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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #6
30/206

Part 6-4 Escape 逃げ道

FMC(/Federal Medical Center) Devens, Town of Harvard Worcester County, Mass. 12:15

12:15 マサチューセッツ州ミドルセックス郡 連邦刑務所局デベンズ連邦医療センター



 眼の前でローラ・ステージとやりとりするザカリー・プライス刑務所所長の明るい笑顔と会話が、ただの社交辞令だとパティは心(のぞ)かずとも気がついていた。



「いえ、ステージ捜査官。ここの施設は確かに高い塀で覆われこそしてないが、スタッフの40パーセントが武装刑務官なんです。たとえカエデス・コーニングが脱走の意志を持っていてもどうすることもできませんよ」



「ええ、それは承知いたしております。ですので用心を重ねて24時間、彼に監視の眼をとお願いしてるんです」



「しかし、脱獄根拠がプロファイリングのメンタルテストだけでとなるとそうもゆきません。まあ、その受刑者が1度確かたる脱獄意図を持って用意でも始めたらそれを阻止し懲罰を与えますが──」



 所長のかたくなに拒む理由を探ろうとパティが意識のスピアを刺し込もうとした刹那、遠くにルナの意識が呼びかけている気がして、精神を最大限に絞り込み大西洋を探った。



 パトリシアはものの数秒で明るい紫の輝きを放つ彼女の意思を見つけリンクした。





 なぁあに? ルナ?





────良かった、届いたのね。パティ、調べて頂戴。私の300ヤード(:約274m)先で2隻の潜水艦が浮上してるの。双方の艦長の意図を知りたい。



 了解(コピィ)! ちょっと待って。



 そう返事をした17歳の少女はエメラルドグリーンの虹彩を収縮させ、ルナを中心としマージンを多めに取り500ヤード(:約457m)周囲の意識を探り、多くを見つけた。そうして一気に全員の思考をスイープし、10数秒で艦長と思われるものの2つの意識を判別しその片方へとダイヴした。







────敵艦へ乗り込むのにどれくらい損耗そんもうがあるだろうか!?



────攻撃には自分を含め24人だけだ。減りすぎれば制圧が難しくなるし、浮上時間が長きにおよび2艦とも危険にさらしてしまう。







 乗り込む? 損耗? 制圧!?



 戦争中!?



 パティは驚きに声をだしそうになり慌てて口をつぐんだ。



 男はロシア海軍北方艦隊第11潜水艦戦隊第7潜水艦師団671RTM B448シチューカ(/ヴィクターⅢ)型タンボフ艦長──ソスラン・ミーシャ・バクリン大佐(KPR)



 ロシア海軍!?



 相手の船はどこの国のものなの!?



 そう考え少女はもう1人の艦長へと潜り込んだ。







────混乱するな! ──襲撃! ──要員武装させ対処を──敵はどこの連中だ!? ──国防総省(D O D)へ緊急無線を──敵は何人だ!? ────。







 その混乱と冷静の狭間はざまを揺れ動くアメリカ海軍戦略原潜メリーランド艦長──ダリウス・マートランド大佐(CAPT)の意識から素早く離れると、パティはルナに飛び込んだ。



 大変よ、ルナ! 2艦は戦闘中! ロシア海軍潜水艦タンボフがアメリカ海軍潜水艦メリーランドを襲ってる!



────戦闘中!? ロシア海軍? タンボフ? !!!



 ルナがその極めて短い状況報告から単直に意図を知り目まぐるしく思考が爆発するように跳ね上がった瞬間、少女もそれを共有した。



 Uー214タイプS123にはロシア海軍671RTM B448の乗員らが! 昨年末にギリシャ海軍から奪われた艦なんだわ!! 狙いは拿捕だほじゃない! 弾道ミサイル!!!



────パトリシア!! ASAP(:至急)、マリーへ私をリンク!!



 パティは急激にルナの意識を引き伸ばし、ニューヨークにいるはずのマリーへと引っ張り込んでレベル2で意識をつなぎ合わせた。



「パティ──どうしたの? ──パティ!?」



 傍に座るローラの呼びかけに気がつき少女は超長距離のマインドリンクを維持したまま、意識の一部を捜査官へさいいた。



 ローラ、アメリカ海軍の原子力潜水艦がロシア海軍に襲われているの。近くにルナ達がいるの。



────アメリカ海軍の原子力潜水艦? ロシア海軍?



 ローラが状況を理解できずに続けて問いかける前にパティはさらに知らせるべきことを教えた。



 ロシア海軍兵士の強奪した艦がメリーランドを襲ってるの。マリーが──彼女が動くわ!





────なんて事を! マリアがまたあんな危険な目に!?





 ローラが昨年のニューヨーク核テロを思い出し、めいのために深い不安に叩き込まれたことにまた怒りを感じているのを垣間(かいま)見た少女は自分の親友であり上官であるマリア・ガーランドがマンハッタンにいないことに気がつき、ルナと協議しているマリーの意識の一部をのぞき見て驚いた。





 彼女はニューヨーク州境近くのニュージャージー2カ所で2組の敵に対し同時対処している最中だった。





 そのことが叔母おばであるローラ・ステージに流れ込んでしまった瞬間、横の椅子から彼女が立ち上がりザカリー・プライス刑務所所長へ丁寧に礼を告げ始めた。



「わかりました、プライス所長。それでは明日、同じ時間にカエデス・コーニングにまたプロファイリング・メンタルテストを実直しにお邪魔します」



 そう告げた彼女が振り向いた寸秒、ドアをにらみつけ強張った表情になったのを見たパティはマリーの思考の一部に慌ててしまった。



 敵はテロリストじゃない!?







 そのマリーが対処している一方の敵のイメージを見てしまい、ドアへ向かうローラを追おうとした少女は口を震わせ脚を繰り出せなくなった。







 怪物だわ!!!











 クッション材を張り詰めたその個室に戻されたカエデス・コーニングは、部屋の天井片角にある監視カメラに背を向け椅子に座り込むと袖から接見室扉の外に取りつけてあった差し込み式の小型プレートを取り出し、両端を握りしめ太ももの上でありったけの力を込めた。



 額の血管が切れると思った直後、乾いた音と共にプレートが2つに割れたり。片側は小さくもう一つは大きく分かれた。



 彼は小さな方の樹脂製プレートを迷いも躊躇ちゅうちょもなく開いた口に放り込むと大きくあごを上げ塊を飲み込んだ。



 ものの半時間もすると効果が出始めた。



 胸が気持ち悪くなり、断続的な吐き気が起き始めた。すぐに顔を脂汗が流れ始め、両手が冷たくなり始める。



 彼は椅子から立ち上がるとカメラへ振り向き両手を振り上げ必死な形相でジェスチャーを始めた。10分ほどそうやっていると2人の刑務官が様子を見にきた。



「めちゃくちゃ気持ち悪いんだ。腹が痛くて吐き気と震えが治まらない。なんとかしてくれ──」



 2人の刑務官は脂汗をびっしり顔に張りつかせ青ざめた受刑者のそれが仮病でないと判断し、待ってろと言い残し部屋を後にした。わずかに時間をおいて戻った刑務官達に1人の女看護士が付き添っていた。



 看護士は椅子に座り待っていたカエデスの右手首を持ち彼の顔をのぞき込み具合を尋ねると、刑務官達へ振り向き治療室へ連れて行くと言ったので、刑務官の1人がカエデスに手錠をかけて立つようにうながした。



 震えながら立ち上がった彼は刑務官達に挟まれゆっくりとした足取りで廊下へ出た。先を行く看護士の後ろ姿を見ながら、治療室まであと70ヤード(:約64m)だと数える。


 後ろの刑務官2人はほぼ並んで歩いてるだろうとカエデスは思った。



 治療室まで行ってはいけない。



 箱に入ると逃げ道は限られる。



 彼はいきなり駆け出すと、看護士の細いうなじをつかみ手前に引き倒し振り回し、刑務官2人との間に引っ張り込んだ。刑務官らは一瞬驚きの面持ちになり立ち止まると次の行動に移れないでいた。



 おびえた表情の看護士の首に指3本幅の白い何かを受刑者が押し当てている。







「下がれお前ら! この通路から消え失せろ! この女の首の動脈をペーパーナイフでつらぬくぞ!」







 カエデスに怒鳴られ、2人の刑務官はホルスターのグロック19に手を掛けたが、もう片腕を振り上げ手のひらを開き受刑者へ向け後ずさり始めた。



 刑務官らが最後に曲がった角まで戻ると、カエデス・コーニングは女看護士の耳にざらついた声で囁いた。





「お前らの出勤時に出入りするドアまで案内しろ」







 彼は医療刑務所の主たる通路以外に、医者や看護士らが出入りするドアがあることを知っていた。











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