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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #6
28/206

Part 6-2 Sending Troops 派兵

N.S.A. New York Bureau, Federal Bureau of Investigation NYC, NY 11:55

11:55 ニューヨーク州ニューヨーク市 連邦政府庁舎内・ 国家安全保障局ニューヨーク支局



「支局長、マクレガー州知事からお電話です」



 秘書のアイビスがドアを半開きにして顔をのぞかせ伝えてくれた。マーサ・サブリングスはデスクトップPCのモニターから顔を向け表情を曇らせた。



「いないと伝えて」



「ダメです、支局長。もういると伝えちゃいましたから」



 マーサは仕方なく片手を上げ了解したとアイビスへ返事をした。1年前の核爆弾テロの捜査功績により総支局中で初めて20代にして支局長に抜擢ばってきされたのは喜ばしかったが、社交的付き合いがこうも多いとは彼女は予想していなかった。



 先週も市長にゴルフに誘われ断りきれずに、1日を無駄にしていた。



 テロの警戒情報は各省庁からあふれるほど送られてきてそれに眼を通すだけでも週のうち半分を費やしている。それに加え、支局の各部門から上げられる案件対処の許可判断に残りの3分の1を使い、余った貴重な時間の半分も政治家や大手企業の陳情や社交的付き合いに使っていた。



「はい、マーサ・サブリングスです。マクレガー知事、どの様なご用件でしょうか?」



 受話器をとるなり彼女は社交辞令を省き、開口1番に要件をうながした。そうする事で何かのイベントに引っ張り出される事へ防壁を立てたつもりだった。



『サブリングス君、ブレンドン・テイラーが州境のヤヤワンダ州立公園へ対地攻撃の要請をしてきておるが、君のところで何が起きてるのかつかんでおるのかね!?』



 対地攻撃!? ブレンドン・テイラーといえばお隣のニュージャージー州知事じゃないのとマーサは胸騒ぎを覚えた。



「いいえ、何も。州軍の航空部隊を派遣されます前に状況を確認なさらないと。知事は要請をお受けになった際にどの様にお伺いされたのですか?」



『ジャージーの州軍偵察部隊ヘリがテロ対応に向かい2機落とされ、ヘリで州軍兵を投入しようにもそれができないと言ってきおった。州境でもあるし、手を貸してもらえなければニューヨークへ飛び火しても責任は持てんとあの馬鹿は暗に脅しおったんだ』



 ヘリが落とされた? テロ対応!? まったく予想してなかった話に彼女は受話器にすっかり集中していた。事態が対テロならば管轄権はNSAになる。ヘリが落とされたのならば対空攻撃兵器を何者かが使っているという事だ。



「それで知事はどの様になさるおつもりですか?」



『つもりもなにも、911や去年の核テロの二の舞はかなわんから、緊急に武装させた対地攻撃機を2機出した』



 対地攻撃機を2機! マーサは即座に壁掛けの時計へ視線を送り、それらが州境へ到達する時間を予測した。ジェット機だろうから10分もかからない。



「わかりました。当局としましては、至急状況をつかみ知事へもお知らせいたしますので、それ以上の派兵は差し止めておいて下さい」



『出すもなにも、2機は整備訓練機で予備役よびえきの機体らしい。残りのうちの航空部隊は無人機(UAV)しかないと基地指令が言っておるので増援はそれになる』



「無人機でも有人機でも、ともかく今はそれ以上派兵なさらないで下さい。お願いいたします、マクレガー知事」



 知事が了承し通話が切れたので、マーサは受話器を戻し至急自分も現場へ出向くつもりで椅子から立ち上がった。ヘリで急行しても攻撃機の後になる。現地へ着いた時に事態が収拾している可能性はあった。



 ニュージャージー支局への問い合わせはヘリから行えばいい。



 マーサはデスク袖の引き出しを開き、シグP320を収めるウエストサイドホルスターと予備マガジンを2本差したパウチごとつかみとり、スーツの右内脇にホルスターを差し入れ腰のやや後ろに装着し、反対の腰の後ろにパウチのクリップを差し込みながら、ハンドガンでは対空攻撃兵器を持つ相手に無理があると思った。相手は最低でもサブマシンガンを用意してる可能性が高い。



 どのみち誰かを同行させる必要があり、対テロ即応班の数人を連れて行かなくてはと思った。課の方へ行きアサルトライフルを用意して行こうと彼女は即断した。



 マーサ・サブリングスは局長室の扉を開き秘書デスクで書類整理をしているアイビスへ声をかけた。



「ニュージャージーへ行ってきます。至急ヘリの手配を。対テロ即応班から3人を連れて行きます。戻りは不明。緊急の連絡以外は取り次がなくて結構よ」



 廊下への扉を開きながら、彼女は自分のところへ入る電話は厄介なものばかりなのだと今になって気がついた。接待も厄介事(・・・)だ。



 彼女は足早に実戦要員の対テロ即応課へ向かいガラスドアを開くと出入口近くでリーダーのダニエル・キースと立ち話していたララ・ヘンドリックスが振り向いた。



「ダニエル、ジャージィに行くわ。2人選んで」



「何があったんですか」



 スーツを着ていてなお特殊部隊(SOF)上がりの硬質な感じを隠せない彼が単直に尋ねた。



「ジャージィで州軍ヘリが2機落とされ、マクレガー州知事へ対地攻撃を要請してきてる。テロの可能性があります。詳しい事は機上で確認します」



 マーサに指示され彼が2人を選ぼうと課内を振り向くとダニエルより長身のララが眼を輝かせ自分を仕切りに指差しアピールしていた。



「止めておけ、ララ。ヘリが落とされたとなると敵は重火器を用意してるかもしれん」



 ララは課長から却下され即座に公私共に仲良くしているマーサに泣きついた。



「マーサ、私を連れてって!」



「ララ、あなたヘレナみたく撃たれるわよ」



 ヘレナは去年核テロ犯の1人に至近距離から胸を撃たれ防弾ベストで肋骨にヒビを入れただけで命が助かっていた。マーサがそう忠告した直後、部屋の奥で大きなくしゃみをした女がいた。彼女が視線を振ると厳しい即応班へ配属されてなお始末書作成マシンと言われるヘレナ・フォーチュンがキャビネットのファイル整理をやらされていた。



「大丈夫! 特製アーマー・プレート入れて行くから!」



 そう言って胸を叩いたララをマーサは呆れ顔で見つめ課長のダニエルへ視線を向けると、彼が若いイーサン・レフトラを選んで声をかけ、次の要員を選ぼうと腕を伸ばしそれにララが跳びつき自分へ彼の指を強引にねじ曲げ大声をあげた。



「はいっ! 行きます!」



 助け舟を求めるようにダニエルがマーサへ振り向いたので、彼女は仕方なくうなづき彼が驚き顔になった。



「全員、アサルトライフルを用意。ダニエル、私の分も借りて行きます」



 マーサがそう指示すると課長が顔を横へ振った。



「違います、マーサ。局長自身が現場へ出向く事が危険だと言ってるんです。現場は現場要員に任せて下さい」



「状況をこの眼で確認するのが私の務めでもあるのよ」



 マーサが右手の人差し指を立てて言い切ると、ダニエルの後ろで同じ様に指を立てて真似るララをマーサはにらんだ。そのマーサに課長から同行を命じられたイーサンがシグSG751SAPRーLBとプレートキャリアを手渡しに来て話が中断した。



 これ以上時間を無駄にしたくないとマーサが即応班を後にし通路へ出て防弾ベストを装着し首にアサルトライフルをぶら下げながら足早に歩き始めると、3人が装備品を持ち後を追った。



「局長、仮に容疑者が多数ならニュージャージー支局に緊急対応班を出して頂くよう我々4人では単独犯だとしても制圧に危険が伴います」



 ダニエルがそう支局長に進言すると先を急ぎ足で歩くマーサがわずかに顔を向け彼に否定した。



「誰が容疑者を捕まえると言ったの? 我々は容疑者の規模を見極めに行くだけ。捕らえようなどとしない事。ただでさえ管轄外でニュージャージー支局から苦情を上げられるかもしれないから、彼らにはなを持たせましょう」



 去年のように部下から死者を出すわけにはゆかなかった。強引な捜査を命じ、退き際を与えなかった。責任感を感じた部下が深追いし過ぎた結果だった。葬儀に出席しお悔やみと謝罪を告げている途中で親族の1人からほおはたかれた。もうあの時の気持ちが上書きされるのはごめんだと思いながらマーサはエレベーターのボタンを押してドア周囲の磨かれたステンレスプレートを見て彼女は眉根をしかめた。



「ララ! 私に銃口を向けないの!」



 マーサの背後でララがアサルトライフルのスリングをガチャガチャいわせ胸の前にリトラクト・ストック(:伸縮銃床)を上にしダニエルに肘鉄を喰らいよろめくのが見えた。



 ララを緊急対応班に放り込んで7ヵ月、少しは進歩してほしかった。先々、複数の事案対処に彼女へ緊急対応班の1つを任せたいのにとマーサは心境が複雑だった。



 エレベーターに乗り込み奥にゆききびすを返したマーサは目の前で向きを変えたララの背を見て驚いた。背中にもSG751SAPRーLBを吊し、しかもバレルガード下にGL75410グレネードランチャーが取り付けてある。



「ララ、そのランチャーどうしたの? うちの装備品リストにないわよ!」



「あぁ、これすかぁ? ほら夏に押さえたテロ組織の武器庫にあったんで」



「あなた押収品を私物化してるの!?」



「いやぁ、ピンチ(しの)げるならと」



 マーサはララのパンプスの後ろを蹴り飛ばしたが、大柄おおがらのララはビクともしなかった。



「戻ったら始末書と一緒に提出。グレネードも全部よ! 市警にでも見つかってごらんなさい。あなた州条例違反で拘束され略式起訴されるし、そうなったら懲戒免職なんだから」



「大丈夫です! 支局と現場以外に持ち出ししませんから」



 当たり前だとマーサはララのうなじにらみつけた。そうして彼女のまとうプレートキャリアがやけに横へ張りだしている事に気づき手を伸ばし触れると、パウチと一体になったキャリアだった。パウチの膨らむ形から右(わき)の下はSGー751の予備マガジンだとわかったが、左(わき)は明らかにグレネードだった。



 このように民間人(シビリアン)に簡単に武器が渡る。



 思いはすぐに州軍ヘリを撃ち落とした対空攻撃兵器へと移り変わった。テロの温床となる闇武器商人(UWWD)を根絶やしに出来れば世の中は平和的に安定するだろう。去年の核テロも元は中東の武器商人が絡んでいた。政府は麻薬取締りと同じように武器商人の摘発にも力を入れるべきだ。だが各国政府関係者の収賄汚職と絡んで武器商人が力を伸ばしている事も多い。



 CIAと軍とで連携し本腰になったら世界中の武器商人を摘発できるのだが、思惑は複雑でうちの局との共同作戦など望めそうになかった。



 だが何か方法があるのかもしれない。



 漠たる思いを抱きながらマーサは最後にエレベーターを降り、皆と共に駐車場のSUVへ向かいながら胸に下げたアサルトライフルを強く意識した。







An eye for an eye, a tooth for a tooth.

(:眼には眼を、歯には歯を)







 痛み止めが対処療法であるように、武器使いらを取り締まるのでは限界が見えている。平和を力で手に入れるつもりならもっと攻勢に出なくてはならない。



 公用車に乗り込む国家安全保障局ニューヨーク支局長のマーサ・サブリングスは自分が使うパンプスに見えるスニーカーとバックスキンの手袋をプレゼントしてくれた謎の女性が、その差し渡しになるなど思いもしなかったが同梱された手紙の事をふと思いだした。







 どうか転ばずに悪人共をその手で捕らえ続けて下さい。







 プレゼントの主が書き添えた文章が心をよぎった。











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