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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #7
33/206

Part 7-2 The Material of Fear 恐怖の材料

USS Maryland SSBN-738 Ohio-Class Sixth Fleet Silent-Service U.S.Navy, Middle of the Atlantic Local Time 16:20 GT-17:20

グリニッジ標準時17:20 現地時刻16:20 大西洋中央 合衆国海軍所属第6艦隊潜水艦 オハイオ級戦略ミサイル原子力潜水艦メリーランド



"──This is not an Exercise! The first combat regime! The security personnel are fully armed and to the command center! This is not a Practice!!"

(:──これは演習ではない! 第1戦闘体制! 保安要員は完全武装で司令所へ! これは演習ではない!)



 その一報が発令されたのはセイル前第1ハッチ下の隔離室に一人の水兵が落ちてきた音に一室前方のソナールーム要員の1人が気がついたからだった。



 水密ドアが開け放たれていなければ誰も気がつきはしなかった。



 ソナー・アレイが多量のキャビテーションノイズとタンクへ急激にエアー・ブローする至近距離の音を拾い上げ、それを発令所(CR)へ報せようとした矢先に、重く鈍い音にソナーマンの1人──ベイクリック伍長(PO3)が怪訝な表情で船外へ通じるハッチ室をのぞくとガスコイン上等水兵(S N)が梯子際下段に逆さまにひっくり返り即座に死亡していると判断した。頭がグレイチングの床に押され首が直角に近いほど横へ曲がっていたが、制服の胸と腹に血の染み広がりかかる銃創が5つもあり白眼をむき口を開いていた。



 直後、続け様にバックパックを背負った男らが梯子左右のパイプに爪先を掛け手の平でパイプを滑らせ降りて来るのが見え、そのコンバットパンツが自軍のものでないと見えた瞬間ベイクリック伍長(PO3)は水密ドアを乱暴に閉じてロックノブを両腕で勢いよく回し、そばの棚にあった長物のプラスドライバーをノブとドア補強材の間に差し込んで回らなくした。



 そうして彼は他2人のソナーマンが驚いた顔で見つめるのを後目しりめにインターコムに跳びつくなり発令所(ブリッジ)を呼び出した。



発令所(CR)──』



「ソナー、ベイクリック! 第1ハッチ敵襲! ダリオがられてる! ドアを閉じろ! 敵襲だ!!」



 だが言っている途中で間をおかずにけたたましい警報が鳴り響き警戒警報が発令され武装保安要員を呼ぶ放送が流れた。その内容を耳にしながらもソナー卓についているバリー上等水兵(S N)が大声で尋ねた。



「何があったんですか、伍長(PO3)!?」



「知るか! 奇襲されてる! 武装してる!」



「襲撃!? 大西洋のど真ん中で?」



 そう、当たり前の事のように言われてもとベイクリック伍長(PO3)が眉根を吊り上げた直後厚い鉄板でできた水密ドア越しに爆轟が響いた。



「あぁ!? 本当だ!」



 バリー上等水兵(S N)が言った瞬間、またドア越しに爆轟が響いた。











 航海規定にのっとり船外作業中は周囲監視のためセイル上部艦橋に2人以上の要員がでることになっている。この時は3人が艦橋にいた。



 原子炉冷却の2次冷却水を冷やす給水管取水フラッド・ホールに異物がまっているのかダイビング確認に向かった機関士サリンジャー上等兵曹(CPO)の様子を見ていた1人と残り2人が前後に分かれ外洋を監視していた。



 上等兵曹が潜水し数分後、右舷(スターボード)に大量の海水を吹き上げメリーランドよりも短い潜水艦がぶつかりそうな間隔で浮上してくるなり、セイル前後のハッチを開き飛び出すように出てきた乗員がアサルトライフルで攻撃してきた。



 ダイビングしているサリンジャー上級上等兵曹(CPO)を手伝いに船外へ出てきていた同じ機関士ダリオ・ガスコイン上等水兵(S N)が真っ先に撃たれハッチ開口部から艦内に落ち、ほぼ同時に艦橋に上がっていたケイシー・ダルトン上等水兵(S N)が撃たれ発令所(CR)へ襲撃を報せ2人掛かりで艦橋ハッチ内に引きずり込んでハッチを閉じた。



 ケイシー・ダルトン上等水兵(S N)を司令所へ下ろした2人は騒然としたコントロールルームに驚き直後、艦首へ通じる水密ドアの先で爆轟が鳴り響いたのを感じた。アーマード・ベストを着てフリッツヘルメットを被りM4A1カービンを手にした7人の保安要員が駆けつけた時にさらにもう1度先のものより大きな爆轟が響き水密ドアの蝶番が千切れロックアームが折れ曲がり大きな圧力に耐えるはずのドアが外へ斜めに浮き上がった。



「撃て! 入れてはならん!」



 艦長ダリウス・マートランド大佐(CAPT)の命令にその保安要員7人が水密ドアの隙間目掛けカービンを発砲し始めた。鋼鉄のドアに跳弾した幾つものM855A1ミリタリー・ボールが司令所内に跳ね回り20名余りの者が頭を抱え身を縮ませた。



 だがドア隙間からの反撃はなく、7挺のマズルブラストで耳が聞こえ辛くなっていた艦長は腕を横へ振り上げ射撃を一旦いったん中止させた。



 そのわずかな間隙かんげきにいきなりドア下の腕が楽に入る隙間から次々にスモーク・グレネードが投げ入れられ、セーフレバーが乾いた小さな金属音と共に弾けると、発令所(CR)の皆が困惑したり驚いて表情を強ばらせる合間にいきなり濛々(もうもう)たる灰色の煙がいくつも吹き出し数秒で司令所が腕先も見えないほどになった。罵声やうめき声と咳き込む音が幾つも聞こえる中、金属がきしみが聞こえ艦長のダリウス・マートランド大佐(CAPT)は発令所当直士(COD)官マイヤー指揮上級上等兵(CMDCS)曹の名を大声で呼んだ。



「マイヤー! 換気を最大にしろ! 保安要員! 火災用マスクを着用!」



 手探りで保安要員達が艦後尾側の航行室水密ドアが開きわずかに煙幕は薄れたが、それでも他の者を判別できないほど視界は悪く息苦しい状況が続いていたそれが急激に薄れ始めた。



 メリーランドの乗員がまず眼にしたのはガスマスクを着用した10名ほどの黒い戦闘服を身に付けた男らだった。その浸入らは皆、ドイツ製カービン銃を構えて発令所(CR)の4方に銃口を向けていた。彼らの足下には4機のサーキュレーターが全開で回っており、傍にバッテリーが置かれていた。その旋風が壊され開け放たれた艦首側出入り口からセイル前方の第1ハッチの方へ煙幕が抜かれているのが丸わかりだった。



「艦長! ダリウス・マートランド大佐(CAPT)!」



 質の悪い英語で呼びかけられた艦長の背後で保安要員がM4A1カービンを構え上げる音が聞こえていたが、この場で撃ち合いになれば双方に多数の死者が出るのは避けられなかった。



「私が艦長のマートランドだ」



 艦長はその襲撃者らをにらみ据えたまま名乗り出た。



 武装した襲撃者の男らを抜け1人の者がカービンを肩から下ろし不要になったガスマスクを剥ぎ取りマスク司令所の隅へ放り投げた。



 顔を眼にした瞬間マートランド大佐(CAPT)は黒い戦闘服の男がロシア系だと思った。



「これを見ろ!」



 そう言って戦闘服の男がプレートキャリアの胸のパウチから引き抜いたハンディ無線機の様な物をそのまま片手で操作し、それを艦長へ放り投げた。両手で受け取ったマートランドが眼にしたそれはモバイルフォーンの背後に別な通信システムを取り付けたものだった。大西洋のど真ん中でしかも艦内で受信できるものかと一瞬思った彼だったが、セルラー(:携帯電話機の俗語)にはしっかりと画像が映りハンズフリーになった音声がスピーカーから聞こえていた。



 液晶画面に映し出されたのは、合衆国ジョージア州ネイバル・サブマリン・ベース・キングス・ベイに居る妻と娘2人の姿だった。家族の背後には艦を襲ってきた武装者らと同じ戦闘服の男らが妻子の後頭部へカービン銃の銃口を向けていた。



「家族を人質に──お前ら何が目的だ!? 自由にできると思うな!!」



 マートランド大佐(CAPT)うなりセルラーを投げよこした男に尋ねた。



「家族を押さえたのは艦長──あんただけではない。今、ここにいる副長バートラム・パーネル少佐、潜水航海士のショーン・サンダーソン少尉(ENS)、隣室にいる武器管制官のロビン・ドレイパー中尉(LTJG)、機関士のグリックマン・ベイル准尉(WO)──それぞれの家族を拉致監禁している。モバイルフォーンを廻して長い航海で家族の顔をなつかしみたまえ」



 意図に気づいたマートランド大佐(CAPT)がその襲撃者らのリーダーらしき男に断言した。



「家族を盾にされてもこの艦を自由にできると思うな!」



 他の襲撃者らも片腕でカービンを構えたままマスクを剥ぎ取り部屋の隅へと放り投げ始めた。その前でリーダーとおぼしき男が言い放った。



「おまえ等の家庭に共通したものがある」



 何のことだと艦長が強張った顔で侵入者のリーダーを睨みつけた。



「何のことだ?」



「庭に小さいながらもプールがあるだろう」



 家族を溺死させるつもりなのかと艦長が喰ってかかろうとして口を開いた刹那、リーダーの男が冷酷に告げた。



「溺れさせるなどと甘く見られては困るよ。冬場なのでサービスをした。それぞれのプールには水を抜き硫酸を満たしてある──」



 その真意を理解しマートランド艦長が眼を大きく見開き唇を閉じてこぶしの爪を食い込ませた。







「まずは奥方──要求が呑まれない場合は子供らにホットなプールで泳いで頂く」







 リーダーの男がそう脅した直後、別なハンディ通信機をプレートキャリアのパウチから取り出し口の横に当て送信ボタンを押し込んだ。







「やれ!!」







 その指示に発令所(CR)が凍りついた。











 気がついた時には完全にすべて遅すぎた。



 NDCの攻撃型原子力潜水艦ディプス・オルカの発令所(CR)でダイアナ・イラスコ・ロリンズ──ルナは蒼白そうはくになり三次元作戦電子海図台(3 D C C T)のレーザー・ホログラム画像の2つの潜水艦を見つめていた。



────ルナ! 間に合うならカトソニスを沈めなさい!。



 遠方からの精神リンクによるチーフの命令に、いいや、もう手遅れだとルナは思った。ロシアの水兵らが何を目論もくろんでいるのか不明だったが、すでにUー214は接舷し終えて5分は過ぎていた。それにあれほどテロリストの命でさえ尊ぶマリーが多数の人が乗艦する艦を沈めろと命じた危機感がのしかかってきた。



 ロシア兵の狙いがアメリカ海軍の戦略原潜弾道ミサイル──トライデントにあるのは明白だった。



 この海域に急速に接近しつつある4艦のロシア潜水艦の意図がアメリカ艦の拿捕だほではないのが丸わかりだ。恐らくは何らかの理由で離反したロシア海軍タンボフの乗員らをUー214ごと沈める腹で索敵さくてきしていたんだ。



 チーフ、すでにUー214は接舷を終えメリーランド襲撃は侵攻中と思われます。今、ドイツ製潜水艦を攻撃したらメリーランドの乗員も全員危険にさらされます。



 本国で2つの事案に対処中のマリーの苦悩がなこぼれ伝わってくるとルナはこの場を完全に仕切り彼女の新たな不安を払拭ふっしょくしなくてはと代替えを提案した。



 チーフ、恐らくはUー214のロシア兵らが完全にメリーランドへ乗艦し潜行する前に時間を掛けてメリーランドが沈没するように攻撃を仕掛けます。ロシア兵も含めた乗員らが退去した時点で救難します。



 直ぐに返事の意識が返ってこない。ルナはマリア・ガーランドの苦悩の深さを思い知った。



────わかったわ。状況を貴女に一任します。進捗しんちょくを報せて。



 チーフ、そちらの事案なんですが、太陽炉(S T C)のミラーリング・システムが至近距離にない場合もありえます。ご注意なさってください。



────大丈夫よ。技術アドバイザーにラボのマジンギ教授を連れて来てるから。武運をダイアナ。



 逆に激励されマリーとの意識の繋がりが切れた。ルナが海図台から顔を上げると発令所(CR)の皆が彼女を見つめていた。一瞬の間をおいて彼女はみなに説明した。



"Nuclear submarine Maryland was raided by Russia soldiers."

(:原子力潜水艦メリーランドがロシア兵によって襲撃されました)



"The Commander told us we're here to fix this case."

(:チーフはこの事案解決をこの場にいる私達に命じました)



"Regrettably we arrive at a combat mission that we had not assumed."

(:遺憾ながら我々は想定していなかった戦闘任務に着きます)







"All crew, Class 1- combat ALERT!"

(:全乗員、第1種戦闘態勢!)







 復唱する副長ゴットハルト・ババツの大声が耳に聞こえていながらルナは眉根を寄せ4艦のロシア潜水艦も絡む事態対処のプランを3ダースも思い浮かべている自分が初めて直面する事態──人を殺めてしまうかもしれない作戦指揮を今更ながらに苦悩した。











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