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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #7
34/206

Part 7-3 Delivery 配送

Wawayanda State Park, NJ. 12:15

12:15 ニュージャージー州ワワヤンダ州立公園



 押し倒した人間の男の喉笛をナイフで切りつけ断末魔の痙攣けいれんを見せる男から立ち上がりシルフィー・リッツアは林の奥へ顔を向けハイエルフの証である長い耳で音をまさぐった。



 かなり離れた林の奥にまだ1人、人間らしき気配を感じた。



 こんな場所で長々と人と小競り合いを続けるつもりはなかったが、精霊シルフの魔法障壁を追い込んだ謎の攻撃型魔術が気になり、それは狼どものボスが関係してるように思えてならなかった。



 同族すべてを殺め喰らったあれ(・・)を追い詰めに行かなければならぬ責務を感じながら、シルフィーは草原の狼どもをこの眼で確かめたいという誘惑にさいなまれ続けた。



 脅威は絶てる時に根絶やしにしておかなければ、行軍の際に奇襲を掛けられる場合が多い。



 彼女は林の外の草原へ顔を向け瞳を細め深く息を吸い込みゆっくりと吐きだした。





"Fjandinn! Berjist við úlfana!"

(:ええい! 狼と一戦交えるか!)





 思いを吐き捨てナイフを太(もも)のシースに戻すと林の外へ向け歩き始め、刹那、またぞろの殺気を感じ素早く契約術式詠唱(えいしょう)し右腕を左から右へ振り精霊シルフの魔法障壁を横長に展開した。その矢先だった。



 スコールの様な火の粉が目前に膨れ上がった。



 家1軒分の横幅のある障壁の4カ所に、先の火花と同じ大量の青い火の粉が滝の飛沫しぶきのごとく湧き起こり、それらが一瞬で赤紫に変貌すると障壁が真っ赤に変移した。



 そのあまりもの攻撃にハイエルフは林から出るなり草原を横に駆け出した。



 敵の布陣が横1列なら、その横へ回り込むことで1部の攻撃に限定できた。遠い敵は背を向ける近い味方の方へは攻撃できなくなる。



 凄まじい速さで駆けながら魔法障壁の損耗が一気に4分の1に減り、人の術使い半数以上が攻めあぐねいているのだとシルフィーは考えた。



 1列になった人間どもを根絶やしにしてくれる!



 早口で謡うように爆炎系上位魔法術式をなぞり始めた矢先に大量の火花がいきなり途切れた。



 ハイエルフは己の世界で身につけた経験則から敵が布陣を敷き直していると感じ、ブロンドの長髪を跳ね上げ雑草に身を落とすと息を殺した。



 眼に見えぬ光の矢を放ってくる人間どもは己らが縦1列になり不利だと悟り横へ展開しているはずだった。シルフィーはそう思い雑草の先へ両眼を持ち上げ駆ける人間どもを見ようとした。だが草原にはそよぐ雑草以外に何もなく、敵も伏せたのかと一瞬彼女は思った。



 いいや、そんなわけはない。



 自分同様、移動し優る攻撃位置に目指そうとしてるはず。



 だが、なぜ見えないんだ!?



 まさか──幻視妖術! 姿を消したり惑わすベール(:手段)は幾つもあるが人が姿を消すなら、呪いのリングぐらいしか方法はなかった。



 だがどんな幻視妖術でも、生き物自体が持つ生命力を根底から消すことができない。



 それでもハイエルフは思いついた方法に躊躇ちゅうちょした。





 見るということは、見られるということと同義語だった。





 どのみちこの場へ駆けたことは見抜かれている。ここへ伏せているのは人間等に丸わかりなのだ。



 伏せている場所さえつかめば攻撃手段は数え切れないぐらいあった。



 シルフィーは腰のパウチを開き指でまさぐり銀の細縁が回された極めて薄い緑色のレンズを取り出した。フルオライトを磨き上げた術具──故郷で黎明れいめいのクリスタルと呼ばれる隠れた魔物を見抜く魔術道具だった。そのレンズを右側の上(まぶた)ほおの膨らみにはさみ下生えの雑草の先へ顔を持ち上げた。





 白く揺れ耀かがやくものが多数見えた!





 誰もいないはずの草原──150ヤード(:約137m)先に6人、さらに100ヤード(:約91m)後方地面に伏せた4人。その中間に歩く者が1人。白く光る人影が見えた。



 白く耀くのはエルフ族か人しか見たことがない。



 魔物の類ではなかった。



 だがどんな方法にせよ、見つけたからには逃す手はなかった。広がり周囲を取り囲もうとする6人をなぎ倒してやる。







"Vindhviða sem fær þig til að spila skemmtilega, Vindurinn sem blæs frjálslega, Wind Spirit Sylph sem getur ekki grípa það────Saxaðu allt sem þú snertir með beittum blaðinu þínu. Jetzumendara!!"

(:たわむれるごとき一陣よ、自由気ままに吹き抜ける流れよ、つかめるものなきくうの妖精シルフ────鋭き刃で触れるすべてを切り刻め。ジェーツゥメンダラ!!)







 勢いよく立ち上がりシルフィー・リッツアはエルフ語とルーン語の入り混じった高速詠唱ファースト・チャンティングで精霊シルフの力の1つを自然界から引き出して片腕を前方に広がる4人へ大きく振り回した。











 林から出かかったその長身の女が、前方に盾を構えていないのは、上空にいる対地攻撃輸送機ハミングバードの電子光学目標指示シス(EOTS)テムが処理する目標補足の俯瞰ふかん画像からわかっていた。



 絞り込んだビームで狙撃させ動きを封じるつもりだった。



 狙撃を命じた瞬間、地上からの視野で200ヤード先にいるその殺戮さつりく者の直前に凄まじい火花が広がるのが見え、マリーは心底驚いた。防がれたらあの太陽炉(STC)で前衛の6人が狙われる! スターズ・コマンダーは4人のスナイパーにビームエネルギーを増やすように命じ直後前衛6人へ退しりぞくよう怒鳴った。



全員呼び出し(フル・コール)──レイカ、ハント、ルイザ、マーガレット! ビーム出力最大! 第5、6セル! 前衛6人全力でさがれ!!」



 林のそばのフレアにも見える多量の火花が大きく膨れ上がって寸秒、その中央の先にあの長身のブロンドロングヘアーの女が健在なのを疑わないマリーは手にするFNーSCARーH STDがあまりにも脆弱ぜいじゃくたる攻撃手段だと顔を強ばらせた。4人が使うビームライフルは各国のメイン・バトル・タンクの装甲を単独で撃ち抜けフィールドから排除できる火力がありながら、あの女の防御手段は4つのビームをすべて弾き返してプラズマのようになっていた。



 どんな方法を用いて攻撃を退けているのだ──いいや、あいつはいったいどこの誰なのだ、と疑問が膨れ上がった。



「こんな場所で何をしてるんだ!?」



 マリーがそうつぶやいた矢先に、いきなり林の傍の火花が消え失せた。



『チーフ、ハンディ・サプライのパワー切れだ。指示を!』



 真っ先に連絡をしてきたのは第5セルのファースト・スナイパー──ルイザ・アベルだった。神経質な彼女の思いが無線の音声にまで乗っているようだった。



退しりぞきなさい。至急、バンディッドから距離を!」



 マリーがルイザに命じているときに次々に他のスナイパーから同じ報告が入り、その受け答えに一瞬の間が生まれてしまった。



 いつの間にか上空から捉えていた林の外の謎の女の姿が消え失せていた。



 転進した6人の前衛の背後で草叢くさむらに立つあの女の姿があった。



 爆炎に6人がやられる!



 そう判断しFNーSCARーH STDバトルライフルのストックを肩付けし、同時にセレクターをフルオートに回したマリーは1人前進しながら逃げる仲間達の援護射撃を猛然と始めた。その刹那、駆けてくる6人が、1人また1人と脚を絡めるようなおかしな倒れ方で草原に前倒しになり始めた。



 マリーがダットサイトの光学照準器視野(FOV)外の左目で見たのは大柄なブラディスラフ・コウリコフ──ブラッディの背負うアリスパックが電子擬態から可視化しながら横へ二つに切れて吹き飛んだ光景だった。





 太陽炉(STC)じゃない!





 マリーは草原の先で草原から上半身だけ見せてるその女目掛け正確な射撃を行い、退却する者達の被害を最小限に食い止めようと躍起になって、2秒で撃ちきり2つ目の弾倉に差し替えた。



 そのトリガーを引こうとした直前、液晶画面の右側に赤いコーションマークが現れその上に現れた注釈を読み驚いた。



"Note on the impact of shells!!"

(:砲弾着弾注意)



 砲弾ですって!? 彼女は一瞬、無許可でアン・プリストリが対戦車ミサイル・ジャベリンを撃ったのだと思った。



「マイクロフォン、ボリュームアップ!」



 アサルトライフルのサウンドサプレッサ(:減音器)のリズミカルな射撃音に混じり、空気がうなる音質の急激に高くなる別な音が聞こえていた。



 マリーが3つ目の弾倉交換を行いながら顔を上に向けると、小さな丸く黒い点が雲を背に見えた。それが一瞬で大きくなると視野の右片隅でも見えるほど大きな土が舞い上がり彼女の4時方向に多量の土砂が吹き上がった。直後、凄まじい横からの衝撃にマリーはふらついてしまった。



 混乱する意識の中にワーレン・マジンギ教授の言葉が蘇った。



 19分稼げ! 対抗策をデリバリーさせる!







 思いついた1つの事実に、マリア・ガーランドは今頃、NRAD──北アメリカ航空宇宙防衛司令部が大騒ぎになってると顔を引きらせた。











 林の中から落とされたヘリの生き残りニュージャージー州兵の第1飛行隊第102騎兵連隊に所属するRSTA(Reconnaissance, surveillance, and target acquisition/:偵察・監視・目標捕捉)兵のトビー・カーティス上等兵(PFC)は無線で基地へ連絡し、対地攻撃機を向かわせると知らせを受け、上官へそのむねを伝えるべく林を探し回った。



 見つけたのは仲間達の遺体ばかりで、恐れおののいていると林の外で凄まじいことが起きてると野原の手前まで低い姿勢でのぞきに行った。



 野原にまるで鋼鉄精錬所の火花のような派手なものが飛び散っていた。その広がる中心先端に草叢くさむらに立つブロンドロングヘアーの女性の姿があった。



「なんだ、ありゃ!?」



『こちらブルー・サンダー。近接航空支援(CAS)の対象を指示しろ。あと5分で上空だ』



 いきなり無線が入りトビー・カーティス上等兵(PFC)は対地攻撃機からだと気がつくのに一瞬、時間がかかって慌てて背負う無線機のマイクを手に取った。



「対地攻撃の目標は人員だ。繰り返す。 人員だ。女性──ブロンドロングヘアー。ヘリの煙から西300ヤード 林の南170方向200ヤード先の野原にいる」







 その見えている女は、前に赤いネオンのような輝きを放つ特大級の横長な盾を片手で支えていた。











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