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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #8
37/206

Part 8-1 Jailbreak 脱獄

FMC(/Federal Medical Center) Devens, Town of Harvard Worcester County, Mass. 12:04

12:04 マサチューセッツ州ミドルセックス郡 連邦刑務所局デベンズ連邦医療センター



 所長室のドアを閉じる間際に掛かってきた内線の受け答えで彼が声を荒げるのを背後に聞きながら、ローラはパティと顔を見合わせドアを閉じた。その直後、通路を険しい表情の刑務官が3人駆け抜けて行った。



「何かしら?」



 ローラがそうつぶやくと少女は肩をすくめ警部に尋ねた。



「調べてみる?」



「いえ、とりあえずFBI支局に戻りましょう。カエデス・コーニングのテスト結果を精査したいから」



 通路を歩き刑務官の監視がある出入口へと2人が歩いて行くとM4A1で武装した4人の刑務官が正面玄関から駆け出て建物沿いに曲がって行った。



 ローラは正面玄関の通路側ドア傍らにあるボタンを押して天井(きわ)のカメラを見上げた。すぐに短いブザーが聞こえドアのソレノイドが作動しデッドボルトが抜ける音が聞こえ彼女はドアを開いた。



 ローラはパティを従え玄関警備室のガラス窓へ顔を向けると天井のスピーカーから刑務官がびた。



『申し訳ないです。所内で問題が発生しております。このまましばらくお待ち下さい』



「何が?」



 ローラが問い返すとガラス向こうの2人の刑務官が顔を見合わせた。



『いいえ、大したことではありません。お待ち下さい』



 ローラは斜め後ろにいるパティへ振り向くと声に出さずに唇だけ動かし告げた。





────パティ、何が起きてるか探って。





────わかった、ローラ。ちょっと待ってね。





 少女が瞳でうなづいてわずかにまぶたを下げると数秒でFBI警部の意識に告げた。





────囚人が問題を起こしてるわ。みなピリピリしてるけれど誰が問題を起こしているか知らない。対応しろとだけ────待ってローラ。わかったわ。カエデス・コーニングが診療所で人質をたて籠城ろうじょうしてる。



 教えられた瞬間ローラは眼を細め鼻を鳴らした。



 籠城ろうじょうならさしたる問題ではない。刑務官はカエデスのすきを見つけ抑えにかかるだろう。それに高い塀こそないが2重フェンスの間には警備犬が周回しているし監視所には武装刑務官が数人いる。だが医療刑務所の出入口に隣接した監視所は医療刑務所全体を見渡せるわけではないのがローラには気がかりだった。



 彼女はもう1度玄関警備室の刑務官へ振り向くとガラス越しに頼んだ。



「私達を中に戻して」



『申し訳ない捜査官。この区画で安全性を保つ様に命じられていますので、それはできません』



「あのクソ所長がぁ──」



 ローラがこぼした悪態にパティがわずかに笑い声を返し耳打ちした。



「どうしよう、ローラさん。刑務官に鍵を開けさせることはできるけど」



「止めときなさい、パティ。手に負えないとわかったら所長(みずか)ら頼みに来るわ。カエデス・コーニングはしたたかだから手こずるでしょうね」



 少女へそうささやきながらローラは玄関警備室の強化ガラス越しに刑務官を盗み見た。まるで囚人を監視するような目つきで2人の刑務官がにらみ据えていた。











 刑務当直係長のダドリー・デインズは丸腰で診療室の出入口に立ち収監者の説得を試みていた。



「カエデス、今なら反省房に入らずに済むように私が保証しよう。看護士を怪我をさせたら取り返しがつかんぞ──」



 女看護士の首に押し当てたドアプレートのほとんどを指で隠し、カエデスはさもペーパーナイフのように見せかけていた。



「それは交換条件ではないな。脅しというんだよ。さっさと下がり通路の曲がり角の先まで戻れ!」



 ダドリー刑務当直係長へそう警告し、直後カエデスは口元に引き寄せている看護士の耳の後ろからささやいた。



「俺が何をやらかして収監されているか知ってるだろう。さあ、医療者通用口のドアの鍵はどこだ? 俺は気に入る答えが聞けないと、お前の顔の皮一枚を麻酔なしで樹脂のナイフでめくることになるぞ」



 その脅しに逃走幇助(ほうじょ)とならないようにと抵抗し続けていた女看護士の意志が崩れ身体を震わせ始めた。



 カエデスは羽交い締めにした看護士の肩越しに収監者出入口で交渉を続けようとする刑務官の管理者を怒鳴りつけた。



「3秒で俺の前から消え失せろ! でなければお前さんの目の前でこの女の右目をえぐり出してやる! スリー! トゥ!」



 通路に戻って! 看護士がおびえた表情で刑務官へ無言で訴えていた。慌てたようにダドリー刑務当直係長が通路へ下がり出入口(そで)壁に身を隠した。



「さぁ、あんたらの出入口から俺を建物の外へ案内してくれ──」



 カエデスはそう女看護士に耳打ち短く笑い声を残した。



「こっち──こちら──です」



 女看護士がもがくように右腕を上げカーテン張りの衝立ついたての方を指差した。直後カエデスは羽交い締めした女の身体を強引にその方へ振り回し衝立ついたてに向かい女看護士を押しながら歩き始めた。



 衝立ついたての裏に回り込むと2重錠のかかった鋼鉄製の扉があった。ドアノブにはデッドボルトを操作するサムターン(:つまみ)がなく室内なのに鍵穴が開いており、その上(こぶし)2つの高さに別なシリンダーがあり鍵穴があった。



「キーは!」



 カエデスが声を荒げ問うと看護士が小さな悲鳴を上げそうして震える手でカーデガンのポケットからキーホルダーの付いたディンプルキーを取り出した。



「それは片側のキーだろ! もう1つは!?」



「先生が──ドクターがお持ちで──」



 カエデスは力を入れドアプレートの角を女の首に食い込ませた。



「言っただぁろうがぁ、俺の気に入る答えを言えと!」



 女看護士はじたばたするように横にあるファイルロッカーへ手を伸ばし1番上のキャビネットを引き開け震える手を差し込んだ。その手が上げられると別なディンプルキーが指にままれていた。



「もう──解放して──もう、いいでしょ──」



 女看護士が半泣きの声で懇願こんがんした。







「いいや、まだだ。お前さんはこれからハネムーンに行くんだ。いいか? 楽しんでくれ。さぁ、錠を開けろ」











 エントランスに閉じ込められ軟禁状態のローラとパティは、正面玄関の前を別な2人の刑務官が防弾ベストを着てM4A1カービンを手に駆けて行くのを眼にして顔を見合わせた。



「パティ、カエデスがどうしようとしてるのか探って頂戴ちょうだい



 ローラは頼むと少女がかぶり振ったので驚いた。



「あの男に上手く入り込めないの」



 テレパシストの眼がのぞけない意識があるのかとローラは驚いた。



「それは、あの男が何かの特殊な力を持ってるということなの?」



 パティが下唇を咬むさまを眼にしてローラは困惑した。少女が捜査協力してくれるようになって1年近くで初めてのことだった。全米大陸どころかほとんど北半球を網羅もうらして人に入り込めるとびきり優秀なテレパシストができないと口にする事態。だが、方法はあるわ。



「パティ、今、玄関を通り過ぎて行った武装刑務官と私を繋いで頂戴ちょうだい



 そう頼んだ瞬間、ローラは何度経験してもれないトンネルを凄まじい速さで抜ける様な感じを受けその先から刑務官の視界が飛び込んできた。





 カービンに装着されたダットサイトの先に建物の外に立つカエデス・コーニングの姿があり、1人の女看護士を羽交い締めにして刑務官らへじりじりと詰め寄っていた。



 人質にされ震え泣き続ける女看護士のあまりにも酷い有り様に刑務官らは手出しができず進み出る連続殺人鬼に押されていた。その様に刑務官では状況に対応しきれていないとローラの意識にHRT(:FBI人質救出チーム)が浮かび、CIRG(:司法省重大事件対応群)が関与するにはあまりにもローカルで事件性が低いと即断し現場で解決しなければと気持ちが焦った。



「お前らのいるこの場でこいつの顔を引きがしてもいいんだぞ!」



 たくみだわ! 刑務官の耳を通して聞いているローラは驚いた。カエデスは収監理由を刑務官らが知ってる前提で脅しをかけ続けていた。数人はカービン銃を手にしながらす術もなかった。



 そのまま場が正面玄関近くに移動し人質を取った連続殺人鬼は、ローラ達が事務所から乗せて来てもらったSUVに近づくと片腕で締め上げたままの女に車の運転席ドアを開けさせ、自分が先に乗り込むなり人質の看護士を引きずり込んだ。



 いけない! このままでは本当に脱獄されてしまう!



 あの車のエンジンキーは案内してくれた刑務官が──ローラは後部座席から降りる刑務官の所作を思い出そうとした矢先にセルスターターの回る音がガラスドア越しに聞こえてきた。違う! イグニッションキーは差したままだわ!



「パティ! 私の後ろに!」



 FBIボストン支局の警部はいきなりパティにブリーフケースを押しつけ握らせると、左手でスーツを跳ね上げ腰のやや後ろに着けたクイックホルスターからグロック18Cを引き抜きグリップを握る右手親指でセレクターを2つのくぼみに倒した。その様に強化ガラスの向こうにいる2人の刑務官が顔を強ばらせ仰天ぎょうてんしているのがパティの視線を通し彼女には見えていた。



 ローラは直後反対の腰の後ろに着けたクイックパウチから予備の19発装填された弾倉を引き抜くとそれを握った手首を右手首の下に交差させながら銃口をエントランス外を閉じている強化ガラスドアの電動ソレノイドのデッドボルトが入り込んでいるステンレス部分へ向け引き金を引ききった。





 爆轟と共に銃の先に大きな火炎が膨れ上がり激しく前後に残像を生むマシンピストルのエジェクションポートからホースで水を撒くように空の薬莢やっきょうが連なり飛びだし流れ出た。低いスライドプロファイルにもかかわらず銃が激しく彼女の手首を暴れさせていた。



 一瞬、ほんの1秒足らずで19発の弾倉が空になり狙ったステンレス部分がボロボロになった。その強化ガラスのドアにローラは肩でぶつかり押し開け、外に出ながら空の弾倉を地面に落とし交差させていた左手首を離し回転させ開口部の広いフレアマガジンウェルへ新しい弾倉を叩き込みスライドストップを操作し解放したスライドで初弾をチャンバーにロードしながら1秒以内でそれらを行い目の前に突進してきたSUVのフロントタイヤへ振り向けた。



 撃ち込んだ12発の内9発がタイヤカーカスを引き裂いたがフルホイールドライブのGM製SUVは轟音を上げ地面に接触しだしたホイールリムから派手に火花を散らしながら2重ゲートの通用門フェンスにぶつかるとそれを一瞬で横に押し切りさらに外側にあるフェンスを突き破った。



 医療刑務所の敷地外に飛びだしたレジャービークルは激しく車体をかしがせて曲がると事務棟の前を横切り林の方へ伸びてる道へと姿を消した。



 ローラ・ステージは銃をホルスターに戻しながらFBIボストン支局へ指示連絡を入れようとセリー(:米国での携帯電話の俗称)をスーツの胸の内ポケットから取り出し背中に当てられた手のひらに後ろを振り向いた。



 顔を合わせた直後、唇まで色を失ったように青ざめた少女が彼女につぶやいた。







「あいつ──通り過ぎるあいだ──わたしを見ながらニヤツいてた」











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