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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #8
39/206

Part 8-3 A Distant Testimony 隔絶の証

Wawayanda State Park, NJ. 12:25

午前12:25 ニュージャージー州ワワヤンダ州立公園



 流される土煙が薄れ見えてきたもの。



 横を振り向いたマリア・ガーランドは大きくえぐられた野原に驚いた。



 その窪地くぼちの中央につぶれている円筒のものが斜めに突き立っていた。円筒の幅はビッグリグ(トレーラー)の幅ほどもある。



「プロフェッサー・マジンギ! あなたカリフォルニアから弾道ミサイルを打ち込んだでしょう!」



 ヘッドギアのAIが怒鳴りつける彼女の声を分析し即座に通信と判断し接続するとバッファに溜め込んだ音声をさかのぼり上空を旋回してるハミングバードのカーゴルームにいるワーレン・マジンギ教授へと送りつけた。



『おう! 概算だったから28秒早く着いたな! 社長! ミサイルに向かえ! 太陽炉(STC)の対抗策がある!』



 一瞬躊躇(ちゅうちょ)しマリーは横へ駆け出すと崩れる足下をものともせず一気にクレーターを駆け下りながら突き立ったミサイルの傍へ駆け寄った。



 だが電柱ほどの高さで地面に斜めに立つぐしゃぐしゃのミサイルはどんなものを運んだにせよそれが使い物にならないほど壊れてるとマリーは思った。その時だった。いきなりミサイル中央の部分に通常のドアのサイズで爆轟が起き白煙が広がり彼女は身をすくめ両腕で頭を庇った。そのマリーの目前にしわのようにねじ曲がったミサイルの外板が落ちてきて大きな音を立て彼女は驚き跳び下がりマリーは何なのだと見上げた。



 開いたドアほどの開口部の下側から半透明のジェルのようなものがあふれミサイル側面へどっと流れ出てマリーはその不気味さにさらに後退りながらフェイスガードの裏で眉根をしかめ思った。



 まさかこのジェルを身体に塗りたくって炎に堪えろと言うんじゃないでしょうね!



「マジンギ! 何よ! スライムを私に──」



 無線に怒鳴りつけている途中で彼の声がが割って入ってきた。



『それはただの衝撃吸収アルファ・ジェルだ』



 そう教授が言った直後、いきなりマリーの前に開口部から棺桶かんおけほどの白い円筒が落ちてきて地面に突き立つと高圧ガスの抜ける音と共にその中間が持ち上がり開き始め内部が見えた。



 中にはスプリングダンパーに支えられた姿見を肩の高さで断ち切ったような左右に湾曲した鏡が入っていた。



「なんなのこれ!?」







『ABRS──対ビームライフルシールドだ』







 誇らしげなワーレン・マジンギ教授の声にマリア・ガーランドは苦笑いしぼやいた。



「まさかビックリグのエンジンブロックを溶かす超高熱にこれで堪えろというの!?」と彼女は声に出してまで自分に問い返した。



『そうじゃ。そのまさかだ。そいつは優れもので40秒は1万ケルビン(:約9727度)の熱に耐える』



 あの科学者──社長室でこれを思いついていながらに!



 マリーは空を見上げ液晶に映る対地攻撃輸送機のシルエットに腕を振り上げ中指を立てた。



 その刹那、緑色の航空機が揺らめいて視野が爆炎に被われた。





 彼女が振り向くと爆心クレーターを飛び越えて火焔が広がり空気が逃げ場を求め轟音を放った。





 するとクレーターの縁から部下達が次々に飛び込んで斜面を転がり落ちたり滑り落ちてきた。その6人のうち4人のシルエットの上に名が表示されており、2人は電子擬態(エミック)を切って実像で見えていた。マリーは瞳の一振りで所持してる装備にビームライフルがないことを把握し1人もスナイパーがいないことに瞬時に気づいた。



 4人はパワーパックを使い切り直後にネスト(:潜伏場所)を移動してるはずだった。だがその後に動けずにいる!



 草原に安全な隠れる場所なんてない!



 あの得体の知れない女に見つかればひとたまりもないのは明白だ。だがあの火焔放射器のような武器がショットガンの散弾のように使えるなんて思いもしなかった。



「チーフ! 指示されたあの女! 俺らの電子擬態(エミック)が通じていません! 6人がピンポイントで焼き討ちにあい、広がって逃げだした全域に正確に火焔を広げてきました!」



 焦げたフェイスガードを跳ね上げ第5セル・リーダーのマリオン・ルーフが地声で訴えると、次々にフェイスガードを跳ね上げたのでマリーも液晶パネルを引き上げ眼をおよがせたがまぶたを細め誤魔化した。



 指揮するものが動揺する様を見せてはいけない。



「アン!」



 咄嗟とっさに彼女は後方にいるガンスミスの名を怒鳴った。直後、その声を人工知能がさかのぼり無線で送り届けた。



『休暇ァにつき留守にしておりますゥ。ご用のあァる方ァはピーの後にィ────』



 こんな時にふざけたことを! とマリーは眉間にしわを刻み押し殺した声で脅した。



「殴るわよ!」



『ひでェぞ少佐(LCDR)! お前らばァかァ楽しみやがってェ! こらァ! 少佐(LCDR)ァ! お前ェ、ロケットをあの女に撃ち込みそこねたァなァ!』



 急場に巻き舌でぐだぐだ言われマリーははらわたが煮えくり返りそうだった。



「聞きなさい! これから私があの女へ突撃する! 私の走る30ヤード先に5秒間隔でジャベリンを撃ち込みなさい! 1秒でもタイミングずれたり間違って私に当てたらあんた殺すから!」



 それを目の前で聞いているアルバート・ジョーンズやキャロル・コールが驚きの声をあげ即座に他の者も抗議し始めた。



「なっ、なに言ってるんだチーフ!?」



「ええっ!? 止めてください! 焼かれにゆくようなものです!」



 部下らの抗議をまるで聞こえてないとでもいうようにマリーは地面に広がるスライムにズブズブと踏み込みマジンギ教授が降らせたたてを取りにゆき、断ち切られた姿見に片手をかけた瞬間、四方を押さえていたダンパーが一瞬で解除され彼女は胸元まであるミラーを白い筒から取り出した。



 つかんだミラーが薄くなくマリーは驚いた。厚みが2インチ(:約5㎝)ほどもある。その上部外周に小型の黒いファンが一列になりぎっしりと並んでいる。傾け横を見ると同じように上部から下までファンが立ち並んでいた。しかも重い。半装のアリスパック──45ポンド(:約20kg)よりも重量がある。



 裏を見ると上と左右の3カ所に握り手が付いていてたてを縦にも横にも使えるようになっていた。だがどこにもスイッチなどなくどうやって起動するのか理解できない。



「教授! 使い方をレクチャーして! 手短に!」



 マリーがヘッドギアのマイクに告げながらアルファ・ジェルから歩み出るとワーレン・マジンギ教授が陽気に答えた。



『おう! 生きとったか! 今の火焔凄かったぞ! 幅で100ya────』



「教授!」



『使い方か? 簡単じゃ。エネルギービームに向かい合わせるだけで起動する』



「!!」



 マリーはつかんだたてを見つめ絶句した。起動しなければ焼け死ぬことになる。自分だけでなく、クレーターに逃げ延びた6人と4人のスナイパー達も。



「ワーレン! 起動しない時の対処は!?」



『心配するな。反射率の極めて高い鏡だ。たいがいの指向性エネルギービームを反射する』



 マリーはNDCに殴りたい社員が少なくとも2人いることを理解した。鏡はガラス材の裏に銀などの反射材とコートがかけられてはいるが、所詮はガラス。ヒューズド・クオーツでさえ1273K(:ケルビン、約1000℃)ほどしか耐えられない。変形するまでにそこからさらに1000Kほどは保つが裏への輻射熱は相当に大きい。そのずっと下の温度で銀膜層が気化する。相手は分厚い鋼鉄を容易たやすく溶融する指向性エネルギーなのだ。その熱エネルギー量は────教える脳に住み着いたルナの知識に彼女は苛立った。



Someone has to stop such a killer from holding a weapon like this──

(:あんな殺人者が兵器を手にするのを誰かが止めなければならない)



There's nothing to beat.

(:叩くしかない)



 貧乏くじだという思いを吐き捨てた。



 マリア・ガーランドは左足のコンバット・ブーツの爪先を数回むき出しの土にぶつけなじませるとたての左右2つの握り手をつかみ頭の後ろに振り上げた。何人もの声が耳に届いていたが引き止めようとする部下達に一々(いちいち)反証してる時間はなかった。



 45ポンド強。この重さを支えながら250ヤード(:約247m)を40秒で走らないと死が口を開き待ち構える。







"Ambition!!"

(:本望だわ!)







"Anne! Jump out of the crater in five seconds!"

(アン! 5秒でクレーターから跳びだす!)



"Roger! Fight, LC!!"

(オゥ! 闘えィ、少佐(LCDR)ァ!!)



 そう告げアンからけしかけられた刹那、マリア・ガーランドは猛然と斜面を駆け上り始めた。











「ひでェぞ少佐(LCDR)! お前らばァかァ楽しみやがってェ! こらァ! 少佐ァ! お前ェ、ロケットをあの女に撃ち込みそこねたァなァ!」



 アン・プリストリは暴言並みの言い方でチーフとやり取りをしながらラウンドから抜き出したFGMー148ジャベリン対戦車ミサイルを4本を草の上に並べ、横にアグラをかいて座り込んでいた。そうして話の合間鼻歌を歌いながら右肩に載せたファイア・ラウンド(:発射筒)の前部左に取り付けてあるCLU──発射指示ユニットの通常光学式照準器のアイカップを覗いてる。



 横に片膝ついて彼女が撃ち始めたら次のミサイルを即座に装填できるよう同じセルのケイス・バーンステインが待機して数百ヤード先で戦闘状態にあるチーフらを見つめていた。



 アンが指摘するように本当にチーフが事案の敵にロケット──ミサイルと呼ぶには大きすぎるあの弾道弾を落としたとは思わなかったが、出来上がったクレーターに即座にチーフが駆け込んだのを見て関係がないとも思えなかった。



「ケイスぅ、少佐(LCDR)はァ。あの火焔野郎に突撃するんだとよォ。ハン! 右往左往するぜぇ」



「無謀だが、チーフのことだ。何か算段があってのことだ。しかしあの火焔を浴びせてる奴は何も手に持ってないように見えるが遠すぎてヘッドギアのズームでははっきりしないな」



 ヘッドギアのCCDには20倍の光学増幅があり、高精細の画質を利用しさらに20倍のデジタル・ズームが可能だったが、火焔を撒き散らす奴は800ヤード(:約732m)先ではっきりとは見えなかった。



「4人からのビームライフルのエネルギーを退けたんだぜェ。ただもんじゃねよォ。エイブラムスより頑丈なぁ奴が敵なんだぜェ」



 だからといって──ケイスはアンの横に置かれた4本の1番外側のミサイル弾体へ顔を向けた。戦術輸送機から降り立つなりアンが搬送チューブから抜き出し組み立てた最初のものはジャベリンではなかった。1つがロケットサステナー(:ロケット動力部)でもう1本がモーターヘッド(:弾頭)の組み合わせでジャベリンの二倍の長さもあるミサイルだった。彼がこれは何だと尋ねてもアンはニヤツくだけで答えようとしない。



 しかも不気味な赤紫のメタリックカラーに塗られている。



 ケイスはただの弾頭じゃないと思ったが、しつこく聞くと彼女が気分を荒げムチャをすることは長い付き合いでわかっていたので余計な詮索せんさくを止めた。



「オゥ! 闘えィ、少佐(LCDR)ァ!!────ケイス! 撃つぞ! 2秒で再装填(リロード)!」



 そう怒鳴るなりアンが発射指示ユニット(CLU)のモードを指で操作してるのを見てケイスは慌てて次弾をつかみ上げた。











 ちょこまかと離れてゆく姿の見えないものどものオーブを精霊の力による極めて薄い緑色の片目レンズで見ながら爆炎魔術を連続で放ち続けるシルフィー・リッツアは、続けている詠唱えいしょうで口が乾ききり水が飲みたくなった。だが喉をうるおすのに泉や川を探す余裕がないことに苛ついていた。



 それに空から墜ちてきた大木の幹のようなものが何なのか気がかりだった。大木は多量の土砂を巻き上げ地面深くに消えたが、見えない人間ら6、7人がそこへ転がり込むように姿を消した。



 林にもまだ1人生き残りがいたが、こちらへの視線を感じるだけで攻撃の意思が見られないのでシルフィーは後回しにすることにした。



 問題は2つ────光の矢を放てる見えないものどもの少なくとも1人を生かして捕らえ得体の知れない魔法をどうやって身につけたのか白状させることだった。あんなもので多量に狙われたら精霊シルフの魔法防壁(マジックウォール)であれ粉砕されるのはわかりきっていた。



 そしてもう1つ────強者の狼の気配が増しつつあった。



 もしかしたらこの手練てだれの気配をもつ何者かが見えないものどもを操っていることも考えられた。



 いずれにしても時間がしく、見えないものどもの転がり込んだ場所へ確かめに行こうと数本踏みだした矢先に、あの大木が落下した場所から人が1人跳びだしてきた。シルフィーの眼を引いたのはその者が足下から肩までの高さの見事に磨き抜かれた銀の長方形の板を手にしていることだった。その者がこちらへ駆けだした刹那(たて)のような物を前面に振り下ろした。



 あれはたてなのか!?



 だがそんなものがドラゴンの息吹きの前に何の役にたつ!



 ハイエルフは再び立ち止まり片腕を振り上げつつ高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)を終わらせその銀のたてを構えこちらへ駆け来るその者へと向け爆炎系上位魔法術式の生みだした凄まじい白とオレンジに血のような赤が暴れる爆炎を打ち出した。



 その古代竜(ドラグナ)の息吹がたてで身を隠す者へ襲いかかった寸秒、起きたことにエルフは顔を強ばらせた。



 放った爆炎のかたまりが一瞬で上と左右に吹き広がり狂乱し、直後、大きな爆発音を彼女は耳にした。その割れた火焔の間から銀のたてが見えた。



 あの銀のたての兵士は爆裂術式を使えるのか!? それともあれも私が知らぬ魔法なのか!?







 シルフィーはそう思い次こそは、と両腕を振り上げさらに深紅の魔法陣(マジックサークル)を2重に広げた。











 斜面を駆け上がり草地へ飛びだす。



 同時に頭の後ろに抱え上げていたたてを前へ振り下ろした。



 曲げたひじでテンションを作りたてを前に突き出し走り始める。



 思った以上に走り辛いことがわかった。アサルトライフルを肩付けしつつ駆けるよりも難しい。絶えずたてを前面に維持しなければならず繰り出す脚に合わせ身体を左右には振れない。それでも思いっきり駆けた。



 クレーターを出るなり、2つのコーションマークがフェイスガードの液晶パネルに立ち上がった。



 1つはミサイル接近警報。位置と飛来方位のベクトルが同時に表示されアンの放ったジャベリンが早くも追いついてきたことをマリーは知った。



 さらにもう1つは前方からの高エネルギー警報。AIの判断はビーム・ウエポンとなっていた。



 直後、火焔地獄の真っ只中に走り込んで彼女は反射的に両肩をすくめた。その瞬間、たての全周に埋め込まれたファンが一気に全開駆動し始め甲高い音の重奏が高まった。同時に液晶パネルの下側に新しいウインドが開く。



 Front:10200K(:前面、約9927℃)


 Rear Fase:352K(:後面、約78.9℃)



 おおよそ130分の1に減衰げんすいしている!



 それら表示の右隅にカウントダウンする数字があった。



 38、37────。



 たての限界効力の減算タイマーだった。そうマリーが意識した瞬間にたてのずっと先で爆轟が起きて衝撃を感じ、見る間に火焔は乱れ離れてゆく。たて前面の温度が3割強も下がり飛んできた土がバラバラと降りかかった。



 対戦車ミサイルがトップアタックで火焔の1番赤外線輻射の高い場所に落ちたのだ。



 それでも繰り出す脚を緩めない。



 一瞬の安息はつかの間、さらに爆炎が襲いかかり衝撃に駆ける脚が重くなる。



 たて前面の温度が12000K(:約11727℃)、後面が────383K(:約110℃)に跳ね上がった。フェイスガードの空気が熱を帯び始めサーキュレーターが全開で駆動している。コンバット・スーツが生温かい。



 生温かい!? 暑くはなかった。駆けながらマリーはその理由に気がついた。たてのファンが放熱のためだけでないと。周囲後方へ向けエアーカーテンになっていた。そのエアーポケットの中を駆け続けていた。空気だけでそれほどの効力があるのかと彼女は気流に視線を固定する。細かなキラキラとした輝きが流れ動いていた。



 ミストだわ! 恐らくは最も比熱の高い水。



 イケる! これなら突破できる!



 ただの鏡でないことがにわかにわかってきて走る脚に力がみなぎった。







 タイマーが29を告げたその時、たてのアルミニウム合金でできた握り手がオーブンから取り出す皿のように熱く感じられ始めた。











 絶対的な自信の2度の爆炎魔術を破裂させられた。



 それが人の所行だと受け入れられないのはエルフの優位性からなるプライド。



 その狼の気配を放つ人が薄れゆく火焔をかいくぐり姿を見せ迫って来ているのがわかった瞬間、経験のない悪寒が背筋をい上がってきた。よわい486年の年月で多くの口述伝承を受けながら人に追い込まれたハイエルフなどまったく耳にしたことがない。



 だが変化はあった。



 磨き抜かれていた敵のそのたてが真っ黒にすすけていた。焼け落ちる寸前、そうシルフィーは思い彼女は今度こそと両手で放つ爆炎系上位魔法ラグンブレスラを凄まじい速さでとなえ、足元に赤いネオンサインのような魔法陣(マジックサークル)が4重に広げ真っ赤に輝くと目前にまばゆいばかりの大きな火焔竜が出現しあごを開き火口から噴き出す溶岩よりも熱い火焔のストームを走らせた。



 今度こそ焼き殺してくれる!



 だがハイエルフは意識の隅で魔導師(マジックキャスター)おちいる最大のミスに気がつき始めていた。



 同属性の魔導師(マジックキャスター)はそのもつ魔力ポテンシャルのより上位のものは下位の同属性攻撃魔法を打ち消してしまう。



 爆裂魔法でドラゴンの息吹を退しりぞけている時点で敵が爆炎術式を振り回せると気がつくべきだった。



 3度の爆炎魔術を放ちながらシルフィー・リッツアのプライドが人間風情がより上位の魔導師(マジックキャスター)であるはずがないと固執していた。











 エアーカーテンの外側を狂ったように流れる火焔に混じり、違う色合いが広がったのは2度目の指向性熱エネルギーを浴びせられた最中だった。



 たての表面のガラスと銀膜が気化し蒸気となり流れたとマリーは気づいた。



 次に来るのは己が逃げようなく焼かれ死ぬ瞬間。



 だが一瞬で溶け落ちると思ったたてはその形を留め太陽炉(STC)から守り続けていた。都度ごとに打ち込むアンのジャベリンが爆発し火焔を偏向してなければとっくに丸焼けになっていた。



 たての周囲からわずかに見えている前方は凄まじい熱気で空気がいびつなミラージュと化し、駆け続け敵対する向きに間違いはないという確信はまだ正面から浴びせられているからだとマリーは意識していた。



 全力で跳ね上げる後塵がまだ脚力が続いているあかしだった。



 人がこんな温度に堪えきった記録はない。



 生還したらギネスものだと笑わずにはいられないことがとおに限界点を超え奇跡的な綱渡りをしているのだと腹の底から畏怖を感じていた。



 そうして3度目に爆炎衝撃を浴びた瞬間、エアーカーテン外の空気がプラズマ化するのが見えヘッドギアの液晶パネルに表示されている温度表示が14381ケルビン(:約14108℃)で死に数字が飛び消えバー表示に変化した。



 自分がトカマク型核融合炉の中を駆けているのだとマリーは感じ、それでもどうしてたてが溶けないのだと理解できずにいると焦げ臭い樹脂の芳香ほうこうに思い浮かんだのはたての表面が炭化しその下層の樹脂が身を削り高熱でガス化しあらゆる場所から噴き出しガス層が地獄のごとき超高熱を紙一重で跳ねのけ、しかも炭化層がいくらかは輻射熱を前面に返しているという仮定だった。マジンギ教授はこれすら想定していたのかと彼女は畏怖を感じた。



 だが両手で握る軽金属の握り手はグローブ越しにもかかわらずオーブンの中から焼き終わったドリアのデッシュを素手で取り出しているようで、たてインサイドの温度が718K(:約445℃)に達し前に構えた前腕のバトルスーツの特殊繊維が悲鳴のごとく白煙を上げていた。



 もうジャベリンの爆轟で逸らしきれるものでなく、さらに1撃まともに喰らえば至近距離で核爆発を受けたように一瞬で身体が炭化し灰すら焼き尽くされるのだとマリアは恐れながら駆け続けた。











 ヒュドラの爆炎のようだと呆れかえり、アン・プリストリはそれに3度も包まれてなお走り続ける少佐の後ろ姿を驚愕の眼差しで見つめた瞬間(つぶや)いた。



「あんたをこんなことで死なせねェ! 少佐(LCDR)ァ! お前の魂は俺様のもんだァ! 喰らえクソ野郎!!」



 4発目に放つ特殊ジャベリンのモードをトップアタックからダイレクトモードに切り替え少佐の肩越しを通過するコースで照準し発射ボタンを押し込んだ。



 コールドランチなしで発射筒から最大出力で点火したサステーナは構えた彼女に盛大なブラストを浴びせながら1度地面すれすれまで落下すると16枚の展開した翼が揚力を生みだし急激な加速度で高度を回復した。



 古代北イタリアのガリア人と戦っていたエトルリア人はガリア人の主装備──長剣と大盾の、防御を失わせるために突き抜けるピルム(/pilum)を生みだす。後に古代ローマ軍団レギオンの軍団兵が戦場で用い投擲とうてきしたやりであるピルムは屈強なやりジャベリンとなった。 そのやり煉獄れんごくのルーラー──アン・プリストリが研ぎ澄ませた。



 50フィート(:約15m)の高度、500ヤード(:約457m)を4秒で駆け抜けたハイスペック・ジャベリンは一瞬で4度目の爆炎に突入し堪えながら駆けるマリア・ガーランドの右肩越しに突き抜けた。直後つかみまとわりつく火焔の後塵を引きずり飛び出した対戦車ミサイルはハイエルフの生みだした淡いあおのマジックウォールに激突する須臾しゅゆモーターヘッドのTSCーHEAT(:タンデム成形炸薬(さくやく)対戦車榴弾(りゅうだん))の前段である小型炸薬が猛爆しマジックウォールの境界面を波打たせた。直後後部の対戦車榴弾(りゅうだん)の後方へ向け絞られた逆円錐形金属製ライナーを取り巻くトリメチレントリニトロアミン(:軍用合成爆薬)が起爆した。秒速8750mの速さで円錐の中心部に指向性爆轟が向かうと金属製ライナーは中央に急激押し出され液状となり高温の金属ジェットとなる猛り狂うスピアの化身で魔法障壁に食い込んだ。



 精霊シルフのあお魔法防壁(マジックウォール)は高熱高速のジェットにさらされそこを中心に一瞬で赤紫に変貌し波打ち周囲へ急激に逃げ盛り上がる。そこまでは州兵の放ったジャベリンと同じ反応でえきるように見えた。だがアンの放ったスペシャルはさらに追い討ちをかけた。



 高速の高熱ジェットを生みだしたライナーのさらに奥で新たな爆轟が起きると先走る高速ジェットを突き破り最深部から劣化ウラニウム製のフレシェットが凄まじい勢いで飛びだし弱ったマジックウォールに壮烈な轟音をあげ突き立った。その1点から凄まじい波紋がたて全面に広がると中心から霧消した。



 その刹那、シルフィー・リッツアの生みだした屈強なたてが彼女が使役させるようになり初めて崩壊し砕け散った。



 飛び出してきたフレシェットを彼女は限界的反射神経で咄嗟とっさに身をひねり交わした。その直後斜め前へ瞳を振り戻そうとした刹那、爆炎を突き抜け現れたものがたてをかなぐり捨て彼女の瞳をにらみ据え片腕で引き抜いた虹色の残像を曳く短刀の進む動線にシルフィーは過去経験のない危機感が心を脅かした。防ごうとハイエルフも瞬間に太腿ふとももからナイフを抜き振り上げた。だが白銀の髪を波打たせにらみつけるラピスラズリの双眸そうぼうが絶対的優位をあふれさせていた。その時になって彼女は相手を狼などとあなどっていたことを思い知った。







 こいつは死神だ!







 そう気づいた寸秒、シルフィー・リッツアの振り向けたドワーフが長き時間で鍛造した強靭な刃物がまるでパピルスを切るように真っ2つになった。



 その瞬間、彼女は禁じ手──ディスタント・テスティモニィ──隔絶かくぜつされしあかしひも解いた。











 後方から飛来し稲妻のように火焔を穿った影がその先に爆轟を放ち押し寄せた空気に逃げ惑い四度目の焔が一気に離れてゆくゆく。



 敵は寸前だという思いからマリーは機能しなくなったヘッドギアを片手で解除し頭の1振りで捨て去り同時にボロボロになったたてを投げ捨てた。押し寄せる熱波の顛末てんまつを突き破り彼女が眼にした大柄の女が美しすぎるブロンドを振りまいて逸らしていた半身を引き戻そうとしていた。





 届いた!





 その相手を見た瞬間、異様に長く尖った片耳にマリーは驚きそれでも千載一遇の接敵に太(もも)のシースからファイティングナイフを引き抜き腕を振り向けた。



 逆手に構えた月光の尾をくファイティングナイフが相手の振り上げる刃を捉え一瞬に両断すると次の刹那、その異様な女が断ち切れた刃物のな残りを投げ捨ていきなり目の前の空中に差し込んだようにひじの寸前まで片腕が消え失せた。そして引き戻される手首の先に見えてきたのは、見事な装飾を施されたつかと続く胸のすくようなオーロラの輝き。







 謎の女が空中から引き抜いたビームサーベルのような長剣を眼にしマリア・ガーランドは幻覚なのかと困惑した。











☆付録解説☆


1【K】(:ケルビン)熱力学温度:絶対温度の単位です。初期は標準大気圧中の水の氷点と沸点の1/100とされましたが、現在SI国際単位系では水の3重点の熱力学温度の1/273.16であり、絶対零度0Kが基底となります。



2【ARBS】(:対ライフルビームシールド)架空装備品でありNDCラボ試作品です。鏡面枠周囲には小型シロッコファンが連なり鏡面裏の輻射熱を外気へと導き同時に内蔵タンクよりターボポンプ、インジェクションノズルを経て純水を高密度のミストとして排気に添加。高速排気気流により鏡面後方へエアーカーテン層を形成。鏡面機能喪失後は裏面の樹脂層が300度で炭化、炭化裏面の樹脂沸騰層の高圧ガスが炭化層を抜け極めて柔軟な断熱層を形成し外熱遮断。瞬間摩擦温度1万度に達する大気圏突入体の保護技術の転換です。











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