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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #11
52/206

Part 11-1 Instruction Violation 命令違反

Shopping Centre along the Marshall Hill Rd. West Milford North-Jersey,NJ. 12:40


12:40 ニュージャージー州 ノース・ジャージー ウエスト・ミルフォード マーシャル・ヒル道路沿いのショッピングセンター



 バックドラフトのように強烈に押し寄せた火炎が吹き抜けるのを、ショッピングセンターの建物の駐車場に面した角から後ろに寄せ合い14人の男女は堪え抜いた。



 火炎と熱風だけでなく駐車場に面した建物の外壁が熱に負け砕けたコンクリートが散弾のように彼らに襲いかかった。



 その灼熱地獄が押し寄せる直前にFNーSCARーHを肩付けしたまま建物の角から出ようとしたロバート・バン・ローレンツとジェシカ・ミラーは駐車場からAXMCボルトアクションライフルを胸に抱き駆け込んできたコーリーン・ジョイントと鉢合わせになり、その肩越しに駐車場中央の車の屋根に上った四本腕の化け物から火炎が押し寄せたのを眼にした。



 あの怪物を殺処分にするのに、どこかの阿呆が街中でナパーム弾を使ったのだと彼もジェシカも思ったが、爆撃にきた攻撃機を2人は見もしなかったし、ヘッドギアの高感度マイクはジェットエンジンの音をとらえ損なうはずがなかった。



「中佐! ヤバイですよ! あのクリーチャー何か青い光に包まれてました!」



 青い光!? それはこの火炎と関係があるのかとロバートは駐車場の様子を探ろうと指先に仕込まれたCCDカムを壁角から出そうとして凄まじい熱を感じて指を下げた。



 もしも──もしもこの爆発をあの怪物が生き延びていたら、チーフから命じられた追跡斥候(せっこう)もかなり危険な任務になる。



「ドク! この熱であのクリーチャーは死に絶えるか!?」



 すぐ後ろにいるスージー・モネットに彼は近距離無線で尋ねた。



『私達のあれだけの銃弾に耐え抜いた化け物よ。どんな身を守る能力があるかは予想し難いわ! 生物には300度の高温や高い放射線下でも生き抜くタフな奴もいるの!』



 聞きながら彼はバトルライフルのフォアエンド下のバーチカルグリップをつかむ左腕から立ち上る白煙の中央から火がついたのを眼にし慌てて壁に押しつけこすりつけながら、ドクのアドバイスに双眼を強ばらせた。



 いくらタフでも炎の中で生き抜ける奴はいないと思いたかったが、あの2匹いる怪物らの尋常じゃないタフネスさはスーパーの中で眼にしたので疑いようがなかった。



 吹き荒れていた火炎がいきなり消え失せ、周囲から逃げていた空気が吹き戻し始め彼はバトルライフルを再び構え壁角から駐車場をのぞき込んだ。



 800台ほど車が置ける駐車場スペースのあらゆるものが焼き尽くされ十数台の車はまだ炎を割れた窓から吹き出し続けていた。だがその駐車場中央にある黒こげのセダンの屋根に立つ四本腕のそれ(・・)を眼にして彼は素早く壁角の陰に身を隠した。その行動に続いて駐車場へ出ようとしていた他のもの達が押されるように陰へ隠れた。



「ドク──1st(ファースト)2nd(セカンド)セルの8名で建物反対の角へ向かえ! 怪物に気取られるな」



 彼が命じると返事もなく即座に8人が離れショッピングセンター後方へ向かい足音を殺したまま小走りに移動し始めた。



「マーカス、ヴィクター──」



 すぐに2人が無線でロバートに返事をした。



『はい、ロブ!?』、『中佐、なんですか?』



「2人で裏手の壁に据え付けてある大型ボンベ2本を裏に止めてあるピックアップに積んでこい。バルブを運転席側にしろ」



「誰があの怪物まで運転するんですか!?」



 マーカスが即座に問い返したがロバートから怒鳴られ裏へ向かい2人は駆けだした。



「クリス──俺と2人であの怪物に弾幕を浴びせ気を引きつける。できるか!?」



 背後にいる4thセル・ガンファイターのクリスチーナ・ロスネスが彼の肩に手のひらを当て返事をした。



了解(Copy)中佐」



 直後ロバートはこの地区に向かう戦術攻撃輸送機のミュウの意識に呼びかけた。



 ミュウ! ショッピングセンター駐車場中央にクリーチャーが陣取っている。ヴィジュアルを俯瞰ふかんで見せてくれ!



 彼が呼びかけものの1秒で超空間を介した少女の精神リンク──サイコダイヴでまるで怪物の直上で見てるような視野が開けた。



 化け物は四本のタイヤがパンクした乗用車の上に仁王立ちで辺りを見回していた。



 その姿に彼は顔を強ばらせた。



 4本の腕に人と同じような脚をしており、一瞬暗い色合いの服を着てるのかと思ったが、黒にも見える焦げ茶の細かなうろこに首から下が被われていた。だがさらに異様なのはその頭部だった。まるで蜻蛉とんぼ飛蝗バッタのようなものが載っている。



 スーパーでミート・()エンゲー()ジメント()となったあの昆虫の寄せ集めのような怪物と異なってはいたが、駐車場にいるのも同類のような気がした。



 こいつは遺伝子操作で作り出した軍用対戦兵士──キメラなのかも知れない。それが狭い範囲に2体もいるとなると尋常ではなかった。だがスーパーの屋根を突き破り消えた大きな方の怪物はどこなのだと思い、彼はミュウにその索敵さくてきを命じた。



 ミュウ、スーパーの中にいた怪物を周囲1マイルで捜してくれ。まだそう遠くには行っていないはずだ。



──ロバート、その駐車場にいる奴がスーパーにいた奴の生まれ変わりです。屋根から飛び出したのを追っていたんだけどその4本腕に身体が変化しました──。



 それじゃあ4本腕はあの大きな奴が特化したと考えられた。何かの目的を持ち変化した可能性がある。



──それと、警官達の銃撃を青い光の壁で防いだように──。



 青い壁!? 駐車場から逃げ込んできたコーリーンも似たようなことを言っていた。だがスーパーにいた奴は銃弾をまともに受けていた。バリアみたいなものなのか? だがそんなものは実用化されていない──あの火炎地獄を生き抜いたのだ。どこかがバリアを実用化していてもおかしくなかった。



 彼はバリアという空想産物を理解できず、それだからこそ何がしかの力場を打ち破れるかこれからしようとすることで果たして効果があるか疑問だった。彼は現状報告と指示をあおぐためにマリア・ガーランドに意識を集中した。それを拾い上げミュウが即座に最高指揮官へと精神リンクを構築した。



 チーフ、まずいぞ。あの化け物がショッピング・センター駐車場を一瞬で焼き払った! まるでナパーム弾のようにテルミットを多量に使ったみたく車でさえ溶解している。



──ハイエルフが使っていたのは爆炎術式の精霊魔法なのだ。怪物(クリーチャー)が火炎放射器やテルミットを使うなど論外だった。ならあのハイエルフと同じように魔法術式を操れる可能性があった──。



 チーフの意識が流れ込んできた寸秒、ロバートは混乱した。ハイエルフ!? 爆炎術式!? 何のことだ!? この空想じみた所行に真実があるのならと即座に彼はチーフに問い返した。



 チーフ、爆炎術式とは何だ!?



──ロバート、怪物(クリーチャー)の追跡を。犠牲者が出ていても斥候追跡を。決して手出ししないこと。あなた達の装備で対処不可能よ。10分で現場へ行くわ!──。



 チーフが話をらしたことに彼は気づいたが、当面の指示を得て精神リンクを断ち切るよう意識した瞬間、遠方の精神が離れていった(フェードアウトした)。直後ドク率いる8名がショッピングセンター反対側へ到着したと無線通信が知らせてきた。



『ロバート、建物の逆側に着いた』



「合図したら駐車場の怪物に弾幕を張れ。弾幕を切らさないようにしろ」



 彼はマリア・ガーランドの指示に背く判断をしていることに罪悪感を抱いたが、あのクリーチャーを住宅地へ行かせるわけにはゆかなかった。



 あなた達の装備で対処不可能よ。



 そう上官の言葉が意識に訴えかけ続けた。



 背後に車のエンジン音が聞こえ彼はヘッドギアのフェイスガードに映るコマンドアイコンの後方視野を選択すると液晶画面に新しいウインドが開きマーカスが運転する白のピックアップトラックが見えた。ヴィクターは荷台から運転席の上に身を乗り出し前方へバトルライフルを構えていた。



 彼はその場をクリスに任せ荷台へと駆けると、運転してるマーカスにトラックを止めるよう怒鳴った。そうして背負っているアリスパックを荷台に放り込み身を乗り出しフラップを開きガムテープとDM51(:ドイツ製手榴弾)を2個抜き取ると手早く大型ボンベのバルブ付け根に手榴弾をハンドルフリーでテープで巻きつけ固定した。そうしてアリスパックのサイドポケットから巻いた2本の極細のワイヤーを取り出し、一端を指数本が入る輪にして残りの片側を手榴弾の安全ピンのリングに通し巻きつけほどけないように端末処理をし輪の方を荷台の外へらした。



 それを荷台の上から見ていたヴィクターはリーダーが何をするのか理解しすぐにアスファルトへ飛び下りた。



「マーカス! ピックアップの荷台をあのクリーチャーへ向け下りろ!」



 指示されてマーカスが車をスイッチターンさせ始めロバートや他のもの達はピックアップから離れた。そうしてマーカスがエンジンを回したまま車を止めて運転席から下りるとロバートは運転席の床に身を乗り出しアクセルをわずかに押さえガムテープで奥の支持フレームに引っ張り固定し運転席から顔を出しその場にいる5人へ命じた。



「いいか、俺とクリスであの怪物へ向かい気を逸らす。残りのものはこの場からあいつ(・・・)へ弾幕を浴びせろ。間違っても駐車場へ出てくるな──よし! 状況開始!」



 ロバートはそう宣言し再び運転席へ上半身を入れフットブレーキを解除しシフトノブをリバースに切り替え、身体を運転席から抜くと走り始めたピックアップトラックのドアを閉じ胸前に下げていたFNーSCARーHをつかみ肩付けしながら銃口をクリーチャーの方へ振り向けた。そうしてバックしながら緩やかに加速する車の横に並び脚を進め、反対側には同じようにクリスが並行して小走りに駆けだした。



 その瞬間、ショッピングセンター両端から15人が7.62ミリのM933徹甲弾を駐車場中央にいる怪物目掛け浴びせ始めた。



 ロバートは小走りに駆けながら、それでもトリジコンRMRタイプ2ダットサイトのFOV(:光学照準器視野)中央に浮かび出たグリーンの三角形のダットに4本腕の胸ぐらを捉え続け引き金を数回にわけ引きながらフルオートのバースト射撃で徹甲弾を浴びせ続けた。



「マグチェンジ!(:弾倉交換)」



 荷台の反対側で弾切れになったクリスが怒鳴った。わずかに遅れロバートのバトルライフルも弾切れになり怒鳴った。その時には素早い弾倉交換を終えたクリスが射撃に入っていた。



「マグチェンジ!」



 弾倉を替えながら、彼は怪物が1秒に150発近いAP(:徹甲弾)を浴びながら逃げもせず悠然ゆうぜんと構えるさまにフェイスガードの下で顔を強ばらせた。距離は150ヤード(:約137m)を切り4本腕の指が5本ずつでないことに気づいていたが、それよりも化け物の正面に次々に生まれては消える青い波紋が何なのか苦慮した。



 どうしてなにも仕掛けてこない!?



 再び攻撃を開始した彼は防戦一方のクリーチャーの意図を突然理解した。



 人の残党の数を見極めている!



 その人数が確かだと踏んだ瞬間、怪物が攻撃に転じるのが理解できた。



 めた間合いはすでに70ヤードに迫っていた。



「クリス! 運転席より後ろに下がれ!」



 彼がそう怒鳴り射撃しながらピックアップの荷台に近寄りワイヤーの1本を左手で引っ張った。その直後荷台の外へDM51のセーフティ・ハンドルが弾け飛び彼は足速にトラックのボンネットグリル前へ移動した。10ヤード車が怪物へ近づいた須臾しゅゆ荷台の1本の大型ガスボンベのバルブ付近で爆轟が起き、ボンベの絞り込んだ部分が破裂した瞬間、火炎を吹き出しながらボンベが凄まじい速さで飛翔し怪物へ迫った。



 そのボンベがクリーチャーへぶつかったとロバートが思った刹那、化け物の直前に大きな青い波紋が広がり空中にボンベが止まってしまい彼は愕然がくぜんとした。そのボンベが轟音を響かせアスファルトに落ちた瞬間、即座にロバートは荷台横に戻りもう1本のワイヤーのリングを引ききった。



 爆轟と共に2本目のボンベが火炎を曳きながら飛び出した時にはピックアップは怪物まで40ヤードに迫っていた。



 だがその距離から迫ったボンベが再び青い波紋の中央で空中に止まり勢いから後部を持ち上げ炎を吹き出しながらアスファルトへ突っ込んだ。



 空中で飛翔してきた重量物を難なく阻止した怪物の立つセダンのルーフ上に赤いネオンのようなリングが急激広がるのが見えた。



 バリアの存在を感じながら、赤いネオンリングがクリーチャーの攻撃に転じる端緒だと予感した彼は咄嗟とっさにクリスをかばい進むピックアップトラックのフロントグリルの前に身を隠した。









 須臾しゅゆ、トラックもろともロバート・バン・ローレンツとクリスチーナ・ロスネスの2人は爆炎に呑み込まれた。












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