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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #10
48/206

Part 10-2 High Ability 高度能力

Shopping Centre along the Marshall Hill Rd. West Milford North-Jersey, NJ. 12:35


12:35 ニュージャージー州 ノース・ジャージー ウエスト・ミルフォード マーシャル・ヒル道路沿いのショッピングセンター



 警官という脆弱ぜいじゃくな守り手2人を倒し喰らい細胞を集約させ筋力と瞬発力を高めた。



 それ(・・)は食料品ストアの搬入口から屋外に出るなり、警戒に当たっていた警官を続けざまに倒し、内1人の胴体を半分ほど喰らい、大きいままの体の欠損部位の再生を放棄し、逆に小型化する事でより高い運動能力を得た。



 ただシェイプアップの危険性は十分に理解していた。



 小さな体でまともに攻撃を喰らえば計り知れないダメージとなる。だがその攻撃を高めた運動能力で回避すれば問題とならない。



 人間(えさ)どもは武器に頼るあまりにその盲点を忘れているのかとそれ(・・)いぶかしんだ。



 武器は狙わなければ威力を発揮しない。



 狙うという行為は他ならない目という視野に頼った器官の能力がものをいう。



 人を喰らい、その体を理解した今なら動くものを捉える能力で遥かに上回っているのだとそれ(・・)は理解していた。



 さらに近接戦になると人間(えさ)どもはパニックを起こしたように攻撃力に一貫性がなくなる。



 あの食品を『売る』『店』という場所に突如とつじょとして現れた見えない敵から今は距離をとり、より手堅く喰らえるえさを襲い、体組織の元となるものとエネルギーを取り戻すのが先決だとそれ(・・)執心しゅうしんし跳びついた木の幹をしならせ大きく跳躍ちょうやくした。



 飛び下りた先の4人の警官を襲う直前、急激な風のうなりを耳にし一瞬体を振り反らした。その目鼻の先を高速で銃弾が飛び抜けたのを目にしそれ(・・)は狙われたことを驚いた。



 だが目前の警官の内2人がすでに振り向いており、襲いかかるしか選択肢はなかった。











 ショッピングモールの裏手で警戒にあたっていた4人の警官達のはしの男の背後にいきなり何かが飛び降りてきた。



 振り向いた2人の警官が唖然となったのはその人の形を真似たものが、酷い複製だということだった。



 両脚と胴体はかろうじて人間を模したものだったが腕が左右の肩から2本ずつ突き出て、顔はベスパ・クラブロ──スズメばちそのものを人の頭部と同じ大きさに巨大にしたものだった。体に皮膚はなく代わりに人よりも多くの筋肉とそれに体液をまわす毛細血管に包まれていた。



 その悪魔の造形を眼にした2人の警官が声を上げる前に怪物が凄まじい速さで突き出した2本の腕の先の細められた4本の指がそれぞれの顔面に穴を穿うがった。残りの2人の警官達は降りかかった血飛沫(しぶき)に飛び退くように広がろうとしたが、怪物の手に後頭部を鷲掴わしづかみにされ1人が頭蓋骨を粉砕され、もう1人は振り向いてM4A1カービンのグリップをつかんだもののそれらの光景に呑まれてしまい麻痺したように動きを止めてしまった。直後、その1人の顔面に巨大なはちが左右に広げたあごで喰らいつき食い破った。



 その4人の警官達が一瞬で殺された場から15ヤード(:約14m)離れた場所にいる2人の警官が神を冒涜ぼうとくするスラングを吐き捨てながら同じ支給品のカービンを構え上げたその須臾しゅゆ、一瞬にも思える速さで怪物が間合いを詰め向けられた2本の銃身を跳ね上げた。



 攻撃の一瞬を逃した2人も顔面をつかまれ凄まじい力で互いに横様にぶつけられ頭部が半分の幅になるほど粉砕された。



 巡査らが赤黒い服装の人物に素手で倒されてゆくのを30ヤード(:約27m)離れた警官達5人は眼にして各々が素早くカービンやショットガンのストックを肩付けしたが、そのあまりにもの動きに照準が定まらずに撃てずにいた。ほんの2秒足らずで4人が崩れ落ちその中央でぶれるように動いていたものが一瞬動きが緩やかになると、顔を振り向けた。



 銃を構えていた全員がその殺戮さつりく者の顔を眼にして唖然となりながら、あれはマスクを被っているのだとそれぞれが己に言い聞かせ3人が反射的にトリガーを引き絞り射撃を開始した。その瞬間をまるで待っていたとでもいうようにそのホーネット・マスクの容疑者は弾道を左右に避け幾つもの残像を残し急激に迫ってきた。その時には5人全員が発砲していたが散弾すらかすることなくそれは恐ろしい速さで横へ回り込み、その残像にしか照準できない警官達は間合いをなくし瞬時に3人の頭部がえぐられ同僚の遺体に押し倒され2人がアスファルトに倒れ込んだ。



 その1人にマスクの容疑者は馬乗りになり喉笛を食いちぎりその男の銃を握る腕をつかみ上げ、隣に倒れているもう1人にM4A1の銃口が向くなりトリガーに掛けられた死人の指を上から押さえ込んだ。2ヤード(:約1.8m)の至近距離からフルオートで撃ち込まれたミリタリー・ボールの一群が腕を振り後ろへ逃げようとしていた警官の頭部を水風船を割るように弾けさせた。



 銃撃の音にショッピングモール裏手へ十数人の警官達が武器を手に駆けてきた。



 それ(・・)は今し方倒した警官達が身に着けるプレートキャリアのベルトを引きちぎり2組の防弾ベストを左右の腕で引き寄せたてとしながら駐車場からなだれ込んで来た警官達へ突進した。











 林の落ち葉の上でAXMCボルトアクションライフルからNorma Magunamを一撃放ったコーリーン・ジョイントは四本腕の怪物がまさか100ヤードの至近距離弾をかわすなど思いもしなかった。



 銃口を出てわずか0.1秒で標的へ到達したはずだったが、警官4人の傍らに飛び下りてきたそのクリーチャーは大きく体を反らし銃弾を避けた。



 有り得ないと思いながらコーリーンはリューポルド製スコープの視野で化け物を追い続けながら摘まんだ指でボルト操作を行い空の薬莢やっきょう排莢はいきょうし次弾を装填した。



 距離がなければとてもスコープで追い続けられはしない俊敏しゅんびんさで怪物は動き続け、警戒に当たる警官達を襲い続けていた。



 コーリーンは唇をへの字に曲げ二撃目のチャンスを待った。FOV(:光学照準器の視野)の中でクリーチャーは警官達の至近距離からの銃撃すらかわし瞬く間に11人の警察官が無惨な方法で命を落とした。



 その銃声に表駐車場から武装警察官達が駆けつけたが、怪物はこともあろうか倒した警察官のアーマー・ベストを引ったくり両腕に身構え押し寄せた警察官達へ突撃した。それも直線的に突っ込んで行くのではなく、弧を描くように回り込みながら警察官達へ斜めに接敵した。



 あの野郎、まるでこっちの照準を警戒してるような動線だとコーリーンが苛つく前でさらに警察官の犠牲者が増え始めた。そのままクリーチャーは混乱する警察官達へ分け入りショッピングセンターの表側へ押し切った。



 コーリーンは跳び起きると、胸にボルトアクションライフルを抱いて林の外へ向かい駆けだした。電子擬態エミックで姿を消していても多くの落ち葉を巻き上げての疾走だったが、警察官に見られるのは皆無だった。彼の前にいる警察官達はみな倒され動かない遺体と思って間違いなく、駐車場からなだれ込んで来た警察官達の遺体の道が表へと続いていた。



 彼が林から飛び出し死体を避けるように駆け続けているとショッピングセンター表側から多数の銃声が聞こえ始めた。そのフルオートの射撃音が幾重いくえにもつらなり彼が表へと駆けている最中も銃声は続き怪物が暴れまわっているのが手に取るようにわかった。



 中佐からの命令は『威力偵察』でなく『隠密追跡』だった。だが初期の段階から破綻しており、暴れまわる化け物を足止めするのが己の使命だとばかりに彼は大きな建物を回り込みフェイス・ガードの液晶ディスプレイに映し出された光景に唖然となった。



 建物を回り込むのに30秒もかかっていない。



 この死体の数は何なのだとショッピングセンターの側壁角からわずかにうかがいコーリーンは身動きを止めてしまった。



 見えた駐車場に40人近い数の警察官が倒れていた。そのどれからもがピクリとも動かず、それぞれが大量の血だまりを広げている。あの悪魔は1秒に1人以上を殺し続けていたことになる。



 彼は壁角に左手のひらを押し付け外に向かい人差し指と親指を広げるとそこにボルトアクションライフルのフォアエンドチューブを載せ依託し、まずフェイス・ガードの液晶ディスプレイ内で動くものを探した。



 駐車場の中ほどに数十人の警察官達が広がりやたらと色んな方へ発砲を繰り返していた。その群衆からあちらこちらでいきなり頭部が見えなくなる。明らかに警察官達が倒され続けている。至近距離から警察官達が怪物へ照準出来ないのは無理もないと彼は思った。70ヤード(:約64m)離れていても動きをつかめないのだ。



 中佐達はショッピングセンター内であんな化け物を相手にしていたのだとコーリーンは鳥肌立った。



 だが1撃──一発命中させ動きを鈍らせられればとどめを刺すまでブレットを叩き込むだけだ。



 彼がそう意識した刹那、一台のセダンに駆け上がった怪物が眼にとまった。あろうことかその昆虫然とした口に食いちぎられた警察官の腕がくわえられていた。その格好の標的に警察官達がこぞってカービンやショットガン、ハンドガンで発砲しているが、クリーチャーはまったく動じなかった。リューポルド製スコープVXー3i LRPのミル・ダット・クロスヘアーに怪物を捉え10数倍までズームし彼は利き目(ドミネントアイ)がおかしくなったのかと眼を強ばらせた。







 怪物が青く輝くスクリーンに包まれいた。











 防弾ベストを両腕に警官らへ突入しながら、撃ってくる銃弾を隔てている感触にそれ(・・)は違和感を覚えた。



 記憶の片隅に似たような経験がこびりついていた。



 警官という(えさ)の一部の者らと争ったことがあるのか?



 次々に殴り、突き刺し、喰らいつき、引き千切る。



 それを繰り返すことが、確かに以前にもあった。



 圧倒的優位な争いで、今のごとく何かに身を護らせ襲い続けた記憶。



 警官らの間を駆け抜け、それ(・・)は2本の腕それぞれにつかんだプレートキャリアを強く意識した。



 もっと強い──遥かに上回るたてを手に入れ歓喜した思い。







 大地の目覚め春風──熱と水奪い夏風──木々に寿命知らしめる秋風──万物に冷気をもたらす冬風──風と空気の精霊シルフ────よ──我に屈強なる盾を授け──よ!?







 記憶のふちに沈んでいた言葉がこみ上げてきた。



 それをつぶやいた刹那、殺戮さつりくの悪魔は一瞬で淡く青く輝く強固なたてを発動させ、目の前に広がった防御層にそれ(・・)の記憶が一気に再生した。









 そうだ────俺様は、何百というエルフ族を喰らい奴らの力────魔力を手に入れ蓄積したのだ。











 それ(・・)は2つの防弾ベストを投げ捨て、自分にカービンを向けていた(えさ)の腕を食い千切り、『車』という物の上に駆け上がると叫聲おらびごえを上げた。











 最早、この世界に怖れるものなどないと、それ(・・)は確信し爆炎術式を高速詠唱(えいしょう)した。












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