとローラは思ったが、頻繁に通院患者やその付添い、病院職員とすれ違いカービン銃をソフトガンケースから出すことを躊躇ためらった。悪戯いたずらに混乱を誘発するわけにはゆかない。その代わりに上着の下に右手を差し入れ腰のやや後ろに着けたクイックホルスターのグロック18Cの銃握じゅうはに手をかけそのまま歩いた。それなら後ろからも銃は見えない。



 病院の奥に行くにしたがいすれ違う人が少なくなり、いきなりパティが並ぶドアの1つを指差した。



「下がってください」



 ローラは病院責任者にそう告げて、パティに小声で命じた。



「廊下で私をサポート。できる?」



 尋ねながらローラはソフトガンケースに入ったカービン銃を少女に預けた。



「任せといて」



 少女の返事が心強かった。



 ローラ・ステージはクイックホルスターからグロック18Cを引き抜きセレクターをシングルに切り替え右手で保持し少女から教えられたドアのノブ側の袖壁そでかべに背中を預けノブに左手を伸ばした。









 そのドアから4つ離れたドアがわずかに開いていた。その隙間からのぞく目があった。その視界の先には病院責任者の後ろ姿と、少女の後ろ姿が見えており、医療刑務所から連れてきた女看護士のいる部屋のドアをゆっくりと押し開くFBI女警部の後ろ姿も見えていた。



 わずかに開いているドアの隙間がゆっくりと大きくなると、すり抜けるようにカエデス・コーニングが姿を現した。カエデスは警察官から奪った制服と制帽を着用しており、右手には人さし指と中指の間にシリンジ(:注射器の外側)が挟まれ親指はプランジャ(:ポンプ可動部分)の端にかけられており、男は足音を忍ばせ病院責任者の背後に近づくといきなり左手を長身の責任者の口に回し肩から突き出した手首を返し注射針を首の内頸静脈に突き立てプランジャを半分押し込み溶液を注入しものの数秒でその責任者は昏倒しながらカエデスに支えられゆっくりと床にくずれ落ちた。



 ローラが室内に入った直後、カエデスはパトリシア・クレウーザに音もなく近づいた。









 照準を振りローラは室内に続く短い廊下へ銃口を向け素早くその端へ行くと広くはない部屋の左右へ銃口を向け脅威を探した。



 ベッドのある室内に椅子に縛られたヒルダが猿ぐつわをされて必死でうめき声を上げており、その足元に1人の警官と肌着姿の中年男性が倒れていた。その2人の生死を確認する前にローラは部屋横のドア脇へ移動し中の音を探った。



 気配は感じられず、わずかにドアを引き開き隙間からのぞくとシャワールームと併設されたトイレでもぬけのからだった。



 他に繋がる部屋はなく、ローラは床に倒れた男らのもとに戻りひざを折り銃口を床に向け左手をそれぞれの鼻孔に近づけ呼吸を確認した。そうして立ち上がり縛られたヒルダの背後にまわり片手で彼女の後ろ手で縛りつけた細身のロープを解こうとしたが、結び目が硬く、先に猿ぐつわの布を解きヒルダに小声で尋ねた。



「もう大丈夫よ。カエデスは?」



「外です! 警官の服を着て外に!」



 ローラは一瞬、病院の外なのかと思い否定した。



 廊下だわ!!



「すぐに戻るから」



 ヒルダにそう言い残しローラは通路への出入り口へ向かった。狡猾こうかつな連続殺人鬼の脱獄囚に彼女は気がいていたが、ばったりとその廊下で出くわすことを避け、ドアの開いた開口部から可能な限り外を確かめた。



 もしもカエデスがいたらパティが精神リンクで警告を伝えてくるはずだった。



 ローラは廊下に飛び出し瞬時に左右へ連続し銃口を振り向けた。右手の通路には人影はなく、銃を振り向けた左の通路に案内してきた病院責任者がうつ伏せに倒れていた。



「パティ! どこなの!?」



 パトリシアはどこに行ったのだと、彼女は名を呼びながら病院責任者のもとへ駆けて鼻下に中指を当て呼吸を確かめた。浅く早い呼吸だが危険性は感じられなかった。





「パトリシア!!」





 廊下に少女の名が響いたが、返事はなかった。



 困惑するローラ・ステージは堪えられないほどの胸の圧迫感に息が吸い込めないでいた。











 病院の裏口に一台の台車を押す警官の姿があった。



 その台車にはリネンを入れる厚い布地の袋と黒いソフトガンケース、それにショットガンが載っておりリネンを入れる袋は口(ひも)が念入りに結ばれていた。その軽く()の字に曲がったリネン入れの袋に人が入っているなどすれ違った誰しもが知るよしもなかった。



 警官は鼻歌混じりにPC(:パトロールカー)を駐車場に探した。












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