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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #1
4/206

Part 1-4 Robbery 強奪

Ελληνική Δημοκρατία Περιφέρεια Αττικής Παλαουκία Πολεμικό Ναυτικό 25 Δεκεμβρίου 2017 1:15 π.μ.

2017年12月25日1:15ギリシャ共和国 アッティキ地方 サラミス島 パルキア市 海軍基地



 クリスマスイヴの深夜、ギリシャの首都アテネの西にあるサラミス島の数多の市も神聖な夜を迎え深夜労働に就く人をのぞきほとんどの人々は自宅や酒場で過ごしていた。



 その島の北東に位置するパルキア市も同様にうっすらと雪の降り積もった夜更けの街は人気もなく走る車さえも見受けられずに静まりかえっている。



 凍てつく街路を疾走する2台のアルミコンテナトラックがいた。



 トラックは連なるように無人の狭い車道を猛然と東へ向けて走り抜けていた。その各コンテナの中には15人の男らが乗り込み庫内の左右にあしらえた長椅子に肩を並べ静かに揺られていた。皆が黒いニットの目出し帽(バラクラヴァ)を被り黒に濃灰色のデジタル迷彩服を身につけ胸には抑制器(サプレッサ)を取りつけたHK-53カービン銃を抱いている。



 しばらくすると急に揺れがおさまりコンテナの中にいながら車両が速度を落としたことを男らは気がつくと、それぞれがバラクラバの額に掛けた暗視装備(ノクトビジョン)に片手を伸ばし電源を入れ後部の1人の男が立ち上がり暗い照明を消した。



 暗闇の中で彼らが息を潜めていると車の揺れは唐突に止まりアルミの壁の外で微かにドアが開かれ閉じる音が聞こえてきた。



 そのわずかな後、いきなりコンテナの後部ドアが開かれた。そうして開口部から次々に男らは下りると彼らはトラックの周囲へ警戒の目と銃口を向けその無人の駐車場に敵がいないことを確認し、銃のストックを肩付けしたまま駐車場に唯一面した道路へ駆け出した。



 男らの吐き出す白い息が連なり5分ほど彼らは駆け打ちつける潮の音が大きくなりだすと繰り出していた脚を緩めた。それでも歩くよりは速く移動し続けると右手が開けた場所に出た。



 その暗がりの中から聞こえるのは埠頭に打ちつける波の音だけだったが、彼らには距離を置いて並ぶ漆黒のセイルが見えていた。



 暗闇に沈んだそれらそれぞれのデッキに武装した警備歩哨けいびほしょうが2人おり、どれか一隻で問題が起きれば他の艦から即座に1人が駆けつける。だが近づく者らには歩哨達が暗視装置など身につけていないことは1ヶ月に渡る観察で承知していた。



 HK-53カービンを構えたまま彼らは静かに3つ目の埠頭にたどり着くと音を立てないように散開しながら繋留されるそれの前後に3人ずつ向かった。そうしてほぼ同時に2人の歩哨の頭部を撃ち抜くと男らは次々にタラップを渡り埠頭からデッキに立ちHK-53カービンを振り向けながら周囲の艦の歩哨が気づいていないか様子をうかがい、数人がハッチのロックを外しその重い外郭を開き、同時に埠頭に残っていた4人が2つに別れ埠頭の前後にあるビット(:船を繋留するロープ(もやい綱)を止めておく柱)からもやい綱をほどき急いでタラップを渡ると最後に渡った1人がタラップを外し舷側に滑らせるように沈めた。



 万が一の撃ち合いになった時に備えデッキに3人残し他の男らは艦内に下りると5分ほどして潮騒の音に回転しだしたスクリューの攪拌かくはんする音が混じり始め、それに気づいた他の埠頭に繋留された艦から歩哨達が駆けつけ騒ぎになり始めた。



 闇の中に関わらず歩哨達は闇雲にG3アサルトライフルを発砲し始め数発がセイルや操舵に命中し鈍い音を放った。唖然とする歩哨数人達が見つめる中、艦はゆっくりと離岸し深い闇に呑み込まれていった。ギリシャ海軍の保有していた(・・・・)214型通常動力型潜水艦S123カトソニスはこうしてクリスマスの日の夜に何者らかの手に渡ってしまった。











 その光景を埠頭の端に駐車した車の中で一部始終見ていた男がいた。



 男は顔を強ばらせ、同国の士がしでかした事実に驚きと困惑を抱いていた。直属の上司に報告すべき緊急事案の重大さに、もしやこれがさらに上層部へ食い込むくさびとなるかもしれないと判断した。



 男は話の切りだし先を思い描きながらコートの内ポケットからスマートフォンを取り出し、空で覚えている番号をタップしてゆくとしばらくして相手が出た。



"Ко́нтр-адмира́л, извините меня поздно ночью...

Да, это чрезвычайный случай, который я хочу положить в ухо превосходительство всеми средствами..."

(:少将(ADM)閣下、お休みのところを失礼します──ええ、是非ぜひともお耳に入れておきたい緊急事案です──)







"Солдаты ваших людей ограбили подводную лодку."

(:あなたの配下の兵達が潜水艦を強奪しました)











☆付録解説☆



☆1【U-214/214型潜水艦】ドイツHDW社のAIP(:非大気依存)型潜水艦です。S123Katsonis(/カトソニス)とはギリシャ海軍が導入した同型艦4番艦です。以下はギリシャ海軍仕様:水中排水量1980t、全長65m、最大幅6.3m。動力ディーゼル・エレクトリック/PEM燃料電池、最大水上速度12kt(:約22㎞/h)、水中10kt(:約19㎞/h)、533mm魚雷管8門、最大搭載本数16本。









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